第三百十話 レオンと和室 その一
リアネ城の水洗化を終えた後、自室の隣部屋に和室を作る事にした。
先ずは自室の壁に穴を開けて和室の入り口にし、隣部屋の廊下に面した入り口は工事が終わる頃に完全に塞ぐ予定だ。
使ってなかった隣部屋の家具類を全て運び出し、後の内装はレオンの所の職人に任せる事になっている。
そして俺は、その職人を迎えにキュロクバーラ王国の王都コルビーノへとやって来た。
「エルレイ、職人は用意したぜ」
「レオンさん、ありがとうございます」
出迎えてくれたレオンの側には、十人ほどの職人が待機してくれていた。
今日は現場を見て、どの様に作るかの見積もりをして貰う事になっているので、職人達も五十歳以上と思われる白髪交じりの人や禿げ頭の人が多い。
この中にいれば、レオンも若造に見えてしまうな。
「では皆さん、今日はよろしくお願いします」
俺は職人たちに挨拶した後、空間転移魔法で移動する事を伝えて全員と手を繋いだ。
「えーっと、レオンさんも来るのですか?」
レオンもしっかりと俺と手を繋いでいる。
国王のレオンが俺の領地に来るのは問題があると、以前も話したことがあるのだがな…。
「今日の俺は職人達の棟梁だ。全く問題無いぜ!」
「いや、しかし…」
「エルレイの所に、俺が国王だって知ってるやつはいないだろ?」
「まぁそうですが…」
「で、エルレイが黙っていればいいだけの話だ!」
「分かりました。レオンさんが来るのであれば、エンリーカ達も喜ぶでしょう」
俺は諦めて、レオンも連れてリアネ城の玄関横へと転移して来た。
「へぇ、立派な城だな!」
「はい、元はアイロス王国の城でしたので、しっかりとした作りになっています」
レオンはリアネ城を見上げていたが、職人たちは壁の材質などを調べている様子だ。
レオンと職人達をリアネ城内へと案内し、和室にして貰う部屋へと連れて行った。
「この部屋をお願いします」
「結構広いな。これなら立派な和室が作れそうだ」
職人達は、早速どのような和室にするか部屋の大きさや間取りを確認しては、紙に書き込んでいた。
見積には時間が掛かるそうなので、俺はレオンを連れてリアネ城の案内と、エンリーカ達に会わせてやることにした。
「レオンさん、ここが僕の仕事場で、エンリーカがいつも僕の手伝いをやってくれていて非常に助かっています」
「そうか!」
執務室に入る前にエンリーカが役に立っている事を話すと、レオンは非常に喜んでくれていた。
実際エンリーカは、かなり俺の役に立ってくれている。
俺がレオンの所に出かけている間も、俺の代わりに仕事をやってくれていた。
おかげで帰宅後に、俺が書類の山に埋もれる事にならなくて済んだからな。
レオンと共に執務室に入ると、俺の席の隣で仕事をしていたエンリーカが気付き、席を立ってレオンの所にやって来た。
「親父様!どうしてこちらに?」
「エンリーカの顔を見たくてな。頑張っている様じゃないか」
「はい!」
レオンはエンリーカの頭を撫でて褒めると、エンリーカは非常に嬉しそうな表情を見せていた。
暫くは親子で会話をさせてあげようと俺は少し離れ、先程から視線を向けて来ているアドルフの所に行った。
「エルレイ様、もしかしてあの御方は…」
「うん、キュロクバーラ国王、レオンフィス様だ」
「何故こちらに…」
「今日は職人達の棟梁と言う事で来てもらった。
だから、皆もそのつもりで対応して欲しい」
「承知しました…」
これだけ言えば、賢いアドルフは理解してくれるだろう。
周囲で仕事をしている者達も、俺の話を耳にした後、レオンを見ないようにしているしな。
今日ここにレオンが来たという事実は、無かったものになるはずだ。
でも、挨拶はしておかなくてはならないと、アドルフは二人の会話が終わるのを見計らってレオンに近づいて行った。
「レオンフィス国王陛下、私はアリクレット公爵家の執事長を務めさせて頂いておりますアドルフと申します」
アドルフは膝を付いてレオンに挨拶をした。
「今日の俺は職人の棟梁だ。畏まった挨拶は抜きにしてくれ」
「はい、承知しました」
アドルフは立ち上がり、レオンにエンリーカの仕事ぶりを話すと、エンリーカは恥ずかしながらも喜び、レオンはエンリーカの活躍を誇らしげな表情で聞いていた。
「エンリーカ様、エルレイ様と共にレオンフィス様のご案内をお願いできませんでしょうか?」
「はい、親父様、私もご一緒してもよろしいですか?」
「勿論だ」
俺とエンリーカはレオンを連れて執務室を出て行った。
城内の説明はエンリーカに任せ、次はリディアとミディアがいる調理場へと案内した。
「親父様、リディアとミディアは毎日私達の食事を作ってくれていますわ」
「それはいいな」
俺は調理場の入り口から近くにいる料理人に声を掛け、リディアとミディアを呼んで貰った。
暫くして、リディアとミディアが姿を見せてくれたのだが、そこで不味い事に気付いてしまった。
リディアとミディアが調理場にいる時は、メイド服にエプロン姿だ。
リディアとミディアが使用人の服を着ている事に対して、レオンが怒るのではないだろうか…。
リディアとミディアはもう目の前まで来てしまったし、レオンに怒られるのは覚悟した方がよさそうだ。
「「親父様!」」
リディアとミディアは笑顔で調理場から出て来て、レオンの前へとやって来た。
「リディア、ミディア、元気にしてたか?」
「私達は」
「元気です」
「そうか、その服も良く似合っているぞ」
レオンは二人の頭を撫でながら、メイド服を褒めていた。
レオンは怒っているような感じではないが、それは二人の前だからだろう。
怒られる前に、先に謝っておいた方が良いよな。
「レオンさん、二人が着ているメイド服ですが、調理場に入るのに普通の服では汚れてしまうので仕方なく…。
普段は良い服を着せているのです。すみません」
「ん?何を謝っているのか分からないが、仕事をするのに服を着替えるのは当然だろ?」
「そうですが…」
「それに、良く似合っていて可愛いじゃないか!」
「はい、僕も可愛いと思っています」
良かった…レオンは怒ってはいなかった。
可愛いと褒められたリディアとミディアも嬉しそうだ。
「あらエルさん、私は可愛く無いのかしら?」
エンリーカは、リディアとミディアに対抗しようと思ったのか、髪をクルクルといじりながら俺に聞いて来た。
その仕草は非常に可愛らしかったが、年上のエンリーカに可愛いというのはちょっと違う気がする。
「エンリーカは可愛いというより美しいからな」
「そう…ですわね…」
俺の返答は間違っていなかったみたいだ。
エンリーカは顔を赤らめならが、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
「上手くやっているみたいで安心したぜ」
俺とエンリーカのやり取りを見ていたレオンは、俺の肩を叩いて来た。
リディアとミディアは調理場へと戻って行き、最後にエレオノラが訓練している所へと案内した。
「楽しそうにやってるな!」
「はい、ルリアの相手が出来るのは僕を除いてエレオノラだけですので、何も無い時は毎日欠かさず二人で訓練をしています」
訓練場では、ルリアとエレオノラが実戦さながらの激しい訓練を行っていた。
エレオノラが抜刀術を使うので、二人とも当然の様に真剣を使っている。
リリーが側にいて見守ってくれているから、怪我をしてもすぐ治療して貰えるだろうが、見ている方は心臓に悪い。
万が一、剣が首や心臓に突き刺されば、リリーが治療する前に死んでしまう事もあるだろう。
勿論、二人ともそれは分かっているだろうから、寸止めするとは思うのだがな…。
俺達に気付いたルリアが訓練を止め、エレオノラを連れてこちらにやって来てくれた。
「親父様が、どうしてここに?」
「今日は職人達を連れて来たついでに、エレオノラの様子を見に来たぜ」
「そうなんだ。ねぇ親父様時間あるんでしょ!僕も強く成ったから稽古してよ!」
「わかった。ちょっと剣を貸してくれ」
「はい、どうぞ」
レオンはルリアから剣を借り、エレオノラと訓練を始めた。
エレオノラは楽しそうに刀を振るっていて、レオンは慣れない剣にもかかわらず、エレオノラの攻撃を全て受け流していた。
「あれは長引きそうですわ…」
「そうだね」
「エルさん、時間が空いた事ですし、魔法の訓練を見て欲しいですわ!」
「分かった」
レオンとエレオノラの訓練は昼前まで続けられ、俺は近くでエンリーカと魔法の訓練をする事になった。
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