第二百六十三話 エルレイ公爵

エリオット達は、それぞれに合った場所で働く事が決まった様で、アンナとエレンは、ルリア達のお世話を任されたみたいだ。

エンリーカ達が来たので、お世話をするメイドの数が足りなくなっていたから丁度良かった。

と言っても、エンリーカ達はドレスを着る事以外は何でも自分で出来るし、普段は動きやすいからと袴姿なんだよな。

特に問題は無いし、好きな物を着て過ごすのが一番だと思う。

マリーだけが、ロレーナ付きのメイドになった。

理由としては、ルフトル王国の王女がお付きのメイドがいないのが不自然だと言う事だった。

それならばエンリーカ達も同じだと思うし、アルティナ姉さんにもお付きのメイドがいないので付けた方が良いのではないかと提案した。


「お姉ちゃんは、エルレイさえいればいいからいらないのよ!」

意味不明な事を言われて断られたが、アルティナ姉さんが不要だと言うのであれば無理に付ける必要は無いのか?

同じく、エンリーカ達も不要だと言って来た。

必要になったら言って来るだろうし、しばらく様子見だな。

ともあれ、誰も漏れる事無く、エリオット全員が無事に正式採用されたのは本当に良かったと思う。


色々な事が一段落したと言う事で、国王から呼び出しがかかって来た。

以前から呼ばれていたのだが、難民問題が片付くまで待って貰っていたんだよな…。

呼び出された理由は、キュロクバーラ王国に行って戦争を終結させたご褒美が貰えると言う事だ。

ご褒美の内容は知らされてないが、難民問題でお金を使い果たしたので、お金を頂けるのが一番嬉しいと思う。

ソートマス王国はキュロクバーラ王国からお金をかなり貰っているはずなので、今は余裕があるはずだ。

なので、お金を貰いたいのだが、国王に直接ねだるのは気が引けると言うより、礼儀に反するかもしれない…。

ラノフェリア公爵を通して言って貰えれば、何とかなるのかな?

お城には一緒に行くのだし、それとなく話してみる事にしようと思う。


お城に向かう際、今回もルリアが着いて来てくれた。

ルリアと二人きりなら話も出来て良かったのだが、ラノフェリア公爵とネレイトが一緒ではそうはいかない。

ネレイトは、キュロクバーラ王国での出来事を色々と聞いて来るし、ルリアと話を出来る雰囲気ではないんだよな。

ルリアとキスをして以降何も進展していないし、二人きりになれる機会も少ない。

それに、俺が新たに四人の婚約者を連れて来た事で、ずっと機嫌が悪いんだよな…。

その事に関しては俺が一方的に悪いので何度も謝っているのだが、なかなか機嫌をなおしては貰えていない。

ご褒美としてお金を貰えたなら少し余裕が出来るだろうし、皆を連れてルフトル王国に買い物に行くのもいいし、レオンにお願いしてキュロクバーラ王国に行って温泉に入らせてもらうのもいいかもしれないな。

温泉か…。

リゼと夫婦らしく温泉に入った事を思い出していた。

ルリアとも同じような事が出来ればいいと思うが、一緒にお風呂に入るのはまだ無理かとも思う…。

もう少し、ルリアとの距離を縮めないといけないな。

そんな事を思っていると馬車が城へ到着し、降りてお城へと入って行った。


そうだな…。

俺はルリアと手を繋いで、城の廊下を歩いて行く事にした。

ルリアは手を繋がれた時には驚いていたが、特に嫌がって振りほどいて来る事は無かった。

ラノフェリア公爵とネレイトも温かい目で見守ってくれていたし、廊下ですれ違う人達も何か言って来る事は無かった。

子供が仲良く手を繋いで歩いている、くらいにしか見えなかったのだろうな…。

俺達は控室で呼び出されるまでの時間を潰し、近衛騎士に呼び出されて謁見の間へとやって来た。

今日も、左右に立っている貴族や役人たちからの話し声が聞こえてくる…。

内容は国王が褒美として何を与えるのか?と言った話だな。

また娘を与えるのとか何とか、不穏な話も聞こえてくる…。

そうなってしまえば、更にルリアの機嫌が悪くなってしまうので、何とか断らなければならない!

横にいるラノフェリア公爵も、これ以上王族が俺の婚約者になる事は望まないだろうから、断るのを手助けしてくれることを望みたい。

国王が入室して来て、謁見の間に静寂が訪れた。

俺は褒美がお金であることを願って、国王の言葉を待つことにした…。


「エルレイ、今回もお主の活躍に助けられた。礼を言うぞ」

「勿体なきお言葉、誠にありがとうございます」

「キュロクバーラ王国との同盟交渉も締結され、我が王国を脅かす勢力は無くなった。

これより、長きにわたる安寧の時が訪れる事になるであろう。

ソートマス王国建国以来初めての事であると同時に、未来永劫続いて行く事を切に願っている。

しかしながら、その安寧がいつまで続くかは誰にもわからぬ。

故に今後は国力増強に注力し、みなで協力し合い、この安寧の時を長く続けられて行くように努力して貰いたい」

国王はそこで一呼吸置き、集まった人達に視線を向けていた…。


「さて、エルレイ」

「はい!」

「キュロクバーラ王国と協力し、ラウニスカ王国を滅亡させた事、大儀である。

この功績を讃え、ゼルギウス・フェリクス・ド・ソートマスの名において、エルレイ・フォン・アリクレットに公爵位を授与する」


俺が公爵に!?

俺とルリアは国王の前であるにも関わらず、お互いの顔を見て驚愕していた!

ラノフェリア公爵は笑顔を浮かべている事から、事前に知らされていたのか、それとも国王から相談を受けていたのだろう。

周囲にいた貴族や役人たちからも、驚愕し動揺した声が聞こえて来ている。

近衛騎士達が鎮まるよう言っているが、一向に鎮まる気配を見せない。

そんな中、ポメライム公爵が声を上げた!


「国王陛下!いくら功績を上げたとは言え、公爵位を授けるのはいかがなものかと思いますぞ!

ソートマス王国は王家の血を引くレーメウス公爵家、儂のポメライム公爵家、そしてそこにいるラノフェリア公爵家の三家が長きにわたり支えてまいりました。

そこに新たな公爵家を加えるなど、断じて許されざるべき事態ですぞ!」

ポメライム公爵周辺の貴族達も同調している。

俺としても、周囲の反対を押し切ってまで爵位を上げて貰う必要はない。

と言うより、より責任が重くなりそうだから遠慮したい。

ただ…ポメライム公爵の意見を国王が受け入れるとなると、ラノフェリア公爵の面目が丸つぶれになってしまいそうだ…。

不快感をあらわにしているのではないかと、恐る恐るラノフェリア公爵の表情をうかがってみたが、意外にも笑顔だったので安心した。


「トラウゴットの意見はもっともだと余も思う。

しかしだ、エルレイは武力だけでは無く、与えられた領地の経営にも才を発揮し、武闘大会を開催し見事に成功して見せた。

余の代わりとして視察に行ったイクセルが、絶賛していたほどだ。

その上、此度の難民問題も見事に解決して見せた。

加えて、隣国のルフトル王国とキュロクバーラ王国とも強い繋がりを持っておる。

エルレイこそ、公爵位に相応しいと思わぬか?」


「ぐぬ…」

ポメライム公爵は国王の言葉に対して反論できず、表情をゆがめていた…。

そして、ラノフェリア公爵の味方らしき貴族達から、国王の意見に賛同する声が上がって来た。

その声に、ラノフェリア公爵も満足気の表情を見せている。


「反論は無いな?」

国王は周囲を見渡し、反論が無い事を確認したのち、俺に視線を向けて来た。

「改めて、エルレイ・フォン・アリクレットに公爵位を授与する」

「謹んでお受け致します。ソートマス王国と国王陛下の為に、誠心誠意尽くす事をお約束致します」

こうして俺は、公爵位を授かる事になってしまった…。


謁見の間を出て、城内にあるラノフェリア公爵の執務室へとやって来た。

「エルレイ、おめでとう!」

「ネレイト様、ありがとうございます!」

ネレイトが部屋に入るなり祝福してくれたので感謝を伝えたのだが、ネレイトは苦笑いをしていた。

「エルレイは公爵になったのだから、僕に様を付ける必要はないよ」

「あっ…しかし…」

「うむ、私の事もロイジェルクと呼ぶように!」

「はい…ロイジェルクさん、ネレイトさん」

「僕は呼び捨てでも構わないんだけれど…何なら兄さんでもいいよ!」

ルリアと結婚すればネレイトが義兄さんとなる。

その時になってから兄と呼べばいいとは思うが…今から呼んだとしても問題は無いし、本人も希望している。


「そう…ですね。ネレイト兄さん、これからよろしくお願いします」

「うん、よろしくね!」

ネレイトは俺が兄だと呼ぶと、非常に喜び俺に握手を求めて来たのでしっかりと握り返した。

ネレイトとは長い付き合いになるのだろうし、色々とお世話になるのは間違いない。

兄と呼び、親戚になっていれば面倒な事も頼めるだろうと言う下心もあった…。

でも、素直に喜ばれれば、そんな気持ちも無くなってくるな。

心の中でネレイトに謝罪し、本当の兄と同じように慕って行こうと思った。

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