第三百五十一話 結婚式 その四
俺達の結婚式が始まった。
俺の右隣にはヘルミーネ、左隣にはロレーナ、その両脇にエンリーカとエレオノラが座っている。
各国の王女を俺の横に座らせ、ルリア達は一段後ろの席に座っている。
各国の国王が列席してくれているので、ここだけはどうにもならなかった。
アドルフが司会進行役を務め、ラノフェリア公爵が挨拶をしてくれた。
ラノフェリア公爵にしては珍しく緊張している様子だ。
挨拶の内容は、これまでの俺の活躍を褒め称え、三か国との繋がりを今以上強固な物にしていきましょうと言うものだった。
長い挨拶だったが、ヘルミーネも我慢して最後まで良く聞いていたと思う。
ラノフェリア公爵の挨拶が終わり、普通の結婚式であれば俺達のダンスを披露する所だが今回は違う。
別に、俺がダンスを踊りたくないと言う事ではない。
むしろ、結婚式という大事な日なのだから、皆とダンスを踊りたいと思っていた。
しかし、列席者の数が多くてダンスを披露する場所の確保が出来なかったのと、国王達の安全を考慮しての事だ。
ダンスの代わりに、俺が妻を一人ずつ紹介していく事になっていて、ヘルミーネから順番に紹介して行った。
紹介と言っても名前を言うだけの簡単なものだ。
俺がヘルミーネを紹介すると、ヘルミーネが立ち上がって軽く会釈をする。
色々と話したい事はあるが、話した内容の事をソートマス王国の貴族達から後で色々と言われない為には仕方のない事らしい。
俺としても妻達を自慢したいわけでもないし、妻達の事で色々言われたくも無いからな。
妻達の紹介が終わり、列席者に食事が提供された。
当然俺達の前にも食事が運ばれて来たのだが…。
「エル、食べてはいけないのか?」
「食べては良いけど、花嫁衣装を汚さないよう食べられるか?」
「むっ…」
ヘルミーネは、自分の花嫁衣装と料理が置かれているテーブルとの距離を見て落ち込んでいた…。
フワフワに広がった花嫁衣装が当たらないようにと、イスとテーブルは離れている。
立ち上がらなくては食事に手は届かないが、ヘルミーネと言えどもマナーに反する事を事を両親の前で出来るはずも無い。
飲み物くらいならメイドに言って手渡して貰う事は出来るが、料理を取って貰う事は流石にできない。
「結婚式が終わった後で食べられるから、それまで我慢してくれ」
「分かった…」
今日の料理は、リアネ城の料理人達とリディア、ミディアが協力して作り出した料理で、ソートマス王国とキュロクバーラ王国の料理のいい所を混ぜ合わせたメニューとなっている。
俺も食べたいが、我慢しなくてはならない。
食事も終わり、俺が挨拶して結婚式は無事に終わった。
俺達は結婚式場から退出するが、列席者達はここからが本番だろう。
三か国の国王達と話せる機会はこの時しかない。
問題が起きない事を願いつつ、俺はルリア達と共に部屋へと戻って行った。
「食事、食事を持って来てくれ!」
部屋に戻ると、早速ヘルミーネが食事を要求していた。
俺も食べたいとは思うが、皆が着替える前に、ゆっくりと花嫁衣装姿を改めて愛でたいと思う。
「ルリア!」
俺は真っ先にルリアを抱きしめた。
「もう、衣装にしわが付いたら、エルレイのせいなんだからね…」
「うん、でも、もう少しだけこうしていたい…」
「しょうがないわね…」
ルリアは文句を言いつつも、俺の背に両手を回して抱きしめてくれた。
この後、皆の絵を描いて貰わなくてはならないので、汚したりしわを付けたりしてはいけないが、我慢が出来なかった。
ルリアを抱きしめ、お互いの温もりを感じていると、今までの思い出が蘇ってくる…。
出会いは最悪だった。
殴られた時は、ルリアと抱きしめ合える関係になるとは思ってもみなかった。
ルリアと共に様々な苦難を乗り越え、ここまでやって来た。
ルリアだけではないな、リリー、ロゼ、リゼも共に戦ってくれた。
他の皆も俺の支えになってくれた。
本当にありがたい事で、俺は幸せ者だと思う。
抱きしめていた手を少し緩め、ルリアと見つめ合った。
「エルレイ、皆と一緒に幸せな家庭を築くわよ」
「うん…うん…」
ルリアに伝えたい言葉はいくらでもあった。
でも、その言葉が口を通して出て行ってはくれない。
「もう、エルレイが泣いてどうするのよ…」
泣くつもりは無かったが、嬉しさのあまり自然と湧き上がって来た。
ルリアはメイドが差し出してくれた布で、俺の涙を拭ってくれた。
拭ってくれるが、次から次へと涙が溢れて来る。
ルリアの前で泣いたのは初めての事だが、恥ずかしいとは思わない。
だが、男がいつまでも泣いている訳にはいかないよな…。
グッと力を込めて、涙を止めた。
「ルリア、ありがとう」
「えぇ、皆の所にもいってきなさい」
ルリアから離れ、リリー、ロゼ、リゼ、アルティナ姉さん、ヘルミーネ、ラウラ、ロレーナ、ユーティア、エルミーヌ、エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディア、マリーとも抱きしめ合った…。
その夜、ルリアと手を繋いで、二人だけで寝室へとやって来た。
そして、二人でベッドの横に腰かけ、ルリアの肩に手を回して抱き寄せた。
ルリアは抵抗せずに俺に体を預けてくれているが、ルリアの体は緊張して固まっている。
俺もかなり緊張しているしな…。
お互いの緊張をほぐすべく、ルリアに声を掛ける。
「ルリア、さっきはありがとう」
「な、何のことよ」
「涙を拭いてくれた事に対するお礼だね」
「そんな事…当たり前の事をしたまでだわ…」
「うん、でも、ありがとう」
「…」
ルリアは体を俺の方に向けて抱き付き、俺の胸に顔をうずめた。
ルリアは顔をうずめたまま、俺に決意表明をしてきた。
「エルレイ、幸せな家庭を築くと言ったのを覚えているわよね?」
「うん、覚えているし、僕も協力をするよ」
「だから、私はもう戦わないわ…」
「そうか…うん、それが良いと思うし、ルリアが決めた事なら反対はしないよ」
「ありがと…でもね…皆を守るための力は必要だから、これからも訓練には付き合ってよね…」
「分かってる、いくらでも付き合うよ」
ルリアはそれだけ伝えると腕に力を込めて、ギュっと抱きしめて来た。
恐らく、泣いているのを誤魔化たかったのだろう…。
ルリアが、どう思って戦わない決断をしたのかは分からない。
恐らく、これから出来る子供の事を考えてだろう。
仮に俺が死んだとしても、ルリアが生きていてくれれば、子供を守り育てられる。
ルリアは母親になる事を決め、その決断をしてくれたのだと思う。
俺はルリアの気持ちに応えるべく、優しく抱きしめてあげるだけだ…。
「ルリア、愛しているよ…」
「エルレイ、私も愛しているわ…」
ルリアと口づけを交わした。
皆を守る為に、これから様々な面で今まで以上に俺は強く成って行かなくてはならない。
そして、これから生まれてくる子供達の為に、精一杯頑張って行こうと決意を固めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます