第二百六十九話 エレオノラ、リディア、ミディア

≪エレオノラ視点≫

エルレイの妻に成る為に、エンリーカ、リディア、ミディアとソートマス王国のエルレイの住む城にやって来たんだけど…。

「レイちゃんとは、まだ結婚できないの?」

「うん、僕が成人するまで婚約と言う形になるね」

「そっか、残念だけれど仕方ないね」

エルレイとの子供を早く作りたかったけれど、それはまだ出来ないみたいだね。

となれば、親父様に言われた通り、他の妻達と仲良くならなくてはならないね!

全員と仲良くなるのが理想だけれど、僕はそんなに器用じゃないんだよね。

だから、まずはこの中で一番強い人と仲良くなることにした。


歩き方からみて、強そうなのはルリア、ロゼ、リゼの三人だけだね。

ロゼとリゼは双子で、親父様がリゼは能力者だと言っていたから当然ロゼも能力者だよね。

能力者とは戦うのは僕の役目じゃないから、ルリアと勝負だね!


「ルリちゃん、僕と勝負をしよう!」

「勝負するのはいいけれど、ルリちゃんは止めて貰えないかしら?」

「僕に勝ったら止めてあげるよ!」

「そう、では手加減しないわよ!」

「望むところだよ!」

こうして僕はルリアと勝負する事になった。


「変った構え方ね?」

「うん、抜刀術と言って、こうやって鞘から抜きながら斬る剣術だよ!」

僕は戦いの前にルリアに抜刀術を見せてあげた。

「それ、私に見せてよかったのかしら?」

「騙し討ちをするのは嫌いだからね!」

そして、僕とルリアの戦いが始まった!

僕は抜刀術だけでは無く、一通りの剣術も習得している。

だから、ルリアの使う剣術も知っていて、次にどんな攻撃を仕掛けて来るか分かっていたはずなんだけどね…。

ルリアは僕の抜刀術を華麗に受け流し、そのまま反撃を加えて来る。

僕もそれに合わせて反撃を試みようとしたのだけれど、ルリアは足や手や体まで使って僕を崩しにかかって来た。

リディアとミディアが使う武術と似ているけれど、やってることは全く違っていた。

僕は結局、最後までルリアの使う剣術に翻弄され続けて負けてしまった。


「約束通り、ルリちゃんは止めて貰うわよ!」

「分かった。ルリ姉様!これからよろしくね!」

「エレオノラの方が年上よね?」

「でも、僕に勝ったのだからルリ姉様と呼ばせてよ!」

「はぁ、分かったわ。エレオノラ、よろしくね」

僕はルリアと握手を交わし、仲良くなることが出来た。

一番強いルリアの側にいれば、リリー、アルティナ、ロレーナ、ユーティア、エルミーヌとも仲良くなることが出来た。

ヘルミーネとラウラとはあまり話せてはいないけれど、エンリーカが仲良くなったみたいだから、そのうち僕とも仲良くなることが出来るよね。

ロゼとリゼはリディアとミディアが同じ双子同士仲良くなったみたいだから、これで親父様の言う通りに出来たと思う。

難しい事はエンリーカに任せて、僕が出来る事を頑張って行こうと思う。


≪リディア、ミディア視点≫

私達は生まれた時からずっと一緒で、離れた事はほとんどなかった。

その理由としては、二人で意思の疎通が出来、おぼろげながらお互いの五感も感じ取ることが出来る。

もし、離れていた時に転んだりしたら、もう一人の方にも痛みが伝わってしまう。

視覚は注視してないと見ることは出来ないから良いのだけれど、突然伝わってくる痛みには驚かされる。

だから、私達はいつも一緒。

そんな私達が、親父様からエルレイの嫁候補として選ばれた。


『ミディア』

『なに?リディア』

『私達が選ばれたって事は、親父様は最初から四人をエルレイの嫁にするって事かな?』

『そう思う。エンリーカは街の管理で一番、エレオノラは抜刀術で一番、私達は忍びで一番』

『と言う事は、エルレイとの勝負に負けないといけない?』

『ううん、エルレイの実力を見るためには全力で勝ちに行かないといけない』

『じゃぁいつも通り』

エレオノラが負けちゃったのは予想外だったけれど、エルレイの実力は分かった。


『始めてやった将棋で、あれだけ戦えれば十分だよね?』

『エンリーカも途中から本気を出していた』

『私達も捕まりそうだったね』

『一人だったら捕まっていたかもね』

エルレイは私達が逃げる先を先読みして追いかけて来ていて、二人で混乱させていなければ捕まっていたと思う。

この後、エルレイの魔法を見せて貰ったけれど、話に聞いていた以上の凄さで驚いた。

それに、リゼが使った魔法にもさらに驚かされた。

私達が二人でその事を親父様に報告にしに行くと、親父様が真剣な表情で私達に任務を与えてくれた。


「リディア、ミディア、お前達にはエンリーカとエレオノラとは違った任務を与える。

エルレイの妻が使った魔法も普通では無いのは分かるな?」

私達は無言で頷く。

「つまり、だ、エルレイの魔法技術は他人に伝えることが出来る。

これがどれだけ危険な事なのか、説明するまでも無いな。

リディアとミディアはエルレイの嫁となり、その魔法技術が外に漏れ出ない様にしろ!」

「「はい」」

「偉大な英雄は、子孫を残さなかったと伝えられている。

その為、英雄の持つ技術もほとんどが伝えられず、残された魔道具や俺の所のグリフォン等、少ない技術のみ受け継がれて来た。

しかし、エルレイは違う。

今後多くの子孫を残し、魔法技術を伝えていくだろう。

俺も初めはその技術を奪おうと考えたが、その考えは危険だと直ぐに考えを変えた。

エルレイを敵に回すより、味方になっていた方が利口だ。

キュロクバーラ王国を守るために、リディアとミディアはエルレイの味方となり守り続けて行ってくれ!」

「「親父様、その任務承りました」」

親父様は大きく頷き、私達の頭を撫でてくれた。


私達は、エルレイが住むリアネ城へとやって来た。

『ロゼとリゼ私達と同じ』

『でも、感覚までは共有出来ないみたい』

『羨ましい?』

『ううん、私達は特別だったことが嬉しい』

『うん、そうだね』

私達は同じ双子だと言う事で、ロゼとリゼとはすぐに仲良くなれた。

それに、エルレイを守るという事を共有出来た事は大きかった。


「ロゼ、エルレイを守るために調理場に行きたい」

「何故でしょう?」

「毒殺は一番簡単で、よく用いられるから」

「分かりました。そのままの服装では入れませんので、メイド服をご用意いたします」

「「ありがとう」」

私達はメイド服を用意して貰い、調理場を訪れた。

建前としては、ここの料理を覚える事。

本音は毒殺を未然に防ぐ事。

ロゼの説明によれば、エルレイを毒殺しようとしても、自分で治療できるだろうと言う事だった。

でも、危険は少ない方が良いし、毒によっては意識をすぐに失う物もあるから、治療できずに死ぬことだってあるかも知れない。

調理人達は全員信頼のおける者達しか雇っていないと言うけれど、絶対では無い事を私達は教えられて来た。


誰であろうと、自分が一番大切で可愛いものだ。

例えば、お金を沢山やると言われればなびく人もいるだろう。

家族を人質に取られれば、やむを得ず毒を盛る事もあるだろう。

それを未然に防ぐには、日頃から調理人達の顔色を見ていなくては判断できない。

最初は遠慮して近寄って来たくれなかった料理人達も、私達が毎日顔を出す事で近寄ってきて話をしてくれるようになった。

これで、怪しい気配や動きを把握できるようになった。


『夜は守らなくていいみたいだけれど、どうする?』

『うーん、レイちゃんが障壁を張って守っているし、ロゼとリゼも信頼しきっているから良いのかな?』

『でも、一応数日様子を見る?』

『そうしよう』

寝ている時が一番襲われやすい。

リアネ城には屋根裏が無いから襲って来るなら窓か廊下側になるんだけど、エルレイが魔法で誰も入って来れないようにしている。

使用人達の中にも怪しい者は確認出来なかったし、エルレイの障壁を破れるのは親父様くらい?

エレオノラが試しに斬っていたけれど、駄目だった。

エレオノラが慕っているルリアは、持っている魔剣で斬り裂いていたけれど、あれは例外だとエルレイが苦笑いしながら言っていた。

『大丈夫そうだね』

『うん、ゆっくり寝られるね』

ここに来て一番良かったのは、夜安心して眠られると言う事。

実家にいた事は、訓練として寝ていても襲われたりしたので、熟睡した事なんて無かった。

だけど、エルレイと一緒に寝る事になった時だけ、一晩中眠れなかった。


『寝顔可愛いね』

『うん、可愛い。触ったら駄目かな?』

『いいと思う。二人で触ろう!』

『早くエルレイの赤ちゃん欲しいね』

『そうだね。双子だといいね』

『うん、二人とも双子を産めたらいいね』

『そうだね、頑張ろう』

私達の間で寝ているエルレイを目が覚めない程度に触ったり、撫でたり、抱きしめたりしながら、将来産まれて来る赤ちゃんの事を夜が明けるまで語り合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る