第三百十五話 エルレイ 十二歳
赤ちゃんの命名も大事だが、仕事の方も真面目に取り組んでいた。
ラノフェリア公爵の依頼の市場を作り上げ、市場の傍に新たに作る街の整地作業も終えた。
街の整備はラノフェリア公爵側でやってくれる手筈になっているので、ここでの作業は終りだ。
次に取り掛かったのは、自分の領地での作業だ。
仕事をしてすぐにお金になるものでは無いが、将来的に大きな利益をもたらしてくれるし、自分の領地だとやりがいも変わって来る。
特に今回作る建物には気合を入れて取り組んでいる。
何故なら、大規模な酒造所を建てているからだ。
俺が農地の開墾を行い、旧アイロス王国の軍人に農地を与えた事により、農作物が余る懸念が出て来た。
農作物が余る様になってしまえば、農民は作物が売れずに困ってしまうだろう。
そうならない様に酒造所を作り、最初からお酒用の農作物を作って貰おうと言う事になった。
農民からしても、確実に買い取って貰えるので安心出来るだろう。
酒造所の建設に加えて、果樹園用の農地も確保した。
果物が出来るまで数年は掛るだろうけれど、今から作って置けば、俺が飲めるようになる頃には美味しい果実酒が出来上がっている事だろう。
それを楽しみにしながら、作業を続けて行った。
酒造所以外には、闘技場の傍に町を作った。
町には道場が幾つか建てられ、剣術などを教えて貰う事が出来る。
勿論道場は有料だが、そんなに高い金額は設定していない。
それと、武闘大会で稼げない選手の為に、その町で仕事の斡旋も行っている。
宿の料金も安く設定しているので、余程の無茶な事をしない限り、生活していくのには困らないはずだ。
武闘大会の方は年に四回開催されるようになっていて、賞金も上がっていた。
それと、予選で行われていたバトルロイヤルは廃止され、女性部門の様に一対一を何試合か行って貰い、勝率のいい選手だけが本選に参加できるように変わっていた。
予選は本選が開始されるまでの三か月間続くので、参加者が多くても問題は無い。
予選でも勝てば賞金が出るので、武闘大会だけで選手が生活して行けるようになっている。
武闘大会自体での儲けは少なくなってしまうが、多くの人がリアネの街に集まりお金が回っているので非常に良い事だ。
その他にも、俺の領地の貴族からの要望に応えて、俺の魔法で出来る範囲で様々な物を作ったりして行った。
俺の領地の作業を終えると、今まで待たせていたポメライム公爵の所の仕事となる。
俺が嫌がっても、ソートマス王国の事業となるのでやらざるを得ない…。
まぁ、精々遅らせるくらいの嫌がらせはさせて貰った。
ポメライム公爵の所での仕事は大規模製紙工場の作成と、紙の原料となる植物を栽培する農地の開墾作業だ。
悔しいが、ポメライム公爵の所で作られている紙は上質で、俺も日頃使っている。
俺の領地でも紙を作っている所はあるが、品質が落ちるし生産者個人個人が作っているので大量生産も出来ていない。
そして、この製紙工場を作った後は、俺の領地の製紙産業が競争力を失うのは目に見えている。
対策として、うちの所にも製紙工場を作ろうと思ったが、それぞれにこだわりを持った生産者同士を纏める事が出来なかった。
今後どうにかして行かないといけないのだが、それは領地を治める貴族に任せてあるので何とかしてくれるだろうと思う。
ソートマス王国内の仕事をやっと終えた頃、俺は十ニ歳になっていた。
リアネ城では赤ちゃんが十八人産まれ、トリステンとニーナに男の子レメディオが産まれていた。
レメディオは俺が付けた名前ではなく、トリステンとニーナが付けた名前だ。
ニーナも今はリアネ城の保育室にレメディオと一緒にいて、警備の仕事はお休み中だ。
保育室では一歳を過ぎた子供もいて、時折廊下や庭で遊んでいたりする。
その光景を目にするたびに、皆から子供をせがまれたりするようになった…。
「エルレイ、お姉ちゃんもエルレイの赤ちゃんが欲しいな…」
「レイちゃん、結婚なんてどうでもいいから、赤ちゃん作ろう!」
「わ、私もいつでも準備は出来ているのじゃ!」
幾らせがまれたとしても、ソートマス王国では婚前に子供を作るのは良い事だとは思われていない。
子供を作ったからと言って罪になる事は無いが、公爵としては相応しくない行いだろう。
しかしだ…最近はニーナに赤ちゃんが産まれたので羨ましがったロゼとリゼが、着替えの時に裸の俺をじっと見て無言の圧力をかけてくるようになった。
ロゼとリゼが暴走して俺を襲ってくるような事は無いだろうが、何かしら考えた方が良い様な気もして来た。
そこでルリアを連れて、久しぶりにラノフェリア公爵邸を訪れた。
応接室に入って来たラノフェリア公爵は、ルリアの元気な姿を見て表情を緩めていたが、ソファーに座ると真面目な表情になっていた。
「今日は相談したい事があると聞いているが、何か起こったのかね?」
「いえ、僕個人の事ですので、領地や貴族に何かあったと言う事ではありません」
俺が公爵になってから今までネレイトには相談していたが、ラノフェリア公爵に相談しに来た事は無かった。
お互い公爵同士になってしまった為、気軽に相談できる立場ではなくなったからだ。
今回は公爵としてではなく、ルリアの父親に相談しに来たので問題は無いと思う。
「ロイジェルクさん、相談は僕とルリアの結婚の時期を早める事は出来ないかと言う事です」
「私はまだ早いと思うのだけれど…エンリーカ…キュロクバーラ王国の王女達が早く結婚したいと言うのです」
ルリアは恥ずかしそうにしながらも、結婚を早める事には反対してはいない。
「なるほど…」
ラノフェリア公爵は顎に手を当てて、少し考え込んでしまった。
俺とルリアの結婚予定は、俺が十五歳になった時だと最初に言われていた。
後三年我慢すれば結婚できるのだが、アルティナ姉さん、ロレーナ、エンリーカ、エレオノラは我慢してくれそうにない。
勿論俺は我慢するつもりだが、迫られれば俺も男だし流されてしまう可能性は高い…。
ただ、今は相談する時期が悪かったのは分かっている。
ラノフェリア公爵家では、長女マルティナと次女エクセアの結婚式が迫っている。
俺の所にも招待状が来ていたし、皆と共に出席する予定だ。
結婚式に出席すれば、皆も結婚式を上げたいと思うだろうからな…。
「それに、キュロクバーラ国王も早く孫の顔を見たいと…」
「ふむ…」
休日に別荘を訪れるとレオンが遊びにやって来て、子供はまだかと言って来るんだよな。
エンリーカが十七歳、エレオノラが十六歳、リディアとミディアが十五歳になっていることも原因だな。
この世界では十五歳で成人と認められるし、子供を産んでいても不思議な年齢では無い。
それと、キュロクバーラ王国では十三歳で結婚するのは珍しい事ではないらしいからな。
キュロクバーラ王国では仕事が出来れば一人前と認められ、生活して行けるだけのお金が稼げるみたいだ。
だから、結婚も早いのだとエンリーカから教えられた。
俺も十分な稼ぎがあり皆を養えているのだから、結婚して子供を作っても問題無いと言うのがエンリーカ達の考えだ。
「分かった。一年以内に結婚式を挙げられるよう調整する」
「ロイジェルクさん、ありがとうございます!」
「出来れば、キュロクバーラ国王から一筆貰えると助かる」
「はい、それはこちらでお願いしてみます」
レオンに頼めばすぐに書いてくれるに違いない。
一年以内に結婚式を挙げる事を知らせれば、アルティナ姉さん達も我慢してくれるはずだ。
まだ正式に決まった訳では無いが、ラノフェリア公爵に任せておけば間違いないはずだ。
「エルレイ、良かったわね」
「うん、やっとルリアと結婚できるのかと思うと、とても嬉しいよ!」
「そう…私も嬉しい…わよ…」
ルリアは俯きながら、消えそうな声で嬉しいと言ってくれた!
ラノフェリア公爵が前にいるので今は抱きしめられないが、帰ったら思いっ切り抱きしめてあげようと思った。
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