第三百二十八話 魔王と勇者

≪カール視点≫

俺は近くの町や村を襲撃し、人々を殺し続けて魔力を吸収し続けていた。

しかし、人はあまり多くの魔力を持っておらず、俺の強化にはつながっていないのが現状だ。

吸収した魔力より消費した魔力の方が多く、休息せざるを得ない。

仕方なく廃墟にした町の一角に身を隠し、魔力の回復をする事にした。

ローアライズ大陸でも魔力を多く持った者は少なかったが、この地でもそれは変わらない。

人はやはり弱い。

弱いから群れる。

俺はいくつもの町や村、そして大きな街も破壊して来た。

そろそろ、俺を討伐するための準備が整う頃だろう。

ここで迎え撃つか、それとも一度ここから遠く離れた場所に移動して、そこで再開するか…。

安全なのは後者だろう。

しかし、逃げたと思われるのも癪だな。

それに、俺を討伐しに来る者達は魔力を多く持っているはずだ。

そいつらを倒して、俺の強化をはかった方が良いのかも知れない。

よし、方針は固まった!

敵を迎え撃つべく、俺は廃墟でじっと魔力の回復を待つ事にした…。


そして夜、静まり返った廃墟で休息していると、静まり返っていた廃墟に何かが蠢く音が聞こえて来た。

人か来たのかと思い廃墟から出て周囲を見渡すと、魔物達が集まって来ていて俺が倒した人の死体を食べていた。

いいぞ!

今まで殺された仲間達の分まで食い尽くしてやれ!

俺は気分よく、その光景を見続けていた。


俺が魔物達の食事を見ていると、魔物の中から一人俺の所にやって来た。

「オマエガ、タオシタノカ?」

「そうだ、遠慮なく食っていいぞ!」

「アリガタイ」

魔物は俺に感謝を述べ、再び食事へと戻って行った。

そして、食事を終えた魔物達は森に帰っていくのかと思いきや、俺の所に全員集まって来た。


「お前達、夜が明ければ人がやって来るぞ。早く森に逃げろ」

俺は魔物達に早く逃げる様に言ったのだが、魔物達は帰ろうとはしない。

「オマエツヨイ、オレタチノ、オウ」

「いや、俺は王では無い。だからさっさと帰れ!」

また仲間にすれば、こいつらも俺の戦いに巻き込まれて死んでしまう。

もう二度と仲間の死ぬ姿を見たくはない…。

そう思って、追い返そうとしたのだが、魔物達は一向に帰っていく様子は見られなかった。

「好きにしろ…」

夜が明ければ、俺の魔力もある程度回復するはずだ。

俺は飛行魔法で飛んで、次の場所に移動する。

俺がいなくなれば、魔物達も森へと帰っていくだろう。

そう思って、魔物達の事は無視する事にした。


翌朝、俺は魔物達に別れを告げて一人で飛び立ち、街道沿いを進んで次の町へと向かって行った。

街道には人影はなく、順調に次の街へと辿り着いた。


「来たな魔王!僕は勇者メレデリック!魔王を倒す者なり!」

街の前では、大勢の武装した者達が待ち構えており、その中から一人前に出て来て名乗りを上げた。

その勇気は称えられるべきなのかもしれないが、全く強そうに見えない。

それと、俺は魔王なんかではないが…魔人よりかはいい響きだな!

魔王、魔王カール!

今後はそう名乗る事としよう。


「俺は魔王カール、俺の前に立ち塞がった事を後悔しながら死ね!」

俺の名乗りと共に、敵が一斉に攻撃を仕掛けて来た。

接近される前に上空へと飛びあがり、撃ち込まれて来た魔法は撃ち消し、弓は障壁で弾き返す。

後は上空から魔法で殲滅するだけだ。

そう思っていたが、勇者と名乗った者が飛びあがって来て、俺に斬り掛かって来た。

「魔王カール、覚悟!」

気合の入った掛け声と共に振り下ろされて来る剣は、あまりにも遅い…。

俺の飛行速度にすらついて来ていないので、簡単に避ける事が出来る。

しかし、俺の撃ち出した魔法は装備に阻まれ効果をあまり発揮していない。

なので、面倒な勇者は無視して、下にいる者達に向けて特大の魔法を撃ち込んで倒した。


「ああああああ!なんて酷い事を!魔王許さないぞ!」

俺は勇者を無視して敵を撃ち滅ぼし、街を破壊しつくして行った。

「次は絶対に魔王カールを倒すからな!!」

勇者は捨て台詞を吐き、飛んで逃げて行った。

逃がしたくはなかったが、魔法が効きにくい相手を倒すのには多くの魔力を必要とする。

俺はまだまだ人を殺し続けなくてはならないのだから、無駄な魔力を使っている余裕はない!


しかし、この時勇者を逃がした事を後悔する事となった。

それからも、俺が街を襲う度に勇者が邪魔をしに来る。

俺は勇者を倒そうと試みたが、あと少しで倒せると思った所で勇者の体が元通り元気な姿になる。

あの装備が特別な物なのか、それとも勇者の能力なのかは不明だが、俺は勇者を倒す事が出来なかった。

とは言え、勇者自体大した強さでは無いから、次からは完全に無視して人達を殺し続けて行った。


夜は魔力の回復をする為に、廃墟で休息をとるのが日課となっていた。

そして夜には、魔物達が食事へとやって来る。

そしてまた、俺に仲間が出来てしまっていた。

もう二度と、仲間を作るまいと思っていたのだがな…。

その仲間とは、空を飛べる魔物と足の速い魔物の事だ。

俺が他の街に移動してもついて来られるのが、大きな理由だ。

それと、俺が魔王と名乗った事が大きいのかも知れない。


「マオウサマ、ワレラノチュウセイヲ、オウケトリクダサイ」

「俺について来ると死ぬことになるぞ?」

「カマイマセン、ワレラノイノチハ、マオウサマニササゲマス」

「好きにしろ」

仲間が出来た事は悪い事ばかりではない。

仲間が、面倒な相手だった勇者の相手をしてくれるからな。


「魔王カール!魔物に攻撃させるとは卑怯です!」

勇者が色々文句を言って来るが、致命傷を幾度となく与えても回復する勇者の方が卑怯だと言いたい!

こちらも、仲間が勇者に傷つけられれば回復させてはいるがな…。


仲間も増え、王城がある大きな街も殲滅できた。

俺は瓦礫となった城の上に座り、満足気に仲間達の食事風景を見守る。

一つの国を滅ぼしたのだろう。

俺の目標は人の殲滅だ。

ここで満足してはいられない。

しかし、今は勝利の余韻に浸っていたいと思う…。


≪勇者メレデリック視点≫

僕は勇者メレデリック。

かつてこの地に舞い降り、国を襲って人々を恐怖に陥れた魔王を倒した勇者の末裔。

幼いころから、僕も勇者に憧れて体を鍛えていた。

だけど、僕が勇者に成れるとは思ってもいなかった。

勇者とは魔王を倒す存在で、勇者が魔王を倒して七百年の間、魔王が現れた事が無かった。

だから、勇者も必要とされず、僕も両親と同じように勇者から伝えられた戦闘技術や装備を受け継ぐのみの存在になるのだと思っていた。

だけど魔王が現れ、僕は勇者が残した装備を身に着け、勇者メレデリックとして魔王討伐に向かう事になった!


魔王は僕が想像していた以上に強かった。

いや、僕が弱いのだろう…。

勇者が残してくれた装備の力を、僕は殆ど使いこなせてはいない。

空飛ぶブーツで飛びあがり、魔物を斬り裂ける聖剣エクスカリバーを魔王に当てる事が出来ない。

当たらなければ、どんなに斬れる聖剣だとしても全く意味が無い。

本当は、僕より強い父が勇者に成るはずだった。

だけど、聖剣エクスカリバーに勇者だと認められたのは父では無く僕だった。

だから、何度魔王カールに敗北しようとも、諦めずに戦い続けなければならない。

僕は歯を食いしばり、勇者メレデリックとして魔王カールを倒し、人々を守ると聖剣エクスカリバーに誓った。

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