第二百七十三話 レオンの頼み
「恥ずかしかったけれど…温泉はとても良かったわ」
「私もそう思います」
「うむ、ここの温泉は気に入った!」
ルリア達も気に入った様子で、寝る前にそれぞれ感想を言い合っている。
「ルリア、今後はエルレイと一緒にお風呂に入ってもいいわよね?」
「仕方ないわね…でも、順番は守るのよ!」
「分かってる!みんなー、ルリアが許可してくれたわよ!」
ルリアが渋々ながら許可した事で、俺は今後皆とお風呂に入ることが出来るみたいだ。
今アルティナ姉さんが、皆と相談しながら順番を決めているな。
そうか…一緒にお風呂に入れると思うと、夫婦になったのだという気がしてくるな。
まだ結婚はしていないので夫婦にはなっていないが、ルリア達とはずっと一緒にいるから、そろそろ夫婦だと思ってもいいよな?
今日はまた一歩、皆と親密な関係になれたのだと実感し、幸せな気持ちでぐっすり眠ることが出来た。
翌朝、そんな幸せな気持ちも吹き飛ぶくらいレオンとの訓練で叩きのめされ、朝食後にレオンとマティアスの三人で話し合いをする事となった。
「エルレイ、昨日は楽しんで貰えたか?」
「はい、ここは気を使わずにゆっくり過ごすことが出来ますので、皆満足していました」
「それは良かったぜ、気に入ったのならいつでも来ていいんだぜ!」
「はい、また休みが取れたら伺わせてもらいます」
レオンは俺の返答に満足気に頷いていた。
「私から、エルレイさんに来て貰った理由を説明します」
「はい、お願いします」
マティアスが書類を手にしながら、俺を呼んだ理由を説明し始めた。
「エルレイさんも把握しているかもしれませんが、ミスクール帝国で疫病が発生しました。
疫病が発生した村は壊滅状態となり、ミスクール帝国軍が村を焼却して疫病の鎮静化を図ったみたいです。
幸いにして周囲に疫病は広がっておらず、一応終息したとミスクール帝国は公表しています。
それと、今もその村は帝国軍が周囲を守っており、誰一人として村に入ることが出来ない状況となっております」
疫病の情報はネレイトから知らされていて、村を焼却したと言うt情報以外は把握していた。
疫病に
リリーなら、全員を救ってあげようと努力するだろうし、俺も努力しただろう。
しかしながら、俺とリリーでも病人の治療は一日に数十人程度が限界だろう。
怪我なら数百人はいけるが、病気の治療は魔力と集中力が必要となる為、多くの治療が出来ない。
もし、俺の領地でも疫病が発生した場合、先ずは隔離措置をして感染が広がらない様にしなくてはならない。
村の焼却はやりすぎだと思うが、短期間で抑え込むためには仕方のない事だったのかもしれない…。
「それとミスクール帝国は、リースレイア王国側に帝国軍を移動させています。
これは、疫病が発生した村がリースレイア王国との国境近くだった事が原因だとは思われますが、本当の目的はリースレイア王国の侵攻だと思っています。
理由としては、疫病が発生した村を封鎖するためとはいえ、感染の危険性があるのに大量の軍人が投入されていると言う事です」
「ミスクール帝国とリースレイア王国は、同盟関係だったと記憶していますが?」
「はい、その通りです。ですが、長い歴史の中でミスクール帝国が同盟国に攻め込んだ例は少なくありません。
最初は同盟関係を結び、相手が油断した所で一気に攻め込み滅ぼします。
リースレイア王国も、その事は重々承知しているでしょうから油断はしていないと思いますが、相手は大国ですから本気で攻められれば厳しいかと思います」
「なるほど…」
リースレイア王国とは、ルフトル王国に侵攻してきた際に一度戦っている。
ミスクール帝国がリースレイア王国に侵攻して滅ぼそうと、俺としては関係ない話だな。
でも、まったく関係ない話と言う事でもないか…。
ミスクール帝国がそのまま南下してルフトル王国に攻め込むような事になれば、俺もルフトル王国に協力してミスクール帝国と戦わなくてはならないだろう。
ルフトル王国の人達とも懇意になったし、ロレーナの事もある。
それに、マティアスがその話をしてきたと言う事は、キュロクバーラ王国も対岸の火事では無いと言う事だな。
「そこで、だ、エルレイには一つ頼みたいことがある」
レオンが断らないよな?と言うように鋭い眼光で睨みつけて来た。
レオンには借りがあるし、無茶な頼みでなければ断れないが、素直に頷いていては今後も色々と面倒ごとを頼まれる事になるだろう。
だから、俺もレオンの睨みに負けないように見返してやった。
「内容によります。あまり難しい頼みであれば、ソートマス王国を通して貰う事になりますよ」
「なに、そう難しい事じゃないぜ。ちょっとミスクール帝国まで飛んで行って、疫病が発生した村を見て来て貰いたい!」
「えっ、それは流石に不味いのでは…」
勝手に他国に侵入した挙句、進入禁止の村を見て来いとは…。
「捕まらなければいいだけだぜ!それとも、エルレイは捕まるような間抜けか?」
「いいえ、捕まったりはしませんが…」
「なら問題ないな!頼んだぜ!」
「…はぁ、分かりました。僕も気になってはいますし、調べられなくても文句は言わないでください」
「期待しているぜ!」
レオンに押し切られる形になったけれど、俺としても気になっている事だ。
疫病だとしたら、感染が広まる前に何かしら手を打ちたいと思うし、あわよくばミスクール帝国軍の動きも調べられるかもしれない。
レオンは言及しなかったが、俺に後者を調べて欲しいのだろう。
危険は冒したくは無いし、すぐに逃げられるよう一人で行ってこようと思う。
「一人で行かせられるわけないでしょ!」
「はい…」
ルリア達に、疫病の事は伏せてミスクール帝国まで行って来る事を伝えたのだが、皆から怒られる事になってしまった…。
「でも、何があるか分からない所だし、一人の方が逃げやすいからさ…」
「駄目よ!私もついて行くわ!」
「レイちゃん、僕もついて行きたい!」
ルリアとエレオノラがついて来ると言い張っているが、その二人を連れて行く訳にはいかない。
「ロゼ、ついて来てくれ!」
「はい、承知しました!」
仕方が無いので、飛行魔法が使えるロゼを一緒に連れて行く事にしたのだが、何時も連れて行くリゼが自分では無かったのだと落胆していた。
「皆は俺とロゼが帰って来るまで、ここで待っていてくれ」
「…仕方ないわね」
「うー、僕も行きたかった…」
エレオノラは行けなかったと拗ねているが、危険な場所にレオンの娘を連れて行けるはずも無い。
あ、でも、レオンなら普通に行って来いとか言いそうだな…。
エレオノラがレオンにお願いしに行く前に、さっさと出かけた方が良いみたいだ。
ロゼを連れてマティアスの所に行き、ミスクール帝国の地図を見せて貰う事にした。
「恐らく、疫病が出た村はこの辺りのはずです」
「本当にリースレイア王国の国境付近ですね」
「はい、ですので十分気を付けて行って来て下さい」
「分かりました」
「それから、発見されても分からない様に衣装を用意しました」
マティアスから手渡された衣装は、真っ黒の上下に頭巾まで用意されていて、間違いなく忍者が着る服だな。
昼間だと逆に目立ちそうだが、顔が見られなければそれで構わないか…。
俺とロゼはさっそく忍者衣装に着替え、出発の準備が整った。
「マティアスさん、行ってきます」
「はい、お気を付けて行って来て下さい」
俺はロゼを抱きかかえ、ミスクール帝国に向けて飛び立っていった。
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