第二百五十七話 レオンフィスの家族
金貨を掘り出した翌日、俺はレオンとマティアスの乗るグリフォンをリゼを抱きかかえて追いかけていた。
レオンの乗るグリフォンはとても早く、マティアスが苦労して着いて行っているのが分かる…。
「マティアス、もっとグリフォンの気持ちを感じ取るんだ!」
「はい、親父殿!」
レオンが遅れ始めたマティアスに檄を飛ばしている。
レオンが乗るグリフォンと、マティアスが乗るグリフォンの大きさは同じくらいだ。
グリフォンが魔力を使って飛んでいるとは言え、操縦者次第でそこまで飛ぶ速度が変わるものなのだと感心した。
「旦那様、風景がとても美しいです!」
「そうだな!」
周囲には雪化粧をした高い山々が連なっていて、そこから流れて来る大きな川を中心として原生林が広がっている。
冬だと言うのに、辺り一面緑色に覆われていた。
「ここは一年中、海から温かな風が吹いて来ますので、冬でもそこまで寒くならないのです」
「そうなのですね」
マティアスが自慢げに話してくれた。
飛んでいる間は寒くならない様に防壁で守っているので外気温が温かいのかは分からないが、眼下の景色が緑に覆われているので温かいと言う事は想像できる。
そんな緑あふれる原生林を飛んで行っていると、遠くに海が見えて来た!
「もうすぐ着きます」
マティアスそう伝えて来てからしばらく飛んでいると、原生林が途切れた所から広大な農地と大きな街が見えて来た。
「城だ!」
「はい、私達のキーフ城です」
街の中心にある小高い丘の上に、日本風な城がそびえたっていた!
見事な山城だが、あれも英雄が伝えた物なのだろうな…。
俺は英雄と同じ転生者でありながら、何一つこの世界に伝えてはいない…。
何か一つでも伝えていく必要があるのだろうかとも思うが、これ以上目立ちたくはない。
まぁ、英雄が頑張って伝えているし、俺が何か伝える必要は無いだろう。
そもそも、俺は英雄の様に様々な物を作り出す技術や知識を持ち合わせてはいない。
今まで通り、大人しく過ごせていければいいなと思う。
グリフォンは街の上空を飛び、城の脇にある空地へと降り立った。
他にもグリフォンがいたので、ここがグリフォンの住処なのだろう。
「御屋形様、お帰りなさいませ」
レオンがグリフォンから降りると、袴姿の男性がレオンを出迎えてグリフォンを預かっていた。
「マティアス、エルレイを
「分かりました。エルレイさん、こちらに来てください」
俺とリゼはマティアスに案内されて、城の裏手にある蔵が多く立ち並ぶ場所に連れて来られた。
「エルレイさん、この場所に金貨を出して貰えませんか?」
「構いませんが、蔵の中ではなく外で良いのですか?」
「はい、整理して入れなくてはなりませんので、この場に置いてください」
「分かりました」
後はどうにかするのだろうから、俺は気にせず蔵の前あたりに金貨を出し続けて行った。
「お疲れさまでした。エルレイさん、屋敷の方にご案内します」
「はい、お願いします」
金貨を出し終えると、俺とリゼは丘から下へ続く長い階段を下りて行く事となった…。
「マティアスさん、城へは行かないのですね…」
城に行けなかった事を残念に思い、マティアスに聞いて見た。
「キーフ城は二千年以上前に建てられていて、幾度も修復を重ねてはいますが中はボロボロなのです…」
「なるほど…」
英雄がこの城を建てたのかは不明だが、二千年も原形を保っているだけでも凄い事だと思う。
中に入れないのは残念だが、この世界に来て日本の城を見られただけでも良かったと思う。
長い階段を下りた所には、白い塀に囲まれた大きな屋敷があり、門から中へと入って行った。
「美しい庭ですね」
「はい、自慢の庭です」
門から石畳を進んで行くと、美しく整えられた日本庭園が見えて来た。
日本庭園を楽しみながら石畳を歩くと、やっと屋敷の玄関へと辿り着いた。
「マティアス様、お帰りなさいませ」
「ただいま、こちらの二人は親父殿のお客様だから失礼の無いように」
「承知しました。お客様、御屋形様が広間にてお待ちですので、ご案内いたします」
俺とリゼは玄関で靴を脱ぎ、女中さんに案内されて気の廊下を歩いて行く。
そして、通された畳の広間には、レオンと左右に大勢の女性たちが待ち構えてくれていた。
「エルレイ、こっちに来て座れ」
「はい」
俺とリゼはレオンの前まで行って、用意されていた座布団に座った。
「エルレイ、俺の妻と娘達だ」
「初めまして、エルレイ・フォン・アリクレットと申します。気軽にエルレイと呼んでください」
集まっていたレオンの妻と娘達に挨拶をしたのだが、何人いるのだろう?
レオンが一人ずつ紹介してくれたが、こんなに大勢の女性の名前を覚えられるはずも無い…。
しかし、レオンの妻が二十二人と、娘が三十五人いるのだけは分かった…。
俺も婚約者の数が多いとは思っていたが、上には上がいるのだなと感心した。
なるほど、レオンが宴会の席で「嫁に逆らうな」と言っていたのを思い出した。
二十二人も嫁がいると逆らうことは出来ないよな…。
俺はここまで婚約者が増える事は無いだろうが、レオンを見てこれ以上増やさない様にしようと思った…。
レオンは全員を紹介し終えた所で立ち上がり、俺の横にドカッと座り込んで来た。
「エルレイ、俺の嫁はやれないが、娘なら好きなのをくれてやるぞ!」
「えっ!?」
レオンがそう言うと、レオンの妻たちはさっと横に移動し、娘達が俺の正面に集まって来た…。
「あの…僕には妻がおりますし、実は残してきた妻が後九名いますので遠慮させて頂きます!」
レオンは娘を俺にくれると言ってくれたが、ルリアとの約束もあるので、俺はきっちりと断らせてもらった!
「遠慮するな!これはソートマス王国側からの要求なのだぞ!」
「えっ…そうなのですか?」
「そうだ。この戦争が無事に終われば、我がキュロクバーラ王国とソートマス王国は同盟関係を築いていく事になる。
その際の橋渡し役となるのがエルレイ、お前だ!
で、だ、エルレイに俺の娘を嫁にやる事で両国の絆をより強固なものとしていく。
と言うのは建前で、簡単に言えば人質だ!
なので、エルレイに拒否権は無いぞ!
それに、俺の娘達は優秀だ!
エルレイに損をさせないことを約束するぞ!」
「は、はい…」
「ゆっくりと選べ!」
レオンは俺の肩を叩くと、立ち上がって広間から出て行ってしまった…。
しかし、選べと言われても困惑せざるを得ない。
ルリアから新しい魔法を教えて貰うためには、婚約者を連れ帰ることは出来ないが、ソートマス王国からの要求でレオンが俺に嫁を差し出さなければならない理由も分かった。
くっ…新しい魔法は諦めるしかなさそうだ…。
「旦那様、いかがなさいますか?」
リゼも突然の出来事に、困惑した表情を浮かべながら問いただして来た。
断る事も出来ないので、俺は覚悟を決めて一人選ぶことにした。
「リゼには申し訳ないが、一人選ぶしかないみたいだ」
「はい、分かりました」
リゼは素直に頷いてくれたが、ルリアは怒るだろうな…。
きちんと説明すれば、ルリアも納得してくれるはずだ。
俺の前に集まってくれているレオンの娘達をいつまでも待たせるわけにはいかないので、俺は立ち上がって話をすることにした。
「改めまして、僕はエルレイ・フォン・アリクレット。ソートマス王国で侯爵位授かっている貴族です。
レオンさんから、貴女方の中からお一人選べと言われましたが、僕の国に来て生活するのは大変な事だと思います。
強制はしたくありませんので、僕の所に来ても良いと思う方だけ残って貰えないでしょうか?」
俺が話し終えると、レオンの娘達はお互いに視線を向け、小声で相談しながら徐々に広間から退出して行ってくれた…。
娘達と言っても、下は赤子から上は二十歳を超えたような人もいたからな…。
赤子や幼児達が残られても、俺が困ってしまう所だった。
そして、最後まで残ってくれたのは三十五人中、四人しかいなかった…。
選びやすくなったと喜ぶべきか、俺の嫁になるのが嫌な子が多かったと嘆くべきなのか…。
冷静に考えれば、人質になりたいと思う人はいないよな!
うん、俺の人気が無かったわけではない!
そう思い込まねばいけないほど、俺は落ち込んでしまっていた…。
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