第三百二十話 魔人カール 魔物と遭遇
≪カール視点≫
「やった!陸地だ!」
俺は海の上を延々飛び続けて、ようやく眼前に陸地を発見した。
魔力も残り少なくなってきていたし、何処か休める場所探さないといけない。
海岸では、魔人と成ったこの姿は目立ってしまうだろう。
陸地は一面の森が広がり、人が住んでいる様には見えないが、用心しておいた方が良さそうだ。
森の上空を少し飛び続けると、開けた場所を見つけた。
あの場所で休憩する事にしよう。
「ここは廃墟か?」
地面に降り立つと、開けた場所に壊れたレンガ造りの家々があり、家も道も草木で覆い尽くされていた。
かつてこの場所に町か村があったのだろうが、廃墟となってからかなりの年数がたっているのが分かる。
周囲を見渡しても人を見つける事は出来ず、俺は比較的壊れていない屋根のある建物の中に入り休息をする事にした。
雨風は何とか凌げるだろう。
眠くは無いが、暫く魔力回復に努めないと魔力切れで数日間眠ってしまう事になる。
この地がどこかも分からないし、安全な場所かも不明な地で眠るのは危険すぎる。
今はただ、じっと息を潜めて魔力の回復を待つしかない。
休憩をしながら、今後の方針を考えて行こうと思う。
まず最初にやらないといけないのは、周辺地理の把握だ。
俺はローアライズ大陸から飛び続け、新たな地へと下り立った。
果たしてここは、本当にローアライズ大陸では無いのか?
それさえも分からない状況だから、きちんと確認しなくてはな。
そして、この地がローアライズ大陸だった場合は、またどこかに逃げ出さなくてはならないだろう。
誰かに見つかってしまえば、エルレイが俺を倒しに来るに違いない。
まだ俺は強くなっていないのだから、それだけは何としても避けなければならない!
この地がローアライズ大陸では無く、全く別の地だった場合はどうするか…。
ローアライズ大陸で言い伝えられて来たのは、別の大陸には魔物がまだ生息していると言う事だ。
勇者が排除する以前はローアライズ大陸にも魔物が生息していて、人々を襲ったりしていた。
そしてこの俺も、その名残で魔人にさせられてしまった。
魔人と成った俺が魔物に勝てるのかは分からないので、魔物がいた場合はその強さを見極める為にも、慎重に行動しなくてはならないだろう。
魔人と成った俺に、食事が必要ないのが幸いだな。
しかし、ゆっくりと休める場所の確保はしておきたい所だ。
この廃墟が安全であれば、少し手を加えれば住めない事は無いな。
ちゃんとした家に住みたい所だが、人のいる所に魔人の姿で行く事は出来ない。
なので、ある程度妥協しなくてはならない。
強くなる為に訓練をしなくてはならないが、それは住む場所が決まってからだ。
二日ほど廃墟で休み、魔力もある程度回復して来たので周辺地理を把握する事にした。
この二日間、人が廃墟に来た事は無かった。
時折、鳥や小動物は見かけた程度で安全だった。
周囲を見て回ってからの判断になるが、当面の拠点は廃墟にしようと思う。
先ずは廃墟の探索から始める事にした。
廃墟は草木に覆われていて、全体像を把握する事は出来なかったが、意外と大きな町だったことが分かった。
当時はかなり大勢の人達がここで生活していたの違いない。
廃墟の探索を終え、周辺の森の中に歩いて入っていく事にした。
上空を飛んでいては森の中は見えないし、人がいれば見つかってしまうので森の中を歩いて探索する。
森の中は薄暗いが歩くのには支障はない。
今の所は、人が通ったような形跡は見られないが、慎重に進まなくてはならないだろう。
一時間ほど森の中を歩いた所で、大きな足跡を見つけた。
「これは人の足跡では無いな…」
足跡の大きさは俺の二倍ほどあり、爪で引っ掻いたような跡もあった事から、大型の動物か何かの足跡だろう。
俺は慎重に足跡を追いながら、森の中を歩いて行った。
足跡を追っていると、どんどん足跡の数が増えて行き、木が少しだけ無くなった場所に小さな村の様な物を発見した。
「あれは何だ…」
その村に居たのは、人と同じように二足歩行をする化け物だった。
あれが魔物なのだろうか?
始めてみる見知らぬ魔物に、俺は恐怖した…。
逃げた方が良いか?
いや、落ち着け!
俺はエルレイには敗北したが、十分強いはずだ。
あの魔物がどれほど強いのかは不明だが、多分勝てる筈だ。
しかし、数が多いな…。
見えている分だけで三十以上はいそうだ。
無理に戦う必要はない。
ここは一度引き下がって様子を見ようと思う。
「オマエハ、ダレダ」
戻ろうを後ろを振り向くと、俺の倍ほどの身長を持つ五人の魔物が俺を取り囲んでいた。
ここまで近づかれていた事に気が付かなかったのは失態だ。
それに大きな魔物に囲まれているのは、非常に恐ろしい。
しかし、話しかけて来たので、対話する事は可能なのだろう。
俺は焦る気持ちを抑えて、魔物に話しかける事にした。
「お、俺はカール、近くを通りかかっただけで敵意は無い」
「カール、シラナイ、オマエタチ、シッテルカ?」
俺に話しかけて来た魔物は、他の四人の魔物に俺の事を確認していたが、四人とも知らないと答えていた。
俺だって目の前にいる魔物の事を知らないのだから、当然の事だろう。
「オマエ、ウマソウ、クウコトニシタ」
魔物はそう言うと、五人が一斉に手に持った太い棍棒で殴りかかって来た!
俺は棍棒を避けながら、五人の魔物に向けて魔法を次々と撃ち込んで行った。
魔物は、俺が放った魔法に当たると吹き飛び倒れて行く。
よし!
俺の魔法は魔物にも通用する!
しかし、魔物は相当撃たれ強いのか、何事も無かったかのようにむくりと起き上がり、再び俺に立ち向かって来た。
先程と同じように魔物に近づかれる前に、魔法を撃ち込んで吹き飛ばす。
俺は魔法使いだから、接近戦は苦手だ。
近づかれる前に勝負を決めなくてはならない。
そして、三度同じ事を繰り返した所で、魔物が降伏して来た。
「オレタチ、マケ、モウオソワナイ、ユルシテ」
「分かった、許してやろう。その代わりこの辺りの事を教えてくれ」
「ワカッタ」
魔物達は周囲の事を俺に話してくれた。
魔物の説明によると、この森には数多くの魔物が住んでそれぞれの生活を送っていると言う事だ。
そしてこの魔物はオークと言い、この辺りを縄張りにして生活しているとの事だった。
そして廃墟の事も知っており、あの場所もオークの縄張りだと主張した。
魔物達はそれぞれに縄張りを持っていて、縄張りを侵せば襲って来るそうだ。
俺も当然、オークの縄張りに入ったから襲われても文句は言えないと言うのがオークの主張だ。
この地に始めて来たのだし、魔物同士のルールなど知る由もない。
だがそうだな…。
俺は無断で縄張りに入った事を謝罪し、許しを得る事にした。
何故なら、魔物がいるこの地で安全に休める場所はあの廃墟のみ。
ならば、オークに住む許可を貰えば、安心して休む事が出来ると考えたからだ。
俺の思惑通り、オークは俺の謝罪を受け入れ、あの場所に住む事を許してくれた。
それは良かったのだが…。
「何故お前達も俺について来る?」
俺はオークに話を聞いた後に廃墟に戻って行ったのだが、オーク達も俺の後について来て廃墟に来てしまった。
「カール、オレタチノ、オウサマ」
「いや、俺はお前達の王になったりはしないぞ」
「カール、ツヨイ、オレタチ、ツヨイモノノシタニツク」
「いや、だから…」
何度も説明したが、オークは俺を王だとして崇め、一緒に暮らすと言って聞かない。
飛んで逃げる事は出来たが、他の場所に行くのは得策ではない。
仕方なく、俺はオーク達の王になる事を決意した。
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