第二百六十二話 正式採用試験

キュロクバーラ王国から帰って来てから二か月が経過した頃、やっと難民問題がほぼ解決した。

戦争が終わった事で難民が来る数が減った事もあるが、何よりレオンが難民を出さないように手を尽くしてくれたことが大きい。

レオンとしても、せっかく奪い取った領地に人がいないのでは意味が無いからな。

残る問題としては、俺の領民となってくれた者達への仕事だが、農地の整備や商売に必要な店舗の建設を行わせている所で、春までには終わらせる予定だ。

ソートマス王国とキュロクバーラ王国間で行われていた同盟交渉も無事終わったみたいで、ソートマス王国を直接脅かす国は無くなった事になる。

これで俺もようやく、ゆっくり過ごすことが出来ると言うものだ…。


レオンの所から俺の婚約者としてやって来たエンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアだが、慣れない生活に戸惑いを見せていると言う事は全く無く、かなり順応している様子だ。

ルリア達とは意外と早く仲良くなったし、エレオノラはルリアを姉として慕っているほどだ。

エレオノラの方がルリアより一つ年上になるのだが、初日にルリアとエレオノラが戦い、ルリアが勝利した事で上下関係が決まったらしい。

リディアとミディアは、同じ双子であるロゼとリゼに懐いてしまっていて、メイド服を着て一緒に働いていたりしたからな…。

「エルちゃん」

「レイちゃん」

「「メイド服可愛い?」」

「うん、可愛いよ。でも、二人が働く必要は無いのだけれど?」

「それは」

「駄目!」

レオンの所では十歳を過ぎれば、レオンの子供であっても働かないといけないらしい。

リディアとミディアは、主に屋敷の掃除と料理を担当していたそうだ。

二人は毎日厨房に行って、料理人たちに交じって料理を作っていたりもする。

おかげで、料理人達も日本料理を少しづつ覚えて行っているのは非常に嬉しい事だ。

お米や調味料もレオンの所から少し分けて貰っているし、余裕が出来れば沢山買ってきて、リアネ城でも毎日日本料理が食べられる日がやってくるようにしたいと思う。

エンリーカは経理を担当していたと言う事で、俺と一緒に執務室で仕事をして貰っている。

ルリアも俺の仕事を肩代わりできるようになってきたし、二人が手伝ってくれることでかなり楽が出来るようになってきた。

剣と魔法の訓練にも、かなりの時間を割くことが出来るようになったし、俺としては嬉しい限りだ。


「ルリア、そろそろいいんじゃないのか?」

「そうね、信用できると思うわ」

ルリアの許可が得られたので、エンリーカ達にも魔法を教える事になった。

俺としては信頼できるレオンの娘達だから、すぐにでも魔法を教えたかったのだが、ルリアが許可を出してくれなかったんだよな…。

それと、難民問題で忙しかったからと言うのも理由の一つではある。

俺は皆を訓練場に集めて、エンリーカ達に魔法を教える事にした。

これからエンリーカ達が魔法を訓練するのに合わせて、ユーティアとエルミーヌの魔法の上達を計って貰おうと思っている。


「本当に私にも魔法が使えるようになりますの?」

「レイちゃん、嘘ついたら許さないからね!」

「リディアと」

「ミディアも」

「「魔法少女になれる?」」

「なれるからな!」

リリーと協力して魔法を使えるようにしてあげたのだが、四人全員とも風属性を使えるようになったのには驚いた。

そう言えば、マティアスも風属性を使えると言っていたし、レオンの血筋がそうさせているのか、あるいは魔力の強いグリフォンが側にいるからなのかは不明だ。

とにかく、全員風属性が使えるようになったことをとても喜んでいたので良しとしよう…。

後は、とにかく魔力を増やす訓練を続けて貰い、その後で無詠唱を教える事となる。

エンリーカ達の魔力が増えるまでの間は、ユーティアとエルミーヌに付きっきりで魔法を教える事にした。

戦争の危機は無くなったが、ソートマス王国内での権力争いが無くなった訳では無い。

ユーティアとエルミーヌは出かける事が多いので、身を守る程度には上達しておいて貰わないといけないからな。


エンリーカ達に魔法を教えてから数日後、アドルフからエリオット達の正式採用が決まったと知らされた。

それはとても喜ばしい事だが、また例によって謁見の間で王様の真似事のような事をやらされたのは勘弁してほしかった…。

そして、エリオット達には約束していた通り魔法を教え、エンリーカ達と共に魔法の訓練をして貰う事となった。

それとは別に、アドルフが信用する使用人達にも魔法を教えた。

これにより、リアネ城の守りがより一層強固なものになってくれることとなるだろう。

ラウニスカ王国は滅亡したが、能力者が完全にいなくなった訳では無い。

王都ロイトを守っていた能力者は全員捕まった訳では無いし、各地に出ていた暗殺者も同様に捕まってはいない。

なので、今後も注意を怠ることは出来ない。

気を引き締めて、俺の家族を守って行こうと思う。


≪マリー視点≫

マリー達は、アドルフさんとカリナさんに呼び出されて集まっていた。

「試験結果を発表します」

「えっ?俺達試験を受けてなんかいませんけど?」

アドルフさんから、試験結果を発表すると言われてみんな驚いている。

マリーも試験を受けた記憶は無い…。

「毎日行ってもらっていた仕事が試験です。そこで手を抜いているようでは使用人失格と言う事です」

「「「「「そんな…」」」」」

言われて見ればその通りなのだと思い、マリーは今まで行ってきた仕事を思い返す…。

ううっ…失敗ばかりして、怒られていた記憶しかない…。

失格になってしまえば、マリーはエルレイ様の側にいられなくなる!

そんなの絶対に嫌!

どうか合格していますようにと祈って発表を待つ…。


「エリオットとフリストは、明日から執務室で働いてください」

「そ、それは合格なのですか?」

「そう言ったつもりですが、何か疑問でも?」

「いいえ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

アドルフさんから合格を伝えられたエリオットとフリストは、飛び上がって喜んでいる。

男の子の方が先に発表されるみたいで、マリーの番は最後の方かな…。


「ラルフとトーマは、リアネ城の玄関を担当して貰います」

「おれがっすか!?」

「そうです。トーマの話し方には問題があると思っておりましたが、貴方はその話し方でも相手を不快にさせない魅力があります。

無理に話し方を変える必要はありませんので、お客様に失礼の無いように心がけてください」

「分かったっす!」

「分かりました」

ラルフは武闘大会で準優勝したので、玄関の担当になったのだと思う。

エレンがラルフが玄関の担当になった事を自分の事のように喜んでいるけれど…危険な場所だと分かっていないのかも?

でも、エルレイ様がどんな怪我も治してくれるからきっと大丈夫。

トーマは、どんな時でも明るくて羨ましい。

マリーもトーマのように明るかったら、エルレイ様も振り向いてくれるのかな?


「オスカルは、裏口の担当です」

「はい」

裏口は毎日の様に荷物の搬入が行われていて、人も荷物も多くて大変な所。

力持ちのオスカルには一番合っている所だと思うし、アンナとオスカルも喜んでいる。


男の子が終わり、カリナさんがマリー達の方を見た。

「アンナとエレンは、ルリア様達の側仕えとして働いて貰います」

「「やったぁ!!」」

二人は手を繋いで喜んでいる。

マリーは側仕えとして選んで貰えなくて、大声を出して泣きだしたかった…。

今日まで色々な仕事をさせて貰って来たけれど、側仕えが一番大変できつい仕事なのには間違いない。

でも、一番やりがいがあって幸せを感じる仕事でもある。

ルリア様達はお優しいし、何よりエルレイ様の一番近くにいられることが出来る!

その仕事を与えられなかったマリーは、掃除やお洗濯の仕事になるのかな?

エルレイ様との接点が殆ど無くなると思い、涙が溢れて来そうになるけれどぐっと我慢した。

そして、カリナさんの言葉を待った。


「マリー、貴方はロレーナ様の側仕えです。この意味を理解できますね?」

「はい!はい!」

我慢が出来ずに、大粒の涙がぽろぽろと溢れ出してきました…。

「「マリー、良かったね!」」

アンナとエレンも、マリーと同じように涙を流しながらとても喜んでくれている。

「まったく、困った子達です…」

カリナさんはそう言いながら、ハンカチで私達の涙を拭ってくれました。


「いいですか!奥様方とエルレイ様にしっかりと尽くすのですよ!」

「「「はい!」」」

マリーはロレーナ様の側仕えにして貰えたので、これから毎日エルレイ様のお側にいることが出来る!

でも、ロレーナ様のお世話を精一杯しないと、側仕えから外されてしまう。

マリーは、ロレーナ様のお世話を頑張って行こうと心に誓った!

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