第三百五十話 結婚式 その三
「ロレーナ、鳥の様な花嫁衣裳、とても良く似合っていて美しいよ」
ロレーナの着ている花嫁衣装は、緑の服に白い羽が幾つも縫い付けられていて、本当に鳥のような姿になっている。
これがエルフの花嫁衣装なのだろう。
「あ、あ、ありがとうなのじゃ…そ、その、変じゃないか?」
「そんな事は全く無いよ。ほら、ロレーナを皆羨ましそうに見てるからね」
この中でロレーナは、ひときわ目立っている。
結婚式場でも注目を集めるのは間違いないだろう。
柔らかそうな花嫁衣装に触れて見たいが、羽が取れてはいけないので鑑賞するだけにしておこう。
皆も俺と同じく触ってみたいと思っているはずだ。
結婚式の後で、思いっきり触らせて貰う事にしようと思う。
「ユーティア、大人の魅力が引き出されていて綺麗だよ」
「ありがとう。でも、ちょっと恥ずかしいです」
ユーティアの花嫁衣装は胸元が大きく開いていて、俺も視線を奪われてしまう。
ユーティアは俺の視線を気にして胸元を隠そうとしているし、今はあまり見ない方が良さそうだな。
普段ユーティアが着ているドレスは、殆ど胸元が開いていない。
でも、ユーティアを尋ねて来る女性達は、そういうドレスを着て来る。
一度、ユーティアに理由を聞いて見た事があるのだが、その時はエルミーヌが後ろで首を横に振っていたので察する事が出来た…。
危険な話題なので二度と触れなかったのだが、花嫁衣装はラノフェリア公爵家が用意したのだから着ない訳にはいかったのだろう。
ユーティアの魅力が良く出ていて、俺は良いと思うのだがな。
結婚式の後で、ゆっくりと褒める事にしようと思う。
エンリーカ達の前へとやって来た。
四人共和装で、ロレーナとはまた違った意味で目立っている。
「エンリーカ、可憐な花の様に美しいよ」
「まぁ、ありがとうございますわ」
エンリーカの真っ赤な着物には、小さな花の刺繍が至る所に施されていて、エンリーカが花畑の中にいるみたいだ。
エンリーカの美しさをより引き立たせていた。
「エレオノラのは、凄いな…でも、良く似合っているよ」
「えへへ、良いよね!僕も気に入っているんだよね!」
エレオノラの着物は大輪の花が描かれていて、元気なエレオノラを良く表現されていると思った。
「でも、刀を差すのはどうなんだ?」
「これも衣装の内なんだよ。ほら、鞘も綺麗なんだからね!」
エレオノラは、さしている刀を引き抜いて鞘を俺に見せてくれた。
確かに鞘にも絵柄が彫ってあって、金粉で綺麗に仕上げられていた。
刀も花嫁衣裳の一部であると理解した。
でも、エンリーカ、リディア、ミディアは懐刀なのに対して、エレオノラだけ腰に刀を差しているのに違和感があるが、そういう物なのだろうと思うしかないな。
「リディア、ミディア、とても可愛らしいよ!」
「私達は」
「美しく」
「「ない?」」
「いいや、美しいが、それよりも増して可愛いと言う事だよ」
「「ありがとう」」
リディアの花嫁衣裳は紅葉、ミディアの花嫁衣装は椿の刺繍が施されていた。
二人は普段、良くメイド服を着て仕事をしてくれているが、和服もとても良く似合っていて、まるでお人形さんの様に可愛い。
このまま飾っておきたいほどだ。
写真があれば良かったのだが、この世界にそんな便利な物は無い。
今日は、貴族の肖像画を描く人を数人呼んでいて、皆の花嫁姿を描いて貰う事にしているが、この可愛らしさは描けないだろうな。
俺の脳内にしっかりと焼き付けて置かなくてはならない。
俺はロゼとリゼの前にやって来た。
リディアとミディアもそうだったが、双子と言うのはとても良い物だと再認識した。
「ロゼ、リゼ、二人とも綺麗だよ」
「「エルレイ様、ありがとうございます」」
ロゼとリゼは、いつも通りの返事をして来た。
しかし、今からはそれでは駄目だ。
「エルレイの妻になるのよ!」
ルリアが二人に言いなおすようにと指摘してくれた。
「…エルレイ…さん」
「エルレイ…エルレイさん…エルさん…」
「うん、好きに呼んで貰っていいからね」
「はい、私はリリー様…いえ、リリーと同じくエルレイさんと…」
「…エルレイ、と呼ばせて頂きます」
「あ、敬語も無しだからね」
「そうでし…そうですね」
「うん、少しずつ慣れて行ってくれ」
様を付けられないだけで、二人がより身近に感じられたのは気のせいでは無いだろう。
次はラウラの前に来たのだが、目のやり場に困ってしまうな…。
ラウラの花嫁衣装は、ユーティア以上に胸元が大胆に開かれていた。
いや、ラウラの胸が大きいからそう見えるのだろう。
俺はラウラの顔に視線を固定し、話しかけた。
「ラウラ、とても魅力的で美しいよ」
「エルレイさん、ありがとうございます…」
ロゼとリゼの事を見ていたからか、ラウラは様を付けないで呼んでくれた。
その事は非常に嬉しく思うが、違和感がぬぐえないな…。
俺も慣れて行かなくてはならないと言う事だ。
何時も後ろで束ねている髪も綺麗に整えられているし、綺麗に化粧もしているので別人の様だ。
ヘルミーネのメイドとして目立たない様にしていたのだなと、ラウラの美しい顔を見て惚れ直した。
「あの、エルレイさん…見つめられるのは恥ずかしいのですが…」
「あー、うん、ラウラが美しかったからな、すまない…」
ラウラは顔を真っ赤にして顔を両手で隠してしまった…。
そんな仕草も新鮮で見ていたかったが、これからずっと見られるので我慢しよう。
エルミーヌの花嫁衣装は本人が希望したのか、それとも両親が気遣ったのか分からないが、胸元に大きなリボンが着けられていて、エルミーヌの大きな胸を隠していた。
エルミーヌは男性が苦手だし、胸に視線が行くのを嫌がるから良い花嫁衣装だと思う。
「エルミーヌ、綺麗だよ」
「エルレイ…ありがとう」
エルミーヌもラウラと同じく、俺が見たことない美しい姿になっていた。
思わず見惚れてしまいそうになるが、エルミーヌは見られるのを好まないので、ほどほどにいておかなくてはならないな。
最後にマリーの前へとやって来た。
マリーは孤児だったが、リアネ城に連れて来てから今日まで本当によく頑張ってくれたと思う。
そして、こんなにも可愛かったのだなと、改めて思った。
「マリー、花嫁衣装とても良く似合っていて可愛いよ」
「エルレイ…さん…ありがとう…ございます…」
「ほら、泣いちゃ駄目でしょ!」
「うん…でも…でも…」
「あー、エルレイ様、申し訳ありませんが少し離れてください」
「うん、分かった」
俺が褒めると、マリーは大粒の涙を流して泣いてしまい、マリーの近くにいたアンナとエレンが駆け寄ってマリーの涙を拭っていた。
そして俺が近くにいると、マリーが泣いてしまうので、エレンから離れる様にと言われてしまった…。
まぁ、これから結婚式なので、涙で化粧が崩れてしまうのは困るよな。
残念だが、マリーも結婚式が終わってからゆっくりと愛でる事にしようと思う。
「皆様、式場に移動してくださいませ」
カリナが式場に移動する様にと伝えて来た。
「ルリア、行こう」
「えぇ、行きましょう」
俺はルリアの差し出した手を取り、皆と一緒に式場に向かって行く事にした。
本当は、ヘルミーネをエスコートして式場に入らないといけないのだが、俺の我儘でルリアを優先させた。
アドルフも、その方が良いと言ってくれたからな。
ソートマス王国の王女を優先すれば、同じく王女を俺の妻として送り出しているルフトル王国、キュロクバーラ王国と問題になる可能性もある。
気にするのはソートマス王国だけなのだが、あえて黙って置いた。
ルリアは俺の一番最初の婚約者で、ここまで一緒に苦難を乗り越えて来たのだからな。
俺とルリアを先頭に結婚式場へと入って行くと、大きな祝福の声で迎え入れられた。
少し恥ずかしかったが、胸を張って皆と一緒に席までゆっくりと歩いて行った。
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