第二百五十四話 ラウニスカ王国の終焉 その一

ラウニスカ王国の城を破壊する日がやって来た。

キュロクバーラ王国の地上部隊は、王都ロイトにある二か所の門の外を押さえていた。

レオンが自ら率いるグリフォン部隊が、地上部隊の支援を行っている。

空を飛んでいるグリフォンの数は二百頭。

これは、レオンが教えてくれた数だから間違いないと思う。

レオンの周囲は、機密情報を教えられて慌てていたが…。


「エルレイは共に戦う仲間だぞ!」

レオンが一喝した事で周囲も納得していた。

それでいいのかとも思ったが、俺としてもそこまで信頼されれば、他に洩らすような事は決してしない。

なるほど…相手を信頼する事で、相手にも信頼させる事が出来ると言うものだな。

相手が裏切らないと言う保証は全く無いが、そこは人を見る目が試されると言う事なのだろう。

今は俺にそこまでの事は出来ないが、レオンのようになれるように努力して行こうと思った…。


「レオンさん、先に警告をしに行って来ます」

「行ってこい!」

レオンは快く俺を送り出し、俺はリゼを抱えて先に城の上空へとやって来た。

俺が上空から城に近づいたので、城の尖塔にいた者達が騒ぎ出しているのが見えた。

今の所魔法を撃ち込んで来る者はいないし、迎撃に飛び上がって来る者もいないな…。


「リゼ、出来る限り能力は使うなよ」

「はい、承知しております!」

敵の能力者の中に魔法使いがいないとも限らない、いや、いると考えておかなくてはならない。

魔法障壁は何重にも重ね掛けしていて、万が一能力者の魔法使いがいたとしても突破される事は無い様にしているが、絶対ではない。

これだけ防御していても、ロゼとリゼなら突破できるはずだからな…。

いざとなればリゼに頼らざるを得ないが、出来る限りそうならない様にしなければならない。

あの能力は脳に負担を与えてしまい、使い過ぎれば命に関わるからな。

それに、魔法を使える能力者が複数いた場合、リゼが能力を使ったとしても数に押されて負けてしまう。

勝機を見出すためには、相手に近寄らせない事が重要となる。


「リゼ、地上から撃ち込まれる魔法は無視していいが、魔法使いが向かって来ようとしたら遠慮なく撃ち落とせ!」

「はい、旦那様!」

リゼに魔法使いを任せ、俺は武闘大会でキャセラが使っていた拡声魔法を使い、警告をする事にした。


「城内にいる者達に告げる!

これより一時間後、この城を破壊する!

死にたく無ければ、すぐに城から出て行け!

繰り返す!

これより一時間後、この城を破壊する!

これは単なる脅しでは無い!

それを証明するために、五分後に尖塔を一つ破壊する!」


警告は行った。

一時間後に城に残っている者達に容赦するつもりはない。

アルフィーナの様に不幸になる者もいるだろう。

その事について思う事は何も無い…。

俺はただ、自分の家族がそうならないように努力をし続けるだけだ…。

城からは、俺達に向けて魔法が撃ち込まれて来ていて、魔法使いが迎撃に飛び上がって来ていた。

リゼが飛びあがって来た魔法使いを全て撃ち落としているので、俺達に近づける魔法使いはいないな。

能力者の中に魔法使いがいなかった?

いや、王の守りに徹しているのかも知れないな。


「五分経ったな…」

「はい、旦那様、私が壊してもよろしいでしょうか?」

「うん、お願する!」

リゼは、俺にリリーの思い出が残っている城を壊させたくはなかったのか、それとも自分の恨みを晴らす為だったのかは分からないが、手前にある尖塔に向け特大の魔法を撃ち込んでいた。


「ドラゴンフレイム!」

リゼが魔法を使うと、竜の見た目をした燃え盛る炎が現れ、尖塔を食らうかのように襲い掛かって行った!

「見た目は格好いいが、竜にする意味があったのか?」

「見た目は重要です!旦那様、その証拠に私の魔法を見ていた人達が慌てて逃げ出して行ってます!」

「そ、そうだな…」

リゼの魔法で尖塔が壊れると、城から逃げ出す人たちが現れ始めていた。

リゼは氷像を作るのが得意になっていたが、炎まで見た目にこだわるとは…。

まぁ、リゼが言う通り、見た目で恐怖を煽るのが効果的なのは間違いないな。

俺も少し練習してみようかと思う。


待っている時間を使い、リゼが使った隠し通路の出口付近へとやって来た。

「旦那様、あの枯れ井戸です」

「あれがそうなのか…」

城から東に二キロほど離れた林の中に、苔に覆われた井戸があった。

井戸の下には横に繋がる地下通路があると言う事だったが、井戸側からは開かないようになっている。

地下通路は幾つも分岐点があり、間違えた通路に入ると行き止まりだったり、罠が仕掛けられていたするそうだ。

「私が教えられた出口はここだけですが、他にもあるかも知れません」

「そうだな、時間まで探してみる事にしよう」

周囲を飛び回って、怪しそうな墓地や廃屋などを探しては見たが、隠し通路へとつながる入り口を見つけられる事は無かった。

簡単に見つかるようであれば、隠し通路の意味が無いからな…。

俺達は一度、王都の入り口を固めているレオンの所に戻って行った。


「レオンさん、これより城の破壊を行います」

「そうか、俺もついて行くぞ!」

「えっ!?ここは良いのですか?」

「構わぬ!マティアス任せたぞ!」

「はい、お任せを…」

マティアスはグリフォンの上で大きなため息を吐いていた…。

行くなと言っても聞かないのだろうな。

俺としても、危険な場所にキュロクバーラ王国国王を連れては行きたくは無いのだがな…。

一応レオンの護衛としてグリフォンに乗った十人がついて来ているので、俺が守る必要はないだろう。


「レオンさん、高い場所から攻撃しますので、高度を上げてください」

「そうか、近くで見たかったが危険か」

「はい」

球を落として壊すので、高度を高くした方が威力が上がる。

ただ、あまり高くし過ぎると命中精度が落ちてしまう。

城の高さが五十メートルほどあるので、それより百メートルほど上空に待機した。

ここの高さなら、敵の魔法も届かないだろうし、レオンの身の安全が確保できるはずだ。

攻撃する前に、最終警告を行う事にした。


「これより攻撃を開始する!

城に残っている者は死ぬことになる!

速やかに城から出て行く事を勧める!」


さて、警告はしたので、これより攻撃に移る事にしようと思う。

まずは残っている尖塔から潰していこう。

狙いを定め、空間収納より球を取り出し、魔法を込めて落下させた!

球は尖塔に命中し、轟音を立てながら尖塔を貫いて行った。


「あれが作っていた球か…落としただけであの威力とは恐ろしいぜ…」

「一応、魔法で加速させていますが、球の重さで破壊した様なものです」

「そうか、あの大きさは無理だが、両手に抱えるほどの石を落とせば似たような事は出来るな?」

「可能だと思います」

レオンは、グリフォンでも同じ事が出来ないかと考えていた。

実際、二百頭のグリフォンで一個づつ石を落とせば、俺がやる以上の破壊をもたらす事は可能だろう。

命中させられるかは訓練次第だと思うが、何処にでもある石を集めて落とすだけなので、費用も掛からずに済むからすぐに出来るようになるだろうな。

今まではどうやってたのかは分からないが、恐らくグリフォンの魔法に頼った戦い方をしていたに違いない。

魔法と言う強力な武器があるから、意外と簡単な事に気が付かないのかも知れないな。

俺も魔法が効かない砦が無かったなら、このような手段を取っていなかったのは間違いない。

俺は残りの球も次々と落として行き、城を完全に破壊し終えた。


「見事だ!」

「はい、ですが本番はこれからです」

「そうだな。で、だ、何処に逃げたか見当がついているのか?」

「多分、城の東側だと思いますが、確実ではありませんので、王都周辺の捜索をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かった。おい、手分けして逃げ出した者を探し出せ!

見つけ次第、上空から攻撃しろ!決して下りて戦おうとするな!」

レオンが指示を出し、部下達が伝達に飛んで行った。

俺は、リゼが教えてくれた枯れ井戸を目指して移動を開始した…。

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