第二百七十七話 カッスター砦襲撃 その一

俺がルリア、リリー、ロゼ、リゼを連れてキュロクバーラ王国へとやって来ると、そのままマティアスとレオンの乗ったグリフォンと共に、前線基地へと連れて来られた。

「ここは、リースレイア王国とミスクール帝国の国境に近い山に作ったグリフォン部隊基地です」

マティアスに基地と説明されたが、どう見ても旅館街にしか見えないんだよな…。

グリフォンの厩舎と物見やぐらがあるくらいで、周囲を囲う壁とかも無い。

山頂付近にあるから、ここに攻め込んでくるには山を登って来るか飛んで来ないといけない。

だから、こんなに無防備でも良いのだろうか?

心配になって聞いて見れば、山には罠が仕掛けられているし、飛んできたのならグリフォンで迎撃するから問題無いと言う事だった。


「まだ、ミスクール帝国はリースレイア王国に侵攻していませんので、暫くの間はゆっくりとお過ごしください」

「ありがとうございます」

俺達は敵が動くまで休養してていいそうだ。

敵が動き出すまでリアネ城に帰る事も出来なくはないが、仕事を忘れてゆっくり出来る時間は貴重だな。

それに、ルリア達と親密を深めるにはいい機会だ。


「エルレイ、訓練に行くわよ!」

「あ、う、うん…」

そうだよな…ゆっくりしている暇なんかない!

皆と共に外に出て、剣と魔法の訓練をする事となった。

珍しい事に、リリーが積極的に攻撃魔法の訓練を教えて欲しいと言って来た。

今までは、回復と防御を中心にやっていたのにな。


「エルレイさん、私が前に出ても迷惑をかける事がなくなりましたから」

「そうだな」

リリーは笑顔でそう言ってくれた。

今までは、ラウニスカ王国に命を狙われる危険があったので、リリーが表に出る事を極力控えていた。

だがその危険が無くなったので、俺とルリアと共に前に出て戦おうと思ったのだろう。

出来れば、リリーに危険な場所について来て貰いたくはないが、リリーが近くにいれば俺が守れるし、怪我をしてもすぐ治して貰える。

だから、リリーも戦えるように、しっかりと教えて行かなくてはならないな!


「み、皆で一緒に入るのかしら?」

「ルリア、私もまだ恥ずかしいですが、遠慮していると他の皆においていかれます」

「わ、分かっているわよ…」

訓練を終え、ルリア達とお風呂で汗を流す事になったのだが、まだルリアは恥ずかしがって正面を向いてはくれない。

しかし、その恥じらいある反応がとても愛らしく思えて、抱きしめたくなる衝動を抑えるのに苦労する…。

ルリアを怒らせ、もう二度と一緒のお風呂に入らないと言われたくは無いからな。


訓練をしながら五日間ほど過ごした朝、ついにミスクール帝国がリースレイア王国に侵攻したとの知らせが届いて来た。

俺達は軍議に呼ばれて、地図の置かれたテーブルの席に着いた。

集まっていた者達は真剣に作戦内容を確認していて、俺達はそれを暫く聞いていた。

そして最後に、レオンが俺に直接頼んで来た。

「エルレイ、これからカッスター砦を叩きに行くが、エルレイ達には俺達の護衛を頼みたい!」

「護衛ですか?」

「そうだ、試したい策があるからな!」

「分かりました」

レオンは口角を上げてニヤリと笑っていたので、面白いものが見られそうだ。

まぁ、グリフォンの数は多いが、護衛と言う事なら意外と楽だろう。

それに護衛なら前に出る事は無いだろうし、ルリアとリリーを危険に晒さずに済んでいいな。

軍議が終わると、すぐに出発となった。

俺はいつもの様にリゼを抱きかかえ、ルリアは一人で、ロゼはリリーを抱きかかえて飛び立った。


「ロゼ、新しい魔法では無いみたいだが大丈夫か?」

俺はロゼが心配で声を掛けて見た。

決してリリーが重くて大変だから、と言う意味合いでは無い。

「いいえ、これも新しい魔法を使用しております。リリー様を横に並べて飛ぶより、抱きかかえていた方が安全だからです」

「それならいいんだ」

そうか、一緒に飛ぶ対象が近くにいればいいだけだから、抱きかかえていても問題ないのか。

一つ勉強になったと思いながら、早く教えて貰えないものだろうかとルリアの方をチラリと見たが、顔を背けられてしまった。

約束を破り、エンリーカ達四人を婚約者として連れ帰った俺が悪いのだが、俺が断れない状況だったのも理解してもらいたいが…。

ルリアもそれくらいは理解しているだろうし、ルリアの気持ちを考えると許せない事も理解できるので、今はルリアが許してくれるまで待つしかないな。


「それにしても、凄い数のグリフォンです」

「そうだな」

リリーは後方を見て、ついて来ているグリフォンの数に驚いていた。

俺達は護衛と言う事で、先導するマティアスが乗るグリフォンの後ろを飛んでいて、敵が攻撃して来たら対応する事になっている。

俺も振り向き、改めてグリフォンを見た。

レオンに二百頭と教えられていたが、それ以上いそうな感じだな…。

あの時前線に出ていた数が二百頭で、当然他にもいたのだろう。

それが、今回の作戦に動員されたと言う事なのかもしれない。


「ミスクール帝国に入りました!」

俺がグリフォンの数を見ていると、マティアスから声が掛かり前を振り向いた。

「これより速度を上げ、一気に目標を攻撃します!

エルレイさん達は、敵魔法使いが上がって来たら迎撃をお願いします!」

「はい、分かりました!」

マティアスの乗るグリフォンが一気に加速し、俺達も遅れないようについて行く。

ルリアは当然問題無くついていけているし、ロゼも大丈夫そうだ。


「リゼ、この速度について来れる魔法使いはいないとは思うが、一応後方を見ていてくれ」

「承知しました」

「グールも念のために、敵が接近して来たら知らせてくれ」

「マスター、了解したぜ」

敵国の上空に入り、いつどこから敵が攻撃してくるか分からない状況だ。

マティアスが森や山の上空を飛んでくれているお陰か、下からの攻撃はない。

しかし、グリフォンの集団が飛んでいるのは、遠くからでも確認できるだろう。

油断せず、常に周囲を確認しておかなくてはならない。


「もうすぐ目的地につきます!」

「ようし!守りはエルレイ達が行ってくれる!俺達は砦を潰す事に専念すればいいだけだ!

訓練通りしっかりと行え!」

レオンが檄を飛ばし、兵士達がグリフォンを刺激しない様に無言で応える。


「ルリアは敵が上がって来たら、好きな様に暴れてくれ」

「分かったわ!」

「リリーとロゼはルリアの援護を頼む」

「はい、分かりました」

「承知しました」

「リゼ、俺達はグリフォンを守る!」

「はい、承知しました!」

「マスター、俺様は?」

「グールは敵の感知だな…」

「またかよ!最近そればっかりでつまらねーぜ!」

「まぁ、この状況ではグールを使えないし、我慢してくれ…」

「しょうがねーな」

ルリア達に指示を出し、見えてきた砦上空を目指す。

グールには申し訳ないと思うが、リゼを抱きかかえている状況ではグールを使えないし、今回の任務はグリフォンの護衛だから、どの道グールの活躍する場面は出来ない。

魔法が飛んでくれば、グールを使って吸収させる事も出来なくはないが、それもグールが望んだ使われ方では無いだろうからな。

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