第三百二十六話 フィアコーネ大陸へ その二
「ロレーナはついて来てもらうよ」
「も、勿論なのじゃ!わ、私とソルで悪い奴をやっつけてやるのじゃ!」
「「ワン!」」
ロレーナの頭を撫でてから、ソルの頭も撫でてやった。
セシリア女王の頼みと言う事で、ロレーナは張り切っていたからな。
連れて行かないと言えば、エレオノラ以上に大暴れしたに違いない。
それに、ロレーナとソルの精霊魔法は威力ではルリアに敵わないが、魔法制御は一番だ。
敵が町を襲っていた場合、周囲に被害を出さないで攻撃出来るのはロレーナだけだ。
今回、一番活躍できるのかも知れない。
「ユーティアは自分の仕事に集中してくれ」
「はい、でも私も心配していますから、早く帰って来てください」
「分かっている」
俺達の結婚式が決まったと言うのに、パーティーのお誘いはまだ来ているんだよな…。
俺の代理としてユーティアには出席して貰っているし、ユーティアの移動を手伝わなくてはならないので早く帰って来ないといけない。
「エンリーカには、リアネ城の仕事を頼む」
「分かりましたわ。エルさんも自分の仕事をしっかりして来て下さいまし!」
「うん、頑張って来るよ」
エンリーカには本当に助けられている。
エンリーカが頑張っている分、俺も頑張って来ないといけないな。
「エレオノラ、戦場では何が起こるか分からない。俺やルリアの言う事をしっかりと聞いて、無理をしない様にしてくれ」
「うん、分かってる。敵は僕が全部倒せばいいんだよね!」
全く分かってはいないが、エレオノラの面倒はルリアがやってくれると信じている。
いや、二人で暴走しそうな危険があるから、俺が見ていないといけないかな…。
「リディアとミディアは、無理して戦う必要無いからな!」
「大丈夫」
「ちゃんと戦える」
リディアとミディアが強いのは知っているが、ルリアやエレオノラには勝ててはいないので、無理はして貰いたくはない。
リディアとミディアは、エレオノラと違って言う事をよく聞いてくれるので、リリーの護衛をやって貰うのが良いのかも知れない。
「ロゼとリゼは、いつも通りついて来てもらうぞ」
「「はい、お任せください」」
ロゼとリゼには、何時も危険な場所について来てもらって申し訳ないと思うが、俺が一番戦場で信頼し安心出来る存在だ。
ロゼはどんな時でも冷静な判断をし、リリーを守って来てくれた。
今回もリリーの守りをロゼに任せておけば、俺は心配なく戦う事が出来るだろう。
リゼは攻撃面で役に立ってくれるだけでなく、治療の方でも力を付けて来た。
飛行魔法が使えないので最初は連れて行こうとは思っていなかったが、いると非常に助かる存在だ。
今回も俺の補助として、大いに活躍してくれる事だろう。
「ラウラ、エルミーヌ、マリーは大変だと思うが皆の世話を頼む」
「畏まりました」
「承知しました」
「…」
ラウラはヘルミーネと、エルミーヌはユーティアとお互いに信頼している関係だ。
ヘルミーネは最近大人しくなってきたとはいえ、
我儘なヘルミーネを叱りつける事が出来るのはラウラだけだ。
他のメイド達では、王女のヘルミーネを叱る事なんて出来ないからな。
ユーティアは自室以外で極力話さないので、会話はエルミーヌが代わりに行っている。
ユーティアの意思をくみ取りって貴族相手に会話をするのは、エルミーヌ意外に出来る者はいない。
結婚して俺の愛人になった後も、それは変わる事は無いのだろう。
マリーはロレーナの専属メイドだが、戦場に連れて行くのは厳しいと思い、留守番をお願いした。
しかし、先程からマリーは俯いて黙ったままだ。
そんなマリーに、ロレーナが近づて声をかけていた。
「い、言いたい事はちゃんと自分の口で伝えないといけないのじゃ!」
「…はい、ロレーナ様」
ロレーナに言われて意を決したのか、マリーが俺の前に一歩踏み出して来た。
「エルレイ様にお願いがあります。私も連れて行ってください!」
マリーは決意のこもった目で俺を見ていた。
マリーはロレーナの傍を離れたくは無いのだろう。
専属メイドとしてその行為は正しいのだが、戦場に戦えないマリーを連れて行けば足手まといとなる。
今回は全く未知の土地に行くので、どんな危険があるのかも不明な状況だ。
そんな危険な場所にマリーを連れて行く事は難しい。
マリーは地属性魔法と水属性魔法が使え、自分の身を守る事くらいは出来ると思う。
しかし、マリーにはエリオット達と同様に無詠唱を教えていない。
とっさに身を守る事は出来ないだろう。
可哀そうだが、やはりマリーを連れて行く事は出来ないな。
「マリー、ロレーナの傍を離れたくないと言う気持ちは良く分かるし、とても嬉しく思う。
しかし、今回は魔物が生息する場所に行くので危険が大きい。
それに、俺達が倒さなくてはいけない魔人も強い。
そんな場所にマリーを連れて行く事は出来ないんだ、分かってくれないだろうか?」
俺が連れて行かないと言うと、マリーは今にも泣きだしそうな表情をしていた。
可哀そうに思うが、これはマリーの事を思っての事だ。
心を鬼にしてでも、断らなくてはならない。
「エ、エルレイ、どうしても駄目なのか?」
「駄目だ!」
ロレーナがマリーの代わりにお願いしてきたが、それもしっかりと断る事が出来たが…マリーはとうとう泣き出してしまった…。
ロレーナが、泣き出したマリーを優しく抱きしめて慰めている。
俺が泣かしてしまったので非常に罪悪感を覚えるが、マリーの事を思っての判断だ。
俺は間違ってはいないと、心の中で言い続けた…。
「エルレイ!」
その時後ろからルリアの声が聞こえたので振り向くと、ルリアの握りしめられた拳が俺の顔面に迫って来ていた!
バキッ!
久しぶりにルリアから殴られ、その場に倒れ込んでしまった。
そして倒れた俺を、ルリアは怒りに満ちた表情で見下ろしていた。
「マリーを悲しませるんじゃないわよ!リリーも行くのだから、一人増えたくらい問題無いでしょう!」
ルリアの言う事は正しい…。
リリーも前衛には出すような事はしないし、後衛としてマリーをリリーと一緒にいてもらえば安全だろう。
しかし、一度決めた事を覆すようでは、結婚後も俺の意見は通らない事になる。
俺はルリアの目をしっかりと見て、断らなければならない!
「ルリア、マリーの事だがやはり…」
「何よ!」
「いえ、連れて行こうと思います!」
「そう、マリー、エルレイが連れて行ってくれるそうよ!」
「あ、ありがとうございます…」
あまりの出来事に、マリーも泣き止んでルリアに感謝を伝えていた。
いや…俺も許可するつもりはなかったのだが、目の前に炎の矢を突き付けられては、許可せざるを得なかった…。
拳ならいくら殴られてもいいと覚悟していたのだが、魔法は反則だろう!
ルリアも本気で魔法を撃つ気は無かったと思うが、それでも目の前に強力な魔法を突き付けられればな…。
マリーを連れて行けばリリーとロゼに負担がかかってしまうだろうが、そこは俺がお願いするしかないな。
俺は立ちあがり、ルリアに殴られた頬を治癒しながら先ずはマリーに話しかけた。
「マリー、改めて言うけれど、今回はかなり危険な場所に行く事になる。
それでもついて来るのだろうか?」
「はい、私ではお役に立てないかも知れませんが、一緒にいたいと思います!」
「分かった。急いで準備を始めてくれ」
「はい!」
マリーは表情が笑顔に変わり、急いで着替えの準備に向かって行った。
俺はリリーと着替えの準備をしているロゼに、マリーの事をお願いしに行った。
これで、連れて行く人は決まった。
後は準備が整い次第、今日中に出発する。
明日まで待っていては、被害に遭う人達が増え続ける事になるだろう。
そうなってしまわない様に少しでも早く出発して、魔人を倒さなければならない!
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