第三百四十九話 結婚式 その二

貴族達との挨拶が終わり、結婚式場から人が退出させられて行った。

静まり返った結婚式場とは裏腹に、廊下からは歓声が聞こえて来た。

ルリア達が来たからではなく、その歓声の原因になった人達が結婚式場へと入って来た。


「エルレイさん、ご結婚おめでとうございます」

「ソフィアさん、ありがとうございます」

綺麗な衣装を身に纏ったソフィアさんが、祝福してくれた。

ソフィアさんはセシリア女王の代理として来ており、他にも護衛としてマルギット、ワルテ、カーメラ、キャローネの姿もある。

全員が人に化けており、エルフとしての特徴である長い耳と緑色の髪は変化していて普通の人と変わらないが、エルフの美貌は損なわれていない。

それに加えて、ルフトル王国は謎に包まれた国であり、ソフィアさん達を見る機会は殆どない。

なので、廊下ではルフトル王国の王族を一目見ようと、集まった人達が騒いでいたのだ。

皆が肩に精霊を連れているので、それも珍しかったのだろうな。

ソフィアさんはセシリア女王の代理と言う事だが、ソートマス国王やレオンとも面会をしていない。

二人には事前に俺から会う事は出来ないと伝えていたので、問題は起きていない。

ポメライム公爵から、会わせてくれと懇願して来るのを断るのが大変だったくらいだな。

一人ずつ挨拶を交わしていると、マルギットがずいっと俺の前に出て来た。


「まぁ何だ…ロレーナをよろしく頼む。それだけだ!」

「はい、大切にします」

マルギットは頬を掻きながらそれだけを伝えると、後ろに下がって行った。

他の人達もマルギットの様なストレートな言い方では無かったが、皆ロレーナの事を心配しているのが良く分かる。

そしてロレーナの母であり、俺の義母になるカミーユも来てくれている。


「エルレイ、今日の日を楽しみにしていました。これからもロレーナちゃんをよろしくお願いします」

「はい、お母さん」

何時もなら抱き付いて来るカミーユも、今日は自重してくれたみたいだ。

よく見ると、カーメラが後ろから引っ張って止めてくれているな。

カーメラに軽くお辞儀して感謝を伝えた。

そしてソフィアさん達は、結婚式場の左側に作られた特別な席へと座って貰った。


次に結婚式場に入って来たのは、和服姿のレオン達だ。

「エルレイ、様になっているな!」

「レオンさん達の和服姿も似合っていますよ」

レオンは俺のスーツ姿を、様々な角度から見ながら感想を述べてくれたが、やはり和服姿の方が見栄えが良い。

特に、レオンの妻達の着物は美しく、ずっと鑑賞していたくなるほどだ。

でも、結婚式を前にして他の女性達を見過ぎるのは良くない。

挨拶の時に視線を合わせるくらいにしておこうと思う。


「で、エルレイ、エンリーカ達の花嫁衣装はもう見たのか?」

「いいえ、まだ見て無いんですよね…」

「そうか、俺もまだだから、一緒に見に行こうぜ!」

「駄目です。僕はここから動けませんし、僕より先に見せられません!」

「まっ、そうだな。後のお楽しみにしておくぜ!」

レオンは俺をからかったのだろう、満足したのか大人しく引き下がってくれた。

そして、ルフトル王国の隣に用意された席へと行ってくれた。


最後に、ソートマス国王が入室して来た。

「エルレイ、結婚おめでとう。この日を無事に迎える事が出来たのもエルレイのたゆまぬ努力の賜物、余はそう思うぞ」

「国王陛下、ありがとうございます。これからも努力を続け、ソートマス王国に貢献したいと思います」

努力をして来たのは事実で、その事を褒められたのは非常に嬉しい。

ソートマス国王は俺の返事を聞いて頷き、右側に用意された席へと向かって行った。

余計な話をしなかったのは、こちらに気を使っての事だろう。

ヘルミーネの母カテリーネも、俺に会釈しただけで席に向かって行った。

カテリーネとは襲撃を受けた際に、ヘルミーネと一緒に話をしたからな。

結婚式の後に、ヘルミーネと一緒に挨拶をしに行くとしよう。


「エルレイ様、皆様をお迎えに行って下さいませ」

「分かった」

ソートマス国王が結婚式場に入って来た事で、他の貴族達も続々と入室して来た。

俺は一度結婚式場を出て、ルリア達を迎えに行く。

やっとルリア達の花嫁衣裳を見られると言うので、思わず早足になってしまうが、先導してくれているメイドを追い越す訳にはいかない。

メイドを追い越さないようにと気持ちを押さえて行った。


「こちらの部屋でございます」

メイドが部屋の扉を開け、俺は一呼吸置いてから入室して行った。

…。

俺は部屋に入ると、ルリア達の花嫁衣裳姿を立ち止まって魅入ってしまった…。

何と言って言葉に表していいのか分からない。

一人一人が美しいのに、それが十五人も集まっているのだ。

声を掛けるのも忘れて魅入ってしまうのは、仕方のない事だろう。


「エルレイ様」

「あ、うん…」

俺が固まっていると、後ろからメイドに催促された。

そうだな、皆俺が声をかけてくれるのを待っている。

いつまでも見惚れている訳にはいかない。

俺は前に進み、一人ずつ声をかけて行く事にした。


ルリアの前に跪き、ルリアの右手を取った。

「ルリア、真っ白なドレスと紅く美しい髪は、まるで咲き誇る薔薇の様に美しく綺麗だ!」

俺は一生懸命考えて褒めたのだが、ルリアには不評の様で眉をしかめられた…。

「エルレイにそんな台詞は似合わないわよ…」

「う、うん、えーっと、ルリア、綺麗だよ」

「ありがと…」

素直に褒めると、ルリアは顔を赤く染めて喜んでくれた。

俺も似合わないかと思ったが、一生に一度の事だし頑張って考えたのだがな…。

これに懲りて、素直に褒めて行く事にしようと思う。

ルリアを抱きしめたかったが、せっかく着飾った花嫁衣装に皺を付ける訳にはいかないので、結婚式の後に取って置こうと思う。


リリーの前に行き、今度は跪かずにリリーの右手を取った。

「リリー、今日は一段と銀色の髪が輝いていて美しく、ルリアとお揃いの花嫁衣装も良く似合っているよ」

「エルレイさん、ありがとうございます」

俺がリリーを褒めると、リリーはうっすらと涙を浮かべて微笑んでくれた。

ハンナが慌ててリリーに近寄り、リリーの涙を拭っていた。

涙で化粧が崩れても大変だからな。

そんなリリーを愛でていたかったが、時間が無い…。

リリーの手を離し、ヘルミーネの前へと行った。


「ヘルミーネ、とても可愛らしいな」

ヘルミーネの衣装は、とにかく豪勢だった。

キラキラと光を反射しているのが、ヘルミーネ可愛らしさをより引き立てていた。

口を開かなければ、この中で一番可愛いのではないかと思う。


「うむ、エルも格好いいと思うぞ」

「そう?僕にはあまり似合って無いような気がしたんだけれど・・」

「そんな事は無いぞ。アルティナもそう思うよな?」

「当然よ!エルレイはどんな衣装を着ても格好いいのよ!」

ヘルミーネがアルティナ姉さんに話を振り、次に待ち構えていたアルティナ姉さんが近寄って来た。

普段ならここでアルティナ姉さんが抱き付いて来る所だが、花嫁衣装を着ているのでアルティナ姉さんも自重したのだろう。

いいや、アルティナ姉さんの両脇にリュリュとレイラがいて、アルティナ姉さんの腕を押さえているな…。

二人が止めてくれている間に、アルティナ姉さんに声を掛けようと思う。


「アルティナ姉さん…」

「エルレイ、違うわよ!」

アルティナ姉さんに声を掛けた所で、ルリアに止められてしまった。

そうか…。

今日から姉さんでは無くなるんだったな。

アルティナ姉さんも、黙って俺の言葉を待ってくれている。

今日から気持ちを切り替えて行かなくてはならないな。


「アルティナ、花嫁衣裳良く似合っていて美しいよ」

「エルレイ、嬉しいわ!」

アルティナ姉さんの目には涙は無いが、今までに見た事が無いような幸せそうな笑顔を浮かべていた。

アルティナ姉さんもこれからは弟では無く、夫として俺の事を見てくれるのだろう。

俺もアルティナ姉さん…アルティナの事を、妻として見て行かなくてはならないな。

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