第二百八十二話 レオンの決断
俺はルリア達と合流し、レオン達のグリフォン部隊を護衛しながら前線基地まで無事に帰って来た。
レオンは今日の反省と対策を含めた軍議を直ぐに開き、俺達もそこに参加する事となった。
広間に座布団を置いただけの部屋で床の上に地図が置かれていて、その周りをレオン、マティアスなどの主要な人物達と俺達で地図を丸く囲って座った。
「待ち伏せされていたとは参ったぜ!」
「そうですね。こちらの動きを読まれていました…」
レオンとマティアスが渋い表情を見せていた。
今回襲撃した砦は、リースレイア王国に侵攻している軍の補給基地とは全く関係ない場所だったとの事。
レオンにしては、相手の意表を突いたつもりだったのだろうけれど、それを読まれてしまい、今後の対応をどうするかを話し合っていた。
どうするかでは無いな。
何処を攻めるかを話し合っている。
しかし、また魔人が現れたとしたら失敗に終わる可能性が高いし、俺も魔人とはあまり戦いたくは無いと思っている。
あの魔人たちに負ける感じはしなかったが、最後に俺の攻撃を防いだのが気にかかっている。
あれが魔人の本当の力なのだとしたら、俺達の魔法が効かない可能性すらある。
まぁ、グールを使えば対抗できそうではあるが、リゼを連れて行かないと色々と面倒な事になりそうなんだよな…。
リゼを抱きかかえたままグールを使う訓練をするべきか、真剣に検討しなくてはならないな。
レオン達の話が一段落すると、レオンが俺の方を向いて話しかけて来た。
「で、だ、エルレイが遭遇した魔人とやらの説明を頼む」
「はい、分かりました」
俺は遭遇した魔人カールの事を、過去にソートマス王国で起きた事実も含めて説明し、足りない部分をグールに説明させることにした。
「魔人だが、俺様を作ったクロームウェルが魔物を滅ぼす手段として、人の強化を行う研究の中で生まれて来た者だぜ。
その研究で行われていたことは、人の体内に魔石を埋め込み、強制的に人を魔物並みの強さにしようとしたんだが、大抵の者は理性を失い魔物と同じように暴れだしたそうだぜ。
それと、魔物と似たような姿になる事から、研究は失敗として中止になっているぜ」
グールの説明が終わっても、皆沈黙を続けていた…。
魔人が恐ろしい存在と言う事だからではない。
この大陸から魔物を排除し、英雄と言われている者が行っていた研究の恐ろしさに言葉を失っている…。
その沈黙を破り、レオンが言葉を発した。
「俺の所に文化を伝え、グリフォンを残してくれた英雄だった。
それとは別に、人道に反する研究を行っていたとは驚きだぜ!」
「僕もそう思います。そう言えばグールが最初に狂人だと言っていたが、本当にそうだったとはな…」
「そうだぜマスター、俺様を作ったクロームウェルは狂人だ。
ラウニスカ王国で使われていた魔道具を作ったのもクロームウェルだぜ。
それと、俺様を作る際に使った大量の魔石も、魔人から取り出した物なんだぜ!」
「なんだと!?」
俺を守ってくれる強力な相棒と思っていたグールが、魔人から取り出した魔石で作られていたとは…。
思わず持っていたグールを手放したくなるが、グールは俺が死ぬまで離れてくれないんだよな。
それに、作られたグールに罪は無い。
グールも被害者?だと言う事だろう。
それと、ラウニスカ王国の話が出て来た事から、リリー、ロゼ、リゼが暗い表情をしていた。
ルリアがリリーを抱き寄せ、背中を撫でてくれている。
俺もロゼとリゼを慰めてやるべきだが、今は軍議の最中なので後にしなくてはならない。
「ミスクール帝国には、その狂人の研究が受け継がれて来ていたと言う事だ。
つまり、今後も多くの人が犠牲となり、魔人が生み出されると言う事だ!
エルレイ、何としてもミスクール帝国を潰すぞ!手を貸せ!」
「はい、僕も許せませんので、ぜひ協力させてください!」
レオンと俺は強く握手を交わし、人道に外れた事を行っているミスクール帝国を潰す決意を固めた!
「だが、ミスクール帝国は強大で俺のキュロクバーラ王国だけでは勝ち目がない!
リースレイア王国と共闘する必要がある!
文句がある奴は今の内に言っておけ!」
レオンが集まった者達を見渡すが、誰も意見を言う者はいない。
「よし!マティアスは直ぐにリースレイア王国に飛び、共闘を申し込んで来い!」
「親父殿、承知しました!」
「残った者達は、ミスクール帝国軍の背後を徹底的に叩くぞ!」
集まっていた者達は無言で頷いていた。
レオンの指示に盲目について行っているようにも思えるが、皆がレオンを信頼しているからだと思う。
「情報収集を徹底させ、最適な襲撃カ所の選別を行うぞ!」
レオン達は、明日からの襲撃予定を立てる作業に入った。
俺達は休んでいいと言う事なので、お先に与えられた部屋へと戻って行った。
部屋に戻った俺達は、テーブルの座椅子に座って今後の事を話す事にした。
「エルレイ、魔人とは戦えそうなのよね?」
「うん、今日戦った魔人なら問題なく戦える。
しかし、最後に一人生き残った魔人は、雰囲気が変わっていた気がする」
「そうなのね、でも戦えるのなら問題無いんじゃないかしら?」
ルリアは魔法と魔剣を使った戦い方に、相当な自信を持っている。
今も「魔人くらい私が斬り殺してやるわ!」と言わんばかりの表情を見せているからな。
ルリアに危険な真似をさせたくはないが、戦うなと言っても聞かないだろう。
今日は魔道具の回収と護衛任務があったから後ろに下がってくれただけだし、それが無かったら絶対前に突っ込んでいくはずだ。
俺がやれることは、ルリアと一緒に戦って守ってやる事くらいだろう。
それと、グールから情報を聞き出すくらいだな。
「グール、あの時お前は何か感じなかったか?」
「マスター、あの魔人はもしかしたら、俺様と同じ力を得たのかもしれねーぜ!」
「グールと同じ力と言うと、魔力吸収か?」
「そうだぜ!正確には分からなかったが、マスターの放った魔法は吸収されたか霧散されたかのどちらかだと思うぜ!」
「そうか、あの魔人に魔法は効かないを思って行動した方がよさそうだな」
「また、魔法が効かないの?」
「そうみたいだ…」
ルリアは呆れた表情を見せ、ため息を吐いていた…。
アイロス王国から始まり、リースレイア王国、ミスクール帝国でも魔法が効かないと言われれば、俺でもため息を吐きたくなると言うものだ。
魔法が効かない相手に対して石を飛ばすという対抗策はあるが、それは人に対して有効な手段であって、魔人に効果があるかは分からない。
傷つけようと、俺の様にすぐに回復できるのであれば、あまり意味が無いからな。
その他の対抗策として剣が有効だと思うが、魔法を使う相手に近づいて斬りつけるのは危険すぎる。
俺がグールを使えればその問題は解決できるが…。
ここは思い切ってルリアに頭を下げ、お願いするしかないだろう。
俺は座椅子から立ち上がり、ルリアの隣に行って土下座をした!
「ルリア、お願いがある!」
「な、なによ!?」
顔は伏せているのでルリアの表情は見えないが、俺の突然の行動に戸惑ったような声を上げていた。
「僕に、ラウラが開発した魔法を教えてくれ!
あれが無いと魔人と戦えない!」
「はぁ、そっちなのね。私はてっきり帰れと言われるかと思ったわ…」
ルリアは安心したのか、大きく息を吐く声が聞こえて来た。
「いや、リアネ城に帰ってくれた方が僕としては安心できるのだけれど…」
「それは嫌よ!魔法は教えてあげるから一緒に戦わせなさい!」
「う、うん…」
ルリアは俺が守ると決めているし、良かったと思う事にしよう。
俺達は一度外に出て、ラウラが開発した新しい魔法をルリアから教えて貰ったのだが…。
「それだけ?」
「そうよ!自身に掛けていた飛行魔法の範囲を広げるだけよ!」
「そ、そうだったのか…」
ラウラが開発した新しい魔法は、新しくも何もなくて落胆した…。
いや、気付いたことは素晴らしい!
俺は同じ飛行魔法を別の対象に掛け、同時に操作しようとして失敗していた。
しかし、自身に掛けた飛行魔法の範囲を広げるだけなら、今までと同じように飛ぶことが可能だ。
意外と簡単な事に気が付かなかった自分が情けなると同時に、やはり新しい魔法は作り出せないのかと残念に思った。
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