第三百四十二話 ルリアと真剣勝負 その三

≪ルリア視点≫

エルレイと勝負をする日は、朝からリリーとロゼを連れてエルレイとは別行動をしていたわ。

エルレイと顔を合わせると戦いにくくなるし、勝負に向けて集中して行かなくてはならないわ。

今日は勝負に全魔力を使わなくてはならないので、無駄な魔法は使えないわ。

相手はエルレイ、本当に化け物じみた強さと巨大な魔力量を持っているわ。

私の魔力量も普通の魔法使いからすると異常だと思うけれど、エルレイは私の数倍の魔力量を持っているわ。

更に、グールにも魔力を保存しているので、どれだけの魔力を有しているのか全く分からないわ。

そう言えば、皆には秘密にしているけれど、エルレイは一番最初に使って魔力が足りずに気絶した転移門も使えるようになっているのよね。

転移門は空間転移より多くの人を送る事が可能だわ。

エルレイの今の魔力量だと、一軍を一気に移動させることも可能でしょうね。

だから、エルレイは転移門は危険だと判断し封印しているほどよ。

それだけの事が出来る魔力量を持ったエルレイと戦うには、離れて魔法の打ち合いをしても勝てるはずも無いわ。

元々、エルレイに魔法で勝てるなんて思っていないわ。

エルレイに効果があるのは魔剣エリザベートのみよ。

だから私はエルレイとの勝負が決まってから…いいえ、違うわね。

幼いころから鍛え上げて来た剣術で勝負するのみよ!


「ルリア、それくらいにしておいた方が良いと思います」

「そうね。戦う前に疲れていては意味が無いわね」

剣を振る事に集中していると、リリーから止められたわ。

リリーが止めてくれなかったら、ずっと振っていたと思うわ。

「ありがとう」

ロゼが汗を拭いてくれて、リリーが飲み物を渡してくれたわ。

エルレイと勝負する準備は整ったわ。

魔力を使いたくないのでロゼにお願いして、リリーと一緒に闘技場まで運んで貰ったわ。

闘技場には既に多くの人達が集まっていたわ。

こんな大事になるとは思ってもみなかったのだけれど、私が戦う姿をお父様とお母様に見せられるのは良かったと思うわ。

ラノフェリア公爵家の令嬢として、恥ずかしくない戦いを見せないといけないわ。

私はリリーとロゼを連れて両親の所に行き、そこで勝負が始まるまでの時間を過ごす事にしたわ。


≪エルレイ視点≫

闘技場の舞台の上には、武闘大会の司会進行をしているキャセラが上がって来ていた。

司会進行役はキャセラの他にも二人いて、今は三人体制で武闘大会を盛り上げてくれている。

三人の中でもキャセラが一番人気が高く、多くのファンがいるらしい。


「私は本日の勝負の司会をさせていただく、キャセラと申します。

お集りの皆様、どうぞよろしくお願い致します」

キャセラが元気な声で挨拶をすると、昼食を終えて雑談をしていた皆が静まり返った。

キャセラはそれを受け、俺とルリアの紹介を始めた。


「今日戦うのは、英雄の生まれ変わりと言われ、様々な戦争で活躍し、ソートマス王国のみならず、ローアライズ大陸から争いを無くした、エルレイ・フォン・アリクレット公爵様!」

キャセラに紹介されたので俺は浮き上がり、舞台へと降り立った。


「対するは、エルレイ公爵様に付き添い、エルレイ公爵様と共に戦って来た、エルレイ公爵様の婚約者であられる、ルリア・ヴァン・ラノフェリア公爵令嬢様!」

ルリアも俺と同様に、舞台へと降り立ってきた。

俺とルリアは貴賓席の方を向いているので、まだルリアの表情を見ていないが、降りて来る時に見た表情は真剣そのものだった。

ルリアが、いかにこの勝負に集中しているのかがうかがえる。

ルリアはこれだけの観客、いや、ラノフェリア公爵とアベルティアを前にして、恥ずかしい勝負を見せる訳にはいかないよな。

俺も同様に気持ちを入れなおした。


「本日のルールは時間無制限、お互いが敗北を認めるか気絶するまでとなっています。

魔法の使用も許可し、魔法で空を飛んでもかまいませんが、闘技場の高さを越えてはいけません。

それと、観客席に入る事も禁止とさせていただきます。

エルレイ様、ルリア様、ルールに異存はありませんでしょうか?」

俺とルリアは、キャセラに無言で頷いて答えた。

このルールは、事前に説明を受けていたので問題はない。

魔法も、観客席に被害の及ぶようなものは使えないし、ルリアも分かっているだろうから強力な魔法は使わないだろう。

念のために、リリー達や警備隊の方でも、障壁魔法を使って観客席を守って貰うようにしているから大丈夫だろう。


「エルレイ様、ルリア様、準備が整いましたら勝負を始めてください」

キャセラはそう言うと、急いで舞台を下りて行った。

ルリアとの勝負に審判はいない。

と言うより、審判が近くにいては俺とルリアの戦いに巻き込まれる。

戦いが始まってしまえば、観客席以外の場所まで気を配る余裕がなくなるだろうから、舞台に誰かいては戦うことは出来ない。

審判はいないが、二人が危険な状態になればロゼに止めるようにとお願いしている。


俺とルリアは舞台の上で向き合った。

ルリアとの距離は五メートルほど離れているが、真っすぐに俺を見ている眼に迷いは無さそうだ。


「ルリア、正々堂々と戦おう!」

「ふふっ、エルレイから正々堂々という言葉が出て来るのは意外だわ」

ルリアは俺の発言を受けて笑っていた…。

確かに、俺の戦い方はソートマス王国の剣術からすれば正々堂々と言った戦い方ではない。

俺は体全体を使った戦い方をしているだけで、別に卑怯な技を使ったりしている訳では無いんだがな。

ルリアを笑わせるために言ったわけではないが、ルリアの緊張が少しほぐれたみたいで結果的には良かったのだろう。


「グール、分かっているとは思うが魔法を吸収するなよ!」

「了解したぜ!俺様もルリアの嬢ちゃんとの戦いに水を差すつもりはねーぜ!」

グールに再度確認し、ルリアに視線を戻した。


「始めるわよ!」

「うん、始めよう!」

ルリアの表情から笑みが消え、魔剣エリザベートを構えていた。

俺もグールを構え、ルリアとの勝負に挑むことにした。

暫くの間睨み合いが続く。

俺からルリアに攻撃を仕掛けるつもりは無い。

ルリアとの勝負は受けたが、ルリアを傷つけたいわけでは無いからな。

ルリアはふっと息を吐き、俺との間合いを一気に詰めて来た!


キンッ、キンッ、キンッ、キンッ!

ルリアの連撃を放ち、俺はそれを全て受け止める。

力は互角か、やや俺が押されるくらいだ。

ルリアは十三歳で俺よりも少し身長が高い。

俺も十二歳になり、それなりに身長が伸びては来たが、女の子の成長速度にはついていけていない。

だから、正面から打ち合い続ければ負けてしまうのは目に見ているので、ルリアの剣を受け流して体勢を崩させ、反撃に移りたいところだが…そうはさせては貰えない。

ルリアとは今まで一緒に剣の訓練をしてきたし、お互いの癖なんかもよく知っている。

そして、俺の体全体を使った戦い方も余さず教えて来たからな。

ルリアには、俺が次に何をしたいのか良く分かっている事だろう。

出す手が無く、徐々に追い込まれて行っている。

でも、こんな所で負けていては、ルリアに失望されかねない。

気合を入れて、反撃に移る事にしよう。


「はぁっ!」

ガキンッ!

俺はルリアの剣を力を込めて打ち上げ、がら空きになった胴体に蹴りを放つ!

しかし、今まで何度もルリアにやって来た事なので、ルリアは後ろに飛んで俺の蹴りを躱した。


「やっぱり、普通に戦っていてはだめね!」

「そうだな…」

「本気で行くわよ!エリザベート!」

ルリアは魔剣エリザベートを起動させた。

俺は魔力を放出して、体に障壁を張りめぐらせる。

エリザベートの攻撃を完全に防ぐことは難しいが、ないよりかはましだな。

ルリアとの戦いはここからが本番だ!

気を引き締め直し、ルリアの攻撃に備える事にした。

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