第三百四十三話 ルリアと真剣勝負 その四
≪ロイジェルク視点≫
昨日は慣れない酒を飲み、途中から記憶が曖昧になっている…。
酒は強い方では無く、普段は極力飲むのを控えているのだが、昨日は断れなかった。
それに酒は美味くて飲みやすく、つい量を飲んでしまった。
キュロクバーラス国王に対して、失礼な言動をしていないと良いのだがな…。
さて、今日はルリアとエルレイ君が勝負をする。
限られた者しか見れない勝負とは言え、人の口に戸は立てられぬ、勝負の結果は何処からともなく広まっていく事であろう。
エルレイ君が無様に負けるようなことがあれば一大事だ。
エルレイ君のこれまでの活躍が、全て噓であったかのように吹聴する者が出て来るだろう。
エルレイ君の立場が直ぐにどうにかなる事は無いが、王城での発言力は低下してしまうかも知れない。
逆に、エルレイ君がルリアに対して一方的に勝利するのも良くない。
エルレイ君が結婚を間近に控えた婚約者に対して、非道な行いをしたと非難されかねない。
それに、私とエルレイ君の仲が悪くなったとも言われるだろう。
一番良い結果は、お互い負傷せず引き分ける事だ。
エルレイ君も、恐らくそれを狙っている事だろう。
しかし、ルリアはエルレイ君に勝つために勝負を挑んでいる。
誰も負けるために勝負を挑む事はしないからな。
不安しかない勝負だが、それでも私はこの勝負を見たいとは思っている。
エルレイ君は、ローアライズ大陸において敵なしの存在だ。
そしてルリアも、エルレイ君に続く強さを持っていると思う。
親の贔屓目が多少あるかも知れないが、これまでのルリアの活躍の報告を受けていればそう思わざるを得ない。
エルレイ君もルリアの強さを認めているから、今日の勝負を受ける事にしたのだと思う。
ルリアが傷つく姿を見たいのではないが、エルレイ君がルリアを傷つける事はしないと信じている。
それでも、闘技場に来て勝負が始まる直前ともなると、心配になって来る。
「隣いいか?」
「はっ、どうぞお掛けください!」
私が思案していると、キュロクバーラ国王が突然訪れて来て私の隣に座った。
やはり、私は昨日失礼な事を言ってしまったのではないだろうか?
記憶が曖昧になるまで飲んだ私の責任だ。
先に謝罪しておいた方が得策だろう。
そう思っていたら、キュロクバーラ国王の方から先に声を掛けてくれた。
「昨日は無理に飲ませたようだ」
「いえ、私も飲み過ぎました。その…記憶が曖昧でして、キュロクバーラ国王陛下に失礼な言動をしておりましたら謝罪いたします」
「その様な事は無かったから気にするな。それより今回は非公式で来ている、それにお互い娘を嫁に出す父親だ。
俺の事はレオンと呼んでいい、俺もロイと呼ばせてもらうぜ」
「はい、レオン陛下…いえ、レオン様」
「様もいらないが、立場上そこまでは無理か」
エルレイ君から、キュロクバーラ国王は気さくな人だと聞いていたが、会って間もない私に名前を呼ばせるとはな。
エルレイ君の結婚式が終われば、親戚になるのは間違いない。
この機会に色々と話をしておくのが良いだろう。
「おっ、始まるようだぜ!」
「その様です。レオン様はどのような結果になると思っておりますか?」
「そうだな、結果は分からないが、二度と見られない戦いになるのは間違いないだろうぜ!」
「二度と見られないとは?」
「エルレイに敵なしなのは、ロイも分かっている事だろう?
俺はエルレイとロイの娘のルリアと共に戦い、二人の戦う姿を間近で見て来ている。
その俺が断言する。
今日の勝負は歴史に残る戦いになると保証する!
一瞬でも見逃さないように、しっかりと目に焼き付けておかないと後悔するぜ!」
「分かりました!」
ルリアとエルレイ君の戦いは、見逃すつもりはもとよりない。
キュロクバーラ国王との話は後に回すしかないな。
「じゃぁ、俺も自分の席に戻って見るとするぜ」
「はい、お気遣い感謝します」
キュロクバーラ国王は私を気遣ってくれたのだ。
本来であれば、私の方から行かなくてはならなかったのだが、行動が遅すぎたと反省する。
でも今は、ルリアとエルレイ君の勝負の行方を見届けるのが重要だ。
私は一瞬も見逃さぬよう、舞台の上に立ったルリアとエルレイ君に視線を向けた。
≪エルレイ視点≫
魔剣エリザベートを起動したルリアは、周囲に火の矢をいくつも作りだし、それを一つずつ撃ち出しながら俺に接近して来た。
俺も同様に氷の矢を作り出し、ルリアの火の矢を相殺していく。
ジュッ!という音と共に水蒸気が立ち込め、目隠しになる事を期待してルリアの軌道から逃げ出した。
「そこよ!」
「くっ!」
そんな小細工がルリアには通用するはずも無く、ルリアの一撃をグールで受け止めた!
「いてぇ!いてぇよマスター!」
グールが魔剣エリザベートの一撃を受けて文句を言っているが、グールに付き合っている暇など無い!
ルリアの連撃をグールで受け止めながら、俺は目の前に土の壁を出して距離を取った!
ルリアなら簡単に斬り裂ける土の壁だが、無駄な労力を使いたくないのか、ルリアは上に飛び上がって土壁を越えて来た。
俺としてはルリアが少しでも消耗してくれることを期待したのだが、そんな甘い考えに乗ってくれるルリアではないな。
「マスター、不味いぜ!」
「そうだが、もう少し耐えられないのか?」
「能力を使えば楽勝だぜ?」
「能力は使うな」
「それなら、この程度が限界だぜ!」
ルリアの持つ魔剣エリザベートの攻撃を受け止めたグールはボロボロになっていて、今にも折れそうな状況だ。
グールだからこれで済んでいるが、他の剣だと受け止める事すら出来ずに真っ二つに斬られているはずだ。
グールは貯め込んでいた魔力を使い、刀身を修復している。
これでまた、ルリアの攻撃を数撃防ぐことが出来るが、剣を使って戦うのは分が悪すぎる。
俺も飛び上がり、空中戦に切り替えた。
「かかったわね!」
俺が飛び上がると、強烈な横なぎの風に襲われ、俺の体はその風に流される事になってしまった。
油断しているつもりは無かったが、見えない風を躱すのは難しい。
このままでは、ルリアの間合いまで押し流されてしまうが慌てる必要はない。
ルリアの風に乗せて、石を作り出して撃ち込めばいいだけだ。
ルリアは自分で作り出した風の影響で、俺に魔法を撃ち込むのは困難だと判断し、俺が撃ち出した石を避ける。
俺も風から抜け出し、隙が出来たルリアに向けて連続で氷の矢を撃ち込んで行くが、ルリアはそれも簡単に回避していく。
氷の矢が当たったとしても障壁を貫くことは出来ない程度の魔法だが、ルリアの魔力を消費させることは出来る。
ルリアとの勝負は、お互いの魔力を先に消耗させた方の勝ちとなるだろう。
だから、少しでもルリアの魔力を消耗させたかったのだが、ルリアも同じことを考えているだろう。
無駄な魔力は極力使わない方向にもっていきたいはずだ。
「エルレイ、覚悟なさい!」
「えっ!!ルリア、それは!」
ルリアは魔力の消費を抑えるどころか、逆に強力な魔法を俺に向けて放って来た!
それはバレーボール大の炎の塊だったが多くの魔力が注ぎ込まれており、俺が躱してどこかに着弾すれば、闘技場をきれいさっぱり吹き飛ばす威力が込められている。
俺にはそれを受け止める選択肢しかない!
グールを使えば簡単に吸収できるが、それは最初から禁止している。
俺は両手を突き出し、魔力を放出して炎の塊を全力で受け止めた!
「消えろぉぉぉぉ!!」
炎の塊の軌道を上空に変化させ、闘技場の上空で爆発させても観客席にいる人達は無事では済まされないだろう。
リリー達が障壁で守ってはいるが、そんな危険を冒すことは出来ない。
なので、ルリアが使った魔力以上の魔力で炎の塊を包み込み消滅させるしかない!
「ふぅ…」
何とか無事に炎の塊を消滅させ、安心することが出来た…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます