第三百九話 リアネ城改装
「エルレイ、今日はもう帰るのよね?」
「うん、しばらくゆっくり休みたいからな…」
「そうね…」
ミスクール帝国から帰って来て、それなりの日数が経ってはいるが、レオンからの連絡が来るまで気を抜けなかった。
当分は仕事なんか放っておいて、皆でどこかに出かけたりしてゆっくりと過ごしたいと思う。
お城の廊下をルリアと会話しながら歩いていると、行き交う役人や使用人達は廊下の端によって道を譲ってくれる。
公爵に成って面倒な事が増えたが、こう言う所で多少の優越感に浸っても罰は当たらないよな…。
ルリアもそれが当然といった風に堂々としているし、俺も胸を張って廊下の真ん中を堂々と歩いて行った。
「ア、アリクレット公爵様!お、お待ちください!」
もう少しで城の玄関に辿り着く所で、後ろから誰かが走って追いかけて来ながら俺を呼び止めた。
声で誰かかは分かったので、そのまま足早に城から出て行こうとした。
「エルレイ、無視しては可哀そうよ?」
「うん…そうだな…」
ルリアに言われて、仕方なく振り向く事にした。
「ア、アリクレット公爵様、お、お話があります!」
俺を呼び止めたのはインリートで、相当急いで走って来たのだろう、額には汗がにじんでいた。
余程重要な話があるのだろう。
俺は帰るのを諦めて、インリートの話を聞く事にした。
「分かった、ここでは話せないだろうから執務室に行こうか」
「は、はい、よろしくお願いします」
城の執務室へと向かい、俺とルリアはソファーの隣通しで座り、正面にインリートが座った。
「それで、話と言うのは何かな?」
「は、はい、ポメライム公爵様がアリクレット公爵様にお仕事をさせる計画を立てておりまして…」
「またか…どうにかして断ることは出来ないのか?」
「こ、国益に繋がる為、国王陛下もお断りしないかと…」
「そうか…」
ソートマス王国を繁栄させるためなら、国王は俺に進んでやらせるだろう。
俺としても、戦争以外で俺の魔法が役に立つのなら喜んでやろうと思う。
しかし、俺の命を狙ったポメライム公爵の仕事は極力やりたくはないと思うのは当然の事だろう。
「そ、それでですね。た、対抗策としましてラノフェリア公爵様側の役人と協議した結果、こちら側の仕事を優先させればいいのではないかという結論に達しました…」
「それって、僕の仕事が増えるだけなのでは?」
「は、はい、申し訳ございません…」
ラノフェリア公爵も俺に何か作って貰いたいのだろうな…。
「いいじゃない。お父様もポメライム公爵に負けない為に何かいい案を考えたと言う事なのでしょう?」
「そ、その通りでございます!」
「分かった。しかし、僕の領地の仕事もあるので、出来る限り引き延ばしてくれ」
「は、はい、承知しました」
ルリアも、ラノフェリア公爵の領地が発展すれば喜んでくれるだろうし、頑張らないといけないな。
「ルリア、仕事があると言う事だから予定を変更し、王族達に挨拶をしてから帰ろう」
「…嫌だけど、仕方ないわね」
「すまないな」
俺も嫌だが、仕事なので仕方がない。
いつもながら王族達との会話には疲れ果てたが、俺とルリアの気分転換には良かったのかもしれない。
翌日から、俺はリアネ城の改装を行う事にした。
レオンに頼んだ和室を作る為だが、その他にも本格的な水洗を取り入れようと思ったからだ。
闘技場で試験的に使っていた水を汲み上げる装置だが、それが完成していたからな。
管は金属製のを大量に用意してあったのでそれでいいとして、水を貯める水槽は作らないといけない。
俺はロゼを連れて山へと行き、そこで水槽を幾つか作った。
リアネ城で働いている人数も多いので、何カ所かに分けて水槽を設置しないと水が足りなくなるだろう。
リアネ城の構造上、上部に大きな水槽を置けないという理由もある。
水槽を作ってリアネ城へと戻り、水槽を設置した。
後は職人が、水を汲み上げる装置と配管を設置して完成となる。
次に俺は、汚水を流す城の下水路へとやって来た。
今までは生活用水だけを流していたから問題なかったが、排泄物をそのまま流すと川が汚染されてしまう。
なので、一度汚水を溜めるプールを作り、浄化の魔法をかけて綺麗にしてから川に流さなくてはならない。
下水路の横の壁を掘り進めて行き、大きなプールを作って行った。
それを後二カ所作り、三カ所のプールで汚染水を貯める事となる。
浄化の魔法を定期的に掛けないといけないが、俺は出かける事が多くてできない。
なので、下水の浄化担当を決める必要が出て来た。
水属性魔法が使え、常に城にいる人が適任となる。
アドルフが適合者をもう既に選んでくれていて、俺はその人をプールが完成した下水路へと連れて来た。
「エルレイ様、新しい魔法を教えてくれると聞いてきたのですが…」
「うん、勿論教えてやるよ」
エリオットが、なぜ下水路に連れて来られたのかと不思議そうに思いながらも、素直に俺の後について来てくれていた。
「ここが新しい魔法を使う場所だ」
「暗くて良く分かりませんが、何か生き物がいるのでしょうか?」
「すまん、今明るくしよう」
俺は火の玉を明かりの代わりに浮かべ、地下に作ったプールを照らした。
「ここは下水を一時的に溜める場所で、エリオットにはこれから教える魔法を使って水を浄化して欲しいんだ」
「良く分かりませんが、責任を持ってやらせてもらいます」
「よろしく頼む」
エリオットに浄化の魔法を教え、魔法を使えることを確認してから下水路から出た。
「エリオット、下水路から出たら自分にも浄化の魔法をかけて臭いを消しておくように」
「俺匂いますか?」
「いや、今はそこまで無いが一応な」
「分かりました」
俺も自分に浄化を掛けて臭いを消し、リアネ城へと戻って行った。
そして数日後、リアネ城の水洗化が終わった。
家を作った時と同様に、ルリア達には非常に好評だ。
使用人達からも評判はいいみたいだ。
さて、俺は再びエリオットを連れて下水路へとやって来た。
「かなり匂いが酷いな」
「そうですけれど、耐えられなくは無いです」
俺は下水路に入った瞬間匂いの酷さに鼻をつまんでしまったが、エリオットは意外と平気な様子だ。
スラムで生活していたから、匂いには慣れているみたいだな。
水属性魔法使いは他にもいたのに、アドルフがエリオットを選んだ理由が分かった。
火の玉を明かり代わりにしてプールを照らし出すと、予定通り汚水が溜まっていた。
「これを浄化すればいいんですよね?」
「うん、毎日欠かさずやってくれ」
「分かりました」
エリオットが浄化の魔法をかけるとプール内の汚水が綺麗になり、匂いもしなくなっていった。
「綺麗になりました!」
「上手く行ったな。魔力に余裕があるなら、下水路の方にも浄化を掛けてくれ」
「はい!」
エリオットは文句を言う事なく、楽しそうに魔法を使って行っていた。
エリオット達に魔法を覚えさせたが、普段は仕事で忙しくて魔法を使った訓練をすることは少ない。
だから、魔法が使えて嬉しいのだろうな。
エリオット達は十六歳前後だから、まだまだ遊びたい年頃でもある。
アドルフには、エリオット達にもう少し魔法の訓練をする時間を取らせるように言っておいた方がよさそうだ。
下水路から出て、腕を鼻に押し付け服の匂いを嗅いでみる。
「やはり服に匂いが移っているな。エリオットも忘れず匂いを魔法で消しておかないと、リアネ城に入れて貰えないぞ」
「はい、注意しておきます」
服についた匂いも完全に消し去り、エリオットとリアネ城内へと戻って行った。
浄化要員が一人だけだとエリオットが休めないので、アドルフには交代要員を用意させ、俺は浄化の呪文を書き出してアドルフに渡した。
エリオットに教えさせても良かったのだが、浄化の魔法は隠し立てするような物でもないし、アドルフからも公表していいとの許可が下りた。
アドルフは水を汲み上げる装置を作った鍛冶屋と相談し、大量生産を考えているみたいだ。
今の装置は少し大きく、井戸に設置するにはもう少し小型化する必要があるが、貴族の屋敷に設置する分には問題は無い。
貴族をリアネ城に招き、水洗を体験して貰えれば屋敷に設置したいと言ってくれる貴族も出て来るはずだ。
アドルフは、それを一つの産業として発展させるつもりらしい。
「エルレイ様、リアネの街の近郊に工場を作りたいと思いますので、開墾作業をお願いします」
「分かった」
リアネの街が潤うのであれば、俺は協力を惜しまない。
快く開墾作業を行う事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます