第三百二十七話 フィアコーネ大陸に出発

フィアコーネ大陸への出発の準備が整い、少し早い昼食を取ってからリアネ城の玄関へと出た。

「エルレイ様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「行って来る」

アドルフに見送られながら、俺は全員を飛行魔法で飛びあがらせた。

フィアコーネ大陸までどれだけ距離があるのか不明なのと、そして到着後に即先頭になる可能性もあるから、ルリア達には魔力を温存して貰うために俺が運ぶ事にした。


「楽なのは良いけれど、自分で飛ばないのは不思議な感じね」

「そうかも知れないな。到着するまで時間がかかるだろうから、ゆっくりしておいてくれ」

「そうするわ」

自分で飛ぶのと他人に飛ばせて貰うのでは、感覚に相当な違いがあるのだろう。

俺もルフトル王国でキャローネに運んで貰った時は、変な感じがしたからな。

俺だけが先に飛んで行って、フィアコーネ大陸についたら空間転移魔法で連れに戻ると言う方法もあったのだが…。


「そんなの楽しくないわよ!」

皆からそう言われて、全員一緒に行く事になったんだよな。

未知の大陸に行くのだし、空間転移魔法で一瞬のうちに連れて来られても楽しくないと言う気持ちは良く分かる。

しかし、ずっと海の上を飛び続ける事になるのだろうから、かなり退屈になってしまう。

今の所は、皆で会話を楽しんでいる。

俺も加わりたいと思うが、飛ぶ事に集中しなくてはいけないな…。


「ロレーナ、セシリア女王様の精霊はいつ来てくれるのだろうか?」

セシリア女王から、東に真っすぐ飛ぶようにと言われて飛んでいたのだが、海上に出てかなり時間が経つのに、案内してくれる精霊の姿が見えなかった。

なので、ロレーナに精霊の事を尋ねて見た。

「エ、エル様なら、もう来ているのじゃ!」

「エル様?」

「そ、そうじゃ、セシリア女王様の精霊はエル様なのじゃ。こ、ここにいらっしゃるのじゃ」

ロレーナが指さす先には、ぼんやりと光るテニスボール大の球が浮かんでいた。

「これがセシリア女王様の精霊、エル様?」

「そ、そうなのじゃ!」

なんだか自分を様付けして呼んでいる感じがして嫌だが、セシリア女王の精霊に様付けしない訳にもいかない。

精霊の言葉は俺には分からないが、精霊は俺達の言葉を理解してくれるので、案内してくれるようお願いした。

するとエル様は少しだけ明るく光り、俺の前を飛んでくれた。

後は、エル様に着いて行けばいいだけだな。

俺は速度を上げ、先導してくれるエル様を追いかけて行った。


「エルレイ、陸地が見えて来たわよ!」

「うん、あれがフィアコーネ大陸なのだろう」

日が少し傾いて来た頃に、ようやく陸地が見えて来た。

ルリアは大陸を見て興奮している様子だが、他の皆は退屈のあまり眠っていた。

ずっと海と雲しか見えなかったし、俺も体力温存するために寝ていてくれと言っていた。

ルリアに皆を起こして貰い、俺はエル様に続いて平原へと下り立った。


「エ、エルレイ、今日はここで休んでくれと言う事じゃ」

「分かった」

ロレーナがエル様と話し、魔人を倒しに行くのは明日と言う事になった。

俺はこのまま倒しに行く事を想定していたのだが、夜だと視界が悪く戦うのには向いていない。

魔人を早く倒したい気持ちはあるが、俺達の身の安全を考えるのなら日中に戦うのが良いだろう。


俺は久しぶりに家を取り出し、平原に設置した。

そして、家の周囲を土の壁で覆い、外から誰も入って来れないようにした。

魔物がいると言う土地なので、これくらいの防御はしておかなくてはならないだろう。

空から襲って来られれば中に入られてしまうが、家も丈夫に作っているし、上部を囲う必要までは無いだろうと思う。

家は定期的に取り出して確認していたので壊れている所は無いと思うが、念の為に急いで壊れていないか書かないか確認してから、皆を家の中に入れた。

十人で過ごすには少し狭いが、ベッドは人数紛用意しているし数日過ごすのであれば問題無いだろう。


「り、立派な家じゃな!」

「いい家だね!」

「ちょっと」

「狭い?」

ロレーナ、エレオノラ、リディア、ミディアは、初めて使う家の中を探索していた。

ロゼ、リゼ、マリーの三人が夕食の準備を始めた。

俺はテーブルの席に座り、ルリアとリリーと話をする事にした。


「魔人と戦うのは当然だが、この大陸での過ごし方を話しておこうと思う」

「それはどういう事なのかしら?」

ルリアは首を傾げながら聞いて来た。

「僕達はこの大陸に住む人達とは、魔人の事以外では全く無関係だ。

だから、出来るだけこの大陸の人達とは関わり合いを持たない様にしたいと思う。

セシリア女王様も、俺達を何も無い平原に誘導したのは、そういう考えがあったからだと思う」

「確かにそうかも知れないわね…」

「エルレイさん、皆さんは街に行ってみたいと言いそうですが…」

「その気持ちは分かるが、果たしてそれが出来るかどうか分からないかな」

「どう言う事よ?」

「僕達はこの大陸のお金を持っていない。

街に入るのにお金が必要だとしたら、入れない事になる」

「それもそうね…」

ソートマス王国でもそうだが、大きな街に入るにはお金が必要となる。

通行証を持っていれば必要無くなるが、通行証を買うのにもお金が必要だ。

この大陸ではどうなっているのかは不明だが、魔物がいると言う場所なので、人が住む地域は壁で厳重に覆われている事だろう。

魔物がいないソートマス王国でも壁で囲われているくらいだから、ここの街が覆われていないと言う事は無いはずだ。

当然、街を守る人達を雇う必要があり、その人達を維持するためにもお金が必要だ。

なので、街に入るにはお金が必要だと考えられる。

魔人が街を襲っていると言う話だったので、街に住む人達も避難しているかも知れない。

魔人を倒してから住人が落ち着くまで、街の見学は出来ないと思っておいた方が良いだろう。


夕食の際に、ルリアとリリーと話した内容を皆にも説明し理解を求めた。

「お金が無いから仕方ないよね」

「魔物を倒して」

「稼ぐ?」

「それだね!」

エレオノラ、リディア、ミディアは魔人より魔物と戦いたいみたいだ。

俺も興味が無いわけでは無いが、今回は魔人を倒すだけにとどめておこうと思う。


セシリア女王が安全な場所を選んでくれたのだろう、俺達が寝ている夜に魔物が襲ってくるような事は無く、無事に朝を迎えられた。

そして朝食を食べていると、セシリア女王の精霊エル様がふわりと食卓の上に下りて来たので、ロレーナがエル様から話を聞いて説明してくれた。

「ま、魔人は廃墟となった街で魔力の回復を行っているそうなのじゃ」

「そこを襲えばいいのね!」

「そ、そうなのじゃ。ただし、ま、魔物が集まって来ていて、魔人を守っているそうなのじゃ」

「魔物が魔人を守っているの?」

ロレーナの説明では、魔物達が休息している魔人を守っていると言う事らしい。

今まで戦った事が無い魔物とは極力戦いたくはなかったが、それは避けられないみたいだ。

魔人がどれほど強くなっているかも不明な状況で、更に魔物とも戦わなくてはならなくなった。

不安しか無いが、やるしかない。


「僕が魔人と戦うので、ルリアはエレオノラ、リディア、ミディアと協力して、魔物を倒して欲しい」

「分かったわ!」

「任せてよ!」

「魔物」

「いっぱい倒して」

「「お金にする」」

リディアとミディアはお金を稼ぎたい様だが、廃墟ではそれは望めない事だろう。


「リゼは大変だが僕について来てもらう」

「はい、頑張ります!」

「リリー、ロゼ、マリーは後方で待機して貰うが、魔物が襲って来る可能性も高い。

十分に注意し、もし魔物が襲ってきたら、遠慮なくルリア達を頼ってくれ」

「エルレイさん、分かりました」

「承知しました」

「はい、エルレイ様!」

出発の準備が整い家を収納して、魔人がいる廃墟に向けて飛び立って行った。

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