第三百三十一話 対決 魔王カール その二

≪カール視点≫

なぜだ!なぜエルレイがここにいる!!

魔物達から勇者がまた来たと知らせを受けて飛びあがって見ると、そこにはエルレイの姿があった!

身長は伸びて少し顔立ちも変わっている様だが、見間違えるはずもない!

エルレイに敗北してきた記憶がよみがえり、恐怖で体が震えて来た…。

落ち着け!落ち着くんだ!

俺はあの時から強くなった!

その証拠に、ここに住む人達は俺をどうする事も出来ないではないか!

今襲って来ている勇者が、この大陸で一番強い者だろう。

他にも俺を倒しに来た者はいたが、全員殺してやった。

あの勇者だけ殺せてはいないが、それでも俺の優位には変わりはない。

それならば、今の俺はエルレイに勝てる筈だ!

いや勝つ!

勝たなければ、俺に力を与えてくれた仲間達に顔向けできない!


「ふぅ~」

俺は大きく息を吐きだし、気持を落ち着かせてエルレイを殺す覚悟を決めた!

その為には、邪魔な勇者を先に排除しなくてはならない。

そう思っていたのだが、邪魔だと思ったのかエルレイの仲間が勇者を排除してくれた。

これは好都合だ。

しかし、問題は前で戦ってくれている魔物達だ。

俺とエルレイの戦いに巻き込ませたくは無いが、向こうの人数も多い。

最初は魔物達に協力して貰い、敵の数を減らした方が良いだろう。


俺の思惑とは裏腹に、エルレイが魔物を無視して俺の前へと突っ込んで来た!

でも、それはそれで都合がいい。

俺とエルレイの戦いに、魔物達を巻き込まずに済むからな。

二対一なのが気に入らないが、魔王となった俺に敵うはずもない!

エルレイは問答無用に、俺に魔法攻撃を仕掛けて来た。

だが、俺に魔法は通用しない!

魔法を霧散させ、お返しに魔法を撃ち返してやる!

エルレイも俺の魔法を無効化しているのは気に入らないが、想定済みだ。

魔法の威力では俺の方が上だから、このまま魔法の打ち合いを続けていれば、俺が必ず勝利するはず。

懸念は、エルレイが剣で攻撃して来た場合だが、その時は地上に降りて魔物達に援護して貰うとしよう。


何をしているのだ?

エルレイ側は巨大な水球と炎球を作り出していた。

魔法が効かない俺に対して、何をやっても無駄だ!

俺は余裕をもって、飛んで来る魔法を霧散させる準備をした。


!?

魔法による爆発の光で目の前が真っ白になった!

次の瞬間、途轍もなく激しい衝撃が俺の体を襲って来た!

俺はその衝撃を受け、なすすべもなく吹き飛ばされ地面へと叩きつけられた!

「ぐはっ!」

口からは血が噴き出し、体がバラバラになったのではと思う様な激痛が走った!

体が全く動かせない…。

しかし、魔力はまだ十分残っている。

激痛から一瞬でも早く逃げ出すかのように、俺は治癒魔法を自身の体に使った…。

何度か治癒魔法を掛け、ようやく痛みが取り除かれた。


「治癒魔法が使えるようになっていて助かったな…」

以前の俺は火属性魔法と風属性魔法しか使えず、この様な窮地に陥っても回復する事は出来なかった。

しかし、この大陸に来て治癒魔法を覚えたのは僥倖だった。

これも全て仲間達のお陰だ。

俺に仲間が出来ていなかったら、恐らく治癒魔法は使えていなかっただろう。

はっ!

そういえば、仲間達は無事なのか!?

俺は慌てて、周囲の魔力を確認する…。

いない…。

そして、急速に近づいて来る魔力を確認し、戦闘態勢を整えた!


「あれで生き残るとは、しぶといですね」

エルレイが俺の上空で止まり、呆れかえった表情を見せていた。

ふざけるな!と大声で叫びたかったが、先ずは仲間の安否を確認しなくてはいけない。


「おのれエルレイ!仲間達を殺したのか!」

「仲間と言うと、魔物の事でしょうか?」

「そうだ!俺のかけがえのない大切な仲間達だ!!」

「仲間…そうでしたか、残念ですが魔法に巻き込まれて亡くなられました」

「くそがっ!また!また俺の大切な仲間を奪いやがった!

許さん!許さんぞエルレイィィィィィィィィィィ!!!」

俺の心は怒りで染め上げられ、目の前にいるエルレイを殺す事でいっぱいになった。

仲間がいなくなったのなら気を使う必要も無い。

俺はありったけの魔力を込め、エルレイに打ち込んだ!


「無駄だ、僕に魔法は効かない」

「なぜ、なぜだ!!」

俺が放った魔法は近距離にもかかわらず、エルレイに傷一つ与える事が出来なかった…。

今ので魔力の殆どを使い果たし、魔力切れで今にも倒れそうになってしまった…。

俺はこの大陸に来て多くの魔力を得て、強くなったはずだ。

それでもなお、エルレイには遠く及ばないと言うのか…。

悔しいが、負けを認めるしかなさそうだ。

立っているのが辛く、その場に座り込んだ。

エルレイは俺を殺す為か、俺の前に下り立って来た。


「カール、お前は多くの人達を殺して来た。

僕はその行為を許す事は出来ない。

ここで死んで貰う」

エルレイはそう言い、剣を構えた。

ここで俺は死ぬのだろう。

俺の人生はエルレイの出現によって狂わされ続けて来た…。

最後もエルレイによって、俺の人生は終わらせられる。

俺の為に死んでいった仲間達の為にも、無駄に死ぬ訳にはいかない!

悔しいが、エルレイに頼むほかない…。

唇を噛み、心を押し殺してエルレイに願いを言った。


「エルレイ…頼みがある。仲間…いや、魔物達を人の手から守ってやってくれないか。

彼らは厳しい環境の中で必死に生き抜いている。

それを人達は、女も子供も関係なく命を奪い取っていく。

俺はそれが許せなかった!

俺はただ、人達が魔物に行って来た殺戮を許せず、魔物達が安心して暮らせるようにと人達をこの大陸から排除しようとしただけだ。

それは以前、ローアライズ大陸で英雄が行った事と同じだ。

人か魔物かの違いでしか無い。

どうか、どうか、俺の最後の願いを聞き届けてはくれないか?」

「…」

エルレイは黙り込んでいた。

エルレイが俺の願いを聞き届けてくれるとは思ってはいない。

無駄だと思っていても、仲間の為に願わずにはいられなかった。


「僕はこの大陸の住人では無いので、その願いを叶えてやる事は出来ない」

「そうか…」

エルレイも、わざわざこの大陸にまで来て魔物を守る事は出来ないのは理解出来る。

無理な願いなのは最初から分かっていた事だ…。

そろそろ、起きているのが辛くなって来た…。

俺は今から仲間達の元へと旅立つ。

仲間達からは、エルレイを倒せなかったと非難を受けるだろう。

それでも、俺は仲間達に会いたい。

そして、精一杯謝罪する事にしよう…。


俺はゆっくりと目を瞑り、仲間達に会えるようにと願った…。


≪エルレイ視点≫

「エルレイ様、あの者の言う事を鵜呑みにしてはいけません」

「そうだな…」

カールを倒し、その遺体の前でカールに言われた事を考えていると、心配したリゼに声を掛けられた。

カールの言う事は尤もだろう。

俺も勇者の時は、多くの魔物を倒して来た。

その時は、魔物は人を襲う悪だと決めつけ、魔物の生活など考えもしなかった。

魔物からすれば人は自分達を殺す脅威であり、排除しようとするのは当然の事だろう。

勿論逆も同じで、人も同じく魔物を排除しようとする。

立ち位置が変わっただけで、どちらも正しい行いだ。

俺は人側だから、魔物を守るような事は出来ない。

それにこれは、フィアコーネ大陸に住む者達の問題で、俺が関わる事など出来はしない…。


俺はその場に穴を掘ってカールの遺体を丁重に埋葬し、黙とうを捧げた…。

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