第三百四十二話 ルリアと真剣勝負 その二
レオンとラノフェリア公爵をリアネ城に連れて来てから一夜明け、ルリアとの勝負の日を迎えた。
ルリアとは朝の挨拶を交わしただけで、それ以降話をしていない。
と言うより、ルリアが俺を避けている感じだ。
勝負に集中していると言う事なのだろう。
ルリアとの勝負は今日の午後に行われる予定となっていて、俺も集中して行きたいと思う。
でも、昨日酔い潰れたラノフェリア公爵の事が気になっていたので、会いに行ってみる事にした。
「エルレイ君、昨日の事は…」
「お酒の席でのことは忘れる事にしています」
「そ、そうか…実はだな。途中から記憶が曖昧でな…出来るだけ酒は飲まないようにしているのだが、流石に断れなかった」
ラノフェリア公爵は、そんなに量を飲んでいなかった。
と言うより、レオンも最初に飲ませて以降勧めてなかったからな。
すぐに、ラノフェリア公爵がお酒に弱いと分かったのだろう。
「仕方ないですね…。でも、レオンさんなら弱いと言えば無理に飲ませるような事はしないと思います」
「ふむ、次の機会があるかは分からぬが、お願いして見る事にする」
「それがよろしいかと思います」
レオンは酒好きだが、他人に無理やり飲ませるような事はしない。
酒は楽しく飲むのが一番だ。
嫌がる者に無理やり飲ませるのは、俺も好きではない。
俺もお酒を飲めるようになったら、レオンの様に気を配れるようにならないといけないな。
レオン達はと言うと、自由にリアネ城の内外を見学して回っていた。
エンリーカ達や使用人達が案内しているので問題は起きないと思うが、リアネの街には出かけないで貰いたいと思う。
何故なら、レオン達は着物で来ていて目立つし、キュロクバーラ王国から来たのだと分かってしまうからな。
ルリアとの勝負は午後からだが、午前中に闘技場に移動して貰い、昼食は闘技場で食べて貰う事になっている。
なので、俺が送って行こうと予定していたのだが…。
「せっかくここまで来たんだ、歩いて行くから気にするな!」
「いや、気にしますよ!馬車を用意させますのでそれに乗って移動してください!」
レオンが歩いて闘技場まで行くと言い出し、俺は急いで馬車を複数台用意させた。
レオンは自分が国王だと言う事も、ここがソートマス王国だと言う事を忘れているのではないのか?
そういう事をあまり気にしないのは分かっていたが、あまりにも自由過ぎる。
レオンが俺の所に来ているのが露見すれば、俺がレオンの協力を受けてソートマス王国から独立するのではと噂されかねない。
ただでさえ、ミエリヴァラ・アノス城ではそう言う噂話をされていると言うのに、これ以上変な噂を流れるような事は困る。
俺は独立する気もキュロクバーラ王国と合併する気も無いし、そんな面倒な事はしたいとも思わない。
戦争が落ち着いた今は、平穏に暮らして行きたいと思っているだけだ。
ただ、ミエリヴィラ・アノス城の住人は暇なので、そう言う噂を流して楽しんでいるだけだとネレイトが笑いながら教えてくれたが、噂を否定して回るのは大変疲れる…。
だから、これ以上噂のネタになるような事は控えて貰いたいと思う。
レオンが馬車から降りないように、俺も一緒の馬車に乗り込んだ。
レオンの妻達も数人乗っているが、名前は憶えていない…。
エンリーカ達と結婚すれば親戚になるのだし、名前を覚えないといけないと思うが数が多すぎるんだよな…。
俺も人の事は言えない状況なので、頑張って名前を覚えようと思う。
「賑わっているじゃねーか!」
「皆が頑張ってくれているお陰です」
レオンは車窓からリアネの街の様子を見て、感想を言ってくれている。
俺も久々に見たが、以前街に遊びに行った時より人の数が多い気がする。
リアネの街に来る人達の数が増えているのは報告で知ってはいたが、やはり見て感じなければ実感しないものだな。
そう言えば、リアネの街にまた遊びに行きたいと思っていたが、アドルフから拒絶されたんだよな…。
あの時は誰も俺の事を領主だと知らなかったが、闘技場で顔を見せているので、リアネの街に行けば領主が来たと大騒ぎになる事は間違いないだろう。
そうなれば見学どころでは無くなるし、人達の普通の生活ぶりを見ることが出来なくなる。
それでは見学に行く意味がなくなるからな…。
変装すれば行けなくは無いだろうが、警備を含めた大人数で見学に行けば目立つだろうし、少人数で行く事を考えなくてはならない。
馬車はリアネの街から街道に出て、闘技場へ向かって行る。
闘技場までの街道は渋滞を防ぐためにかなり広くなっていて、馬車も快適に進んでいてすぐに闘技場へと到着した。
「立派な闘技場だ!」
「はい、皆で作り上げた自慢の闘技場です」
レオンに闘技場を褒められ、とても嬉しく思う。
俺とロゼで形を作り上げ、様々な人達が仕上げてくれた闘技場だ。
今日は闘技場は閉まっているが、ルリアとの勝負がある為、闘技場で働いている人達は休みを返上して出ていてくれている。
手当は当然出すのだが、感謝も伝えなくてはならない。
レオンを闘技場内に案内し、一番いい貴賓席へと案内した。
「すみませんが、僕は他の人達の移送を行うために一度失礼します」
「気にせず行ってこい。適当に見て待っているぜ!」
闘技場内であれば、レオンが見て回るのには問題はない。
俺は空間転移魔法でリアネ城に戻り、他の人達を闘技場へと送り届けて行った。
今日の勝負は、リアネ城で働く多くの使用人達にも見て貰う事になっている。
俺としては見せたくは無かったのだが、アドルフがどうしてもというので、出来るだけ多くの使用人達に見せる事になってしまった。
ルリアとの勝負は、多分俺の負けで終わる事になるだろう。
勿論、俺はルリアとの勝負に全力を出すつもりだ。
全力を出すが、ルリアを傷つける攻撃は絶対にしない。
だから、俺が勝つ事は無いと言い切れる。
良くて引き分けだろうな。
この事はアドルフにも説明したのだが、それでも勝負は見せるべきだろうとアドルフが判断した。
まぁ、リアネ城で働いている使用人達には俺の実力を見せた事は無いし、楽しんでもらえればそれでいいかとも思う。
移送を終わってみれば、結構な人数が闘技場の観客席に座っている。
その中には警備隊の姿もあり、トリステンと子供を抱きかかえたニーナの姿も見えた。
勝負はまだ始まる訳では無いが、食事とお酒も配られていて盛り上がって来ているな…。
俺も勝負の前に、軽く食事を摂る事にしようと思う。
皆がいる貴賓席の所に行くと、そこにはルリアとリリーの姿が無かったので、アルティナ姉さんに二人の居場所を聞いて見た。
「ルリアとリリーなら、ラノフェリア公爵様の所で食事をするそうよ」
「そうか…」
ここに来るのもルリアは自分で飛んできていたので、朝からずっと会っていない。
勝負では甘い所は見せないと言う意思表示なのだろう。
今以上に気を引き締めて勝負に挑まなくてはいけないな。
軽い食事を済まし、いよいよルリアと勝負する時がやって来た。
少し緊張して体が強張って来ている。
俺は大きく深呼吸をして目を瞑り、気持ちを落ち着かせた…。
全力を尽くそう!
そう思い、ルリアとの勝負に向かう事にした。
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