第三百二十五話 フィアコーネ大陸へ その一
「エルレイは、私達が暮らしているローアライズ大陸以外にも大陸がある事知っていますか?」
「あるらしいと言う話は聞いた事があります」
俺の教育係だったアンジェリカから、魔物が住む大陸があると言う話は教わっていた。
大陸が一つだけしか無いと言う事はありえないだろうし、俺もその内確認しに行きたいとは思っていた。
今セシリア女王がその話を持ち出して来たと言う事は、別の大陸で異変が起こったと言う事なのだろうか?
そしてその異変を、俺にどうにかして貰いたいと言う事なのかもしれない。
でも今は、結婚式を控えた重要な時期だ。
何が起こるか分からない未知の大陸に、行きたくは無いと誰でも思う事だろう…。
セシリア女王も、俺にそんな無理をさせたくはないはずだ。
でも、あえてこの時期にその話をすると言う事は、余程差し迫った危機があると言う事なのかもしれない。
俺は覚悟を決めて、セシリア女王の言葉を聞く事にした。
「私は光の精霊を使え、この世界の隅々まで見通す事が出来ます。
そして、海を渡った遠くの場所に別の大陸がある事も知っています。
その大陸の名はフィアコーネ大陸と言い、人、魔族、魔物等、様々の種族が暮らしています」
やはり、魔物はその大陸にいたのか。
英雄が駆除するまではローアライズ大陸にもいたのだから、当然の事だな。
魔族もいると言っているし、もしかして世界を滅ぼすような魔王、もしくは邪神が復活したと言う事なのだろうか?
俺はこの世界に転生する前、女神クローリスに依頼されて他の世界で邪神を倒している。
そして、邪神を倒した褒美として、この世界に転生させて貰っている。
まさか、邪神が復活する事を想定して、女神クローリスは俺をこの世界に転生させたのだろうか?
今は、そうではない事を願うしかないな…。
「そして今、フィアコーネ大陸では来訪者によって、人々が大量に殺害されています。
フィアコーネ大陸に住む人々は、来訪者を討伐しようとしていますが強くて上手く行っていません。
このまま放置すれば、フィアコーネ大陸に住む人々が全て殺されてしまうかも知れません。
その来訪者とは、ミスクール帝国で魔人と成った者の事です」
あー、そう言えばミスクール帝国に攻め込んだ際に一人逃していたんだよな…。
そいつがフィアコーネ大陸に行って人々を殺しているのだとすれば、俺の責任でもあるのか…。
そうであれば、俺が行って止めなくてはならないな…。
「分かりました。僕が止めに行きます!」
「エルレイ、感謝します。
フィアコーネ大陸への案内は、私の精霊が行いますので安心してください」
「はい、一度帰って準備をしてから直ぐに向かいたいと思います」
皆とは休日を過ごしに来たのに悪いとは思うが、直ぐにリアネ城へと帰って来た。
「エルレイ、誰を連れて行くのかしら?」
「そうだな…」
リアネ城に戻って来てからアドルフだけにフィアコーネ大陸に行く事を説明し、持って行く食料を用意させている。
それが整い次第直ぐに向かうつもりだが、問題は誰を連れて行くかと言う事だ。
魔物がいるフィアコーネ大陸は危険だろうし、戦う相手も強い事は予想される。
俺と戦った時点では強くはなかったが、最後に魔法を吸収する様な動きを見せていたし、あれから時間も経っているから強くなっているのだろう。
そうじゃないと、フィアコーネ大陸に住む人々が倒せないと言う事にならないだろうからな。
そんな危険な相手と戦うのだから、出来れば俺一人で行きたいと思っている。
だが、これまでの事を考えると、間違いなく誰かを連れて行かなくてはならない。
飛行魔法を使えるロゼは確定で良いだろう。
何時もならリゼを連れて行く所だが、もし俺の身に何か起こった時、リゼでは飛んで帰って来る事が出来ない。
その観点から考えれば、飛行魔法を使えない者は連れて行けないと言う事になる。
飛行魔法を使えるのは、ルリア、アルティナ姉さん、ユーティア、ロゼ、ラウラ、エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアだが、戦えないアルティナ姉さん、ユーティア、ラウラ、エンリーカは排除しなくてはならない。
残ったのは、ルリア、ロゼ、エレオノラ、リディア、ミディアだが…。
「僕はついて行っていいよね!ねっ!」
「「私達もいい?」」
エレオノラ、リディア、ミディアの三人は俺の手を掴み、行きたいと懇願して来ている。
ミスクール帝国との戦いに参加できなかった事を悔しがっていたし、あれから魔法の特訓を頑張っていたからな。
連れて行かないと言えば、暴れるかもしれない。
それに、レオンからも戦いがあれば連れて行ってくれとも言われている。
普通の親なら戦いに行かせるなと言う所だが、レオンだからなぁ…。
今回も参加させなかったとレオンが知れば、俺が怒られるのは間違いない。
「わかった、連れて行くから手を放してくれ」
「「「やったぁ!」」」
三人は飛び跳ねて喜んでいる。
死ぬかもしれない危険な戦いに行くのだがな…。
ルリアは当然ついて行く気満々で、ロゼに着替えの準備をさせている。
俺もルリアは連れてつもりだが、ラノフェリア公爵には連絡しておかなくてはならないだろう。
ラノフェリア公爵にもフィアコーネ大陸の事は教えられないが、戦いに行く事だけは知らせておかないと、事後報告して怒られる事になる。
リリーは俺達が怪我をした際の治療役として連れて行きたいが、飛べないリリーを連れて行くとなるとリゼもついて行くと言い出すだろう。
今連れて行こうと考えている者達の中で、水属性魔法が使えるのは俺だけだ。
だから、どうしてもリリーを連れて行かなくてはならない。
リゼも水属性魔法を使えるから、この際連れて行く事にするしかなさそうだな。
俺は皆を集めて、一人一人声をかけて行く事にした。
「ルリア、危険な戦いになると思うが頼りにしている」
「えぇ、結婚式前までに終わらせるわよ!」
「うん、そうしよう!」
ルリアは腕組みをして、やる気に満ちた目で俺を見ていた。
俺は頷きながら、ルリアの腕組みに押し出されるようにして強調された胸に視線を奪われていた…。
ルリアも随分と成長した物だと感心していると、俺の視線に気が付いたのか後ろを向かれてしまった。
以前なら殴られていた所だろうが、この程度でルリアが殴って来るような事は無くなった。
一緒にお風呂に入ったりしていて、ルリアの裸も見ているからだろうな。
「リリー、危険な場所だがついて来てくれないか?」
「はい、エルレイさんの行く所は何処でもついて行きます!」
「ありがとう」
リリーは真っすぐ俺の目を見ながら応えてくれた。
リリーを危険な場所に連れて行きたくは無いが、リリーの治癒魔法は頼りになる。
リリーの護衛はロゼに任せておけば安心出来るし、俺も出来る限りリリーを守りたいと思う。
「ヘルミーネはいつも通り留守番だ」
「うむ、無事に終わればフィアコーネ大陸に連れて行くのだぞ!」
「それは結婚式の後になるだろうな…」
「約束だからな!」
ヘルミーネはついて来たいのだろうが、しっかりと我慢してくれている。
俺はヘルミーネの頭を撫でながら約束をした。
俺としても、危険が無くなればフィアコーネ大陸に遊びに行きたいとは思っている。
それも、今回の事が無事に終わってからだな。
「アルティナ姉さん、皆の事をお願いします」
「エルレイ、早く帰って来てね…」
アルティナ姉さんは俺を強く抱きしめて来て、俺は安心すると同時に早く帰って来てアルティナ姉さんを安心させなければと思った。
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