第二百五十五話 ラウニスカ王国の終焉 その二

枯れ井戸の上空に到着したが、周囲に人の気配はなかった…。

「少し早かっただろうか?」

「旦那様が警告してからすぐに逃げ出したとすれば、もう既に外に逃げ出していても良さそうですけれど…」

「ギリギリまで残っていれば、まだ隠し通路の中か…」

「そう思います」

それと、上空を俺やグリフォンが飛び回っていれば、外に出てこようとは思わないよな…。

失敗したと思い、レオンにグリフォンを戻すようにお願いをしてみた。


「それは構わんが、見つけたらすぐに俺に知らせろ!」

「分かりました」

そうだよな。

この戦争はレオン達の物で、俺が国王を倒す事は許されない。

リリー、ロゼ、リゼ、ニーナの事があったから、この手で決着を付けたかったのだがな…。

無理を言う訳にはいかないので、国王の発見に全力を尽くす事にした。


レオン達が離れた事で、グールを遠慮なく使う事が出来る。

「グール、この高度から地上の魔力を見れるか?」

「可能だが、地下は難しいぜ。マスター、もう少し高度を落としてくれ」

地上から五十メートルまでの位置へと下がり、その高度を維持しながら周囲を探索する事にした。

「なぁマスター」

「何だ?」

「もしかして、俺様の活躍の場が無いんじゃねーの?」

「ん、そんな事は無いだろう。今一番活躍しているのはグールだぞ!」

「いやいやいや、俺様、敵を殺してーんだが?」

「あー、どの道敵は能力者だから、地上に下りて斬り合う事は出来ないぞ。

それとも、グールは能力者とも対等に戦えたりするのか?」

「い、いや…マスターを高速に動かせるような能力はねーよ」

「だろ」

「あー、リゼの姉御が俺様を持ってって、俺様の能力が使えないんじゃ意味ねーな」

「残念だが、諦めてくれ」

「仕方ねーな…」

グールは文句を言いつつも、探索に力を入れてくれた。

そんな中、珍しくリゼがグールに質問していた。


「グール、能力者を生み出す魔道具は英雄が作った物なのですか?」

「リゼの姉御、俺様の記憶の中にその魔道具は残されているぜ。

クロームウェルが人の能力向上の為に実験的に作った魔道具だが、上手くいかずに失敗した物だな。

その失敗作を高額で売り付け、買った奴が使ってたっつーことだろ」

「失敗作を私達に…」

リゼはグールの説明を聞いて、怒りに震えていた…。

グールも空気を読んで適当に誤魔化せばいいものを…。

まぁ、正確に説明してくれたグールに文句を言う訳にもいかず、リゼの怒りをなだめるべく抱き寄せた…。


「リゼ、僕にはリゼとロゼがどれほど辛い思いをして来たのかは想像する事すら出来ない。

でも、今こうしてリゼの温もりを感じていられるのは、その過去があったからだと思う。

辛い記憶は忘れ去る事は出来ないだろうけれど、少しでも和らげられる様に努力すると誓うよ」

「旦那様、ありがとうございます…」

リゼは俺の胸に顔を埋めて泣いていた…。

リゼの泣き顔を見たのは初めてかも知れない。

リゼを両手で抱きあげているので、頭を撫でてやる事は出来ないが、その代わりにリゼの頭に俺の頬をそっと寄せてあげた…。


「あ~、いちゃついている所悪りーんだが、見つけたぜ!」

「そうか!」

俺は顔を上げると、リゼも恥ずかしそうに顔を赤くしながらも顔を上げ、下を確認し始めた。

「見えないぞ?」

「隠れているみたいだから、マスター、少し離れた方がいいと思うぜ!」

「分かった」

グールが発見したと言う場所は、枯れ井戸から更に東に行った所にある岩場だった。

あの辺りにも出口があったのだろうが、俺が上空にいては出て来れないよな。

俺は出来るだけ離れてから地上近くに下り、木の陰に隠れて様子を窺う事にした。

ついでにレオンじゃなくて、魔法が使えるマティアスに念話で連絡する事にした。


『マティアスさん、まだ隠れて表には出てきていませんが、多分発見できたと思います。

見つけ次第また連絡しますので、何時でも来られるようにしていてください』

『分かりました、連絡お待ちしてます』

すぐ出て来てくればいいが、よく考えたら逃げるなら日が落ちてからにするよな…。

俺が敵の立場だったら、見つかりやすい日中は隠し通路内に籠り、日が落ちてから逃げ出す事を選択するだろう。

マティアスへの連絡を早まってしまったな…。

もう一度マティアスに連絡を取り、敵は直ぐに出てこないだろうと告げた方が良いかも知れないな…。

そう思い、念話をしようとしていたのだが…。


「旦那様、岩場で人が数人動いているのが見えます」

「出て来ているな…もうしばらく様子を見よう」

「はい」

遠くなので、どんな人物なのかは分からないが、人が動いているのは確認できた。

あれが王だと良いのだがな…。

それにしても、不用心過ぎないだろうか?

囮か、それとも守り切れる自信があるのか…。

後者だと厄介だが、もうしばらく様子見だな。


「見えなくなったな…」

「もう暫く様子を見ますか?」

「いや、行ってみよう」

見付からない様に低空を飛び、人が出てきた岩場へとやって来た。

見える範囲には人影はなかったが、岩の脇に地下通路へとつながる入り口が開いているのを見つけた。

「グール、地下通路に誰かいそうか?」

「いねーぜ」

「そうか、戻って来て籠られても困るから、入り口は塞いでおこう」

周囲から土を集め、地下通路の入り口をふさいだ。

急いだので簡単に掘り返せるだろうが、時間を稼ぐ事は可能だ。

「よし、追いかけようと思う」

「旦那様、注意してください!」

「うん、分かっている!」

魔法障壁を何重にも掛け、万全の状態にしてから岩場から逃げ出した者達を追いかける事にした。


「旦那様、いました!」

「リゼ、魔法をいつでも撃てるように準備していてくれ」

俺は注意しながら、移動している集団の上空へと近づいて行くと、十人の魔法使いが飛びあがって来た!


「やはり、能力者の中に魔法使いがいたか!リゼ、僕は防御に徹するから攻撃は任せたぞ!」

「はい、旦那様!」

敵の魔法に備えて、最大限の防御を施した!

魔法使いの一人が能力を使ったのだろう、多くの火球が一斉に撃ち出されて来た!

「あれ?」

「旦那様、能力を使って呪文を唱えたとしても、無詠唱で無ければ普通の魔法と変わりません…」

「あっ…そうか!」

ロゼとリゼを基準に考えていたが、能力を使って一瞬のうちに呪文を唱えたとしても、魔法の威力や飛ぶ速度に変化はないよな…。

一人の魔法使いが能力の限界を超えると、次の魔法使いが能力を使って魔法を一斉に撃ち出して来ていた。

リゼの言う通り、撃ち出してくる数が多いだけで普通の魔法使いと同じだな。

どうせなら、十人が一斉に能力を使って魔法を撃ち込んで来れば、それなりの威力になるだろうに…。

飛行魔法も同じで、能力を使ったとしても飛行速度が変わる事は無く意味が無いな…。

これなら、地上で能力を使われた方が余程厄介だ。

「旦那様、倒していいのですよね?」

「うん、お願する」

飛び上がって来た十人の魔法使いは、リゼの魔法の前にあっさりと倒されてしまった。

残りは地上にいる者達だが、まだ五十人程度はいるな…。

その中心に守られている者が国王だろうか?

地上に行って確認するのは危険だし、後はレオンに任せる事にしよう。

マティアスに念話で連絡すると、すぐにレオン達がやって来てくれた。


「エルレイ、あれか?」

「確証はありませんけれど、多分そうかと思います」

「分かった、おい、一気にやるぞ!」

レオンが号令をかけると、三十頭のグリフォンが逃げ惑う者達を追いかけながら、地上に向けて雷を落としていた!


「旦那様、あの魔法は危険ですね…」

「そうだな…」

リゼが言う様に、グリフォンが放つ雷は恐ろしく威力が高く、普通の落雷と同じくらいだろうと思う。

普通の人が食らえば、一瞬で死に至るのは間違いない。

あっという間に、地上にいた五十人は動かぬ死体となっていた…。

能力を使って逃げ出そうとしていた者もいたが、雷の速度に敵うはずも無い…。


グリフォン部隊は地上に降り、死体の確認作業を行ってる。

そして国王が見つかったのか、レオンが俺を大声で呼んだので向かって行った。

「この人が、ラウニスカ国王なのですか?」

「そうだ」

レオンの傍には、立派な衣装に身を包んだ中年の男性が横たわっていた。

雷に撃たれた影響で所々焦げてはいるが、比較的綺麗な遺体だ。

「旦那様、あの腕輪です」

リゼが指さしたのは、ラウニスカ国王の右腕にはめられていた腕輪だ。

「レオンさん、この腕輪を頂けないでしょうか?」

「これが何だか知っているのだな?」

「はい、能力者を作り出す腕輪だと思います」

俺は隠すことなく、レオンに腕輪の能力を伝えた。

恐らくレオンも知っているだろうし、隠していては後で文句を言われかねないからな…。

「ほう、それを寄こせと?」

レオンはニヤリと笑いつつも、遺体から腕輪を取り俺に手渡して来た。


「貸しだぞ!」

「はい、僕に出来る事なら何でもさせて頂きます」

レオンに大きな借りを作ってしまう事になってしまったが、これはどうしても手に入れなければならなかった!


「リゼの好きな様にしていい!」

「旦那様、感謝します!」

腕輪を渡すと、リゼは大きく振りかぶって腕輪を上に投げた!


「アブソリュートゼロ!!」

リゼの投げた腕輪は上空で凍り付き、きらきらと光を反射しながら粉々に砕け散ってしまった…。

「よくやった!」

「はい、旦那様…」

リゼは俺の胸に顔を埋めて声を殺して泣き崩れていた…。

俺はリゼが泣き止むまで、頭を撫で続けてあげた…。

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