第二百七十九話 魔人カール その一
≪トルメニコ視点≫
余はトルメニコ・エルク・ノート・ミスクール。
幼き頃より、次代の皇帝となるべく英才教育を受けて来た。
そして現皇帝のミスクール帝国は、平和と繁栄を謳歌していた。
その事態は悪い事では無いが、ミスクール帝国が掲げる大陸統一の理念からはかけ離れている。
その事を皇帝にお会いした際に尋ねて見た。
「今は国力を上げる時、その理念は次期皇帝に託す」
皇帝は余の目を真っすぐ見ながら、頭を撫でてくれた。
思えば、あの時から余に皇帝の座を託すつもりだったのかも知れない。
自惚れるつもりは無いが、余以外にミスクール帝国の理念を遂行できる者はいなかった。
そして、ミスクール帝国は余の手に託された。
前皇帝の手腕により、ミスクール帝国は大陸統一出来るだけの国力を有している。
余はその国力を思う存分使い、余に託された大陸統一を成すべき時が来た!
先ずはリースレイア王国を手中に収め、その後に長きにわたり抵抗し続けて来たキュロクバーラ王国を攻め滅ぼす!
帝国軍の装備状況も万全であり、リースレイア王国は何一つ抵抗できずに簡単に手に入れる事が出来る。
そう考え実行に移したのだが、余に伝えられて来る戦況に驚愕しえない。
「皇帝陛下、前線補給基地カッスター砦がキュロクバーラ王国のグリフォン部隊の襲撃を受け壊滅状態となりました」
「グリフォン部隊による襲撃は、帝国軍も予見していた物では無かったのか?」
「はっ!襲撃の際、カッスター砦を覆う魔法結界装置は正常作動したのですが、敵の想定外の攻撃がありました」
「想定外の攻撃だと?」
「はっ!高高度より石を落とされました…」
「帝国軍、いや、魔道具研究開発部御自慢の魔法結界装置は、単なる石の攻撃を想定していなかっただと?」
「はっ!」
様々な要因を想定し備えて置く事が肝要だと怒鳴りつけたくなるが、怒りに思考停止さるなど無駄な事だ。
次の策を講じる事が重要だ。
「直ちに物理攻撃に対抗できうる装置を作れと、魔導具研究室室長に伝えよ。
それから、司令官に即刻余の所に来るように伝えよ!」
「はっ!」
キュロクバーラ王国が、一度の襲撃で終わりにするとは思えぬ。
地図を持って来させ、次に襲撃される地点を予想しながら司令官が来るのを待つ…。
「皇帝陛下、参上いたしました」
「司令官、帝国軍としてキュロクバーラ王国は何処に攻めて来ると予想している?」
司令官が来るなり帝国軍としての意見を求めると、司令官も予想していたのか、すぐに地図を指して答えた。
「ダミア砦と予想しております」
「その根拠は?」
「前線補給基地のカッスター砦を破壊され、次の補給基地であるダミア砦を襲撃するのが定石です」
「その考えは間違いではない、補給基地を破壊されてはリースレイア王国への侵攻継続が不可能となる。
だが相手はキュロクバーラ王国、こちらの想定外の所を必ず攻めて来る。
次はここ、ルズベリ砦だ」
「皇帝陛下、お言葉ですがルズベリ砦はグリフォンで飛んで来るには遠く、破壊した所で意味がありません」
「帝国軍の情報によると、グリフォン部隊の拠点はこの場所で離れたカッスター砦まで飛んで来たぞ」
「確かに、距離的にはあまり変わりはないですな」
「次に意味についてだが、拠点を好き放題やられては帝国軍、そして余に対しての不満が増大する。
帝国は複数の国を力によって併呑させてきた。
反乱の芽は潰してはいるが、種は何処にでも潜んでいる」
「確かに…」
「そして、キュロクバーラ王国の目的がまさにそれだ」
「理解しました。キュロクバーラ王国はラウニスカ王国を手中に収めたばかりで余裕が無い。
であるならば帝国の分断させ、力を削ぐのが狙いと言う事ですな」
「そうだ、意味が無い砦でも守らねばならぬ。対策は打てるか?」
「早急に対応策を検討し実行に移ります!」
決意した表情で司令官は退出して行った。
襲撃には例の英雄の生まれ変わりが参加していたと言う、未確認の情報もある。
今の帝国軍に、英雄の生まれ変わりに対抗できる力は無い。
薄気味悪い魔導具研究開発室長にも、打てる手を出させるよう命令を下した。
≪エルレイ視点≫
砦を一つ破壊した翌日もまた、別の砦を破壊しに行く事になった。
「こういうのは勢いが大事なんだぜ!」
レオンは俺の肩を叩いて、グリフォンに乗り込んで行った。
俺達はソートマス王国を代表して、同盟国のキュロクバーラ王国に協力しているので拒否権は無い…。
しかし、ルリアが魔剣を思う存分振るえた事で、昨日から機嫌がいいから悪い事ばかりでもない。
戦争に参加しているのだから、危険が無いわけでは無いので、今日も十分注意して行かなくてはならない!
マティアスの先導するグリフォンについて行き、目的の砦付近へと辿り着いた。
「敵影確認!エルレイさん、お願いします!」
「分かりました」
昨日の今日と言う事もあって、流石にミスクール帝国も襲撃を予期していたのだろう。
砦に近づくと、二十人くらいの魔法使いが迎撃に上がって来た!
「ルリア、魔法使いの数が少ないが、どんな魔道具があるか調べたい。僕が前に出て様子を見ようと思う」
「分かったわ!」
俺はルリア達を残して、上がって来た魔法使い達に向けて突っ込んで行った。
「リゼ、魔道具を出来るだけ回収したい。防御に徹して、ルリア達が攻撃に移った後は魔道具の回収に努めようと思う」
「はい、分かりました!」
リゼはルリアと違い、敵を攻撃する事に執着しないのが良いよな。
でも、攻撃に関して言えば、ルリアに次ぐ攻撃力を持っているのは間違いない。
いや、能力を使えば俺でも勝てないので一番なのは間違いない。
リゼに能力は使わせたくは無いので、俺がしっかりして守って行かなくてはならないな。
魔法使い達と対峙したのだが、魔道具で攻撃してくる様子は無い。
向こうが数が多いからか、余裕の表情を見せている者もいるが…あれは人なのか?
そして魔法使い達の中から、一人だけ前に出て来て大声で話しかけて来た。
「エルレイ、貴様に復讐しにやって来た!」
相手は俺に恨みを持っているらしい…。
まぁ、これまで色々やって来たから、俺に対して恨みを持っている者もいるだろう。
誰だったかと思い、相手の顔をよく見たのだが…。
頭に山羊の角の様な物が生えているし、背中にも小さいが蝙蝠の翼の様な物も見える。
どうやら人では無いみたいで、俺の見間違いでは無かった。
後ろにいる人達も、人とは少し変わった姿をしている。
「魔物か?」
「違う!俺はこの国に来て生まれ変わったが魔物では無く魔人だ!
俺はカール・キリル・パル!魔人カールだ!」
「あー思い出した…」
確か、俺とお城で魔法勝負をし、俺とネレイトを襲撃して来て捕まり逃げ出していた奴だったな。
ミスクール帝国に来て何があったかは知らないが、人である事を辞めたようだ。
『ルリア、相手は魔人だと言っていて危険そうなので、レオンさん達に距離を離すように伝えてくれ。
それから、ルリアはリリーとロゼと協力してレオンさん達を守っていてくれ』
『分かったわ!エルレイも気を付けなさい!』
『うん、分かっている』
相手は以前、呪文を唱えず魔法を使えるようになっていた相手だ。
あれから俺が使う無詠唱を習得したかは不明だが、人を辞めている時点で危険な存在になっているのは間違いない。
十分注意して対応しなくてはやられてしまうだろう。
『リゼ、戦闘が始まったら手加減は不要だ。全力で相手を攻撃してくれ!』
『はい、お任せください!』
何が起こるか分からない状況なので、俺は防御に徹して攻撃をリゼに任せた。
レオン達を守らなくてはならないので、戦いを避けるのは不可能だろう。
しかし、戦いを前にしてもう少し魔人の情報を得たい。
俺は再会を喜ぶような笑顔を浮かべながら、カールに話しかける事にした。
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