第三百二十二話 魔物の王カール その二

≪カール視点≫

ドス、ドス、バーン。

矢と魔法が当たる音が聞こえて来たが、痛みは無い。

おかしいと思い目を開けて見ると、目の前には俺を庇うように立ち塞がる魔物達の姿があった。

「お前達…」

「オウサマ、ニゲテ」

「仲間を置いて逃げられるか!」

「ツレテイケ」

魔物の一人が俺を担ぎ上げ、この場から逃げ出した!


「おい、降ろせ!俺は最後まで戦うぞ!」

「ダメ、オウサマ、イキテ」

魔物の力は強く、俺の力では振りほどけない。

俺の代わりに残った魔物達は、人達に倒されて行っている…。

くそっ!

またここでも俺は仲間を救えないのか!!

いや、まだ仲間は残っている。

これ以上仲間を喪わない為に、今以上考えて努力しなければならない!


逃げた先には、残った魔物達が集まっていた。

殺されたのは三分の一程度で、俺は残った者達を今度こそ守らなければならない。

魔物達の中には怪我を負った者が数多くいる。

魔物達も丈夫で、軽い怪我などは数日で完治してしまう。

だが、重傷を負った者はこの厳しい環境の中では生きてはいけないので、仲間に殺されてしまう。

だから俺は重傷を負った者の所に行き、魔法で治療を行う事にした。


「今から治療してやる、じっとしてろよ」

治癒魔法は今まで使った事は無い。

そもそも魔人と成ってから、今まで使っていた魔法すら使えなくなっている。

だが、魔法は魔力を使って現象を起こすだけのものだ。

それならば、魔力を使える俺は魔法と同じ事を起こせるはず。

魔力を手の先から慎重に患部へと流し込んで行く…。

しかし、魔物の魔力が増えただけだった。

もう一度、今度は傷が治る様に願いながら、魔力を流し込んで行った…。


「オウサマ、イタクナクナッタ」

「ふぅ、良かった。でも無理はするなよ」

上手くいって胸をなでおろした。

安心している場合ではない。

他にも傷ついた者が大勢いるのだ。

俺は全員の傷の治療を行い、最後に自分の治療も行った。


「俺は今後、食料の調達は行わない。

その代わり、周囲に危害を与える者がいないかの調査に専念する」

食料調達は俺が手伝う必要はない。

それよりも、危険を事前に排除した方が効率がいいはずだ。

今回は敗北したが、次戦う時は負けない様にしなくてはならない。

魔物達に聞くと人はたまに襲い掛かって来るそうで、かなり強敵の様だ。

短い戦いだったが、俺も人の強さを知る事となった。

俺は魔人と成って人だった頃より強くなった。

だが、エルレイに敗北し、この地の人にも敗北した。

俺は弱い…まだまだ強くならなければならない!


俺はこの日から、魔物達が食料調達に行く間、周辺を飛び回って危険の排除を行う事にした。

そして、余った時間を使い、魔法の訓練も行っていく。

治癒魔法を使えた事で、魔力をそのまま撃ち出すのではなく、魔力に想いを乗せる事で魔法へと変わっていくと分かった。

切っ掛けを掴んだ俺は、今まで使えた火属性魔法と風属性魔法以外の魔法も使えるようになった。

そもそも、治癒魔法も水属性魔法なのだから、使えて当たり前なのだ。

魔法を思うままに仕えるようになった頃、また人と遭遇する事となった。


人数は六人。

前回よりかは数が少ないが、油断は出来ない。

俺を斬りつけて来た剣士は、魔力障壁を貫通して来たのだ。

接近戦が得意ではない俺は、相手との距離を詰められないように気を付けなければならない。

まだ敵はこちらに気付いていない。

今のうちに魔法障壁を掛け、こちらから先制攻撃を仕掛けよう。

そう思って、身を守る魔法障壁を掛けた所、敵に気付かれてしまった。


「あそこだ、木の裏に隠れているぞ!魔法を使って来るから注意しろ!」

何故気付かれたのかは不明だが、今はそんな事を考えている暇はない。

俺は隠れていた木の陰から身を出し、魔法を敵に向けて撃ち込んだ!

しかし、魔法は前に出た盾を構えた者に阻まれてしまった。

そして盾の後ろから、魔法と弓矢が飛んで来た。

前回と似たような感じなので慌てず、横に飛び去りながら魔法攻撃を放つが、またしても盾に阻まれた。

それならばと、複数の魔法を同時に放った!

盾に全部阻まれる事は無かったが、相手の魔法障壁を貫通するまでには至らなかった。

そして、大きな魔法を使った隙をついて、今まで盾の後ろに隠れていた剣士が猛然と斬り掛かって来た。

俺は剣の届かない位置まで飛びあがった。

上空に浮かび上がると、魔法と弓矢が容赦なく襲い掛かって来る。


「くそっ!」

見事な連携に俺はなすすべも無いが、向こうも俺に致命傷を与える事は出来ていない。

俺も反撃に魔法を撃ち込んで行く。

「捉えたぜ!」

「なにっ!?」

魔法の打ち合いをしていると、俺の高さまで剣士が上がって来ていた。

とっさに魔力を放ち、剣の攻撃を受け止めた!

剣で斬られる事は防いだが、衝撃までは抑えきれず地上に落とされてしまった。

不味い!

剣士がここぞとばかり、剣で攻撃して来る!

俺は大量の魔力を放出し、剣士を吹き飛ばした!

「ぐあぁぁぁぁ!」

効いている!

剣士に止めを刺そうと魔法を撃ち出したが、盾を持った者に防がれてしまった。

俺は再び飛びあがり、剣士に向けてありったけの魔力を撃ち込んでやった!

よし!剣士と盾を持った者はまだ死んではいない様だが、動けないみたいだ。

今のうちに、残った四人を倒す事にしよう。


思ってた以上に手ごわい相手だ。

残っていた四人は、俺の魔法を防ぎつつ、倒れた二人の救出に向かって行った。

その間も、俺に魔法と弓矢で攻撃を仕掛けて来る。

俺も魔法で応戦するが、四人を倒す事は出来ず、二人を救出を許してしまった。

そして、四人は倒れた二人を連れて逃げ出して行った。

「深追いは止めて行こう」

俺の魔力もかなり消耗しているし、魔法だけでは倒せないと理解した。


ローアライズ大陸では、魔法がかなり強力な武器となりうる。

しかしこの地では、魔法だけでは戦っていける状況ではない。

よく考えて見れば分かる事だ。

ローアライズ大陸は英雄によって魔物が排除され、二千年間平和とも言われる時を過ごして来た。

その間も、この地では人と魔物との戦いの日々は続いており、戦いが洗練されている。

俺の仲間になった魔物の中にも、少数だが魔法を使える者もいる。

俺の魔法はその者より優れているが、今戦った者達に防がれてしまう程度の魔法だ。

俺も相手の魔法を無効化する事は出来るし、相手も魔法対策をしっかりとしていた。

威力の高い魔法は完全に防ぐ事は出来ないみたいだが、何回も撃てるものでもない。

魔力を使い過ぎれば、俺は魔力切れで倒れてしまう事になる。

そうなるのを避けるためにも、魔力を温存しながら勝てる方法を考えていかなければならない。

俺も仲間達と連携して戦う必要があるだろう。

俺は襲って来た者達が再び戻って来ない事を確認し、仲間達の所へと戻って行った。


そして、仲間達の中から精鋭を集め、人と戦うための組織を作る事にした。

食料調達にも人を割かなくてはいけない為に、とりあえず一組だけだが今はこれで十分だろう。

この森は人が住む場所からかなり離れている事は、上空から見たことで分かっている。

ここまで来た人達は、森の中を一週間ほど歩いて来たのではないかと思う。

一週間も、魔物がいる森の中を歩いて来れる者はそう多くないはずだ。

俺達は人の住む場所には近づかない様にし、来た者だけを排除すればいいのだから。

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