第三百十一話 レオンと和室 その二
「親父様」
「私達が作ったの」
「「食べて」」
「これは美味いぜ」
昼食は、リディアとミディアが作った料理が出され、レオンは満足そうに食べていた。
リディアとミディアが作った食事はレオンと共に来た職人達にも振る舞われ、キュロクバーラ王国の和食とは違った料理を楽しんでくれていた。
和室の見積もりは午前中で終わったらしく、昼食後にはレオンも一緒に帰って行く事になった。
「また来るからな!」
「「「「親父様、お待ちしております」」」」
別れを惜しむエンリーカ達にそう伝え、レオンは俺と共にキュロクバーラ王国へと帰って行った。
それから数日後、材料の準備が整ったと知らせを受け、俺は再びキュロクバーラ王国に向かって材料を受け取り、職人達をリアネ城へと連れて来た。
当然の様に、レオンも一緒について来た…。
「一度来たんだし、問題ないだろ?」
「そうかも知れませんが、レオンさんは忙しいのではないのかと…」
レオンがキュロクバーラ国王だと知っているはリアネ城の使用人だけなので、使用人が漏らさない限りレオンが来た事が他の人に知れ渡る事は無いだろう。
レオンも、あくまで職人の棟梁として来ていると言い張っているし、和室を作っている間は良いと言う事にしておこう…。
ただ、キュロクバーラ王国も戦争を終えたばかりで忙しいはずだ。
俺の所に来ている暇なんて無いと思ったのだがな。
「国の事はマティアスが上手くやってくれているぜ」
「それならいいのですが…」
レオンは棟梁と言う事で現場の部屋に向かって行き、俺もレオンのお世話と材料の運搬のために現場へと向かった。
「レオンさん、エンリーカ達に会わなくても良いのですか?」
「仕事をきっちりとこなし、エルレイとも仲良くしているのを見たから構わないぜ。
それよりもだ、変更して欲しい所なんかあれば、遠慮なく言ってくれ!」
「分かりました」
まだ床下の基礎部分を木で組んでいる段階で、特に変更するような所は見当たりはしない。
図面を見せられたが良く分からなかったし、ある程度出来上がった所で、皆に意見を聞いて変更する所があればやって貰おうと思う。
「エルレイ、この前来た時から気になっていたんだが、トイレを水で流すのがどうなっているのか教えろ」
「はい、分かりました」
レオンの所も水洗では無かったし、教えろと言われれば隠す必要も無い。
水を汲み上げる装置は俺の所で独占して作りたいが、構造さえ分かってしまえばレオンの所でも作る事は可能だろうし、他の所でも作られるかもしれない。
一台買って分解すれば構造は分かるだろうし、その前に図面をレオンに売り渡した方が良いのかもしれないな。
後でアドルフと相談して見る事にしよう。
レオンを連れて、水洗の仕組みを見せながら説明して行った。
当然下水路にも案内し、浄化の魔法も実践して見せた。
「水属性魔法が使えれば、その魔法は使えるのだな?」
「はい、魔物がいなくなった事で使われ無くなった魔法ですので、難しい魔法ではありません」
本来はアンデッドを倒す魔法だが、汚染された物を綺麗にするという意味では同じ事だ。
レオンに浄化の呪文を書いた紙を渡しておいた。
魔法が使える部下に使って貰えれば分かる事だろう。
そして、リアネ城の和室が完成したのち、レオンの屋敷を水洗化する事になった。
「だが、そうなると、エルレイへの礼が相殺されてしまうな。
エルレイ、他に希望を言ってくれ」
「そうですね…」
水洗化の工事自体はリアネの街の鍛冶屋が主で、お金もレオンがそちらに直接支払う事になる。
水を溜める水槽は俺が作るし、下水路の水槽も俺が作らなくてはならない。
どちらもそこまで苦労する作業では無いし、レオンにはお世話になっているので無料で行っても良いのだが、レオンがの気持ち的には良くないのだろう。
それで、以前から思っていた事をお願いして見る事にした。
「キュロクバーラ王国に、僕達が休みの日に行って過ごせる温泉付きの別荘が欲しいです」
「なんだ、そんな物で良いのか?」
レオンは軽く言っているが、家一軒立てるのは安く無いと思うんだがな…。
レオンも一国の王ではあるし、家一軒くらい安い物なのかも知れないな。
「はい、エンリーカ達も気軽に帰ることが出来ますし、温泉はとても気に入りましたから」
「分かった、用意しよう」
「ありがとうございます」
ミスクール帝国も落ち着いているみたいだし、当分は戦争なんか起こらないだろう。
これからは休みも十分取れるだろうし、月に一回は温泉に入りに行けたらいいなと思う。
リアネ城の和室は急ピッチで作られており、一週間ほどである程度の形が整っていた。
まだ畳やふすまは入っていなくて木の枠組みだけだが、木の香りのする和室の感じはほとんど完成していた。
レオンは変更する点が無いかと、俺とルリア達を中に案内してくれた。
「良いわね!」
「はい、落ち着く感じがします」
「ふむ、私の石像を置く場所はあるのか?」
「お姉ちゃんは椅子に座れる場所もあった方が良いと思うの」
「わ、私は良く分からないから皆に任せるのじゃ」
「…」
「ユーティア様は、も大変気に入られた様子です」
「茶室を作って頂きたいですわ」
「僕は、窓を少し大きくしてほしいかな!」
「天井裏と」
「隠し扉を」
「「作って欲しい」」
皆がそれぞれ要望を伝え、職人達がそれを実現可能か検討していた。
ヘルミーネの石像を飾るのは床の間で十分だし、リディアとミディアが要望した天井裏と隠し扉は必要ないので、俺が職人に言って作るのを止めさせた。
三人からは文句を言われたが、落ち着いて過ごしたい和室には必要無い物は排除させてもらう。
それぞれの要望を踏まえて、俺達が望む和室になるようにと職人達が頑張って作ってくれた。
その甲斐あって、着工から一か月ほどで和室が完成した!
自室には、和室に入る為の木製の引き違い戸があり。
戸を開けて中に入ると、大理石みたいな綺麗な石が敷かれた玄関がある。
そこで靴を脱いで上がる事になる。
玄関から板の廊下を進んで突き当りのふすまを開けると、畳の良い匂いが香って来る二十畳の和室となる。
普段はここで寛ぐ事になるのだが、少々広いかとも思ってしまった。
「嫁はまだ増えるだろうし、子供が出来たらこれでも狭いぜ!」
レオンにそう言われると、そうなのかなとも思ってしまう。
婚約者はこれ以上増やさないようにと皆からも言われているし、俺も増やすつもりも無い。
だけど、子供が出来れば確かに狭く感じるだろうな。
和室の隣には、お茶を用意するためのちょっとした台所もある。
窓際は板の間になっていて、アルティナ姉さんの要望通りテーブルと椅子を置けるようになっている。
板の間の左奥には、隠れ家の様な四畳半の茶室も用意されていた。
狭すぎるのではないかと思ったが、エンリーカが要望し、レオンの所の職人が作ったのだからこれで良いのだろう。
「レオンさん、そして皆さん、ありがとうございました」
「いい和室が出来て良かったぜ」
結局レオンはこの一か月間、ずっと通って来ていたんだよな。
レオンがいる事で、エンリーカ達は張り切っていたし機嫌も良かった。
アドルフ達は神経を尖らせていたみたいだが、俺としてはレオンが来てくれてよかったと思う。
今度は、俺がレオンの屋敷の水洗化を行う番だ。
しっかりとしたものを作らないと怒られてしまいそうだが、頑張って行こうと思う。
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