第二百八十話 魔人カール その二

「カールさん、どうしてそのような姿になってしまったのでしょうか?」

「それは当然貴様を倒すためだ!」

「人のままでは僕に勝てないと認めたわけですね?」

「違う!俺達は貴様を倒すために毎日厳しい訓練を重ねて来た!

その結果として俺達は人を超越し、魔人になったのだ!

はーっはっはっはっ!いーひっひっひっ!」

魔人カールは狂ったように笑い出していた。

人としての人格は保てているが、理性は失っているようだな…。

しかし、人を超越した存在となったのであれば、俺にとっても脅威だ。

実際に魔人カールの魔力量は、普通の魔法使いの十人分くらいはある。

とは言えリゼより少ないのだが、要はその魔力をいかに使いこなすかだ。

魔人と言うくらいだから、俺達よりうまく魔力を使えるのかもしれないので、かなり気を付けて戦わなくてはならないな。

魔人カールが笑い続けている今の内に、グールからも情報を聞いていた方が良いだろう。


『グール、魔人とはどのような存在なのか知っているか?』

『マスター、俺様の記憶によると、クロームウェルが人の強化を図ろうとして出来た失敗作だぜ。

あの通り理性を失い、魔法を使えば使う程人格も失われて行き、最後には魔物と変わらず破壊を続ける存在になるぜ!』

『なるほど、それで強いのか?』

『俺様の敵ではねーぜ!』

『いや、今手がふさがっててグールは使えないんだが?』

『リゼの姉貴に俺様を持たせれば!』

『いや、グールは僕以外が持つと能力を使えないだろ?』

『忘れてたぜ…』

まぁ、グールを使えば戦えそうだが、今はリゼを抱きかかえているから魔法だけで何とかしなければならない。


『ルリア、レオンさん達は下がってくれたか?』

『えぇ、そいつら危険なの?』

『かなり危険だ!僕とリゼで全力で戦ってみるが勝てるかどうかわからない。

だから、レオンさん達に撤退するように進言してくれないだろうか?』

『分かったわ!危なくなったらエルレイも逃げるのよ!』

『うん、リゼもいるから無理はしないよ!』

ルリアに伝えた事で俺も再確認した。

両手で抱きかかえているリゼだけは、何としても守り切らなければならない。

それはつまり、俺も無事でいなければリゼを守れないと言う事だ。

アイアニル砦でゴーレムに殴られた時、抱きかかえていてリゼも地上に投げ出す結果となってしまった。

あの時はそんなに高い場所では無かったからリゼは怪我程度で済んだが、今リゼを投げ出すと助かる高さでは無い。

気を引き締めなおして、リゼをしっかりと抱きかかえなおした!


「エルレイ様?」

「うん、大丈夫。しっかりと戦おう!」

「はい!」

俺が抱きかかえなおした事でリゼが不安げな表情で見て来たので、リゼに笑顔を見せて前を見据えた。


「エルレイ、これより貴様を殺す!」

俺がリゼを見ていたからか、魔人カールは笑顔から一転し激高していた。

魔人カールの後ろにいる奴らも殺気を飛ばして来ているな…。

レオン達が下がる時間を稼がないといけないが、無理はしないよう気を付けよう。

「僕はまだ死にたくは無いので、抵抗させて頂きます!」

「頑張って抵抗する事だな!皆一斉にかかれ!」

魔人カールの号令で、後ろにいた魔人達が一斉に魔法による攻撃を仕掛けて来た!


「リゼ、攻撃は任せたぞ!」

「はい!アイスストーム!」

リゼの放った魔法と魔人が放った魔法が、激しくぶつかり合っている。

「エルレイ様!」

「大丈夫!」

しかし数には勝てず、リゼの魔法が撃ち消されてしまった。

俺は向かって来る魔法を全力で受け止めた!

やはり、魔人はかなり高威力の魔法を撃ち出すことが出来るみたいだ!

受け止めきれない威力では無いが、かなり厳しい…。

後ろにそらせば、レオン達のグリフォン部隊に被害が出るかも知れない。

ルリア達が守ってくれているから大丈夫だとは思うが、念には念を入れないとな。

魔人による攻撃を受け止めていると、目の前が魔法の光や煙で何も見えなくなってしまう。


「グール、状況はどうなっている?」

「敵に動きはねーぜ。止まって魔法を撃ち込み続けているだけだ!」

「そうか、突っ込んで来ないのは楽で良いな」

敵が突っ込んできて、ルリアの様な接近戦を仕掛けてくるようであれば厳しいかと思ったが、魔法を撃ち込んで来ているだけならどうにでもなるな。

「エルレイ様、反撃した方がよろしいでしょうか?」

「いや、無駄な魔力を使う必要はないよ。敵が見える様になったら反撃してくれ」

「承知しました」

魔人と言えども魔力には限界があるし、俺の魔力が無くなるまで撃ち続けられるはずも無いと思う。

そもそも、俺も魔力量はグールに保存している分があるので、敵の魔人全員分より多いはず。

だから、魔人の魔力が無くなるまで堪え切れれば、そのまま勝ちになるはず。

でも、魔人も理性は失ってるとは言え、馬鹿ではないみたいだ。

こちらの様子を見る為なのか、攻撃の手が止まった。

やがて煙が晴れて、魔人達の様子が見えて来た。


「馬鹿な!あれだけの攻撃を受けて無傷だと!」

魔人達は、俺が無事だった事が信じられない様子で驚愕していた。

「うーん、やはりカールさん達は魔人になってもたいして強く成ってないですね」

「なんだと!俺達は人を超越した魔人だぞ!!」

俺が挑発すると、魔人カールは顔を真っ赤にして激高していた。

「良いだろう!俺の本当の力を見せつけてやる!」

魔人カールはそう宣言すると、魔力を大量に出力して、頭上に馬鹿でかい火球を作り出していた。

「どうだ!俺の最大の魔法で貴様は燃え尽きるがいい!」

魔人カールは、馬鹿でかい火球を俺に向けて撃ち出して来た。


「エルレイ様、お任せを!」

「うん、頼む!」

「フレイムボム!」

リゼは馬鹿でかい火球に向けて、バスケットボールくらいの火球を撃ち込んだ!

リゼの火球が魔人カールの火球と衝突すると、激しい音と衝撃波を伴った強力な爆発が発生した!

その衝撃波で俺も吹き飛ばされそうになるが、事前に分かっていた事なので何とか耐えることが出来た…。

「リゼ、やりすぎだ…」

「申し訳ございません…」

上空だったから周囲に被害が出る事は無かったが、地上だったら間違いなく地面に大きな穴が開いて周囲のありとあらゆるものを吹き飛ばしていた事だろう。

リゼも周囲に被害が出ない場所だから使ったのだろうけれど、俺の事も考えて貰いたかった…。

そう言えば、魔人達はどうなったのかな?

魔人達がいた場所を見たが、そこに魔人の姿は無かった。


「倒せたのだろうか?」

「マスター、まだ敵は下に落ちたが死んでねーぜ!かなり弱ってはいるみたいだがな」

「そうか…」

あの爆発に巻き込まれて死んだのかと一瞬喜んだが、そう簡単に死んではくれなかったみたいだ。

「エルレイ様、止めを刺しますか?」

「そうだな、可哀そうだとは思うが、放っておけば人格が崩壊するとグールが教えてくれたし、他人に迷惑をかける前に止めを刺してあげよう」

「はい、分かりました。アイシクルレイン!」

リゼがつらら状の氷をいくつも作りだし、地上にいる魔人達に向けて撃ち下した!

魔人達も弱っているとはいえ、必死の抵抗をしている。

死にたくないという気持ちは良く分かるが、人を辞めた者に対してかける情けは無い。


「リゼ、もういいだろう」

「はい」

幾ら魔人とは言え、リゼの魔法をあれだけ食らって生き延びているとは思えない。

俺は、つららで埋め尽くされた地面に向けて降りて行った。

「マスター、まだ一人生き残っているぜ!」

「しぶとい奴だな…」

つららで埋め尽くされている下で、まだ生き延びているとはな。

「グール、場所の特定は出来るか?」

「マスター、前に七メートル、左に四メートルの地点だぜ!」

「分かった、止めを刺そう!」

俺はリゼのつららの魔法を貫通させるために石の槍を作り出し、グールが指定した地点に向けて撃ち出した!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る