第三百二十九話 勇者と遭遇
「酷い光景ね…」
「これは酷すぎます…」
「そうだな…」
セシリア女王の精霊エル様の後に続いて空を飛んでいると、眼下に破壊されて廃墟となった町や村が見えた。
地面が黒く焼け焦げている事から、火の魔法を使ったのだろ。
町や村に住んでいた人がどうなってしまったのか、容易に想像が出来てしまう。
これ以上の犠牲者を出さない為にも、今日中に魔人を倒そうと心に決めた。
「レイちゃん、何か飛びあがって来たよ!」
エレオノラが指さす方向を見ると、森の中から翼の生えた犬みたいな生き物が集団で俺達に向けて飛びあがって来ていた。
「あ、あれが魔物なのかしら?」
「そうかもな」
「エルちゃん」
「レイちゃん」
「「倒していい?」」
「僕もやりたい!」
「うん、任せるよ!」
見た事も無い魔物だが、エレオノラ、リディア、ミディアがやりたそうにしているし、俺は皆を運んでいるから任せる事にした。
「吹き飛べ!」
「「切り刻む」」
三人が放った風の刃は魔物達を斬り裂き、魔物達は次から次へと落ちて行った。
その光景を見ていた他の魔物達は逃げ惑い、森の中へと隠れて行った。
「なーんだ、魔物って弱いんだね」
「私達」
「強い?」
三人はあっさりと落ちて行った魔物に落胆している様子だ。
あの魔物が弱いのかは分からないが、魔法が魔物にも有効だと言うのが分かったのは良かったと思う。
倒した魔物の事は気になるが、今は先を急ぐのが先決だ。
俺は、精霊エル様を追いかけて飛んで行った。
「あ、あの大きな街に魔人がいるそうなのじゃ!」
「分かった」
精霊エル様が廃墟となった大きな街が見える場所で止まり、ロレーナがエル様から話を聞いて説明してくれた。
「魔物の姿も見えるわね」
「はい、少し怖いです…」
「大丈夫、僕が魔物を倒してあげるよ!」
「私達も」
「魔物を」
「「倒す!」」
「そうだな…」
廃墟となった街に人の姿は無く、魔物達が蠢いていた。
リリーとマリーは、見慣れない魔物の姿に怯えている。
ルリアは魔物の醜悪な姿を嫌がっているみたいだ。
俺は見慣れているとは言え、転生する前の世界で見た魔物とは違う姿に警戒していた。
ここは前とは違う世界なのだから、見た目が違うのは当然の事だし、どの様な攻撃をして来るのか見当も出来ない。
魔物だからと侮らず、慎重に戦った方が良いだろう。
でも、魔人を先に倒さなければならない。
「グール、魔人が何処にいるか分かるか?」
「マスター、一番奥の高い場所に高魔力の反応があるぜ!」
「そうか、ちなみに高魔力って僕より多いのか?」
「いいや、マスターより多くはねーが、ルリアの嬢ちゃんよりかは多いぜ!」
「それは不味いな…」
ルリアは俺を除くと、この中で一番魔力が多い。
そのルリアを越える魔力を持っているとなると、より慎重に戦わなくてはならないだろう。
「ルリア、魔人の魔力は多いみたいだ。無理に突っ込んで行こうとせず、最初は離れた位置から攻撃してみよう」
「そうね、分かったわ」
ルリアは俺と同じように魔剣エリザベートで斬り込んで行った方が強いのだが、魔人の脅威が分からないので、最初は様子を見た方が良いだろう。
「ロゼはリリーとマリーを連れてこの辺りで待機。
危ない様なら距離を取り、直ぐに連絡をくれ」
「承知しました」
ロゼには、リリーとマリーの護衛を頼んだ。
ここに来る時、魔物には一度襲われたから、空にいても安全とは言えない。
どこかに家を設置してそこで待機させたかったのだが、地上はより危険だ。
ロゼには苦労を掛けるが、空中でリリーとマリーを守って貰うしかない。
いざとなれば、俺かルリアが戻って守る事になっている。
それまで、ロゼとリリーなら十分持ちこたえてくれると信じている。
「エレオノラはロレーナを連れて飛んでくれ」
「レイちゃん、了解!」
「よ、よろしく頼むのじゃ」
ロレーナはルリアにつけたかったのだが、ルリアには戦いにくいと言って断られた。
エレオノラも近接戦闘を得意としているので、ルリア同様に戦いにくいのは同じだ。
しかし、エレオノラは攻撃魔法があまり得意では無いので、ロレーナと一緒に飛ぶ事でそこを補って貰える。
ロレーナは、ルフトル王国にいた時に防衛担当をしていたので戦闘経験は意外と多いので、エレオノラを十分支えてくれるはずだ。
「リディアとミディアは、僕達の援護をお願いする」
「エルちゃんは」
「レイちゃんは」
「「私達が守る」」
「頼むよ」
リディアとミディアは前に出て戦うより、誰かの後ろで援護したり奇襲したりするのを得意としている。
この何も障壁が無い空中では、リディアとミディアの実力が発揮されにくいとは思うが、そこは二人も考えているだろう。
俺も二人とは訓練でよく戦うが、二人の連携に毎回翻弄される。
魔法抜きだと一番戦いたくない相手だが、相手が魔人と魔物だ。
やや非力な二人には厳しい相手かも知れないが、そこは俺達が前面に出て守ってやればいいだけの事だ。
「リゼは僕と一緒に来て貰う」
「はい、頑張ります!」
リゼとはいつも戦場で一緒に戦って来たから、今更何か言う事は無い。
安心して攻撃を任せる事が出来るし、その間に俺が状況確認出来るので非常に助かっている。
今回も魔法攻撃はリゼに任せ、俺は状況確認を徹底しようと思う。
「待てーーーーーー!」
俺はグールを構え、魔人がいる場所に向かおうとしていた時、後方から大きな声を掛けられた。
何事かと思い振り向いて見ると、金色に光るフルプレイトを着こんだ者がこちらに飛んで来ていた。
フィアコーネ大陸に住む人なのだろう。
出来れば関わり合いにはなりたくなかったが、声を掛けられた以上無視する事も出来ない。
俺はルリア達を後ろに下げ、警戒しながらその者を待ち構えた。
「待て!お前達はここで何をしている!?」
その者はフェイスガードを下げたまま話しかけて来たが、声で若い男だと言う事は想像できる。
正直に答えた方が良いのか迷う所だが、この場所に剣を構えていれば魔人と戦う事を隠す事は難しいだろう。
争い事は避けたいし、ここは素直に話す事にした。
「魔人が暴れていると言う事でしたので、倒しに来ました」
「倒しに!?それと魔人とは魔王カールの事か!?」
若い男は、俺が倒しに来たと言うと驚愕の声を上げていた。
そしてカールの名前を出したので、やはり魔人はあの時俺が倒し損ねた魔人だと言う事が分かった。
しかし、今は魔王を名乗っているのか…。
魔王であろうと関係は無いな。
俺はカールを倒すだけだ。
「魔王の事は良く分かりませんが、これだけの被害を出しているのですから、倒しに来ただけです」
「そうか、その勇気はありがたいが、魔王カールを倒すのは僕の…勇者メレデリックの使命!
君達は危ないですから、下がっていてください!」
「あっ、ちょっと待って!」
勇者メレデリックは俺の制止を無視して、魔王カールがいる場所に向けて飛んで行ってしまった…。
それにしても勇者か…。
あまり強そうには見えなかったが、勇者がいるのであれば俺の出番は無さそうだな。
ここは勇者に任せて、暫く戦いを見守っている事にした方が良いのかも知れない。
「エルレイ、先を越されたわよ!」
「そうだよ!僕達も行こうよ!」
ルリアとエレオノラが勇者を追いかけようと言って来るが、邪魔しない方が良いよな…。
「フィアコーネ大陸の人で解決できるなら任せた方が良い。
僕達は暫く様子を見ていよう」
「…分かったわ」
「えー、魔人と戦いたかったなぁ」
ルリアとエレオノラは不満気だが、危険を冒して無理に戦う必要はない。
それに、勇者がどんな戦いを見せてくれるのかにも興味がある。
俺達は少し距離を取り、勇者と魔王カールの戦いを見守る事にした。
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