第三百十九話 結婚式の日取りが決まり
俺とルリア達の結婚式は、ラノフェリア公爵が調整してくれた結果、俺が十三歳となる十か月後に行われる事となった。
十五歳の成人前に結婚式を挙げるのは、珍しい事ではないらしい。
でもそれは、現当主が急病や事故で亡くなったり、子供以外の跡取りがいなかったりと、やむを得ない事情がある場合に限られているみたいだ。
俺は公爵家として独り立ちしているので、跡取りがいないという事情はある。
なので、早めに結婚式を挙げるのに障害はないかのように思えるのだが、王族達がなかなか首を縦に振らなかったみたいだ。
理由はヘルミーネの年齢にある。
エルミーネは現在十一歳でもうすぐ十二歳になるが、子供を作るのには早すぎる年齢だと言う事で反対していたそうだ。
だが、レオンから早く結婚させろと言う親書は強力で、王族達も条件付きで認めざるを得なかったみたいだ。
その条件とは、ヘルミーネが十四歳になるまで子供を作らせないと言う事だ。
俺も結婚したからすぐ子供を作るような事はしないし、ヘルミーネに無理をさせたりはしない。
ただ…結婚して婚約者の誰かが子供を産めば、ヘルミーネも自分にも子供が欲しいと言い出すのは目に見えている。
そこは何とか説得して、ヘルミーネが十四歳になるまで我慢してもらうしかない。
その様な事で、リアネ城では俺の結婚式に向けて少しずつ準備が始められていた。
まず最初に行われたのは、俺専用の寝室作り。
子作りするための寝室だな。
今は皆と一つの部屋で寝ているが、皆の前で子作りをするのは恥ずかしすぎる。
と言う事で、皆の意見を取り入れつつ、近くの空き部屋が俺の寝室に改装されて行く事になった。
次に結婚式で着る花嫁衣装だが、これは新婦の親が用意する物らしいのでルリア達の花嫁衣装は何も問題は無い。
ロレーナの花嫁衣装もルフトル王国で用意して貰える事になったし、エンリーカ達の花嫁衣装もレオンの所で用意して貰える。
問題は、ロゼ、リゼ、ラウラ、エルミーヌ、マリーの着る花嫁衣装だ。
エルミーヌはファリオン子爵家の四女なので、ファリオン子爵に俺の愛人にすると説明しに行くと泣いて喜び、花嫁衣裳を用意してくれると言ってくれた。
ラウラにはミエリヴァラ・アノス城に勤めている両親がいるが、ラウラが両親には負担を掛けたくは無いと言うので俺が用意する事になった。
ロゼ、リゼ、マリーには両親がいないので、当然俺が用意する事になる。
「ルリア、マリーの事だが、なぜ僕の愛人に?」
ロゼとリゼの花嫁衣裳を用意する際に、ルリアからマリーの花嫁衣装も用意するように言われた。
マリーはロレーナの専属メイドになり、時々俺の世話もしてくれるようにはなっていた。
だからと言って、本人が望んでいないのを無理やり愛人にするような真似はしたくなかった。
「はぁ、エルレイは本当に鈍いわね。マリーが可哀そうになるわ…」
ルリアに殴られはしなかったが、めちゃくちゃ怒られてしまった…。
どうやらマリーは俺の事が好きらしい。
今までマリーは俺に話しかけてこなかったし、お世話をしてくれる際も必要最低限の会話しかしていなかった。
だから、嫌われているのかもと思っていたのだがな…。
これからは、マリーと積極的に話をする事にしようと思った。
ロゼ、リゼ、ラウラ、エルミーヌ、マリーが俺の愛人になると言う事になり、ルリア達のお世話をするメイドが増やされる事になった。
しかし、結婚式まではロゼ達もメイドのままで過ごすそうだ。
「エルレイ様のお世話は誰にも渡しません!」
と言う事らしい…。
俺としてもロゼ達のメイド服姿を見られなくなるのは寂しいので、ずっとこのままでいて貰いたいとは思う。
俺の衣装はルリア達が選ぶと言う事なので、特に何もする事は無い。
なので、いつもの様に執務室での仕事となる。
そういえば最近、執務室で働く人たちが増えた。
子供達の教育をしてくれる人を募集していた所、優秀な人材が来たそうなので執務室で働いてもらう事にしたそうだ。
リアネ城では常に人材不足に悩まされていたので非常にありがたい事なのだが、平均年齢が高いのが気になる所だ。
「アドルフ、年配の方々ばかりだが大丈夫なのだろうか?」
「はい、健康上の問題は全くございません」
「そうか、無理はさせないようにしてくれ」
「承知しました」
顔色も良さそうだし、元気に仕事をしてくれているので大丈夫そうだな。
しかし、子供達の教育をしてくれる人がいなくなったのは困るな。
また地道に募集しないといけないのだろうが、やはり平民の子供を教育してくれる人はなかなか見つからない。
そう思っていた所、新しく来た人の妻達が教えてくれる事になってくれたので非常に助かった。
実の所、孤児院に入所する子供の数が増えて、教育する人が全く足りてない状況が続いていた。
孤児院には、リアネの街以外で孤児となった子供も積極的に受け入れている。
最近では、子供を捨てるのであれば各街の警備に預けて貰い、リアネの街の孤児院に送って貰うようにしている。
そうする事で子供達が飢える事も無くなり、犯罪に手を染めるような事も無くなる。
孤児院に掛かるお金は増える事になるが、犯罪が増えるよりかはましだ。
孤児院で預かった子供にはしっかりとした教育を受けさせ、就職までしっかりと面倒を見てあげる事になっている。
犯罪者を減らし、街の発展に貢献できる人材を育て上げることが出来れば一石二鳥と言う事だ。
平民の子供を教育する施設は整った事になるだろう。
後は貴族用の教育施設だが、リアネ城で働く使用人の子供達が大きくなった頃に完成する予定だ。
今は教わる子供がいない状況なので、焦って作る必要も無いからな。
執務室で仕事をしていると、珍しくアルティナ姉さんが俺の所にやって来た。
「エルレイ、ちょっと話があるのだけれど、ここでは話せないから外に出ましょう」
アルティナ姉さんに連れられて、リアネ城の庭へと連れて来られた。
「エルレイが忙しそうだったから言い出せなかったのだけれど、そろそろ贈ってあげないと不味いわよ?」
「贈るって何を?」
「これよこれ!」
アルティナ姉さんは左手の甲を俺に見せて来た。
「あっ…忘れてた…」
「でしょう!口には出さないけれど、気にしていたわよ」
「そうだよね…直ぐに行って来る」
「そうしなさい。それから、ロレーナも連れて行って頂戴ね」
「うん、勿論連れて行くよ」
俺はソフィアさんに連絡をし、翌日にロレーナを連れてルフトル王国へとやって来た。
「ひ、久々の里帰りじゃ」
「うん、忙しくて…というのは単なる言い訳だな。これからは出来る限り来れるようにするよ」
ルフトル王国に来たのは、エンリーカ達に贈る指輪を買うためだ。
エンリーカ達が婚約者になってからかなり時間が経ったと言うのに、贈っていなかったからな。
指輪を買うのは最後にして、俺とロレーナはセシリア女王に挨拶をし、それからカミーユの所にやって来た。
「た、ただいまなのじゃ!」
「あらロレーナ、エルレイ、お帰りなさい」
「お母さん、お久しぶりです」
カミーユの家に入れて貰い、テーブルの席に三人で座って話しをする事となった。
「お母さん、ロレーナとの結婚式の日取りが決まりました」
「まぁ、そうなの!」
「はい、それで出来ればお母さんにも出席して頂けないかと思いまして…」
「そうしたいのは山々だけれど…」
やはりカミーユは、結界の中から出る気は無さそうだ。
しかし、ロレーナの結婚式には来てもらわなくてはいけない。
そこでロレーナに目で合図し、カミーユを説得して貰う事にした。
「は、母、セシリア女王様の許可は貰って来たのじゃ!」
「そうなのね…」
「だ、だから、母にも結婚式に来てもらいたいのじゃ!」
「…」
セシリア女王に先に挨拶したのは、カミーユの外出許可を貰う為だった。
セシリア女王は、別にカミーユの外出を禁止している訳では無かったのだが、セシリア女王の言葉はエルフの中で何よりも重要な物だからな。
「分かりました。ロレーナの花嫁姿を見に行かせてもらいますね」
「は、母!ありがとうなのじゃ!」
ロレーナは涙を流して喜び、カミーユを抱きしめていた。
カミーユが結婚式に来てくれる事になって本当に良かったと思う。
ソフィアさん達も来てくれるそうだし、ロレーナも結婚式で肩身の狭い思いをしないで済むと思う。
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