第二百五十九話 嫁選び その二

呼吸も落ち着いて来た事だし、エレオノラと話をしようと思って近づいて行くと、エレオノラの方から話しかけて来た。

「レイちゃんは魔法が得意なんだよね!僕達にレイちゃんの魔法を見せて貰えないかな?」

「うん、いいけど…ここでは危ないから場所を変えた方がいいかな」

「分かった、着いて来て!」

エレオノラは俺の手を握り、そのまま引っ張るように俺を広間から連れ出して行った。

リゼは当然着いて来てくれているし、エンリーカ、リディア、ミディアの三人も着いて来ている。

三人は俺に勝ったのだし、着いて来ないと思ったのだがな…。

魔法を見せるのは問題無いので、俺は何も言わずに黙ってエレオノラについて行く事にした。


俺と手を繋いでいるエレオノラの手の平は硬くなっていて、相当訓練を積んでいる事が分かる。

一方俺の手の平は、剣の訓練の時間が取れずに柔らかくなりつつある…。

その事を少し恥ずかしく思いつつも、エレオノラと手を繋いだまま廊下を歩いて行き、玄関で靴を履いて屋敷の外へと出た。

屋敷からひたすら歩き、やっとたどり着いた場所では他の人達が剣の訓練をしていた。


「奥に魔法の訓練をする場所があるから、そっちに行くね!」

剣の訓練をしている人達を横目にしながら奥に進んで行くと、的に目掛けて魔法の訓練をしている人達姿が見えて来た。


「みんなー、レイちゃんが魔法を見せてくれるから、場所を空けて貰っていいかなー?」

エレオノラが訓練している人達に大声で声を掛けると、皆が訓練を止めて場所を空けてくれた…。

「さぁレイちゃん、凄い魔法を見せてよ!」

エレオノラは繋いでいた手を離し、キラキラと期待した眼差しで俺の事を見て来た。

期待されたからには凄い魔法を見せたいが、周囲に影響が出る様な魔法は使えないな。

少々地味になるが、訓練場を破壊する訳にはいかない。


「やります!」

エレオノラ達に宣言し、先ずは的となる一メートルほどの石柱をバラバラな位置に三十個作った。

今度はその石柱を破壊する炎の矢を三十本頭上に作り出し、集中して全ての石柱に狙いを定め、一度に全部撃ち出して作った石柱を破壊した!

「ふぅ~」

俺は大きく息を吐き、上手く破壊出来た事に安心した…。

複数の目標に向けて同時に魔法を放つのは、集中力を必要とする上にかなり難しい。

俺は今の所三十個が限界だが、ロレーナとソルは四十個以上やれるんだよな…。

ルリアは威力の高い魔法で全て破壊すればいいと言うが、他の人や物を巻き込まないようにしなければならない場合も出て来るはずだ。

今後も訓練をしなければと思いつつ、今は成功した事を喜んでエレオノラの方へと振り向いた。


「凄い!レイちゃん凄いね!」

エレオノラは俺の魔法に満足してくれたみたいで、飛び跳ねて喜んでくれていた。

これなら、エレオノラは俺の婚約者として着いて来てくれるだろう。

エレオノラに申し込みをし、レオンに報告して帰る事が出来ると安心した。


「エルさん、大切な妹を人質として差し出す訳には参りませんので、私がエルさんの妻になって差し上げてもよろしいですわ!」

「あーエンチャんずるーい!レイちゃんは僕の物なんだからね!」

エンリーカが突然俺の妻になると言って来て、エレオノラはエンリーカと口論し始めた…。

止めた方が良いのだろうかと、リゼと顔を見合わせて考えていると、左右から服の袖を引っ張られた。


「エルちゃん」

「レイちゃん」

「「私を妻にする?」」

左右から双子のリディアとミディアが、下から覗き込むように懇願して来た。

息の合った双子から懇願されれば、受け入れてしまいたくなるな…。

しかし、選べるのは一人だ。

双子のどちらかだけを連れて行くのは可哀そうだし、非常に残念だがお断りしよう。


「リーちゃんとミーちゃんも駄目ー!」

エレオノラが双子を俺から引き離して行き、今度は四人で口論を始めてしまった…。

「旦那様、いかがなさいますか?」

「止めた方が良いのだろうが…」

俺とリゼがどうしていいのか困惑していたのだが、どうやら話はまとまったみたいで四人とも少し離れていた。


「勝負だね!」

「望む所ですわ!」

「リディアが」

「ミディアが」

「「勝つ!」」

エレオノラは抜刀の構えを取り、エンリーカは何処から取り出したのか長い刀を抜いていた。

リディアとミディアも、脇差みたいな短い刀を抜いている。

これから四人で斬り合いを始めるみたいで、緊張が走っている!

全員の持つ武器が真剣で、一つ間違えれば大怪我になるだろう!

俺が治療すれば大抵の怪我は治せると思うが、レオンの大事な娘たちに怪我させるような真似をさせられはしない!

ラノフェリア公爵がそうであるように、男親は娘に途轍もなく甘いし可愛がっているはずだ。

そんな可愛い娘が怪我をしたと知れば、俺が怒られるに決まっている!

俺は慌てて四人の喧嘩を止めさせようと間に割って入った!


「喧嘩は止めてくれ!」

「レイちゃん邪魔だよ!」

「エルさん、そこにいては怪我をしてしまいますわ!」

「エルちゃん」

「レイちゃん」

「「どいて!」」

四人共俺の話を聞いてくれず、剣気を放ったまま、いつでも斬りかかれる状態を維持している…。

このままでは、俺がいても気にする事無く斬り合いを始めそうな気がした。

仕方ない…俺が魔法で四人を吹き飛ばすしかなさそうだ。

そう思い始めた頃、足元が急激に寒くなって来た…。


「皆様、旦那様に手出しするのであれば容赦いたしません!」

リゼの声が聞こえたかと思うと、俺の周囲の地面が凍り付いていた。

と言うより、四人の足が氷漬けにされていると言った方が正確だな…。

「動けないよ!」

「これはあんまりですわ…」

「「冷たい…」」

四人は足を氷から抜こうと試みているが、リゼが解除しない限り抜け出すのは難しいと思う。


「リゼ、開放してやってくれ」

「ですが…」

「皆も喧嘩はしないよな?」

「しないから、氷を溶かして!」

「えぇ、これは喧嘩ではありませんわ!」

「エンちゃん」

「エレちゃん」

「「仲良し」」

「分かりました」

四人が刀を納めた事で、リゼが氷を解除してくれた。

一時はどうなる事かと思ったが、リゼの機転で四人が斬り合う事無く終わってよかったと思う。

これ以上喧嘩をさせない為にも、ここで僕が婚約者を決めて四人に伝えなくてはならない。


「皆さんと過ごした時間は短いですが、僕の所に来て頂く人を決めました!

エレオノラさん、僕の所に来て頂けますか?」

「うん!僕、喜んで行くよ!」

俺がエレオノラを選んだ事で、エレオノラは飛び跳ねて喜んでくれていた。

喜んで俺の所に来てくれると言うので、俺としても凄く嬉しい。

一方、選ばれなかった三人が落ち込んでいるのを見て、可哀そうな事をしたとも思う…。

「レイちゃん!親父様に報告に行こうよ!」

「分かった」

再びエレオノラに手を繋がれ、レオンのいる屋敷内へと連れて行かれる事となった。


レオンがいる部屋へと通されると、レオンは畳に横たわっていて妻に膝枕をされている所だった…。

ちょっと羨ましいと思うと同時に、寛いでいる所を邪魔して悪いとも思ってしまった。

「その様子だと、決まったみたいだな?」

「はい、エレ…」

「「「親父様!」」」

俺がレオンに話しかけようとした所で、エンリーカ、リディア、ミディアがレオンの前に正座して俺の言葉を遮った。

「どうした?」

「親父様、お願が御座います!私をエルさんの妻にしてください!」

「リディアも!」

「ミディアも!」

「三人共親父様にお願するとかずるいよ!僕がレイちゃんに選ばれたんだからね!」

「ほう!」

三人はレオンに頭を下げ、レオンは膝枕されたままニヤリと笑って俺に視線を向けながら話しかけて来た。


「エルレイは、全員に勝ったのか?」

「いいえ、僕が勝ったのはエレオノラさんだけです。後の三人には恥ずかしながら負けてしまいました…」

「はっはっはっ!エンリーカ、お前の事だから絶対に勝てる将棋で勝負したのだろう?」

「は、はい…」

「リディアとミディアも同じだろう!」

「「うん…」」

「だが、エルレイの魔法を見て心変わりしたんだな?」

「親父様の言う通りですわ!」

「そう」

「です」

レオンは三人の話を聞くと体を起こし、正座して頭を下げている前まで行って三人の頭を撫でた。

「よし!お前達の願いをかなえてやる!エルレイ、四人を任せたぞ!」

「えっ…」

「なんだ不服か?」

「いえ、不服ではありませんが…」

レオンから殺気の籠った目で睨まれてしまった…。

娘を要らないと言われれば、俺だって怒るかも知れない…。

しかし、四人も連れ帰ってしまえば、レオンに殺気を向けられるより恐ろしい事が起きるに違いない…。

横にいるリゼからも、冷たい視線を向けられているからな。


「エルレイ、この国では何でもいいから優れたやつが上に立つ事が出来る!

で、だ、エルレイが優れた魔法を見せたのだから、四人共お前に着いて行きたいと思うのは当然の事だ!

四人で済んでよかったな!」

大勢いた時に魔法を披露していたら娘全員来ていたぞと、レオンは笑いながら言っていた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る