第三百四十八話 結婚式 その一

ソートマス国王は、あれから襲撃を受ける事無く無事にリアネ城へと到着した。

襲撃して来た者達は、やはりアイロス王国の残党でルフトル王国に潜伏していたらしい。

そして、ソートマス国王が移動する情報を掴み、今回の襲撃を実行したと言う事だ。

国王を倒したところで、アイロス王国を復活させることは出来ないが、復讐という意味合いが大きかったのだろう。

そう言う意味では、俺は今後も狙われたりするのだろう。

時折、暗殺者が送られてきたりするからな…。

用心はしているので、リアネ城内に暗殺者が忍び込んで来た事は無いが、結婚式の混乱に乗じて侵入してくる可能性は高い。

現に俺は、ネレイトの結婚式の際に襲われたことがあるし、アドルフにもう一度しっかりと確認するよう言っておいた方がよさそうだ。


ソートマス国王が到着する前に、ラノフェリア公爵家の人達は連れて来ていた。

そして、キュロクバーラ王国とルフトル王国に行き、レオン達とソフィアさん達も連れて来た。

招待した他の貴族達もすでに到着しており、結婚式に参加してくれる人達が勢ぞろいした事になる。

結婚式は明後日に開催されるので、それまで問題起きないように警備の強化をしなくてはならない。

と言っても、十分な警備体制を取っていて、これ以上警備隊やアドルフ達に無理はさせられない。

だから、俺が来客達の挨拶を兼ねて見回る事にした。


『グール、不審者がいたらすぐに知らせてくれ』

『マスター、了解したぜ!つーってもよ、マスターに敵意や悪意を持った者は結構いるぜ!』

『それは分かっているが、殺意を持っていなければ放置してかまわない』

俺の事を良く思っていない者が多いのは知っている。

招待客の中に、その様な者がいるのは間違いない。

その代表格として名を上げられるのが、ポメライム公爵だ。

その様な者達は、表向き友好的に接してくるから性質が悪い…。

グールがある程度相手の意図を察してくれるので助かってはいるが、グールがいなかったら俺は騙されていたのかもしれないな…。

来客に挨拶を済ませて来たが、今の所不審者は見つからなかった。

アドルフ達も、来客について来ている使用人達のチェックも厳しく行っているので、暗殺者が紛れ込んでいる事は無さそうだ。


リアネ城の外の屋敷に宿泊する、ソートマス国王、レオン、ソフィアさん達は、それぞれ警備を連れて来ているので大丈夫だと思う。

ソートマス国王には軍に加えて宮廷魔導士までついているので、余程の戦力を持っていないと屋敷の中にさえ入り込むことは出来ないだろう。

レオンの所は、レオンを始めとして全員が戦えるのだろうし、忍びが守っているので暗殺者は近づく事さえできないだろう。

ソフィアさんの所も精霊達が守っているし、セシリア女王の精霊エル様が見張っている。

連れてくる際にエル様も一緒について来ていたからな。

セシリア女王はエル様を通じて、俺とロレーナの結婚式を見てくれるし、怪しい人物がいたら知らせてくれる事になっている。

厳重な警備の中、これから侵入してくるのは難しいだろう。

外の警備より、中に入り込んできている者達を警戒した方がよさそうだ。


厳重な警備をしていたおかげで、何事も無く結婚式当日の朝を迎えることが出来た。

でもまだ油断は出来ない、俺が襲われたのは結婚式の後だったからな。

俺は結婚式の主役だから、この後の事はアドルフや警備隊のトリステンに任せるしかない。


「「エルレイ様、おはようございます」」

「ロゼ、リゼ、おはよう」

ロゼとリゼが、メイド服姿で挨拶をしてくれた。

二人のメイド服姿を見るのもこれが最後なのだと思うと、ちょっと寂しい気がする。

でも、俺の妻になってからもメイド服を着せる訳にはいかない。

しっかりと目に焼き付けておこうと思う。

ロゼとリゼ、二人に着替えさせてもらった。

いつも通り、エレオノラ、リディア、ミディアは起きており、三人と朝の挨拶を交わした。

他の皆はまだ寝ているが、皆が起きるのを待っている時間は無い。


「エルレイ様は私について来てくださいませ」

「うん、じゃロゼとリゼ、また後で」

「「はい、行ってらっしゃいませ」」

俺は、メイド長のカリナに連れられて寝室から出て行き、別の部屋へと連れて来られた。

部屋には多くのメイド達が控えており、今から俺を完璧に仕上げてくれる事になっている。

俺はメイド達にされるがまま服を脱がされ、全身をお湯を湿らせた布で綺麗に拭きあげられた。

下着を着せられ、化粧と髪を綺麗にセットされ。

最後に、純白のスーツを着せられた。

スーツには同じ白色で目立たないが、細やかな刺繍が贅沢に施されている。

この立派なスーツを作った人には感謝しかないし、この立派なスーツに見合うだけの結婚式にしたいと思う。


「エルレイ様、完璧です!」

「そうか、皆ありがとう!」

カリナが着替え終えた俺を最終確認して、合格を出してくれた。

着替えを手伝ってくれたメイド達も俺のスーツ姿を大絶賛してくれている。

お世辞が殆どであるのは、鏡に映った俺の姿を見れば明らかだ。

やはり、俺の普通の顔に対してこの立派なスーツは似合わない…。

でも、今日は背筋を正して堂々としていなくてはいけないな。


「ルリア達は、もう着替え終えたのだろうか?」

「流石にまだだと思います」

「そうだよね…」

ルリア達の花嫁姿を見たくてカリナに聞いて見たが、終わっていないと言う返事が返って来た。

「エルレイ様、花嫁衣装は結婚式まで見ることが出来ません。

エルレイ様には、来客の挨拶をして頂かなくてはなりませんので、式場に移動してくださいませ」

「そうだったな…」

花嫁衣装は、結婚式直前まで見ることが出来ないみたいだ。

もう少しの辛抱なので、楽しみに待つしかないみたいだな。

俺は結婚式場へと移動し、来客達と挨拶を交わす事になった。


指定された場所に行くと、待ち構えていた貴族達がさっそく挨拶に来てくれた。

「アリクレット公爵様、ご結婚おめでとうございます」

「ありがとう」

次々と訪れる来客達と挨拶を交わしていると、父達もやって来てくれた。


「エルレイ公爵様、ご結婚おめでとうございます」

父は俺を立てるために、真面目な表情で公爵を付けて挨拶して来た。

ミエリヴァラ・アノス城では、公爵を付けて貰わなくてはならないが、リアネ城では不要だ。

それに、俺の結婚式なのに父が家族らしくないのは何となく寂しい気がする。


「父上、公爵は止めてください…」

「そう言う訳にも行くまい」

「いいえ、皆知っている事ですので、気を使う必要はありません」

「そうか、エルレイ、おめでとう!」

「はい、ありがとうございます」

父は笑顔になり、改めて祝福してくれた。

「エルレイ、おめでとう」

「母上、今までお世話になりました」

母は俺を優しく抱きしめてくれた。

母の温かみが伝わってくると同時に、母が泣いているのが分かった。

「ごめんなさいね」

「いえ、母上が喜んでくれるのがとても嬉しいです」

「私もエルレイが立派になってくれて、とても嬉しいですよ」

母は俺を涙で汚さないようにと、離れて行ってしまった。

少し残念に思うが、結婚式の前に服を汚しては、メイド達に迷惑をかけてしまうから仕方がない。


「エルレイ、おめでとう」

「エルレイ君、おめでとう」

「「「エルレイ公爵様、おめでとうございます」」」

両親に続いて、マデラン兄さん、セシル姉さん、アルフィーナ、ジュデット姉さん、アメーヌ姉さんが来てくれた。

マデラン兄さんは新たに二人の妻を迎えているが、四人の仲は良いと前日に挨拶に行った時に教えて貰っている。

子供も二人連れて来ていたのだが、この場には連れて来ていない様だ。


「エルレイ、格好いいスーツだな!」

「エルレイ君、良く似合っているよ!」

「エルレイ君、おめでとう」

ヴァルト兄さん、イアンナ姉さん、マローラ姉さんも来てくれた。

ヴァルト兄さんは俺の頭に手を伸ばそうとしたが、イアンナ姉さんに止められていた。

頭を撫でられるのは嬉しい事だが、せっかくメイド達が頑張ってセットしてくれたので、今日だけは勘弁して貰いたいところだ。

ヴァルト兄さんにも新しく、マローラ姉さんが妻になっている。

マローラ姉さんもイアンナ姉さんと似たような感じで、かなり活発的な女性だ。

ヴァルト兄さんには、大人しい女性は合わないだろうからな。

ヴァルト兄さんも、子供は連れて来ていないな。

長く待たされる場所で子供は大人しくしてはくれないだろうからな。

家族との挨拶が終わり、来客との挨拶も残りわずかとなって来た。

しかし、これからが本番だよな…。

気を引き締めて、挨拶を交わす事にしようと思う。

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