第二百八十一話 魔人カール その三

≪カール視点≫

俺は人を超越し、魔人に成ったはずではなかったのか!

憎きエルレイの魔法にまた敗北し、地面に叩き落された。

俺と一緒に魔人に成った仲間達も、先程の俺とエルレイの魔法が衝突した衝撃で同じように地面に倒れ込んでいる。

ダメージは大きいが、まだまだ俺は戦える!

気合を入れて立ち上がった所に、追い打ちの氷柱が降り注いで来た!


「くそっ!皆固まって防御に専念しろ!」

仲間に声をかけたが、返事は返って来なかった…。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

俺は力を振り絞り、仲間を守ろうと出来るだけ大きな障壁を張った!

家族のいるソートマス王国から逃げ出し、ここまで苦労を共にしてきた仲間達が、こんな所で終わっていいはずが無いだろう!

「皆起きろ!俺達は人を超越した魔人だ!最後まであきらめるな!!」

「そうだ!俺達は魔人だ!」

「やれる!まだやれます!」

仲間が俺の呼びかけに応じて起き上がり、集まって来てくれた!


「よし!皆で力を合わせて敵の攻撃を防ぐぞ!」

「はい!」

「皆魔力を込めろ!」

仲間達と協力して、より強固な障壁を張って降り注ぐ氷柱を耐え忍んだ!

「頑張れ!これに耐えて反撃に転じるぞ!」

俺達はまだやれる!

そう確信していたのだが、先程のダメージが大きかったのか、それとも障壁を作り出すのに魔力を使い果たしたのか…。

一人…また一人と…仲間が倒れて行った…。


「くっ!頑張れ!頑張るんだ!」

「俺はここまでのようです…」

「私も限界です…」

「カールさん、障壁はもう持ちません!カールさんだけでも逃げてください!」

「俺に仲間を捨てて逃げろと言うのか!」

「そうではありません!カールさんは私達の希望なのです!

どうか、どうか、最後まで生き延びて、あの憎きエルレイを倒してください!」

「お、お前達…」

仲間達が逃げろと言ってくれるが、ここまで共に歩んで来た仲間を見捨てて逃げ出すなど俺にはできない!

くそっ!

どうにかして仲間を助けられないのか!!

俺は魔人だろう!!!

思考を巡らせ解決策を模索する中、俺達を魔人にしたローレッドの言葉を思い出した。


「くふふっ、私が作り出したこの魔石を胸に埋め込めば、貴方達は人を超越した魔人になれます。

ですが、そこで終わりではありません。

まだ研究段階で正しい事は言えませんが、より多くの魔力を取り込むことが出来れば、さらなる進化を果たすでしょう!」

そうだ!

俺はまだ進化できる!

魔力を取り込む手段が不明だが、今この時に進化しなければ仲間を守ることが出来ない!

俺は胸に埋め込み、体の一部となった胸にある魔石に両手を当てて願った!


「魔力を、もっと魔力をこの魔石に寄こせ!」

俺の願いが通じたのか、胸にある魔石が熱を帯びて熱くなり、眩い光を発した!

胸が焼け落ちてしまうのではないかと言う程熱い!

「ああああああああああああああああ!!!」

魔石を埋め込んだ際も全身に激痛が走ったが、体がバラバラになるのではないかと思う程の痛みに、俺は立っていられず仰向けに倒み意識を失った…。


どれだけの時間が経ったのか…目が覚めると痛みは無くなっており、周囲は氷柱で埋め尽くされていた。

仲間は!

仲間の安否を確認しようと起き上がろうとしたが、俺の体にも氷柱が突き刺さっていて立ち上がれなかった。

「邪魔だ!」

俺は体に突き刺さっている氷柱を手で払いのけた。

何故そうしたかは分からないが、何となくできるような気がした。

氷柱は砕け散り、氷柱が突き刺さっていた穴が直ぐに塞がり始めた。

俺は立ち上がり、周囲にいた仲間達を探した…。


「くっ!」

俺の周囲には、無残にも氷柱で串刺しになった仲間達の遺体があっただけだった…。

救いなのは、人の姿に戻っていた事だけだな…。

「おのれ!エルレイ!許さん!許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

俺は仲間の仇を討つため、上空にいるエルレイを見上げた!

そうすると、今まさに俺に向けて魔法が撃ちこまれている所だった!

「殺す!」

向かって来ている魔法を受け止めようと魔法障壁を張った!

いや、張ったつもりだったが、俺の思った魔法とは違う何かが出て撃ち消した。

「今のは何だったのだ?」

一つ分かっている事は、エルレイの攻撃を受けて消耗していた体力と魔力が戻っていると言う事だ。

いや、以前より力が増している?

俺は進化出来たと言う事なのか?

この魔力であれば、エルレイに勝てるかもしれないが…魔法の制御が出来ていない状況では難しい…。

仲間の仇を取りたいが、今の俺では無理なのは分かっている。

それに、上空に浮かぶ眩い光はなんなのだ?

良く分からないが、非常に強い力と恐怖を感じる…。

本能が逃げろ!と最大限の警告を放っていた!


「皆…必ず仇を取るからな!」

俺は遺体となった仲間達に誓い、本能に従いこの場から逃げ出す事にしたが、どうやって逃げだせばいいのか…。

思案しているとローレッドの部隊がやって来て、俺と仲間を救助してくれた。


≪ローレッド視点≫

「くふふっ、さぁ全てを見せてください」

私の作り出した魔人と、英雄の生まれ変わりとの戦いを遠くから見守っていました。

魔人達はまだ不完全ですが、この戦いで真の魔人を作り出せる情報を私に提供するのです!

ですが、まったく良い所も無く敗北しました。

ある程度予想はしていましたが、ここまで差があるとは正直思っていませんでした。

それでも、彼らにはまだ私の研究材料としての価値はあります。


『くふふっ、現場に急行し、魔力を混乱させる霧を発生させて遺体をすべて回収してください。

肉片一つでも貴重な研究材料ですから、取りこぼしの無いようにしてください』

回収部隊に向かわせましたが、思わぬ連絡に驚かされました。

『ローレッド室長、魔人が一人生き残っております!』

『くふふっ、それは重畳。必ず助け出して私の所に連れて来て下さい』

『はい、了解しました』

あの状況下で生き残ったと言う事は、魔人が更に進化したと言う事でしょうか?

進化したというのであれば私の研究も進み、真の魔人を量産可能になるのです!

そして、この大陸中の人達を魔人に進化させ、英雄がいなくなって止まっていた二千年の時を今進めるのです!

あぁ、一刻も早く研究開発室に戻って調べたい!調べたいです!

「くふっ、くふふふふふっ!」


≪エルレイ視点≫

「今のは何だったのだ?」

「エルレイ様の魔法が消されたのでしょうか?」

俺が止めを刺すために撃ち込んだ魔法が、当たる直前に消えたように見えた。

あれはまるで、グールに魔法を吸収させたときのような感じだった。

なので、グールに説明して貰おうと思ったのだが。


「エルレイ様、敵の増援のようです!」

「また魔人が来たのか!?」

顔を上げてみると、百人くらいの魔法使いが地上近くを飛んで来ているのが確認できた。

「どうしますか?」

「安全のために少し距離を取ろう!」

俺は高度を取って様子を見る事にした。

すると、敵の増援は霧のような物を出し、魔人達がいた場所を覆い隠してしまった。


「グール、あの霧みたいな中の状況はどうなっているか分かるか?」

「マスター、魔力がかき乱されて全く中の様子がわらかねー。

あの中を飛ぶのも危険だと思うぜ!」

「そうか…」

一人だけ残っていた魔人がどうなったのかは気になるが、無理はしない方が良いだろう。


『ルリア、レオンさん達は撤退して行ったのか?』

『えぇ、そうよ。そっちは大丈夫なの?』

『うん、今から僕達も撤退する』

『分かったわ。気を付けて帰って来なさい!』

レオンが撤退して行ったのなら、俺がここにいる理由も無くなったな。

「リゼ、撤退しよう」

「はい、そうしましょう!」

リゼに伝えると、安心したのか笑顔で答えてくれた。

そうだよな。

魔人の存在は気になるが、俺もこの戦場にいたくは無いし、リゼを危険にさらしたいわけでもないので、早々に撤退する事にした。

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