第二百六十一話 キュロクバーラ王国から帰国
「旦那様、調子に乗ってしまいごめんなさい…」
「いや、僕も嬉しかったからいいんだけどね…」
宴会を終え、与えられた部屋に戻ってくるなり、リゼが謝罪して来た。
食べさせて貰う事は嬉しかったのだが、リゼもエンリーカ達と競うように料理を俺の口元に差し出して来ていたからな…。
俺も頑張って食べたのだが、五人からともなると流石に無理があった。
「今日のはいい教訓になった。今後は二人きりの時だけにしてくれればいいよ」
「はい、旦那様」
リゼが落ち込んだままだったので、機嫌を治してもらおうと一緒のお風呂に入る事にした。
ここの風呂は露天風呂では無かったが、木の浴槽に温泉がかけ流しされていて、リゼと二人で温泉にゆっくりと浸かり疲れをいやすことが出来た…。
風呂から上がり、寝室に向かうと布団が用意されていたのだが…。
「旦那様、この数は…」
「あぁ、そういう事なのかもしれないな…」
寝室には布団が六組敷かれていて、暫くすると案の定エンリーカ達が寝間着姿でやって来た。
「ご一緒させて頂きますわ!」
「レイちゃん一緒に寝よう!」
「エルちゃん」
「レイちゃん」
「「一緒に寝る?」」
「うん、寝ようか…」
俺は諦めてこの状況を受け入れる事にした。
と言うより、いつもと同じ状況だし、女中さんが布団を用意したと言う事はレオンも認めていると言う事なのだろう。
それに、俺も手を出すつもりも無いし、エンリーカ達も各自の布団に入って寝てしまった。
リゼは、俺と一緒に寝られなかったことを残念がっていたが、先程と同じように一緒に寝ようとすればどうなるかは明白だ.
いや、それはありか?
五人の女性に埋もれながら寝るのは…潰されるな。
大人しく寝る事にしよう。
何事も無く翌朝を迎えたのだが…。
「エルちゃん」
「レイちゃん」
「「朝だよ!」」
リディアとメディアに飛び乗られて目が覚めた…。
思わず、昨日食べた物を戻しそうになったが、何とかこらえることが出来たな…。
「お、おはよう…」
布団から抜け出すと、残っていたのはリゼと起こしてくれたリディアとミディアだけだった。
まだ薄暗い事から、夜明け前だと言うのが分かる。
リディアとミディアは俺に急いで着替えて庭に出るようにと言い残して、自分達も着替えに戻って行った。
俺とリゼは軍服に着替えてから、言われた通り庭に出てみると、レオンと家族たちが全員素振りをしている所だった。
「起きて来たか!」
「レオンさん、おはようございます」
俺もレオンの横に並び、グールを手にして素振りをする。
起きたばかりで動きは悪いが、体をほぐすのにはちょうどいいな。
体が温まって来たころ、レオンが手合わせしようと言って来たので軽い気持ちで受けたのだが…。
「おら、そんなものなのか?もっと本気を出せ!」
「はい!」
レオンはめちゃくちゃ強かった!
今の俺では到底太刀打ちできないと分かりつつも、強い者と戦うのは楽しくつい力が入ってしまい。
キンッ!
「今のはなかなか良かったぜ!」
「はぁ、はぁ、ありがとうございます」
レオンの隙を突いたと思った一撃だったのだが、あっさりと受け止められた挙句、グールの刀身を中ほどから斬り落とされてしまった。
刀の切れ味に驚愕すると同時に、またレオンと訓練をしたいと思った。
「ん?なんだその剣は?」
「えっ?」
レオンが不思議そうに俺の握る剣を見ていたので、俺もグールに視線を向けると、斬り落とされた刀身が元通りになっていた…。
不味いと思ったが、見られた以上は隠し通せないと思い、グールの事をレオンに説明した。
「俺様はグール!レオンフィス殿よろしく頼むぜ!」
「話せる魔剣とは驚きだ。で、これがエルレイの切り札ってところか?」
「はい…」
「大した能力みたいだが、エルレイの腕前では俺の敵ではないな。精進する事だ!」
レオンは笑いながら朝食にしようと言って去って行った…。
「それで、グールにしては珍しく大人しい挨拶だったな」
「マスター、俺様も逆らったらいけない相手くらい分かるぜ。あいつはやべー」
「そうだな…」
俺の今の実力では、魔法を使ったとしても勝つ事は難しいだろう。
グールを斬り落とした時の一撃は、俺の障壁も切り裂いて来るのではないかと思えたからな。
思い返すと、最初に出会った時に本気で斬られていたのなら、俺の首は落ちていたのではないかと思い、寒気がしてきた…。
レオンには極力逆らわない様にしようと心に決めた…。
朝食を食べた後は、出発の準備が行われていた。
と言っても、俺は女中さんが運んできた荷物を収納魔法に納めて行くだけだ。
その荷物も大した量では無く、本当に着替えしか持って行かないみたいだ。
「準備は整いましたわ!」
エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアは袴姿では無く、綺麗な着物姿で現れた。
美しい姿に見惚れていると、リゼから耳元で囁かれた。
「旦那様、なにか仰ってあげませんと」
「うん…とてもよく似合っていて美しいよ」
「当然ですわ!」
「えへへ」
「もっと」
「褒めても」
「「いいよ?」」
エンリーカ達にしてみれば、めったに着ない晴れ着なのだろう。
時間には余裕があるので、一人づつしっかりと褒めてあげる事にした。
「準備は整ったみたいだな!」
俺が皆を褒めてあげていると、レオンがやって来てエンリーカ達の頭を撫でながら別れの挨拶を交わしていた。
それが終わると、レオンは俺の所にやって来てガシッと力強く肩を組んで来た…。
「エルレイ、俺の娘達を大切にしなかったら分かっているだろうな?」
「はい、分かっております!」
「ならばいい!娘達は何処に出しても恥ずかしくないように鍛えておいた。存分に使ってやってくれ!」
「はい!」
レオンに言われるまでも無く、エンリーカ達の事は大切にするつもりだ。
ルリア達と仲良く出来るかは分からないが、それも俺が間に入って皆が仲良くなれるように努めなければならない。
でも、エンリーカ達は大勢の兄妹の下で生活して来たのだから、その心配は必要無いのかもしれないな。
俺達は玄関の外に出て、いよいよリアネ城へと帰る事にした。
「レオンさん、色々お世話になりました」
「こっちこそだ!ここにはいつでも来ていいからな!それと、戦争が完全に終わったらそっちに遊びに行くから、そん時はよろしく頼むぜ!」
「はい、分かりました」
俺は皆と手を繋ぎ、空間転移魔法でリアネ城へと帰って来た。
「ここが、エルさんの住むお城ですか?」
「うん、リアネ城と言って、今日から皆が住む場所になる」
「へぇ、凄いね!」
「お城」
「綺麗」
エンリーカ達は城を見上げて感動しているみたいだった。
「リゼ、城内を案内してやってくれ」
「承知しました」
エンリーカ達をリゼに任せて、俺は難民の対処に当たっているルリア達の所に行き作業を手伝った。
夕方まで作業を続け、ルリア達を連れてリアネ城に戻って来たのだが…。
「エルレイ、説明しなさい!」
「はい…」
ルリアがエンリーカ達を見て、引きつった表情で説明を求めて来た…。
俺は出来る限り正確に、エンリーカ達を婚約者としたことを説明したのだが…。
「リゼ、エルレイはどんな魔法を披露したかしら?」
リゼが補足として、俺がエンリーカ達に披露した魔法の説明をすると、ルリアは激怒して俺を殴りつけて来た!
「はぁ、どうしてそんな派手な魔法を使ったのよ!どうせ自慢したいからとでも思ったのでしょう!」
「はい…その通りです…」
全く持ってその通りだったので、何も言い返せなかった。
確かに、地味な魔法を披露していれば、エレオノラ以外が婚約者になる事は無かったのかもしれない…。
だが、俺はソートマス王国を代表する魔法使いとして訪れていたのだから、地味な魔法を使う訳には行かなかった!
と言う言い訳は通じず…ルリアの怒りが収まる事は無かった…。
「ルリア、それくらいにしておいたら?
エルレイも悪気があった訳では無いのでしょうし、こうなる事は最初から分かっていた事でしょう?」
ユーティアが助け舟を出してくれなかったら、もっと酷い事になっていたのかもしれない。
「分かったわよ。エルレイ、約束通り新しい魔法は教えないわ!いいわね!」
「はい…」
残念だが、ルリアとの約束を破ったのは俺なので、新しい魔法は当分お預けとなってしまった…。
だが今は、レオンに出会えたことで、魔法より剣術を磨きたいと思っている。
時間は限られているが、魔法と剣術の両方を頑張って訓練して行こうと思った。
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