第三百二十一話 魔物の王カール その一

≪カール視点≫

オーク達の見た目は悪く非常に恐ろしかったが、一緒に生活していくうちに慣れて来た。

それに、毎日俺の世話をしてくれるし、柔らかい草を敷き詰めた寝床も用意してくれた。

魔力が枯渇した時以外寝る必要は無いが、横になって休めるのは非常にありがたい。


「オウサマ、デカケル」

「一緒に行こう!」

オーク達の王となったからには、俺もオーク達に貢献しなくてはならない。

オーク達は子供を含めて五十人ほどいて、男達が四組に分かれてそれぞれ食料を探しに行く。

俺もその一組の中に入り、一緒に食料を探しに行く。

と言っても、オーク達が動物や魔物を見つけ、俺が魔法で倒して行くだけの非常に簡単なものだ。


「オウサマ、ツヨイ」

「これくらい当然だ」

オーク達の肉体は非常に丈夫で強いが、魔法を使う事が出来ないので、魔法を使う俺が羨ましいみたいだ。

魔物の中には魔法を使って来るのもいて、オーク達はそれに遭遇すると逃げないといけないらしい。

俺は魔法しか使えず、その魔物に魔法で打ち勝つ事が出来なければ、逃げることも考えなければならない。


食料を集め終えて廃墟の拠点に戻ると、オークの女達が獲物を料理して行く。

料理と言っても、皮を剥いで肉を切り分けるだけだ。

切り分けた肉と、周囲から採取してきた果物や草を一緒に食べるのがオークの食事である。


「オウサマ、クエ」

「いや、俺は食事は必要ない。お前達だけで食べるといい」

生肉を差し出されても食欲がわいて来るはずもない。

魔人と成ったこの体が、食事を必要としていないのは非常にありがたい。

でも、何か食べたいと思うのは人だった頃の名残だろう。

俺は果物を一つだけ貰い受け、それにかじりついた。


「美味いな!」

見たことも無い赤く熟れた果実はとても甘く、程よい酸味がした。

この果実であれば何個でも食べられそうだが、オークの食事を奪う訳にはいかない。

オークは体が大きい分、食料も大量に必要としていた。

一日に三、四回は食料を探しに行かなくてはならない。

その為、周囲の食料が尽きるので、十日ほどすれば他の地に移動しなくてはならないらしい。


「オウサマ、イドウスル」

「分かった、着いて行こう」

廃墟から移動する事になってしまったが、オーク達の王になった以上見捨てる訳にはいくまい。

オーク達と共に森を移動し、新たな拠点へと移り住む。

何度目かの拠点移動をした所で、他の魔物達と遭遇してしまう事になった。


「オウサマ、テキ」

「分かった、お前達は俺が守るから下がっていろ!」

移動をしていると、どうしても近くにいる魔物達の縄張りに侵入してしまう事があるらしい。

そんな時は争いとなり、負けた方が縄張りを奪われる事になる。

縄張りを奪われれば、生きていく為の食料が手に入りにくくなる為、双方とも必死の決意で争う事になる。

当然、死者も出る事になる。

付き合いは長くは無いが、共に生活している間にオーク達にも愛着がわいて来た。

俺としても、オークと共にいる事で見知らぬ地の事を知る事が出来る利点は大きい。

どの道、魔人の姿では人が暮らす場所へは行けないのだから、オーク達と共に暮らしていくしか無いのだ。


魔物は俺の敵ではなかった。

問題は、俺が魔物に勝つと、負けた魔物が配下になると言う事だな…。

オークから始まり、気が付けばリザードマン、オーガ、ラミアその他諸々の魔物が俺の配下となってしまっていた。

総勢二千人弱の魔物の群れが出来上がる事となり、当然必要な食料も膨大なものになって行った。

近い将来、食料不足になるのは目に見えている。

なので、ある程度分かれる様にとお願いしたのだが…。


「待て!なぜ殺し合う!」

「オウサマ、カズヲヘラセト、イッタ」

「違うそうじゃない!今まで通り各種族に分かれて生活しろと言っただけだ!」

「ワレラ、オウサマニツイテイク。ワカレレバ、イキテイケナイ、ダカラコロス」

「分かった!別れなくていいから仲間を殺すな!」

魔物の考えは理解できないが、仲間を殺すのは許せない。

仕方なく、全員を連れて移動しながら食料を確保していく事となった。

二千人の食料を確保するには、毎日移動し続けなければならない。

幸いな事に魔物達は非常に丈夫で、数時間寝れば元気になる。

当然行動範囲も増え、更に魔物が俺の配下となって行く…。

この悪循環をどうにかしなければならないが、仲間達を飢えさせるわけにはいかない。

しかし、この数日間は魔物に遭遇しなくなった。

俺達の数が増えたことで、魔物達が争う前に逃げ出すようになってくれたみたいだ。

俺はほっと胸をなでおろしつつ、行動範囲を考える事にした。


俺は森の木に目印となる傷を付けて行き、大きな縄張りを作って行った。

その中を移動していれば、他の魔物の縄張りに入る事は無くなるからな。

そしてこの森の食料は、一ヶ月もすれば元通りに戻っている。

この事は最近気づき、もっと早く気付いていればここまで人数を増やさずに済んだと後悔したが、増えてしまった以上減らす事は出来ない。

そして、俺が守っているので死者の数が減り、自然と増え続けて行っている。

魔物は生まれてから一年ほどで大人になる。

ある程度種族差はあるが、どの種族も成長速度が速い。

そうでなければ、この厳しい森で生きていく事は出来ないだろうからな。

しかし、十分な食料も確保できているし、さほど問題は無い。

そんな人口の問題より、大きな問題が起きてしまった。


「オウサマ…ニ、ゲ、テ…」

俺が食料調達に出掛けてから戻ると、帰りを待っていた仲間達が襲われていた!

既に多くの死者が出ていて、俺に逃げる様に言ってくれた仲間も体の半分が吹き飛ばされていて、目の前で息を引き取った…。

かなり危険で強力な魔物が襲って来たのだろう。

逃げ出したい気持ちでいっぱいになるが、俺はぐっと気持ちを抑えてまだ生き残っている仲間の救出に向かって行った!

そこで見た光景には、目を疑ってしまった。


「人が魔物を襲っている…」

仲間の女子供を容赦無く斬り、魔法を撃ち込んで殺し続けているのは十人の人だった。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

俺は無我夢中で魔法を撃ち込みながら、まだ生き残っている仲間を庇う様に人達の前に立ち塞がった。

「オウサマ、テキ、ツヨイ」

「分かっている、早く逃げろ!」

仲間達を逃がしつつ人達を睨みつけると、人達も俺の登場に警戒したのか、俺から距離を少し離した。


「へぇ、これだけの魔物を誰が率いていたのかと不思議に思っていたが、魔族がいたとは珍しい!」

「魔族がいたとしても関係ねー」

「そうそう、魔族ごと殲滅しちゃおうよ!」

「そうするか」

人達は何やら相談していたみたいだが、話がまとまったのか再び戦闘態勢を取っていた。

魔族と言っていたが、俺の他にも魔人が居ると言う事なのだろう。

その情報を詳しく聞きたいが、今は魔物達の王として、仲間を殺した奴を許す訳にはいかない!


「一人足りとも、無事に帰さないぞ!」

「やる気の様だが、俺達に敵うものか!」

剣を持った男が、俺との間合いを一気に詰めて斬り掛かって来た!

俺は飛び上がってそれを躱すと、今度は魔法と弓矢が飛びあがった俺に襲い掛かって来た!

魔法で対応するも、敵の手数の方が上手だ。

しかも、剣を持っていた男は事もあろうに、逃げ遅れていた仲間に狙いを付けて斬り掛かっていった!

俺は慌てて仲間を守ろうと立ち塞がり、障壁を張っていたはずだが、障壁ごと斬り裂かれてしまった。


「ぐっ、はやく、にげろ!」

剣を体で受け止めつつ、仲間を逃がして男に魔法を撃ち込んだ。

「おっと、流石に一撃では死んでくれねーか!」

男は俺の魔法を簡単に躱して、距離を取った。

助かったと思ったが、魔法と弓矢が追い打ちをかけて来た!

剣で受けた傷が思いのほか深く、体が上手く動かず避けられそうにない…。

エルレイから逃げ出し、逃げた先でも人に殺されるのか…。

俺はそう思いつつ、振り下ろされて来る剣に恐怖し、目を瞑ってしまった…。

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