第三百十三話 派閥
貴族達の面会を終え、リリーと共にお城から帰ろう廊下を歩いていると、人だかりが出来てちょっとした騒動になっていた。
普段なら、公爵の俺に気付けば道を譲ってくれるのだが…言い争いをしていて俺が来た事に気付いていない。
「先程お会いした方達のようです」
「そうみたいだな…」
騒動を起こしているのは、先程面会に来た貴族の娘達だった。
父親は他の所に挨拶に行っているのか、姿が見えない。
暇を持て余していた娘達が集まって立ち話をしていた所、いつの間にか喧嘩になってしまったと、近くにいた使用人が教えてくれた。
「アリクレット公爵様、よろしければ喧嘩の仲裁をして頂けませんでしょうか?」
「はぁ…仕方がない…」
女性の喧嘩に口出ししたくはないが、使用人達が通れなくて困っているし俺も帰ることが出来ない。
俺は女性たちの所に進み出て、声を掛ける事にした。
「君達、皆の迷惑になるから、端によって話してはくれないか?」
俺が声を掛けると女性達は一斉に振り向き、俺の所に詰め寄って来た。
「アリクレット公爵様は、剣術に優れた女性がお好きなのですよね?」
「いいえ、私の様な美しい女性がお好みなのでしょう?」
「アリクレット公爵様は、私の様な胸が大きい女性が好みなのですわ。
先程お会いした際も、ずっと私の胸を見ていましたもの」
「アリクレット公爵様は、知的な女性が好きなのですよね?」
どうやら女性達は、俺の好みが自分だと主張しているようだ。
俺の女性の好みに関してはとりあえず置いておいて、この場での騒ぎを一度収めない事には皆に迷惑がかかるし、俺に対して悪いうわさが立ってしまう。
ここは城内の廊下で、皆が聞き耳を立てているからな…。
「分かった、話は聞くから場所を移そう」
近くにいた使用人に空き部屋を聞き、そこに女性達を連れて行った。
俺とリリーに、十四人の女性達が長テーブルの席に座った。
「まず初めに言っておこう。僕は君達を婚約者にする気も愛人にする気も無い」
これだけはきっぱりと言っておかないと、また無理やり娘を押し付けられる事になってしまうからな。
女性達はそれを聞いて落胆していたが、諦めきれなかった女性が俺に聞いて来た。
「私達の何処が不満なのか教えてください!」
「不満はないが、僕には十分な数の婚約者がいるので、これ以上必要無いと言う事だ」
そう、ラノフェリア公爵でさえ三人の妻しかいないのに、俺は既に十四人の婚約者がいるのだ。
いくらなんでも多すぎだ。
ルリアが婚約者を増やすなと言うのも理解できるし、俺もこれ以上増やしたいとは思わない。
と言う事で、女性達には諦めて帰って貰いたい。
「私の父は、妻と愛人を合わせて二十人おりますわ」
「私の所は十二人です」
「私の父は十六人ですの」
「アリクレット公爵様は領地も実力もお持ちですので、三十人は行けますわよね!」
いやいや、三十人とか無理だから…。
しかし、意外と二桁の女性を囲っている貴族が多いのだと知る事になった。
俺の父は母一人だけだったが、少数派なのだろうか?
今日面会した貴族の四組が、ポメライム公爵派の貴族だった。
残る一人はラノフェリア公爵派だったが、娘の証言によると妻も多いみたいだ。
単に収入と、個人の好みによる物なのかも知れないな。
俺の領地は元アイロス王国全土なので、収入は大きい。
今はまだ、色々な所にお金を掛けているのでそこまでは無いが、将来的にはかなり余裕が生まれるはず。
そうなれば、三十人くらい余裕で養って行けるだろう。
しかし、俺の体が持つはずも無く、妻たちの仲を取りまとめる事も出来なくなるだろう。
皆には常に仲良くして貰いたいとは思っているが、人が集まると派閥が出来るのは仕方がない事だろう。
俺の婚約者たちの中に明確な派閥は無いが、日頃から会話するのが分かれているのは承知している。
ルリアはリリーとユーティアの三姉妹と仲良く話をし、最近では剣の訓練を一緒にしているエレオノラともよく話をしている。
リリーもルリアと一緒にいる事が多いので、ルリアの近くにいる人達としか会話していないように思える。
ヘルミーネはロレーナやエンリーカと良く話をしていて、ラウラとは非常に仲がいい。
アルティナ姉さんは俺の事を思ってくれているのか、婚約者達のまとめ役のような事をやってくれている。
ロレーナは精霊ソルが皆に可愛がられているので、全員と話しているな。
ユーティアは自室以外口を極力開かないし、パーティーやお茶会に出かけている事が多いので、ルリアとリリーとエルミーヌ以外と話しているのをあまり見かけない。
エンリーカは、アルティナ姉さんと共に皆によく話しかけてくれていて、二人で協力し合って仲を取り持ってくれているようだ。
エレオノラはルリア以外とはあまり話をしていない、と言うより、剣術以外の話題についていけないと言った所だろう。
リディアとミディアは、ロゼ、リゼ、ラウラ、エルミーヌ、マリーや他のメイド達と仲良く話していて、ルリア達とはあまり話してはいない。
今の所、婚約者達が喧嘩をしている等の問題が起こった訳では無い。
しかし、会話が無ければお互いの事を理解できず、ちょっとしたことで喧嘩し仲が悪くなってしまうかもしれない。
でも、今でも仲が悪くなる事は一つだけあるな…。
それは皆と一緒に入浴した時、大まかに三つの組に分かれてしまうのだ。
ラウラ、エルミーヌ、エンリーカの胸が大きい組。
ルリア、アルティナ姉さん、ユーティア、エレオノラ、ロゼ、リゼの胸が普通の組。
ルリアはそのうち、胸が大きい組に入る事だろうと予想している。
そして、リリー、ヘルミーネ、ロレーナ、リディア、ミディア、マリーの胸が小さい組。
胸が小さい組は、胸が大きい組を寄せ付けたがらない…。
俺も男だし、どうしても大きい胸には視線を奪われてしまうからな…。
胸が小さい組を悲しませたくは無いので、極力視線を向けないよう努力はしているが、まったく見ないと言う事は出来ないからな。
些細な事で喧嘩をしてもらいたくは無いし、早々に皆が会話できるようにしないと不味い事になるかも…。
「エルレイさん、エルレイさん、皆さんがお待ちしております」
「あ、あぁ、すまない、ちょっと考え事をしていた」
リリーに肩を揺すられて、思考から呼び戻された。
女性達は私を婚約者にしてくれと、期待に満ちた視線を俺に向けて来ている。
正直に言えば、この中に俺の好みの女性はいるし、連れて帰りたいとも思わない事も無い。
しかし、一生付き合う事になる女性を短時間で選ぶことは出来ない。
今までの事を思うと、余計にそう思ってしまう。
「僕の答えは変わらない」
俺はそう答えて席を立ち、リリーを連れて退出する事にした。
女性達の悲鳴のような声や泣き声も聞こえて来たが、俺は無視してリアネ城へと帰って行った。
「エルレイさん、少し可哀そうな気がします…」
「そうだけど、全員連れて帰る訳にはいかないよね」
「はい…」
リリーは優しいので、残された女性達の事を気にしているみたいだった。
でも、連れて帰れば皆から怒られるのは目に見えているし、ポメライム公爵派の女性を婚約者にしたとなれば、ラノフェリア公爵も怒るだろう。
やはり俺には、断ると言う選択肢しか無かった。
そしてその日の夜、俺は皆を和室に集めた。
「これから毎日、寝る前の時間を皆で話し合う時間にすることにした」
「それはいつもやってるわよね?」
「いや、僕と話すのではなく、婚約者同士で話し合ってもらいたい」
「そういう事ね。でも、定期的に会議で話し合っているから問題無いわよ!」
「えっ、会議って何?」
ルリアがしまったという感じに、口に手を当てていた…。
俺の知らない所で会議が開かれていたと言う事なのか?
「エルレイ、心配しなくてもお姉ちゃんたちはちゃんと話し合いをしているのよ」
「そうなんだ…」
「うむ、私たちの仲は良いのだ」
「な、仲良しなのじゃ」
「エンリーカ達も?」
「そうですわ!エルさんは私達を可愛がることだけを考えてくださっていればいいのですわ!」
「そ、そう…」
俺が心配するまでも無く、婚約者同士で仲を取り持ってくれてたようだ。
会議の事は気になるが、聞いても教えてくれそうにないな…。
皆の仲が良いのなら俺が何か言う事も無いし、エンリーカに言われた通り、皆を可愛がることだけ考える事にしようと思った。
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