第三百三十話 対決 魔王カール その一
「エルレイ、助けなくていいのかしら?」
「うーん、助けた方が良いのかなぁ?」
「お辛そうですけど…」
「もう僕見てられないよ!早く助けに行こう!」
勇者メレデリックと魔物達の戦いは、魔物達に軍配が上がっていた…。
勇者メレデリックが突っ込んでいた後、地上から迎撃に上がって来た魔物達の数は千を超えている。
多勢に無勢だが、そこは勇者だと言うべきか、非常に頑張って戦い続けている。
しかし、勇者メレデリックは魔物に怪我を負わせてはいるが、怪我した魔物は後方に下がり魔王カールが治癒魔法で回復させているんだよな。
魔物を一撃で倒せば治癒できないと思うが、そこまでは至っていない。
勇者と言う事で期待したが、助けなければ負けてしまいそうだな。
「助けに行こう。僕が魔王カールの相手をするから、ルリア達は魔物を頼む」
「エルレイ、今度こそしっかり倒しなさいよ!」
「うん、分かった」
俺達は勇者メレデリックを助けに行った。
「勇者様、少し休んでください。僕達が代わりに魔物の相手をします!」
「不要だ!これは勇者である僕の戦いだ!お前達は手を出すな!」
「そうはいっても…」
勇者メレデリックは頑なに一人で戦おうとして、俺達の手助けを受け入れてはくれない。
でも、このままだと勇者メレデリックが負けるのは濃厚だろう。
それとも、勇者に隠された能力がこれから発揮されるとでも言うのだろうか?
勇者メレデリックの装備はとても素晴らしい物ではある。
金色に輝くフルプレイトは、魔法の威力を軽減させ、物理攻撃もかなり防いているみたいだ。
そして勇者メレデリックが持つ剣は、白く発光をしながら魔物の体を簡単に斬り裂いている。
しかし、勇者メレデリックの技量が乏しく、致命傷になる場所に当たっていないのが非常に残念だが…。
「エルレイ、どうするのかしら?」
「手出しするなと言っているし、見ているしか無いんじゃないかな?」
「それだとあの人死んじゃうよ?」
「そうだな…」
勇者メレデリックは魔物の数に押されて防戦一方になっているし、負けるのは時間の問題だろう。
それに、後ろで治癒魔法を魔物に掛けている魔王カールが動けば、一気に勇者メレデリックは敗北してしまうと思う。
魔王カールが動かないのは、俺達の存在を意識しているからだろう。
今も鋭い眼光で俺を睨みつけている。
「無理やり止めるしか無いわね!リディア、ミディア、やりなさい!」
「「了解!」」
俺がどうしようかと迷っていると、痺れを切らしたルリアがリディアとミディアに命令を下した。
そして、命令を受けたリディアとミディアは素早く勇者メレデリックの背後に近づき、刀の峰でヘルムの上から頭を強打して気絶させた。
「回収」
「完了」
「よくやったわ!それはリリーの所に運んでおいて頂戴!」
「「はーい」」
リディアとミディアは勇者メレデリックを担いで、後方にいるリリーの所に運んで行った。
「邪魔者はいなくなったわ!」
「うん…」
「始めちゃってもいいよね!」
「まぁいいかな…」
少々強引だったが、あのままでは勇者メレデリックは敗北していたし、仕方ないよな…。
ルリアとエレオノラはやる気満々だし、俺も魔王カールと戦う事にした。
「エレオノラ、行くわよ!」
「ルリ姉様、僕は右の方をやるね!」
ルリアとエレオノラ、そしてエレオノラに運ばれているロレーナも、飛行している魔物の群れに突っ込んで行った。
俺はリゼと共に、ルリア達の後を追って魔物の群れの中に突っ込んで行った。
「リゼ、魔物は無視して、このまま魔王カールの所まで突き進むぞ!」
「はい、分かりました」
魔物達から攻撃を受けるが、俺は障壁を強化し、強引に魔王カールの所まで突き進んで行った。
「エールーレーイィィィィィィィィィィ!」
俺が魔王カールの前に行くと、魔王カールが俺の名前を絶叫し、憎しみの籠った目で俺を睨みつけていた。
どちらかと言えば、俺の方が魔王カールの事を恨みたいほどだ…。
思い返せば、最初はソートマス王国のミエリヴァラ・アノス城で一方的に勝負を申し込まれた事から始まっている。
その後は、俺の命を狙って襲撃してきたし、魔人と成って俺を襲って来た。
そして今、俺がフィアコーネ大陸まで来た理由は、魔王カールがこの地で人々を殺しているからだ。
どう考えても俺の方が被害者だと思うが、魔王カールは自分が被害者だと思っているの違いない。
「お前を許さない!ここでぶっ殺してやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「そうだな。僕もこれ以上迷惑を掛けられるのは面倒だし、ここでお前を倒す!」
グールを構え、魔王カールを倒す決意を固めた!
『リゼ、攻撃は任せた。俺は防御に専念し、隙あらばグールで斬りつける!』
『分かりました。頑張って魔王を倒します!』
『頼んだ!』
リゼは訓練通り、火と水を織り交ぜた魔法攻撃を行っていた!
対する魔王カールも負けてはいない。
リゼの魔法攻撃を受け止め、反撃を行って来る。
魔王カールが放つ魔法はかなり強力で、リゼが放つ魔法に打ち勝っているほどだ。
これには俺とリゼも驚かされた…。
リゼの攻撃魔法の威力は、ルリアとロレーナに続いて強力だ。
それが正面から撃ち負けてしまうとは、魔王カールの魔法は相当な威力があると言う事なのだろう。
ただ、その威力のある魔法であっても、グールはいとも簡単に吸収してしまう。
反則だとは思うし、魔王カールにも多少申し訳ないとも思うが、大事な結婚式を前にして死にたくは無いので、遠慮なく使わせて貰う。
「エルレイ様、本気を出してもいいでしょうか?」
「うん、構わない。リゼの好きなようにやってくれ!」
「はい、ありがとうございます!」
リゼは魔法で撃ち負けたのが悔しかったのだろう。
全力で魔王カールを攻撃するつもりの様だ。
リゼの魔法の被害に巻き込まれない様に、ルリア達にも警告しておいた方が良さそうだな…。
『ルリア、リゼが本気を出すみたいだから、衝撃に備える様にと皆に伝えてくれ』
『分かったわ!』
ルリアに連絡すると、ルリアからも焦りの声が聞こえて来た。
直ぐに皆に連絡してくれる事だろう。
さて、俺も衝撃に備えて最大限に障壁の強化を行った!
「行きます!」
リゼは直径十メートルほどの水球を頭上に作り出し、それと同時に直径一メートルほどの青白く燃える炎の玉を作り出した。
水球を魔王カールに向けて撃ち出し、その後に火球を水球に向けて撃ち出した。
「スチームエクスプロージョン!!」
火球は瞬く間に水球を水蒸気と化し、激しい爆発を生じさせた!
俺はその衝撃に障壁を使って、必死に耐え続ける!
リゼが作り出したのは水蒸気爆発で、魔法による爆発ではあるけれど、その衝撃波は魔法では無い。
故に、グールで吸収する事は出来ず、爆発の中心地に一番近い俺は、その衝撃波に必死に耐え続けなければならない!
これは俺が案を出し、火属性魔法と水属性魔法が使えるリゼにやらせて見たのだが、破壊力が凄すぎて禁止にした魔法でもある。
下にある街は魔王カールによって廃墟となっているし、魔物しかいないので使っても大丈夫だろうと思ったからだ。
しかし、やはりこの魔法は二度と使わせない方が良いのかも知れないな…。
周囲を見渡すと、空にいた魔物達も吹き飛ばされたみたいで、魔物の姿は見えない。
地上の廃墟も吹き飛ばされて更地になっているし、地上にいた魔物達も無事では済まされなかっただろう…。
ルリア達には事前に警告を出していたので、なんとか身を守る事が出来たみたいだ。
そして魔王カールは…。
「グール、魔王カールは何処にいるか分かるか」
「マスター、地上に落ちて行ったぜ!」
「分かった、そこまで案内してくれ」
グールに案内して貰い、魔王カールが落ちた所へと向かって行った。
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