第三百十二話 平和で忙しい日々

レオンの屋敷を水洗化をし、俺の別荘も作って貰った。

別荘の完成まで半年くらいかかったが、完成した別荘を見せられれば、半年でよく作れたと思う程豪華で大きな屋敷が出来上がっていた。


「レオンさん、これ本当この屋敷を貰っても良いのでしょうか?」

「構わないぜ。ただし、エルレイの屋敷に勤める者達への給料は払ってくれ」

「それは勿論です」

別荘を作ったらそれで終わりと言う事ではない。

使用人を雇い、屋敷の維持管理をして貰う必要がある。

放置していれば、美しい庭園は草が生えて見栄えが良くなくなるだろうし、屋敷内には埃が積もるし畳にカビが生えたりするだろう。

毎日の手入れを欠かさずして置かないと、静養しに来たのに掃除をする羽目になってしまう。

そんな事はしたくないので、使用人を雇い入れて手入れをして貰う事にした。

レオンが紹介してくれた者達を雇ったので、安心して任せられるのが良い。


屋敷は完全な和風で、部屋数も多い。

設計段階で俺がリアネ城の使用人達も使わせたいと言ったら、この大きさになった。

別に俺達が使う部屋と分けて貰う必要はなかったのだが、キュロクバーラ王国でも主が使う部屋を使用人が使う事は許されないらしい。

完成直後に、俺はルリア達を連れて別荘にやって来て、三泊ほど止まって休養を楽しんだ。

後は使用人の休みに合わせて、ここを使ってもらう予定にしている。

リディアとミディアが、リアネ城の使用人に対して和室の使い方を教えていたし、別荘にも従業員がいて教えてくれるだろうから問題は無いはずだ。

リアネ城にも和室を作ったが、あの部屋は俺達の憩いの場だから使用人達には開放してないんだよな。

リアネ城の使用人の中に、別荘を汚したり壊したりするような者はいないと信じている。


周辺国の状況はと言うと。

ミスクール帝国は至って平穏だ。

俺達とレオンが城まで行って暴れたから、当分は戦争する気も起きないだろうからな。

ルフトル王国に侵攻し、ミスクール帝国から侵攻を受けたリースレイア王国も、再びルフトル王国に侵攻する余裕は無いと思える。

ラノフェリア公爵がネレイト経由で教えてくれた情報では、リースレイア王国は戦争するお金が無いと言う事だった。

でも、魔剣を使うリースレイア王国軍はそのまま残っているから、国力に余裕が出来れば戦争を仕掛けてくる可能性はあるらしいので油断は出来ない。

でも、当分そうはならないだろう言うのがラノフェリア公爵の考えらしい。

俺が生きている間は、もう戦争が起こらない事を願いたい。


俺は、戦争が終わったからゆっくりと過ごせている。

と言いう事は全く無く、逆に忙しくなったくらいだ。

インリートには頑張って貰い、ポメライム公爵からの仕事を後回しにすることは出来たのだが、ラノフェリア公爵からの仕事を受ける事になってしまった。

俺の領地の仕事を優先したかったのだが、ラノフェリア公爵と協力してポメライム公爵の仕事を遅らせたのだからやらざるを得ない。

それで、ラノフェリア公爵から受けた仕事だが、旧父の領地だった場所に巨大な市場兼倉庫を建設すると言う事だった。

市場が完成すると、ラノフェリア公爵側からと俺の領地側からの様々な商品が集められる事になる。

俺が住んでいた時は田舎だったのに、一気に人が集まってくることが予想される。

だから、市場建設予定地の近くに新たな街が作られる事になった。

当然、その場所も俺が開拓する事になる。

市場が完成すれば、俺の領地で作られている物が今以上に売れる事になるだろうし、喜んで作らせてもらった。


ソートマス王国のミエリヴァラ・アノス城には、公爵の仕事として定期的に行っている。

王族達との会話は一生慣れそうにないが、インリートは俺と会話するのに余り噛まない程度には慣れてくれていた。

「アリクレット公爵様、今日は五人の貴族様が面会を求められております。

そ、それと、パーティーの招待状が二通来ております…」

インリートは申し訳なさそうな表情をしながら、俺にパーティーの招待状を差し出して来た。

以前であれば、このような招待状はラノフェリア公爵が全部断ってくれていたのだが、公爵に成ってからは自分で断らなくてはならない。


「エルレイさん、拝見してもよろしいですか?」

「うん、断るにしても目を通さないといけないからね…」

お城について来てくれるのは殆どの場合ユーティアなのだが、ユーティアはお茶会に出席しているのでリリーが代わりについて来てくれていた。

俺は面倒なパーティーは極力欠席する事にしている。

ルリア達も欠席する事には反対しない。

ユーティアは必要であれば、俺の代わりに行く事もある。

欠席する理由としては、この後の貴族達との面会と同じ理由だ。


お城の応接室を借り、そこで貴族達との面会を行う。

「アリクレット公爵様、お初にお目にかかります。私はフェビル・ヘルム・ブライジル伯爵と申します。

本日はお会いして頂き、誠にありがとうございます」

「僕も伯爵に会えて嬉しい」

ブライジル伯爵はポメライム公爵派閥の貴族だが、このように俺に会いに来てくれる。

しかし、ブライジル伯爵は俺の派閥に乗り換えるために面会しに来たのではない。

本人にその気があるのかは分からないが、少なくとも今まで面会に来た貴族達の理由は、それとは違っていた。

ブライジル伯爵も同じ理由だろう。

早く本題に入ればいいのに、俺の活躍を褒め称え続けてくれている。

俺とリリーは愛想笑いをしながら、長話を聞かせ続けられる…。

そして、俺を散々褒め称えた後で本命の話が始まる。


「アリクレット公爵様、本日は私の娘達を連れてきておりまして、お声を掛けてはいただけませんでしょうか?」

「うん、座ってくれていいよ」

「ありがとうございます」

ブライジル伯爵は後ろに立たせていた娘を呼び、俺の正面のソファーに座らせた。

「モイラです」

「レイラです」

娘二人が愛らしい笑顔を浮かべながら挨拶をしてくる。

「私の娘達は美しいだけでは無く剣術にも優れておりまして、特に姉のモイラは大人顔負けの腕前なのです」

ここからは娘の自慢話が長々と続いて行く…。

貴族達が面会してくる理由は、単に俺と友好を重ねて便宜を図って貰うのとは違い、娘達を俺の嫁か愛人にして貰えないかと言う事だ。

中には領地の工事をお願いしてくる者もいるが、それは極少数に限られている。

俺はただ黙って自慢話を聞き流す…。

ここで俺が娘を褒めようものなら、気に入ったと思われて娘をこの場に残して帰って行かれてしまう。

それは一番最初の時に、ついうっかり「美しいお嬢さんですね」と褒めてしまったのがいけなかったのだが…。

その時は、ユーティアの付き添いとして来ていたエルミーヌがすぐさま行動し、娘を親元に帰してくれたので本当に助かった。

それ以降は今と同じように口を閉ざし、貴族が脈が無いと思って娘を連れて帰る時を待つだけだ…。


「アリクレット公爵様、次の貴族様がお待ちです」

「そうか、ブライジル伯爵、またの機会に話を聞かせて貰おう」

「はい…それでは失礼します」

インリートが時間だと告げ、ブライジル伯爵は娘を連れて退室して行ってくれた。

これがあと四組も続くのだ…。

パーティーでは、二桁の貴族と今のやり取りをしなくてはならない。

招待状を送ってくれた貴族には悪いが、俺はそんな面倒な所には行きたくはなかった。

勿論、貴族が連れて来て娘達の中に、俺の好みの女性がいない事も無い。

だが、隣に可愛い婚約者がいるのに、他の女性に手を出す程俺は飢えてはいない。

とは言え、二桁の婚約者を得ている俺が言えた事ではないがな…。

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