第二百六十八話 エンリーカ

≪エンリーカ視点≫

私は、キュロクバーラ王国の国王である親父様の娘ですわ。

この国は他の国とは何もかも違っておりますわ。

キュロクバーラ王国の王都コルビーノがある場所は、周囲の地域から完全に孤立しており、グリフォンに乗ってくるか魔法で飛んで来るしか入って来る事が出来ませんわ。

険しい山を乗り越えて来れない事もありませんが、ここ数百年そう言う物好きな人が来た事はありませんわ。

そもそも、そういう人が来ようとしていた場合は、侵入者の監視を行っている所で排除される事になっていますわ。

なので、コルビーノに住んでいれば非常に安全ですわ。

しかし、私達親父様の子供は、成人すれば一度は外の世界に出て行かなくてはなりませんわ。

なので、日頃から外の世界の事を勉強し、その日に備えておりますわ。

私もそろそろ成人ですので、外に出る準備として様々な事を勉強しておりましたわ。

そんな折、ラウニスカ王国との戦争が開始されましたわ。

開戦前に親父様から受けた説明では、ラウニスカ王国との戦争では勝つ事が目的ではなく、ソートマス王国にいる魔法使いとの協力関係を結ぶ事だと教えられましたわ。

アイロス王国を一人で滅ぼしたと言われている、恐ろしい魔法使いだと噂で聞いておりましたわ。

そんな恐ろしい魔法使いと協力関係が築けるのか?という疑問は皆思ったはずですわ。

ですが、親父様がそう言うのですから、きっとうまく協力できるようになるはずですわ。

そして親父様の目論見通り魔法使いの協力を得て、ラウニスカ王国に勝利したとの知らせが届きましたわ。

それから数日後、戦争に行っていた親父様が返って来ましたわ。

親父様は、私達家族全員を集めて話をなさいましたわ。


「ラウニスカ国王は倒したが、まだ戦争が完全に終わった訳では無い。

引き続き前線では戦いが続き、亡くなる者もいるだろう。

俺の息子達も犠牲となった。

それでもこの戦争をした甲斐があり、ソートマス王国の魔法使いと信頼関係を気付けたのは大きい!

理由はは皆も知っての通り、不気味に戦力増強を行っている北のミスクール帝国との戦いに備える為だ。

あの帝国が本格的に攻め込んで来れば、この地も安全とは言えない!

それを阻止するために、ソートマス王国の魔法使いの力が必要だ!」

親父様はそこで一息つき、私達の顔を一人一人じっくりと眺めながら名前を呼んで行きましたわ。


「エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディア」

「「「「はい、親父様」」」」

「お前達四人の内一人だけ、魔法使いの嫁としてソートマス王国に行って貰うぞ!」

「「「「はい、分かりました」」」」

「他に魔法使いの所に行きたい者がいれば、代わっても構わん。

それで、だ、決め方はお前達に任せる。好きな様にすると良いぜ!

ただし、魔法使いの妻には絶対に逆らうな!

あれは、能力者の上に恐ろしい魔法も使う。

恐らく、魔法使いの護衛としてついて来ているのだろうから、不用意に刺激するようなことは慎め!」


親父様はそう告げ、魔法使いが来るのを待つ事になりましたわ。

そうして現れた魔法使いですが、私より年下の上に普通の顔をしておりますわ…。

恐ろしい魔法使いと言う事でしたので、もっと表情も厳しい人かと想像しておりましたわ。

声変わりもしておらず可愛らしい声でしたし、全く強そうではありませんわ…。

親父様のおっしゃった通り、隣に座る妻は周囲を注視し、何かあれば魔法使いを守れる様にと気を張っておりますわ。


予定通り私、エレオノラ、リディア、ミディアの四人が残ったのですが、私達の護衛をしているミリアの存在に気付かれたのには驚かされましたわ。

一番驚愕しているのは、発見されたミリアなのは間違いありませんわ。

私達でもミリアの存在を確認する事は不可能ですわ…。

嫁を決める方法は、やはり実力を見る事が一番ですわ。

それで、エレオノラが一番最初に勝負を挑んだのですが、まさかエレオノラの抜刀術を踏み込んで体で受け止めるとは思いませんでしたわ!

少しでも遅ければ、体が真っ二つになっていても不思議ではありませんのに!

エレオノラの腕前ならば、その前に剣を止められてはいたのでしょうけれど、それを知らずに踏み込める勇気は賞賛できるものですわ!

少しだけ興味が湧いてきましたわ!

しかし、頭脳では私が勝利いたしましたし、リディアとミディアを真っすぐに追いかける間抜けさには、少し笑えて来ましたわ。

ですが、魔法を見て心変わりしましたわ!

恐ろしい魔法使いと聞いておりましたが、グリフォンより凄い魔法を使うとは思ってもみませんでしたわ!

一人でアイロス王国を滅ぼしたと言うのにも、納得しましたわ…。

そして、四人で嫁の座を争う事になったのですが…妻を怒らせてしまいましたわ…。

一瞬で私達四人の足を氷で固められるとは…もし、魔法使いを攻撃していたのであれば、全身を凍らせられたのではないかと肝を冷やしましたわ。

そして、私達は親父様にお願し、四人共魔法使いの嫁して貰う事を許可して貰いましたわ。


翌日、私達四人は親父様に呼び出されましたわ。

「いいか、エルレイとは仲良くするんだぞ!

それと、エルレイの妻達とも仲良くし、敵対する様な事は決してするな!」

「「「はい!」」」」

「お前達が仲良くし信頼関係を築く事は、キュロクバーラ王国の安泰にもつながる。

どんなに苦しかろうと、帰って来る事は許さぬ!

四人で協力し合い、エルレイの妻として頑張ってくれ!

最後に、これは確証が取れた情報では無いが、エルレイは他人を魔法使いに出来ると言う噂がある。

エルレイと親密になれれば、魔法を教えて貰えるかもしれないぜ!」

「親父様、エルさんと親密な仲となり、その秘密を聞き出して親父様にお伝えすればよろしいのですわね!」

「馬鹿!逆だ逆!仮にそうだったとしても、決してその情報を外に洩らすような事はするな!

それと、他の妻の中にその情報を漏らすような奴がいたとしたら必ず阻止しろ!

当然、俺にも決して伝えるな!

それは、お前達に子供が出来たとしても同じ事だ!

仮にだ、俺がその情報を知ったとすればお前達が真っ先に疑われるし、俺もエルレイと敵対する事になってしまう!

エルレイと敵対する事が愚かな事は、魔法を見たお前達なら分かるはずだ!」

「はい、親父様申し訳ございませんでしたわ!」

「分かればいいんだ。最後にお前達を抱きしめさせてくれ」

「「「「はい」」」」

親父様は、一人ずつ時間を使って私達を抱きしめてくださいましたわ。

これが最後の別れだと思うと、涙があふれてきましたわ…。

親父様は何も言わずに、私達の涙をぬぐって下さいましたわ…。


そして私達は皆に見送られながら、エルさんの魔法で見知らぬ地に一瞬で移動しましたわ!

事前に説明されておりましたが、実際に体験するまで信じ切れておりませんでしたわ。

改めて、エルさんの凄さを再認識させられましたわ。

ですが、エルレイの妻ルリアに殴られ、尻に敷かれている姿を見て普通の人なのだと安心しましたし、他の皆さんも優しくすぐに仲良くする事が出来て安心しましたわ。

ただし、一人だけ私とは気が合わない人がおりましたわ。

ソートマス王国の王女ヘルミーネ、あの方とだけは上手くやって行けそうにありませんわ。

ですが、親父様に言われましたし、仲良くなれるよう努力しないといけませんわ!


「ミーネさん、ドレスを着て見ましたのですけど、変になって無いか見てくださいませんか?」

「むっ、そんなのラウラに見て貰えばいいだろ!ラウラ!リーカのドレスを見てやってくれ!」

この様に話しかけても、いつもラウラさんを呼びつけ会話が続きませんわ。

私が困っていると、アルティナが助言してくださいましたわ。

「ヘルミーネと仲良くなるのに困っている様ね?」

「はい…ティナさん、どうすれば仲良くなれるのでしょうか?」

「お菓子を持って行って一緒に食べるとか、後は褒めてあげるのが一番いいわね!

ほら、リアネ城の玄関に飾ってある竜の石像があったでしょう。あれはヘルミーネが作った物だから褒めるととても喜んでくれるわよ!」

「そうですか、ティナさん、ありがとうございますわ!」

さっそく、アルティナの言う通り、お菓子を用意してヘルミーネの所に行きましたわ。


「そうであろう!そうであろう!リーカにも何か作ってやるぞ!」

「それは嬉しいですわ。手の平に乗るくらいの可愛い動物なんか欲しいですわ」

「そんな小さいのでいいのか?」

「はい、大きくても置く場所に困ってしまいますわ」

「そうだな!では早速作りに行こう!」

ヘルミーネは私の手を取り、外へと連れ出してさっそく可愛らしい動物の石造を作ってくださいましたわ。

「ミーネさん、ありがとうございます。大事にさせて貰いますわ!」

「うむ、気に行って貰えたのならよかった!」

ヘルミーネは満面の笑みを浮かべてくださっておりましたわ。

ヘルミーネともこれで仲良くなれましたし、アルティナには感謝しなくてはなりませんわ。

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