第二百六十四話 公爵のお仕事

俺はまだ、城内にあるラノフェリア公爵の執務室内のソファーにルリアと一緒に座っていた。

正面にはラノフェリア公爵とネレイトが座っていて、これから俺とルリアに公爵の仕事について講義をしてくれるそうだ。

やはり公爵ともなれば、色々の仕事が増えて面倒なのだと、俺を公爵にした国王を呪いたくなってしまった…。

受けてしまったのは俺だし、今更文句を言ってもどうにもならないので、真面目に話を聞こうと思う。


「エルレイ君は、今までは私の傘下であったが、今日からは対等な立場となった。

故に、今までの様に表立ってエルレイ君を手伝う事が出来なくなる。

これからは、エルレイ君が全て自分でやらなくてはならない。

とは言え、何も知らないエルレイ君を放置する事はしないので安心して欲しい。

暫くは、ネレイトをエルレイ君につけるので、詳しい話はネレイトから聞いてくれ」

「はい、分かりました。ネレイト兄さん、よろしくお願いします」

「よろしくね。じゃぁ先ずは先に部屋を移動しようか!」

ネレイトはそう言って立ち上がり、俺とルリアはラノフェリア公爵に別れを告げてネレイトに続いて部屋を出て行った。

ネレイトは二つ先の扉の前で立ち止まった。


「ここがエルレイに与えられた部屋だよ」

ネレイトはそう言うと、扉を開けて俺とルリアを部屋の中へ入るように促して来た。

部屋の中はラノフェリア公爵の執務室と似ていて幾つも机が置かれていて、そこには既に二十人の役人と思われる人達が仕事をしていた。

ネレイトは俺とルリアを連れてその中を通って行き、奥にあるソファーに座った。


「さて、公爵としての仕事を説明しよう」

ネレイトはそう言って、俺に仕事の説明を始めてくれた。

ネレイトの説明によると、公爵としての仕事は大まかに言って三つ。


一つ目は、お城に来て国王の意向を聞き、それを実現させるために行動しなくてはならない。

勿論、気に入らない意向であれば従う必要はないらしい。

実行するために、配下の貴族に指示を出さなければならない事もある。

それは、年に一、二回あるかないか位なので、今は気にする必要はないとの事。

でも、月に一度くらいは国王に会いに行って、話しをしなくてはならないそうだ…。

面倒ではあるが、余程の理由が無い限り毎月一度は会いに行くようにと、きつく言われた。


二つ目は、お城で働く役人を雇わなくてはならない。

今この部屋で働いている二十人の役人は、ラノフェリア公爵が用意してくれたみたいだが、お金は俺の所から出ているらしい…。

俺は知らなかったのだが、王都にはすでに俺の屋敷が用意されていて、この二十人の役人はそこに住み、毎日お城に通って来ていると言う事だ。

つまり、俺がキュロクバーラ王国に行った時から公爵になる事が決まっており、準備を整えていたとの事らしい。

アドルフには知らせてお金を出して貰っていた様だが、俺には黙っておくようにと厳命していたそうだ。

「まだ全然少ないから、これから人数を増やして行ってね」

「はい…」

何故、役人を公爵が雇って働かせないといけないかと言うと、国王が暴走するのを防ぐ手段らしい。

過去に贅沢三昧をしまくり、財政破綻を起こした国王がいたらしく、国王にお金を自由に使わせないようにする為に、役人を公爵家で雇う様になったそうだ。

公爵家が同じような事をしないのかと思ったが、そこは三家で雇い入れているので、そうなった事は無いらしい。

これからは俺が入り四家になる事から、余程の事が無い限り王国の金を自由に使う事は出来なると言う事だ。


お城で働く役人を雇っている割合は、ポメライム公爵が五割、ラノフェリア公爵が四割、レーメウス公爵が一割。

そこに俺が入って行く事になるが、当面は俺が一割程度持てばいいそうだ。

将来的には、ポメライム公爵、ラノフェリア公爵、俺の三家で三割ずつ受け持ち、レーメウス公爵が一割となるのが理想らしい。

つまり、ラノフェリア公爵と俺を合わせて六割にし、俺達に有利な政策を行いたいと言う事だな。

レーメウス公爵の受け持つ割合が少ないのは王家に近いからと言う理由らしいが、本当は領地も従えている貴族も少なく、お金を持っていないかららしい。

当然、お城での発言力も無いそうだ。


国王は何も出来ないのかと思ったが、最終決定権は持っているそうだ。

それと、お城で働く近衛兵と使用人は国王が直接雇っていて、軍も国王の直轄になる。

「公爵家が暴走しようとした場合は、軍を使い止めに来るから注意してね…でも、エルレイなら返り討ちにしちゃうね!」

「いや、暴走なんてしませんから…」

ネレイトは笑いながらそう言ったが、俺の後の代になればどうなるかは分からないな…。

子供達の教育はしっかりと行う様にしようと思う!


三つ目は、国中から集まる情報を調べ、必要であれば傘下の貴族に伝えなければならない。

父もそうであったように、領地を治める貴族達は忙しく、年に数回ほどしか王都に来る機会は無い。

その為、様々な情報を仕入れて伝えなければならない。

例えば、疫病が発生した場合は、周囲に広がらせない為にも情報を素早く伝える必要がある。

また、何処かで不作や災害が起これば、支援を行う必要が出て来るだろう。

今回、難民が押し寄せてきた情報も、いち早く伝えて対処に当たらなければ混乱していた事だろう。

何にしても、定期的にお城に通って来ないといけなくなったのは間違いない…。


通うと言えば、イクセル第二王子が言っていたお城に直接転移して来る場所だが、許可が下りなかったそうだ。

不便ではあるが、こればかりは仕方がない。

でも、俺の屋敷が王都にあるのであれば、いちいちラノフェリア公爵家の執事ヴァイスさんに連絡する必要が無くなるのはありがたい。


「まだ細かい所があるけれど、とりあえずこんな所かな」

「あ、ありがとうございます…」

ネレイトから説明を受け終わり、俺は早くも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった…。

このままルリアを連れて、どこか遠くに行ってしまいたい。

いいや、皆も連れて行かなくてはならないな…。

何処が良いだろう?

ルフトル王国なんかいいな。

あそこの結界内なら外から干渉される事は無いし、誰にも見つかる事は無い。

結界内で畑を貰って、皆で野菜を作って暮らして行ければいいな…。

そんな現実逃避をしていると、ルリアの大声で現実に引き戻された!


「エルレイ!ぼーっとしていないで、しっかりしなさい!」

「あ、う、うん。ルリア何かな?」

「私ではなくそっちよ!」

ルリアが指さした方を見ると、男性が一人緊張した面持ちで直立不動のまま俺の横に立っていた。

「エルレイ、彼の名はインリート。エルレイが雇った役人の代表者だ」

「は、初めまして!アリクレット公爵様!わ、私がアリクレット公爵様がお雇いになる役人の取りまとめ役をさせて頂く事になりました、インリートと申します!

な、何卒よろしくお願いいたします!」

「あー、うん、よろしく。そんなに緊張しなくていいからな」

「は、はい!」

挨拶をしてきたインリートは、非常に真面目そうな青年と言った印象だ。

「彼は若いけれど、仕事はきっちり出来るので安心していいよ」

「そうなのですね。所でネレイト兄さん、インリートは代表者だと言う事でしたが、僕から何かする必要があるのですか?」

「いいや、特に無いよ、彼は城で集めた情報をエルレイに伝えてくれるのが仕事なんだよ。

これから長い付き合いになるので挨拶をさせただけなんだけど、そんなに緊張してたらエルレイが心配するのも無理は無いよね…」

「は、はい、緊張しない様努力いたします!」

ネレイトと俺は苦笑いをしながら、未だに直立不動で緊張しているインリートを見続けていた。

遠慮なく接して貰いたいと思うが、慣れて貰うのを待つしかなさそうだな…。


「さて、エルレイ、ルリア、出かけようか」

「はい、ネレイト兄様」

「えっ、まだどこか行くのですか?」

「公爵になったのだから、王族たちに挨拶に行かないとね!」

「は、はい…」

俺とルリアはネレイトに連れられて、城内から後宮まで挨拶をし続ける事となった…。

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