第二百六十話 嫁選び その三
俺達はレオンがいた部屋から出て、俺に与えられた部屋へとやって来ていた。
「エルさん、よろしくお願いしますわ」
「レイちゃん、これからよろしくね!」
「エルちゃん」
「レイちゃん」
「「よろしく」」
「うん、よろしくお願いします」
エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアの四人は、俺の前に礼儀正しく正座して座っていた。
俺とリゼも、慣れない正座に苦戦しつつも背筋を伸ばして座っている。
四人を俺の婚約者として連れ帰る事になってしまったので、改めて四人と話をする事になったのだが…。
「済まない…足を崩していいか?」
「いいよ!」
「助かる…」
「足が痺れてしまいました…」
俺とリゼは我慢できずに足を崩したが、四人は慣れているからと正座したままでいいそうだ。
足の痺れが取れるのを待って貰ってから、真面目な話をする事にした。
「四人は僕の婚約者として、僕の住むソートマス王国に来て貰う事になる。
しかし、ソートマス王国はキュロクバーラ王国とは生活様式が全く違っている。
今ならまだ、レオンさんに言えばここに残る事は可能だと思うし僕からもお願いしてあげるけれど、どうかな?」
和式の生活から洋式の生活に変わるので、慣れない生活に苦労する事は目に見えている。
エンリーカ達が快適に過ごせるように出来るだけ手伝いはするつもりだが、それでも不便を強いることになると思うからな。
今ならまだ、俺の婚約者にならないと言う選択を出来るので、エンリーカ達に提案してみたのだが…。
「そんな事は分かっておりますわ!」
「うんうん、キュロクバーラ王国内でも違うからね!ここだけ特殊なんだよ!」
「そうなの?」
「そうですわ!この地に来るための道は無く、グリフォンのみでしか来られませんわ。
ですので、他の地域はエルさんの所と似たような生活を行っており、私達も何度か連れて行って貰った事もありますので知っておりますわ」
「「知ってる」」
確かに、ここに来た時には山と原生林しか見えなかったが、道も無かったのか…。
周囲を囲んでいる高い山々を歩いて越えて来るのは、無理があるのは分かる。
孤立しているからこそ、英雄が無くなってから二千年間この文化を守って来られたと言う事だろう。
それは、ルフトル王国のエルフ達にも同じ事が言えるな。
「分かった。僕とリゼは一度帰り、準備が整った頃に迎えに来ようと思う。
何日後に迎えに来ればいいのか、教えて貰えないかな?」
「そうですわね…」
エンリーカ達は四人で相談し始めた…。
俺の方としても、迎える準備をしないといけない。
寝室にベッドを四つ置く余裕はあるが、部屋を広げた方が良いのかも知れないな…。
食事も気にしてあげた方が良いのかも知れない。
お米が無いので、レオンにお願いして分けて貰うのも良いな。
そうすれば、俺もご飯が食べられるしロレーナも喜ぶだろう。
俺が考え事をしていると、四人の話し合いが終わったみたいで、エンリーカが代表して答えてくれた。
「エルさん、明日には準備が整いますわ!」
「えっ、そんなに早く?」
「えぇ、準備と言っても着替えを用意すればいいだけですわ。
それに、そちらで着る服はエルさんが用意してくださいますよね?」
「うん、勿論用意するけど…本当に明日で良いの?」
「大丈夫ですわ。エルさんもここに泊まって言って下さいませ。
おそらく、親父様が宴会をしてくださるはずですわ」
「宴会か…分かった、そうさせて貰おう」
お酒の飲めない宴会は嫌だが、断る事は出来ない。
それに、もう一晩くらいリゼとの夫婦生活を楽しむのも良いかと思った。
エンリーカ達は、準備をするからと言って部屋から出て行った。
リゼとゆっくりと過ごす前に、アドルフに連絡する事にした。
『アドルフ、今話せるか?』
『エルレイ様、大丈夫でございます』
『戦争の方は昨日伝えていた通りで、俺の仕事は終わった。
僕は多分明日帰れる事になる。その際に婚約者を四人連れ帰る事になるので、部屋の準備を頼みたい』
『承知しました』
『それで、そちらの状況はどうなっている?』
『はい、難民はルノフェノ様の領地に送っている状況ですが、奥様方はまだ現場に向かって作業続けております』
『明日は僕も戻り次第、作業に向かおうと思う』
『はい、よろしくお願いします』
ラウニスカ王国の国王を倒したが、まだ戦争が完全に終わった訳では無い。
難民を出し続けている軍の問題が解決していないからな…。
もう暫く難民問題は続く事になるだろうが、俺の領地に来た難民に対して戦争が終わった事を伝えれば帰っていく者が増えるかもしれない。
ヴィヴィス男爵には、戦争が終わった事をアドルフから伝えて貰っているし、改善していく事を願うばかりだ。
「リゼ、少し横になってもいいか?」
「はい、旦那様!」
別に疲れていた訳では無いが、レオンの姿を見た後だったので、俺も膝枕をして貰いたいと思ってリゼに声を掛けると、リゼも分かってくれたみたいで俺の頭を膝に乗せてくれた…。
「なんだかいいですね…」
「うん、リゼは疲れたりしないか?」
「いいえ、とても心が安らぐ気持ちです」
「僕も同じ気持ちだ…」
リゼは俺の頭を優しく撫で続けてくれていた。
畳の上で横になって膝枕されていると、凄く心が安らいでくるのが分かる。
これはもう、リアネ城にも和室を作るべきではないかと思い始めていた。
エンリーカ達も和室があれば寛げるだろうし、難民問題が解決したら和室を作ろうと心に決めた!
その後、リゼと交代して俺がリゼを膝枕してあげた。
リゼが言った通り、膝枕している側も心が安らいでくるな…。
こんな時間が永遠に続けばいい…と思えるほどだ。
夕食まで、リゼと幸福な時間を過ごせた俺は、軍服から普段着ている貴族服に着替えた。
リゼも俺に合わせたドレス姿となっている。
「旦那様、おかしい所はありませんか?」
「いいや、良く似合っていて美しいよ」
「ありがとうございます!でも、やっぱりこの辺りが気になります…」
リゼは鏡を見ながら、ドレスをちゃんと着れているのか何度も確認していた。
リゼの気のすむまで確認させたかったが、時間が無いので部屋から連れ出した。
リゼと腕を組んで廊下を歩いていると、本当の夫婦になったような気がする。
キュロクバーラ王国に来てからずっと夫婦として過ごしているから、余計のそう思えるのだろう。
リアネ城に帰れば元に戻るのかと思うと、かなり寂しく思う。
帰ってからも旦那様呼びして貰う事は…出来ないよな。
非常に残念ではあるが、リゼと結婚するまでは今までの状況を続けるしかない。
女中さんに連れられて来た宴会場には、午前中に紹介されたレオンの家族が勢ぞろいしていた。
と言っても、女子供ばかりで男性の姿は見えない。
俺より年下の男の子はいるが、マティアスの姿も見えないな。
後から聞いた話だが、男性は全員戦争に参加しているとの事だった。
レオンも最前線で戦ったいたのだし、この国では当然の事なのだろう。
一番前の席にはレオンとエンリーカ達が座っていて、俺とリゼもそこに座らされた。
「今宵は戦争で活躍してくれたソートマス王国のエルレイと、エンリーカ、エレオノラ、リディア、ミディアの婚約祝いだ!
大いに飲んで祝福してやってくれ!」
レオンが簡単な挨拶をした後、宴会が始まった。
レオンは俺の横で美味そうに酒を飲んでいるが、前の様に酒を勧めて来る事は無い。
俺も飲みたかったが、リゼが隣にいる状況ではそれは無理なのは分かっている。
だから、料理に手を伸ばそうとしたのだが、リゼに止められてしまった…。
「旦那様、私が食べさせて差し上げます!」
リゼはそう言うと、まだ少し不慣れな箸を使い、料理を俺の口元に運んで来てくれた。
レオンの家族達に見られている中で食べさせて貰うのは恥ずかしかったが、こんな事が出来るのは今日だけだと思い料理を食べた。
「ずるいですわ!」
「うん、僕のも食べてよね!」
「私達のも」
「食べて」
リゼに食べさせて貰ったのを見た四人も、料理を箸で俺の口元に持って来た…。
俺は断る事が出来ずに、差し出された料理を食べて行った…。
「もう食べられない…」
「はっはっはっ!そう言うのは二人きりの時にしないと身が持たないぞ!」
「そう…ですね…」
レオンも同じ経験をしたのだろう…いや、もっと過酷だったに違いない。
五人から次々と料理を食べさせられれば、嬉しい気持ちより苦しい気持ちが上回る…。
レオンの言う通り、二人きりの時以外はしないように心がけようと思った。
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