第二百七十一話 忙しい日々

パーティーは無事に終わり、ヴィヴィス男爵と要望を採用された者達には好みの女性を選んでもらい、笑顔で帰って行ってもらった。

しかし、不採用の者達には何も与えず、落胆して帰ってもらった。

これが、ネレイトが言う引き締めに繋がるのだそうだけれど、ちょっと可哀そうな事をしたは思う。

だけど、皆に頑張って貰わないと、俺だけ頑張る事になってしまうからな…。

それは嫌だし、彼らには頑張って領地を繫栄させる努力をして貰いたいと思う。


俺は嫌々ながらも、お金になるのでポメライム公爵領側の街道整備を行った。

しかし、俺とラノフェリア公爵にとっても悪い事ではない。

ソートマス王国内が俺が作った街道で繫がった事で移動が楽になり、物流の活性化が図れた。

俺の領地にも、今以上に人とお金が流れて来るのは間違いない。


「エルレイ様、次はアミュー男爵領における、土地の区画整理をお願いします」

街道整備が終われば、貴族達からの要望に沿う形での土木作業に明け暮れていて、ルリア達との仲を進展させる暇もない…。

夜になればリアネ城に帰って話す時間は取れるが、その時は皆いるから誰かと二人きりの時間を作る事は出来ない。

唯一二人きりになれるのはベッドで寝る時だが、俺も疲れているし、少し会話した程度で寝てしまっている…。

これではいけないなと思いつつも、仕事を休む事は出来ない。

春が訪れる前に、終わらせておかなくてはならない案件が多いからな…。


そして春が訪れ、俺の作業も一通り終えた頃に、第二回武闘大会が開催された。

俺は闘技場の改装を少しやっただけで、後はアドルフに任せっきりだったが、皆が頑張ってくれたお陰で無事開催される事が出来た。

参加者が減るかとも思ったがそんな事は無く、締め切り前に参加枠は埋まってしまったそうだ。

春になって農作業が忙しくなるので観客も減るのではと危惧していたが、ほぼ満席状態だな。

これは、街道整備を行った成果だと思いたい。

来客の貴族達は俺の領外からも来てくれていて、挨拶が大変だった…。

今回はイクセル第二王子に加えて、ヴィクトル第一王子も来てくれた。

送迎は俺がやり、観戦中の警護も行わないといけないので大変だったがな…。

国王も来たがっていたそうだが、それは流石に止められたらしい…。


武闘大会自体は、新たな勝利者が出て盛り上がりを見せていた。

今回俺の関係者は出場していなかったし、前回優勝していたカールハインツも出場していなかった。

エレオノラが参加したがっていたが、刃を潰した武器を使用しないといけないと知り、それではつまらないからと諦めていた。

エレオノラが出ていたら優勝間違いなかっただろうし、また偽名を使って出場させたり護衛のメイドを出場させなくてはならなくなるので、諦めてくれて本当に良かったと思う。


「エルレイ様、子供の教育草案となります」

武闘大会が終わって、普段の生活を取り戻せた頃、アドルフが教育草案を提出して来た。

忙しい中、草案をまとめてくれた事に感謝しつつ、目を通して行った。

草案内容は以下の通りだ。


先ず、今ある貴族街を貴族用と平民用の二つの区画に分け、教育場所もそれぞれに作り貴族と平民を完全に分ける。

俺としては貴族と平民は同じ所で良いと思っていたのだが、安全面の問題で分けなければならないと強調して書かれていた。

でも、ラウニスカ王国から逃れた能力者が何処にいるかも分からない状況だし、子供を狙うのであれば能力者以外でも簡単に出来る事だろう。

子供の安全を考えれば、分けることが正しいのだと理解できた。

でも、効率は悪くなってしまうよな…。

最初は分けるしか無いが、将来的には一つに出来ないか考えて行けばいい事だな。

剣術を教える場所も、同じ理由で貴族用と平民用に分かれている。

平民用の場所は、子供だけではなく大人も剣術を習う事が出来る。

希望者がいるかは分からないが、武闘大会に出場したいと思う者や、敗北して腕を上げたいと思う者が通って来るかも知れない。

子供は無料で受けられるが、大人は有料となる。

そんなに高い金額を設定する予定にはなっていないが、有料だと大人が来るかは微妙だと思う。

まぁ、元々子供に教える為の施設であって、金儲けが目的ではないので問題は無い。

教育施設の建設と運営費は全額俺の負担となるが、建物はある物を有効活用するので改修費用がかかる程度で済むし、運営費もそこまで大きくはない。

問題は、教員の確保だな…。

貴族の子供を教える教員は直ぐに見つかりそうだが、平民の子供を教える教員が見つからないそうだ。

理由としては、そもそも平民に子供を教えられるほどの教養を持った者がいないのと、教養を持った貴族出の者達が平民の子供に教えたがらないという事らしい。


「給料を上げても駄目なのか?」

「はい、難しいかも知れません」

孤児院で働いている者達は全て平民出の者達らしく、身分差というのがいかに大きい事なのかを思い知らされた気がする。

「このまま進めてくれ」

「畏まりました」

まだ最終決定ではないし、教員の確保をどうするのかという問題もこれから解決して行かなくてはならない。

シンシア達のお腹は大きくなってきていて、もうすぐ赤ちゃんが産まれてくるだろう。

育児期間の交代要員は確保できているし、子供が育つ数年後までに教育の場を作れれば良いだろうと思う。


俺は久々に休日が取れたので、皆を連れてキュロクバーラ王国へとやって来た。

「綺麗な所ね!」

「いい所です」

「変わった建物だな」

「エンリーカから話は聞いていたけれど、想像していたより美しい所だわ」

「す、素晴らしい所じゃ!」

皆は日本風の建物に興味を引かれて、エンリーカ達に色々と聞いていた。

エンリーカ達も自慢げに説明していて、楽しそうにしている。

キュロクバーラ王国に来た理由は、エンリーカ達の里帰りとレオンに会う事だ。

マティアスとは定期的に念話で連絡を取っていて、ラウニスカ王国の掌握が完了したのも知らされていた。

それで、レオンから一度遊びに来いと呼び出されて来たと言う事だ。

レオンとしては、娘達が上手くやっているか心配しての事だろう。

本当は、レオンが俺の所に来ると言う事になりかけたが、キュロクバーラ国王がソートマス王国内に来る事には色々と制約があると、アドルフに言われたからな。

よく考えれば、一国の王が他国に来るのであれば、先ずはその国の王に会いに行かなければならないだろう。

俺としても、国王を無視して他国の王を自領に招いたとなれば、王国に反旗を翻す予兆化ととらえられても文句は言えない。

俺が行く分には問題が無いのかとも思ったが、ルフトル王国にも行っているし今更だな…。

それに、空間転移魔法で行っているので、俺が言わない限り訪問した事を悟られる事は無い。

と言う事で、俺の方からレオンに会いに来たと言う事だ。


「エルレイ、元気そうだな!」

「レオンさんこそ、お元気そうで何よりです」

レオンと屋敷の広間で面会すると、レオンは俺に近寄って来て肩を叩きながら挨拶して来た。

ルリア達は突然の出来事に驚愕しているな。

普通は国王が気軽に挨拶して来るとは思わないよな…。

ソートマスの国王がこんな態度で挨拶して来たら、気が触れたのかと思ってしまうだろう。

これがこの国の普通なのだと、ルリア達もここで過ごすうちに分かるはずだ。


「エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアも元気にしていたか?」

「「「「はい、親父様!」」」」

レオンはエンリーカ達の頭を一人ずつ撫でながら、元気に帰って来てくれたと喜んでいた。

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