第三百三十二話 勇者メレデリック
「まったく、僕が倒す魔物がいなくなったじゃないか!」
「私達も」
「もっと倒したかった」
「でも、いい破壊力だったわ!」
「申し訳ございません…」
「ごめんなさい…」
リゼと共に皆の所に戻ると、俺とリゼが皆からやり過ぎだと非難を受けた。
確かにやり過ぎたのは認めるが、周囲にいた魔物達も一気に倒すには、あれが最適だったと思う。
戦いに時間を掛ければ、勇者メレデリック以外にも応援に駆けつけて来る者達がいるかもしれない。
出来れば、この地に住む人達とは関わり合いになりたくないので、早く終わらせて正解だったと思う。
その勇者だが、気絶したままロゼに浮かされているな。
勇者メレデリックを起こして俺達は帰ろうと思うが、その前に皆と話をしておこう。
「皆聞いてくれ、今回魔王カールを倒したのは、そこで気絶している勇者メレデリックになって貰おうと思う」
「どうしてよ?」
俺の意見に皆は不満気な様子だ。
まぁ、何も活躍していない者に功績を譲りたくはない気持ちは良く分かる。
しかし、俺はフィアコーネ大陸の住人では無いし、ここに住む人達もローアライズ大陸がある事すら知らないだろう。
フィアコーネ大陸に住む人達が、魔物のいない安全な地があると知れば、そこに移り住みたいと言う人も出て来るだろう。
逆も同じく、ローアライズ大陸に住む人達は魔物の持つ魔石を求めて、フィアコーネ大陸に進出しかねない。
どちらにしても、争いの火種となる事は間違いない。
そうならない為にも、俺はフィアコーネ大陸に来た事を秘密にしなくてはならない。
俺がフィアコーネ大陸に来た事を知っているのは、依頼して来たセシリア女王とアドルフのみ。
アドルフにも知らせるか迷ったが、理由もなく食料を用意して貰えないからな。
アドルフは口も堅く、他人に言いふらす事は無いだろう。
「理由は、僕達がローアライズ大陸の住人だからだ。
ローアライズ大陸とフィアコーネ大陸に住む人達は、お互いに別の大陸がある事を知らないで長い間生活をして来た。
その大陸があると知れば、当然行きたいと思う者も出て来るだろう。
お互いに来た人達を友好的に迎え入れる事が出来ればいいが、そうはならないと思う。
少数なら問題無いかも知れないが、大勢が移住を求めて来れば争いは避けられない。
今まで通り、お互いに知らない方が良いと思う」
「そうね…」
「そうかも知れません」
「わ、私もそう思うのじゃ」
「ふーん、レイちゃんがそう言うのなら従うよ!」
「私達も」
「賛成」
「ありがとう。これから勇者メレデリックを起こそうと思うけれど、皆も僕に話を合わせてくれ」
皆も納得してくれたので、勇者メレデリックに治癒魔法を掛けて起こす事にした。
≪勇者メレデリック視点≫
魔王は一つの国を滅ぼしてしまった。
勇者として守り切れなかった事を非常に悔しく思う…。
かつて、僕が着ている装備を
しかし僕は弱く、魔王を止める事が出来なかった…。
情けないが、これが僕の実力なのだ。
いや、諦めてはいけない!
僕は聖剣エクスカリバーに認められた勇者だ!
何度敗北しようとも、僕が生きている間は魔王に戦いを挑まなくてはならない!
再び魔王を倒しにやって来ると、見知らぬ男女が魔王を倒しにやって来ていた。
空を飛んでいるので、実力のある冒険者達なのだろう。
しかし、相手は魔王とその手下の魔物達だ。
幾ら実力があろうとも、大勢の魔物に守られた魔王と戦うのは危険すぎる。
僕は冒険者達に下がるように指示をし、魔王を倒しに向かって行った。
「くっ!」
やはり魔物が多く、魔王の元まで辿り着けない!
僕が聖剣エクスカリバーの力を引き出せれば、魔物なんて簡単に倒す事が出来るのに…。
ご先祖様、どうか僕に力をお与えください!
そう願っていたら、突然強い衝撃を受けて、僕は意識を失ってしまった…。
「…勇者…勇者メレデリック…」
僕を呼ぶ声がする…。
「…勇者メレデリックさん、大丈夫か?」
ゆっくりと目を開けると、目の前は先程見かけた冒険者の男が、僕の顔を心配そうな表情でのぞき込んでいた。
「大丈夫、僕の事より魔王!魔王は何処にいる!?」
「覚えていないのですか?」
「何を?」
「勇者メレデリックさんの持つ剣が輝いたかと思うと、魔王と周囲の魔物達を一瞬のうちに倒してしまった事です」
「なに!?それは本当の事なのか?」
「はい」
男と周囲にいた女達も全員頷いている。
そうか…僕は聖剣エクスカリバーの力を引き出す事が出来たんだ!
僕は嬉しさのあまり、その場で叫びたくなったが、周囲には冒険者達が居るので勇者に相応しくない振る舞いは出来ない。
「その後、勇者メレデリックさんが倒れてしまいましたので、治癒魔法を掛けた所です」
「それはありがとう」
この人達は僕を助けてくれた恩人だ。
何かお礼をしないといけないが、今は特にお礼になるような物を持ち合わせてはいない。
「君、後で助けてくれたお礼をしたいと思う。よろしければ名前を教えては貰えないだろうか?」
「いいえ、当然の事をしたまでで、お礼をして頂く必要はありません。
勇者メレデリックさんも元気になったみたいですし、僕達はこれで失礼させて頂きます」
「あ、そ、そうか…困った事があったら僕を尋ねて来るといい。僕に出来る事なら助けになってやろう」
「ありがとうございます」
そう言って、冒険者達はこの場から立ち去って行った。
冒険者達の姿はあっという間に見えなくなり、僕一人だけこの場に取り残された。
「…やっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は飛びあがって喜びを噛み締めた!
記憶には無いが、僕は聖剣エクスカリバーの力を引き出す事が出来たんだ!
そうだ、喜んでいる場合ではない!
魔王カールの死体を探して、持ち帰らなければいけない。
僕は上空に飛び上がり、魔王カールの死体を探す事にした。
「凄い、これが聖剣エクスカリバーの力なんだ!」
かつて王都があった場所は、元々魔王カールが破壊の限りを尽くしていたが、その時以上に破壊され何もかも吹き飛ばされていた。
魔王カールの死体があるかどうか不明だ。
結構な時間探し回ったが、結局魔王カールの死体は見つからなかった…。
仕方がない。魔王が二度と復活しない様に、聖剣エクスカリバーで消滅させたと報告しよう。
僕は国に戻り、魔王カールを討伐した事を報告した。
「勇者メレデリック、魔王カールを討伐して参りました!」
「人々の危機に颯爽と立ちあがり、その脅威を一人で討伐するとは見事なり!
勇者メレデリックには、各国から感謝状と贈り物が届けられておる。
そして余からも、褒美をわたす」
「はい、ありがとうございます」
僕の家は、勇者の功績で大きな領地が与えられてあった。
そして今回、僕が魔王カールを討伐した事で、更に領地が増える事となった。
僕は戦うだけしか能がなく、領地の経営など出来ないが、そこは代々僕の家に仕えてくれている者達に任せればいいだろう。
僕にはこれからも、勇者として困っている人達を救う使命がある。
今回魔王を倒したのは、聖剣エクスカリバーの力であって僕の力では無い。
これからも訓練を欠かさず行い、強い魔物や、再び現れるかもしれない魔王に備えなくてはならない。
それと、褒美として頂いた妻達との間に子供を作り、勇者として戦う心構えと技量を伝えていく事も重要だ。
やる事は沢山あるが、僕はこれからも勇者として頑張って行くとご先祖様に誓いを立てた!
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