第三百四十五話 ルリアと真剣勝負 その六
≪ルリア視点≫
まったく、エルレイは本当に化け物ね…。
私が本気で放った魔法も受け止めてしまうし、片手になろうと私と対等に剣で戦って来るし、嫌になって来るわ…。
その気になれば、私が斬り落とした右腕もすぐに元通りに出来るでしょうし、それをしないのは片手でも勝てると思っているからよね?
それだけの実力差がある事は分かってはいたのだけれど、ちょっとムカつくわ!
ボコボコにしてやらないと私の気がすまないわね!
でも、このまま戦い続ければ私の方がボコボコにされてしまうわ。
逆転できるいい手はないものかしら?
魔法の打ち合いでは負けてしまうし、剣で攻撃してもグールで受け止められてしまうわ。
普通の剣なら私の魔剣エリザベートで斬り捨てられるのだけれど、グールは折れかかっても元通りになるから斬り捨てられないのよね。
やはり、あの手しか無いわね…。
エルレイに通用するとは思えないけれど、私の勝ち目はそこにしか無いわ!
私は魔剣エリザベートを強く握りしめ、再度エルレイに斬り掛かっていったわ。
≪エルレイ視点≫
ルリアと息を吐く暇もないくらいの、激しく剣をぶつけ合っていた。
ルリアの魔剣エリザベートの剣撃を受け止め、グールもよく折れないで頑張ってくれている。
俺もグールの頑張りに応えてルリアに一撃でも入れたいとは思うが、左手だけでは防御するのが精一杯で攻撃する余裕が無い。
俺も防御の合間に魔法で攻撃をしているが、ルリアは魔法の被害を気にも掛けずに魔剣エリザベートを振るって来る。
ルリアも、それが俺に勝つ方法だと分かっているのだろう。
ルリアが少しでも魔法を避けるようなしぐさをしてくれれば、俺は攻撃に転じられるのだが、そう甘くはないな…。
どちらかと言えば、ルリアの魔法攻撃を受け続けている俺の方が分が悪い。
なので、俺もルリアに対抗して魔法の威力を上げる事にした。
心配なのは、ルリアが怪我をしてしまうかも知れないと言う事だ。
ラノフェリア公爵との約束を破る事になってしまうが、このまま一方的に負けてしまうよりかはいいだろう。
ルリアの魔剣エリザベートの攻撃をグールで受け止めながら、魔法を撃ち出す準備をした。
「ルリア、避けた方が良いぞ!」
「ふんっ!その手には乗らないわよ!」
ルリアに忠告はしたが聞き入れて貰えず、俺の魔法を無視して斬り掛かって来た!
「きゃぁぁぁっ!」
俺の威力を上げた魔法がルリアの左肩に当たり、ルリアは体勢を崩しながら少し後ろに吹き飛んだ。
俺はこの機を逃さず、ルリアの頭にグールを振り下ろす!
勿論寸止めするつもりだ!
ルリアを傷つけたくは無いからな。
「かかったわね!」
「えっ!?」
こちらを見たルリアは不敵な笑みを浮かべながら、俺が振り下ろしたグールに向けて、下から魔剣エリザベートを振り上げていた!
その技は!
気付いた時にはすでにグールが俺の手から離れ、宙を舞っていた…。
逃げなくてはと思うが、ルリアの方が早かった!
ルリアが俺にタックルして来て、そのまま地面へと叩きつけられた。
空中から勢いよく地面に叩きつけられた衝撃が、体中に伝わって来る。
障壁を張っているからそこまで痛くは無いが、体が痺れてすぐには動けそうにない。
ルリアは俺に馬乗りの状態になっていて、笑みを浮かべている。
「エルレイ、歯を食いしばりなさい!」
「こ、こうさ…」
ルリアは俺が降参と言う前に、拳を振り上げ殴りつけて来た!
痛い…非常に痛い…。
一発殴ってルリアは満足したのか、俺の上から立ち退いてくれた。
「私の勝利よ!!」
ルリアは魔剣エリザベートを掲げて、勝利宣言をした!
観客席からは拍手が巻き起こり、勝利したルリアに称賛のを送っていた。
はぁ、疲れたな…。
でも、ルリアと思いっ切り戦えたことは非常に楽しかった。
俺と、正面から魔法を使って戦えるのはルリアだけだ。
そのルリアと全力を出して勝負し、その上で負けたのだ。
悔いは全く無い。
清々しい気持ちで敗北を受け入れていると、ルリアが俺を見下ろしていた。
「いつまで寝ているのよ!早く起きなさい!」
「うん!」
俺はルリアが差し出してくれた手を握って立ち上がり、そのままの勢いでルリアに抱き付いた。
「えっ、ちょっと、離れなさいよ!」
ルリアは口では離れろと言っているが、自分から離れようとはしていない。
「嫌だね。僕はルリアに負けて奴隷になったんだから、一生離れないよ」
「奴隷と言うのは冗談よ…」
「うん、分かってる…」
「馬鹿…私も離さないわよ…」
ルリアはそう言うと、俺の背に腕を回して強く抱きしめてくれた…。
ルリアの柔らかい感触と温かさが伝わって来て、とても幸せな気持ちになり安心出来る。
ルリアもそう思ってくれているのか、俺を抱きしめたまま離さないでいてくれる。
ずっとルリアを抱きしめていたいと思う…。
「ルリア、邪魔をしたくないのだけれど…エルレイさんの治療を先にした方が良いと思います」
いつの間に下りて来たのか、俺とルリアの周りには皆が集まって来ていて、皆を代表してリリーが申し訳なさそうに声を掛けていた。
ルリアは慌てて、俺から飛び退くように離れてしまった…。
今更恥ずかしがることは無いと思うが、ルリアとの仲が前進したので良いとしよう。
治療と言われて、右腕を失っていた事を思い出した。
止血はしているし痛みもほとんど無いが、右腕が無いままだと不便だし、さっさと治療した方が良いな。
自分で治療できるが、ここはリリーにお願いした方が良いだろう。
「リリー、治療して貰えるかな?」
「はい、でもそれは私では無く、マリーにお願いして貰えませんか?」
「そうだな…」
リリーの後ろで、マリーが今にも泣きだしそうな表情で俺の右腕を見ている。
自分の右腕を失った事を思い出させたのかもしれない…。
悪い事をしたとは思うが、リリーが言うようにマリーに治療をお願いして見るのがよさそうだ。
俺の右腕をマリーが元通りにする事で、マリーの嫌な思い出を少しでも和らげることが出来ればいいと考えたからだ。
俺はマリーの前に行って、マリーが治療しやすいようにしゃがみこんだ。
「マリー、治療して貰えるかな?」
「はい!」
マリーは俺がお願いすると笑顔になったが、すぐに真剣な表情へと変わり俺の治療を始めてくれた。
マリーの治療魔法により、俺の失われた右腕が再生されて行く。
集まっていた皆は、俺の右腕が元通りになって行く様子を凝視して感心していた。
余り気持ちのいい見世物でもないとは思うが、失われた部位の再生を見る機会はなかなか無いから珍しいのだろう。
「マリー、ありがとう」
「いいえ、エルレイ様に恩返しができて嬉しく思います!」
「そうだな、マリーの右腕は僕が、僕の右腕はマリーが元通りにしてくれた。
これでおあいこだな」
「はい!」
マリーは元通りになった俺の右腕を両手で包み込んで胸元に抱き寄せ、大粒の涙を流していた。
マリーの涙の意味は分からなかったが、俺は左手をマリーの背中に回して、マリーが泣き止むまで抱きしめてやった。
皆もマリーを暖かな目で見守っているし、間違ってはいなかったのだろう。
マリーが泣き止んだので解放すると、今度はアルティナ姉さんが抱き付いて来た。
「エルレイ、凄い戦いだったわよ!お姉ちゃん感動しちゃった!」
「負けちゃったけどね…」
「エルレイは優しいから、ルリアを傷つけたくは無かったのでしょう?」
「まぁ、そうだけど…」
「エルレイはそれでいいのよ!」
アルティナ姉さんとしても、ルリアが傷つくところは見たくなかったのだろう。
俺もルリアを傷つけるつもりは無かったが、あんな見事に負けるとは思ってもみなかった。
完全に俺が油断していただけだが、今思い返しても恥ずかしい負け方だったと反省している。
もう二度とルリアとは戦いたくは無いが、無様な負け方をしないように、これからも訓練を続けて行かないとな…。
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