第二百五十六話 発掘作業

ラウニスカ国王を討ち取った事で、戦争は終わった…。

まだ、各地の街に軍は残っているが、王が死んでまで抵抗はしないだろうし、俺の仕事でもない。

戦争は終わったが、俺の領地にはそれを知らない人たちが難民としてまだ押し寄せているのだろう。

一刻も早く帰りたかったが、ソートマス王国を代表して来ているので、そう簡単には帰れない…。

今は最初に訪れた集落に戻ってきており、勝利を祝う宴会に参加している所だ。

レオンの隣に座らされている事には今更驚く事は無いが、レオンから絡まれるのが少し辛い…。


「エルレイ、飲んでるか!」

「いえ、僕はまだお酒は飲めません…」

「ちっ!だらしないぞ!俺がお前の歳くらいの時にはもう飲み始めていたぞ!

いいから飲め!」

レオンから酒を勧められられては、断れないよな…。

仕方ない、仕方ない事なんだ…。

俺は酒の入ったコップをレオンから受け取り、口に持っていこうとした…。


「旦那様にはまだ早すぎます!」

リゼにコップを握られ、奪われてしまった…。

くっ!美味そうな酒が飲めなかった!

「あ~、嫁がそう言うのであれば仕方ない。エルレイ、嫁には逆らわないのが夫婦円満の秘訣だ…」

レオンは俺の肩に手を回して、こっそりと教えてくれた。

レオンも、嫁には苦労させられていると言う事なのだろう。

それ以降、レオンが俺に酒を勧めてくる事は無かった。

皆が酒を飲んで騒いでいるのに、俺とリゼだけがジュースを片手に料理を食べているのが悲しかった…。


宴会は続いているが、俺とリゼは先に休ませてもらう事にした。

疲れているのもあるが、酒が飲めない宴会にいてもストレスがたまるだけだからな…。

「レオンさん、僕達はお先に失礼します」

「おう、明日からもよろしく頼むぜ!」

レオンは手をひらひらを振りながら退出を許可してくれたが、明日からって何?

俺の仕事はもう終わったはずだが…。

まぁ、レオンは酔っているし、俺を部下だと勘違いしたのだろう。

あまり気にせず与えられた部屋に戻り、リゼと露天風呂に入って汗を流した後は直ぐに就寝した。


翌朝、レオンに帰国を伝えるために、女中さんに言ってレオンの所に連れて行って貰った。

レオンは、昨日遅くまで飲んでいたのだと思うけれど、二日酔いなんか関係ないと言わんばかりのスッキリした表情を見せていた。

その方が話しやすくていいな。


「レオンさん、僕は帰国します。短い間でしたが大変お世話になりました」

「何を言ってんだ?まだ終わって無いぜ!」

「えっ!?」

俺の役目は終わったはずだが…もしかして、軍の解放までやらされるのか?

それは流石にお断りしたいな…。

俺が街中に入って魔法を撃つわけにもいかないし、軍の代表と会って話し合いするのも俺の役目では無いはずだ。

そう思ったのだが、どうやら違ったみたいだ。


「エルレイ、城を破壊したのは見事だったぜ!」

「はい、ありがとうございます…」

「で、だ、その後始末は壊した者がやるのが当然だとは思わないか?」

「えっ…いや…それは…」

「それは?」

確かに俺が破壊したが、後始末ってなんだ?

平地にすればいいのか、それとも城を建て直せとか言ったりしないよな?

俺が返答に困っていると、レオンは立ち上がって俺の横に着て肩を組み、まだ少し酒臭い息を漂わせながら話しかけて来た。


「ラウニスカ王国は、昨日倒した能力者を使い、裏で暗殺業を行っていたのは知っているよな?」

「はい、それは勿論です…」

俺も実際にニーナに襲われたし、素直に頷いた。

「で、だ、かなりの大金を貯め込んでいて、俺はそれを当てにしてエルレイを雇ったんだぜ!

しかし、だ、どこかの誰かさんが城を潰してくれたおかげで、その目論見は泡と消えそうだ」

「つまり…お金を掘り起こせばいいのでしょうか?」

「そうだ、頼んだぞ!」

「はぁ、分かりました…」

城を破壊したのは俺だが、許可を出したのはレオンだろう!

でも、レオンなら、俺のせいでお金が支払えないとかソートマス王国に平気で伝えそうだよな…。

金が払えないなら、ソートマス王国とキュロクバーラ王国の仲が悪くなる可能性は高い。

レオンやマティアスとは結構親密になれたと思うし、今更レオンの国と戦争とか絶対やりたくはない!

仕方が無いので、掘り起こしてお金を探すしかないみたいだ…。


リゼとマティアス、それに女中さんを五名連れて破壊した城へと空間転移魔法でやって来た。

女中さん達は、持って来たテントを手際よく組み立てていて、俺達に飲み物や食事を提供してくれるそうだ。

女中さん達の手際に見惚れている場合ではないな…俺は早速掘り起こそうと壊れた城の前へとやって来た。

城は見事に崩れ去っていて、瓦礫の山と化していた…。


「これは大変そうだな…」

「はい、旦那様、いかがなさいますか?」

「そうだな。先ずは土埃が立たないように水で濡らした方が良いだろう。

でも、その前にグール、生存者がいないか確認してくれ」

「了解マスター…地下深くまで探ったが魔力反応はねーぜ」

「そうか…」

城に残っていた人がいたとしても、この状況下で生き残っている可能性は低いな。

遺体が出て来ない事を願いつつ、作業を開始する事にした。


俺が掘り起こし、リゼの竜巻で瓦礫を取り除いて貰う。

リアネ城でも宝物庫は地下にあったし、かなり掘り進めない事にはお金は出て来ないだろう。

しかも、何処にあるのか分からないので、全体的に掘って行かなくてはならない…。

グールに聞いても、お金の位置までは分からないと言われたからな。

瓦礫と化した城の撤去作業は、思った以上に大変な作業だった。

単純に掘り起こすだけなら簡単なのだが、お金が何処に埋まっているか分からないし、お金を傷つけてレオンから文句を言われたくはないので、慎重に少しずつ掘り進める必要がある。

だから、お金を掘り当てるまで三日も掛かってしまった…。


「旦那様、やっと出てきましたね!」

「うん、良かった…」

宝箱みたいなのに詰まった金貨が見えた時は、本当に感動してしまった。

でも…箱は潰れていたし、金貨も圧縮されて固まっているけどな…。

「溶かして作り直せますので問題ありません」

マティアスがそう言ってくれたので、俺は安心して潰れた金貨を掘り出す作業に集中した。

一日かけて、殆どの金貨を掘り出せたと思う。


「しかし、ラウニスカ王国は随分と貯め込んでいたのだな…」

「そうですね…」

俺とリゼは掘り出した金貨の山を見て、呆れるしか無かった…。

これだけあれば一生遊んで暮らせそうだが、この金貨はキュロクバーラ王国の物だ。

俺は掘り出した金貨を収納魔法内に収め、リゼ、マティアス、女中さん達を連れて山奥の集落へと戻って来た。


「マティアス、金貨は何処に出せばいい?」

「それなんですけれど、明日別の場所に連れて行きますので、そこで出して貰ってもいいでしょうか?」

「うん、それは構わないが、僕がこのまま持ち逃げするとか思わないのか?」

「持ち逃げするのですか?」

「いや、そんな事はしないが…」

「エルレイさんの事は信用していますので、何も問題ありません」

レオンとマティアスは俺を信用し過ぎではないのか?

その内腹黒い奴に騙されてしまうのではと、心配になって来る…。

いいや、レオンは出会ってすぐに斬りかかって来るような奴だ。

あの時に、対峙した人の事を見極めているのだろう。

もし、俺が腹黒い奴だったら、あの時に寸止めせず首を刎ねていたに違いない…。

うん、首を刎ねられたくはないので、これからもレオンやマティアスに対して、誠実に付き合っていこうと心に決めた…。

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