第三百八話 ミスクール帝国との終戦
ミスクール帝国からリアネ城に帰宅後は、何時レオンから呼び出されても対応できるようにと、リアネ城にこもった生活を行っていた。
ソートマス国王への報告も、全てが終わってからにして貰っている。
ルリアは帰ってきた当初落ち込んでいたが、アルティナ姉さんに慰められたり、エレオノラと訓練をしているうちに元気を取り戻していた。
俺も今回の事では相当落ち込んだし、自分の無力さに憤りを感じたりもした。
しかし、皆にはそんな姿は見せられないので、笑顔を振りまいていたのだが…。
「エルレイ、リゼから話は聞いたわ。辛いときはお姉ちゃんが慰めてあげるから、無理しなくていいのよ」
アルティナ姉さんは一緒に寝る際に、ベッドの中で俺を優しく抱きしめてくれて慰めてくれた。
アルティナ姉さんに抱きしめられていると、辛い事を忘れてしまいそうになる…。
だけど、俺が殺してしまった人達の事は忘れてはならない。
しっかりと胸に刻み付け、二度とあのような事が起きないようにしなくてはならない。
「アルティナ姉さん、ありがとう…」
だけど今日だけは、アルティナ姉さんの優しさに包まれながら何もかも忘れて眠りについた…。
リアネ城に帰って来てから二十日後、マティアスから呼び出しがかかり、俺はルリア、リリー、ロゼ、リゼのと五人でキュロクバーラ王国の首都コルビーノへとやって来た。
レオンの屋敷に入り、広間へと通された。
板張りの間の広間には、最初に訪れた時と同じく左右に大勢の男性達達が座っていた。
最初の時は男性達の表情は厳しい物だったが、今日は皆笑顔を浮かべている事から、ミスクール帝国の事が一段落したと言う事なのだろう。
俺達はレオンの前まで行き、用意されていた座布団の上に座った。
「エルレイ、ルリア、リリー、ロゼ、リゼ、ミスクール帝国での危険な作戦にもかかわらず、こちらに死者が出なかったのはお前達のお陰だ。感謝する」
レオンは笑顔で俺達に感謝を伝えてくれた。
味方に死者が出なかった事は本当に良かったと思うし、リリー、ロゼ、リゼが頑張ってくれたおかげだ。
リリーは俺が見ていない所で数多くの怪我人の治療をしていたみたいだし、ロゼは敵が侵入して来れないように入り口を必死に守っていてくれた。
今回の作戦で一番大変だったのは、リリーとロゼに間違いない。
「エルレイ、ミスクール帝国の事だが、新たな皇帝の下で今まで通り統治をおこなってもらう事にした」
「えっ、僕はてっきりレオンさんが支配するものだと思っていましたが…」
皇帝を倒したのだから、レオンがミスクール帝国を吸収する物だと思っていた。
ミスクール帝国をそのままにしておけば、一番危険なのはレオンのキュロクバーラ王国なのだからな。
「馬鹿!ラウニスカ王国を手に入れたばかりの俺に、あんな広い領土を治める余裕は無いぜ」
「そうですね…」
確かにその通りかもしれないが、それなら他のやりようもあったのではないかと思う。
「ミスクール帝国を分断させればよろしかったのではないでしょうか?」
ルリアが俺の代わりにレオンに尋ねてくれた。
「最初はそうするつもりだったんだがな…。
お前達も皇帝の最後の言葉を聞いただろ。
争いの無い世を望んだと…」
「はい…」
「だから分断させず、そのままにしたんだよ!」
「理解しました。ですが、仕返しにこの国に攻め込んでくるのではないでしょうか?」
「何時でも俺の首を取りに来いと言っといてやったぜ!」
レオンらしいと言えばそうなのだが、流石にルリアも言葉を失っていた。
腐魔石はグールが消し去ったし、それを作っていたと思われる技術者も始末はした。
しかし、今まで作っていた物が残っている可能性は否定できないし、ラータの街で起きた悲劇がまた起こる可能性もある。
それを見つけ出すことは不可能だし、無い事を願うしかないな。
「だが安心しろ。当面は攻めてくる事は無いぜ。皇帝も死にたくは無いだろうからな」
レオンはニヤリと笑っていた。
そうだよな。
ミスクール帝国の城まで攻め込み、皇帝を直接倒したのだ。
戦争を始めれば、真っ先に狙われる事など分かっている事だろう。
俺はあの城に、何時でも空間転移魔法で移動できるのだからな。
「堅い話はこれくらいにして、今日は宴会だ!朝まで飲み明かすぜ!」
「「「おぅ!!」」」
俺達は畳敷きの広間へと移り、そこで宴会が始まった。
俺はレオンの隣の席へと座らされ、ルリア達は少し離れた場所に座り、レオンの妻達と仲良く会食していた。
「エルレイは飲めないのだったな?」
「いえ、少しくらいなら飲めます!」
「いいのか?嫁が睨んでいるぞ?」
「あっ、やっぱり飲まないでおきます…」
「それが良いぜ!嫁に逆らっていい事なんて何もないからな!」
レオンは笑い、妻に酌をして貰いながら美味しそうに酒を飲んでいた。
くっ、俺も酒が飲みたいが、ロゼとリゼが俺が酒を飲まないようにと目を光らせている。
酒は、もう少し大人になるまで我慢するしかなさそうだ…。
俺はレオンの方を見ないようにしながら、一人寂しく料理を楽しむことにした。
俺が料理の方を美味しく頂いていると、酒を飲んで上機嫌となったレオンが思い出したかのように話しかけて来て。
「エルレイには礼をしないといけないな、何でもいいから欲しい物を言ってみろ」
「そうですね…」
欲しい物と言われても、村人達を救えなかったから貰う訳にはいかない、と言うのが俺の素直な気持ちだ。
しかし、レオンとしては、協力を要請しておいて何も支払わない事は出来ないだろう。
いや、ソートマス王国に直接支払うのか?
その辺りの詳しい両国の取り決めは知らないが、この場で聞いてきたと言う事は国とは関係なく、俺個人に対しての礼だと言う事だろう。
それならば、以前から考えていた事をお願いして見ようと思う。
「僕の城、リアネ城に和室が欲しいのですが、内装をお願いできないでしょうか?」
「ん?そんな事でいいのか?」
「はい、ここに来て畳に座って寛げる良さを知りましたので、僕の城にもあればいいなと思っていたのです。
それに、エンリーカ達も喜ぶのではないかと思います」
「そうだな。手配させておこう」
「ありがとうございます」
レオンは娘達が喜ぶ姿を想像してか、ニヤニヤとしながら快く引き受けてくれた。
これでリアネ城に和室が出来る事になるが、先ずは俺が先にリアネ城に和室用の部屋を作らなくてはならない。
料理を食べながら、どの様に改装しようかと色々考えていた…。
俺達はレオンの屋敷で一泊し、リアネ城へと帰って来た。
俺とルリアは帰宅後すぐに、国王に報告する為お城へとやって来ていた。
今日は国王に報告した後、すぐ帰る予定だ。
俺の役人インリートに会って色々話を聞く必要もあるのだが、会えば絶対何か仕事を言われそうなので、今日は会わない事にした…。
「苦労を掛けた。エルレイへの褒美はキュロクバーラ王国が直接支払う事になっておる」
国王への報告は個室で行われ、俺が一方的に話して終わってしまった。
ソートマス王国にとっては、ミスクール帝国の事などさして重要では無いのだろう。
村人が攫われて魔人にされた事や腐魔石の事は話してはいないし、レオンの計らいでミスクール帝国が分断される事なく終わったからな。
ミスクール帝国が分断し、内戦が起こるような事になっていれば国王の反応も違っていたのだろう。
まぁ、国王と長話をする必要も無いし、戦争で疲れている俺を気遣ってくれたのだと思う事にした。
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