第三百四十六話 ルリアとの真剣勝負が終わり

≪ロイジェルク視点≫

ルリアとエルレイ君の勝負が始まったのだが…。

私はこれまで、ルリアとエルレイ君の活躍を見届けて来た。

しかし、それは報告を受けていただけで、実際に活躍している姿を見た事は一度も無い。

それが今、私の前で二人の実力が惜しげもなく披露されている。


「これが、ルリアとエルレイ君の実力なのだな…」

「その様ですね…」

思わず出た言葉に、アベルティアが返事をしてくれた。

魔法を使用した戦いは、宮廷魔導士や軍による模擬戦で見た事はあったが、ルリアとエルレイ君はそれを遥かに超える戦を繰り広げている。

いや、比べられるものでは無い。

魔剣と魔法による戦いはとても激しく、空中で魔剣と魔法がぶつかり合い姿はとても美しいとも思える。

人はここまで強く成れるものなのだな…。

エルレイ君が特別なのは分かり切っていた事だが、その特別なエルレイ君と正面から戦い合えるルリアもまた特別なのだと思い知らされた。

私は、いいや、この勝負を見ている全員が二人の戦いに魅入られている事だろう。

キュロクバーラ国王が、二度と見られない戦いだと言った意味を理解した。

私は一瞬でも見逃さないように目を見開き、二人の激しい戦いを見届ける事にした。


長く続いた戦いは、ルリアの勝利で幕を閉じた。

エルレイ君は片腕を失いながらも、最後まで良く戦った。

私は二人に盛大な拍手を送り、二人の戦いを褒め称えた。

エルレイ君が負けた後の事を心配していたが、それは杞憂だった…。

この戦いを見た者は、誰もエルレイ君の実力が劣っていると思う者はおるまい。

むしろ、戦いの凄さに驚愕し恐怖している事だろう。

私も同様の気持ちだ。

エルレイ君を敵に回した時点で敗北が確定する。

今日の勝負を見た者は、皆そう思ったに違いない。

これまでエルレイ君はアイロス王国と戦い、ルフトル王国に協力してリースレイア王国と戦い、キュロクバーラ王国に協力してミスクール帝国と戦い結果を残して来た。

その戦果は誰もが認める所ではあるが、実際にエルレイ君が戦う姿を見た者は限られており、ソートマス王国内でのエルレイ君の評価は意外と低い。

エルレイ君がまだ子供だと言う事もあり、王族や貴族達の中にはたまたま運が良かっただけだとか、各国の軍が優秀だったとか言う者も多い。

その愚か者どもは、エルレイ君を引きずり落とそうとしたり、取り込もうと画策している。

愚行を許し、エルレイ君が激怒する様な事態に陥れば、王族や貴族諸共ソートマス王国を破壊しかねない。

今でさえ、エルレイ君が独立するのではと言う噂は絶えない。

今のエルレイ君には独立する気が無いのは承知しているが、愚か者どもソートマス王国にはびこる様では現実のものになる可能性を否定できない。

私に出来る事は、その愚か者どもの排除する事だ。

今までも出来る限り行って来ていたが、今まで以上に努力する必要があると理解した。


「あなた、ルリアとエルレイ君の所に参りましょう」

「うむ、そうだな」

今は二人の戦いを称賛しに行くとしよう。


≪エルレイ視点≫

アルティナ姉さんに続いて皆と抱擁していると、レオン一家とラノフェリア公爵一家が舞台へと降りて来て、舞台の様子をじっくりと見学していた。

舞台の上と言うより、観客席を除いたありとあらゆる場所が、俺とルリアが放った魔法でボコボコになっていた。

平らな所が少ないと言った方が良いだろう。

明日には闘技場は開かれるので、この後修理をしなくてはならないな。

魔法の被害の跡を見学し終えたレオンが、俺達の所へとやって来た。

そしてレオンは、俺の肩に手を回して耳打ちして来た。


「エルレイ、全力で戦って無かったよな?」

「…全力で戦っていましたよ」

「嘘つけ、お前達が全力で戦えば被害はもっと大きかったはずだぜ」

「まぁ…そうですけど…」

レオンの言う通り、全力を出して戦っていた訳ではない。

と言うより、ルリア相手に全力を出せるはずもないし、ルリアも手加減はしていた…はずだ。

あの威力の大きな三個の炎の塊も、俺が防げるギリギリの所を狙って撃っていたのだと思う。

闘技場の様な狭い場所では、俺とルリアは全力を出して戦う事は出来ない。

勝負の場所が何も遮る物が無い平原だったとしたら、俺とルリアは全力を出して戦えるだろう。

でもそれは、勝負の域を超えて殺し合いとなってしまう。

だからルリアはあえて、全力を出せない闘技場で戦う事を望んだのだろうし、俺もこの場所だから安心してルリアと勝負をする事が出来た。

レオンは、俺とルリアが戦場で戦うのを間近で見ているから、全力を出して戦わなかった事を不満に思っているのだろう。


「もっと派手な勝負を期待していたんだが、残念だったぜ」

「十分派手だったと思いますが、すみません…」

レオンはそれだけ言うと、家族の元に戻って行った。

レオンと交代する様に、ラノフェリア公爵一家がやって来た。


「エルレイ君、格好良かったわよ!」

「エルレイ君、痛くなかった?」

ラノフェリア公爵より先にアベルティアとロゼリアが俺の所にやって来て、二人から抱きしめられる事になってしまった。

ラノフェリア公爵の前でこれは不味いと思ったが、ラノフェリア公爵はルリアの方に行って祝福しているから問題無いのだろうか…。

どちらにしても、俺は強引に二人の抱擁から抜け出す事は出来ない。

二人が満足するまで、暫く抱擁され続ける事となった。


ルリアと勝負した疲れが残っていない訳では無いが、休んでいる暇はない。

俺は皆をリアネ城に送り届けて、ロゼに手伝って貰いながら闘技場の修復を行った。


≪ロイジェルク視点≫

ルリアとエルレイ君の勝負の興奮が冷めやまぬ中、リアネ城へと戻って来た。

今日もリアネ城で一泊し、明日帰る予定だ。

その前に、今一度キュロクバーラ国王と話をしたいと思う。

私は使用人を呼びつけ、キュロクバーラ国王に面会できないかと願った。

暫くして面会の許可が下り、私はキュロクバーラ国王の待つ部屋へと向かって行った。


「失礼します」

室内にはキュロクバーラ国王ただ一人しかいなかった。

「座れ」

キュロクバーラ国王に言われ、正面の席へと座った。

「ロイ、俺も話したいと思っていた所だ。

ここには俺とロイしかいない。隠し立てせず正直に話そうぜ」

「はい、分かりました」

国王が胸襟を開いて話せと言うので、私も覚悟を決めて嘘偽りない話を心がけようと思う。


「で、だ、ロイの話とは何だ?」

「はい、率直にお聞きします。

レオン様はエルレイ君と、今後どの様な関係をお築きになられるのでしょうか?」

「エルレイの戦友と義父だ。それ以上でも以下でもない。

エルレイに独立を勧めたり、ソートマス王国を乗っ取れとかそそのかす事はしないぜ」

「そう…ですか?」

「本心だ。それよりもだ。ソートマス王国内の方が危険なのではないか?」

キュロクバーラ国王は、そっちの事情は知っているぞと言わんばかりの笑みを浮かべながら問いかけて来た。


「その通りです。そちらの方が私が出来るだけ押さえ込もうと考えております」

「それなら安心だ。エルレイに野心が無いのは共に戦った事で理解している。

しかしだ、エルレイの没後はどうなるか分からないぜ。

再び争いが起きる可能性が高い。

ソートマス王国は、それまでに色々備えておく必要がある。

しかし、ソートマス王国より俺の国の方が危険だがな…」

「そうですな…」

まだ当分先の事なので、エルレイの没後までは考えてはいなかった。

いや、考えるのを止めていたと言うのが正しいだろう。

今日ルリアがエルレイ君に勝利した通り、魔法技術はエルレイ君だけの物ではない。

間違いなく、エルレイ君の子供達にも魔法技術を教える筈だ。

エルレイ君の跡を継ぐ者が悪意を持っていれば、いいや、エルレイ君の家が何代も続いて行けば、その中に悪意を持った者が必ず現れる事だろう。

その時抑えられる者がいるのか?

いや、抑える者を作って行かなくてはならないのだろう。

それはルリア、リリー、ユーティアの子供達の役目、そして、キュロクバーラ国王の娘達の子供も同じ役目を担う事になる。

それを見越し、キュロクバーラ国王は娘を四人嫁に行かせたのだ。


「理解したな?」

「はい、今後もご協力させて頂きます」

「おう、ロイは中から、俺は外からの抑えだ」

私とキュロクバーラ国王は固い握手を交わした。

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