第二百七十六話 レオンの協力要請

「便利だが、恐ろしい魔法だぜ」

「はい、使い方次第ではかなり危険な魔法です」

レオンとマティアスは、改めて空間転移魔法の脅威を実感している様子だ。

俺が一度行って覚えれいれば、いつでもその地点に転移する事が出来るからな。

上手く使えば、誰にも知られる事無く暗殺を実行する事も可能だろう。

仮に、レオンが俺の敵になったとしたら、俺は容赦なくここに転移して来てレオンを殺すかもしれない。

そんな事はしたくないので、そうならないようにレオンとの仲をよくしておきたいと思う。


「マティアス、ミスクール帝国はリースレイア王国に侵攻すると思うか?」

「あれだけの軍を動かして、何もしませんとはならないかと思います」

「だろうな。で、リースレイア王国はあれに勝てそうなのか?」

「いいえ、残念ながら。こちらで調べた情報を基に考察した結果、半年持てばいい方ではないかと思います」

「それでは困るな」

「はい…」

レオンとマティアスは眉間にしわを寄せながら、思考にふけっていた。

俺も状況を整理してみようと思う。


ミスクール帝国に隣接している国は、レオンのキュロクバーラ王国とリースレイア王国のみだ。

ここでリースレイア王国が攻め滅ぼされてしまえば、キュロクバーラ王国はかなり厳しい状況に置かれるのは間違いない。

そして、リースレイア王国の南にあるルフトル王国も、ミスクール帝国の脅威に脅かされる事になるだろう。

もし、ミスクール帝国がそのまま南下してルフトル王国に侵攻すれば、俺もルフトル王国の守りに参加せざるを得ない。

それは、ミスクール帝国がキュロクバーラ王国に侵攻して来ても同じ事だ。

そうならない為には、何としてもリースレイア王国に頑張って貰う必要がある。

個人的には、リースレイア王国が滅ぼうと知った事では無いが、助ける必要があるのは間違いないな。


「マティアス、地図を持ってこい」

「はい、只今」

マティアスは後ろの棚から地図を取り出し、俺達の前に広げた。

「ここがミスクール帝国軍がいる場所だ」

レオンがミスクール帝国の国境付近を指さし、マティアスがそこに駒を置いて行く。

「今ここにグリフォン部隊が駐留している」

今度は、キュロクバーラ王国とミスクール帝国の国境から少し南下した場所に駒を置いた。

「この場所から、ミスクール帝国軍の場所まで行って攻撃を仕掛けるのは厳しいか?」

「飛行距離を考えると、何処かで一度休息をとる必要があります」

「だな、背後から襲うのは難しいが、ここを叩くのは可能だろ?」

「はい、そこであれば休息無しで行けると思います」

レオンが指さしマティアスが駒を置いた場所は、ミスクール帝国軍がいる場所から北東に行った場所で、カッスター砦と書かれていた。

「エルレイ、ここは前線への補給基地としても使われている」

「なるほど、補給線を潰せばリースレイア王国への侵攻を遅らせるか、鈍らせる事が出ると言う事ですね」

グリフォンであれば、敵地の内部にも一気に攻め込んで攻撃する事が可能なのだ。

ただし、占領する事は不可能だろうから一時的なものにしか過ぎなく、嫌がらせ程度で効果は薄いのかも知れない。

でも、何もやらないよりかはましだと考えているのかも知れないな。


「で、だ、エルレイにも協力して貰うぜ!」

「えっ!僕もですか!?」

「当然だろ!同盟国が困っているんだぜ!」

レオンは、ちっとも困っていないと言う感じの笑みを浮かべながら、俺に頼んで来た。

ソートマス王国と同盟関係を結んでいるから、戦争の協力もしなくてはならないのだろう。

しかし、それを俺の一存で決めて良い物ではないだろう。

「レオンさん、正式にソートマス王国に協力要請をしてください」

「当然だな。マティアス」

「はい、エルレイさん、この親書をソートマス国王にお渡しください」

「…お預かりいたします」

俺を呼びつけた時点で用意していたのだろうな…。

マティアスから親書を預かり、俺はルリア達の所に戻って行った。


「エルレイ、お帰り。それでどうなったのかしら?」

「レオンさんに協力しなくてはならなくなった」

「レイちゃん!戦争と言う事だね!」

「そうなるのかも知れない…」

レオンに協力し、ミスクール帝国に攻め込む事になるのを隠し立てする事無く皆に説明した。

出来れば教えたくはなかったが、戦争になれば長期間出掛ける事になるし、そうなれば隠していても露見する事になってしまうからな。

それに、エンリーカ達は身内でもあるし、隠していて余計不安がらせたくはなかった。

「一度帰って、ソートマス国王の許可を貰わないといけないし、戦争に向けての準備も必要だ」

俺は皆を連れてリアネ城へと帰り、そのままルリアと共にソートマス国王にレオンからの親書を手渡しに行った。


「エルレイ、我が王国を代表し、同盟国の窮地を救って来てくれ」

「はい、承知しました…」

国王は親書を読むなり、俺に戦争に行けと言って来た…。

ある程度予想はしていたが、僅かばかりの戦争に行かなくていいと言って貰えないかと期待していた。

残念ながらその希望は儚く散ったので、リアネ城に戻って準備をする事にした。


準備と言っても、着替えや非常時の食料を用意する程度だ。

着替えはロゼとリゼが用意してくれるし、食料もアドルフが手配してくれる。

俺が行うのは、誰を連れて行くのか決める事だけだ。


「レイちゃん、僕は行っていいよね!」

エレオノラが俺の手を握って懇願して来た。

「エルちゃん」

「レイちゃん」

「「行っていい?」」

そうなれば、双子もついて来ると左右から抱き付いて来る。

しかし、この三人を連れて行く訳にはいかないので、ちゃんと説明して納得して貰わなくてはならない。


「エレオノラ、リディア、ミディアの三人は連れて行けない。

理由は、レオンさんの作戦によると、グリフォンで敵の砦を急襲し補給物資を叩くと言う物だったからだ。

三人は長距離を飛べない上に、グリフォンの速度について行く事が出来ないだろう?」

「「「…」」」

三人は悔しそうな表情をしながらも、素直に頷いてくれた。

「エンリーカ、僕がいない間の仕事をお願いしたいがいいだろうか?」

「分かりましたわ!」

「僕が帰って来るまで、エンリーカと共にリアネ城を守っていてくれ」

「うん、分かった!」

「仕方」

「ないよね」

エレオノラ達の物分かりの良さには救われるな。


一方、物分かりの悪さに定評のあるヘルミーネだが、戦争に参加出来ない事くらいは理解している。

今回一番問題になるのがルリアとリリーなのだが、ついて来る気満々でロゼとリゼに服を用意させている。

取り合えずルリアとリリーは最後にするとして、ヘルミーネ、アルティナ姉さん、ロレーナ、ユーティアにも留守番をお願いした。

「エル、しっかりと頑張って来るのだぞ!」

「エルレイ、お姉ちゃんが守っているから、早く帰って来てね」

「わ、私も着いて行きたかったのじゃが、そ、空を飛べないので我慢するのじゃ…」

「エルレイ、待っていますので早く帰って来てください」

戦力を考えるとロレーナも連れて行きたかったのだが、俺はリゼを連れて行く予定なのでロレーナを運ぶ事は出来ない。

そう言えば俺以外は、ラウラが生み出したという新しい魔法で、複数人を同時に運ぶ事が出来るんだったよな…。

皆何も言わないと言う事は、複数人運べてもそんなに早く飛べたりしないと言う事なのだろうか?

俺がその魔法を使えればその辺りの事も分かったのだろうが、未だにまだ教えて貰っていない。

それが出来ると分かれば、エレオノラ達がついて来ると言いかねないだろうから黙っているのかも知れないな。

さて、ルリアとリリーの前に行き、説得を試みる事にした。


「ついて来るなとは言わないわよね?」

「エルレイさん、私もついて行きます!」

俺が声をかける前に、先手を打って来られた。

二人とも真剣な表情だし、俺が何を言っても絶対について来ると言う意思を感じる。

しかし、俺としては危険な戦争にルリアとリリーを連れて行きたくはない!

アイロス王国との戦争の事を思い出すと、今でも震えがくるほどだ。

過保護だと言われようとも、二人を連れて行く気はない!


「ルリア、リリー、大人しく留守番をしていてくれ!」

「嫌よ!」

「エルレイさん、私も嫌です!」

「駄目だ!ミスクール帝国は今まで以上に危険な国だから、絶対に連れて行けない!」

「危険だから、エルレイを一人で行かせられないのよ!」

「その通りです!エルレイさんにもしも何かあった時に、私が側に居ればすぐに助けてあげられます!」

俺はルリアとリリーと大声で言い争う羽目になってしまった…。

言い争いをしたい訳では無かったが、どうしてもルリアとリリーを危険な戦争に連れて行けないので、ここで俺が折れる訳にはいかない!

暫く言い争いを続けていると、アルティナ姉さんが俺達の間に割って入って来た。


「はい、そこまでよ!

エルレイ、お姉ちゃん達、皆がエルレイの事を心配していて、本当は皆着いて行きたいのだけれど、迷惑になるから我慢しているのよ!

勿論、エルレイがルリアとリリーの事を心配して、連れて行かないと言っている事も良く分かっているわ。

でもね、ルリアとリリーがエルレイの傍に居てくれるだけで、私達は安心してここでエルレイの帰りを待っていられるのよ。

私達の心配を和らげるためにも、ルリアとリリーを連れて行ってあげて頂戴ね」

アルティナ姉さんの言葉に、皆が頷いていた…。

ここまで言われれば、俺も意地を張っている事は出来ないな…。


「分かったよ。ルリア、リリー、一緒について来てくれ」

「ふんっ!最初からそう言いなさい!」

「エルレイさん、ありがとうございます!」

俺も皆から心配されているのだと知り、ルリアとリリーを連れて行く事にした。

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