第二百五十三話 キュロクバーラ王国作戦会議

「現在地上部隊はラウニスカ王国軍のいる街を素通りし、王都ロイトに向けて侵攻中です。

三日後には南北の門の封鎖を完了する予定です」

キュロクバーラ王国は、ラウニスカ王国軍との戦闘を避けて王都に進んで包囲し、城をグリフォンで襲撃して王の討伐をすると言う事だった。

軍を無視すれば後ろから攻撃されるのではと思ったが、グリフォンでの上空からの攻撃に怯えて街から出て来る事は無いだろうと説明を受けた。

それならば、最初からグリフォンで上空から城に攻め込み、王だけ倒しに行けばいいと思ったが、城には能力者がいて出来ないと言う事だった。


「そこで、だ、エルレイの出番と言う事だ!」

「僕でも無理です…」

レオンは、俺に城に攻め込んで能力者を倒せと無茶ぶりを言って来た…。

「アイロス王国は、エルレイ一人で壊滅させたのにか?」

「あれは話し合いが出来る相手だったからです!」

「そこを何とかして貰うために、大金を支払たんだぜ!」

レオンは俺の肩を強く叩き、何とかしろと命令して来た…。

ソートマス王国とキュロクバーラ王国の間で、どんな話があったのかは俺には知らされていないが…。

レオンの話が本当であるとすれば、俺はその金に見合うだけの仕事をしなくては、ソートマス王国の面子を潰す事になるのだろう。

かと言って、能力者が何人いるか分からない城に入って行けば、俺でも無事では済まされない…。


「少し考えさせてください…」

「いいぜ、一時間だけ待とう。全員休憩だ!」

たった一時間しかもらえなかったが、何とかいい作戦を考えてみようと思う。

俺はリゼを連れて部屋を出て、与えられた部屋へと戻って来た。

一応天井に誰かいないか魔力を確認してみたが、俺の見える範囲にはいなさそうだ。

さて、リゼと座椅子に座り、一緒に考えて貰う事にした。


「リゼ、どうすればいいと思う?」

「そうですね…魔法で城を破壊してしまえば良いと思います!」

「流石にそれは不味いだろう…」

俺もそれは考えたが、リリーが住んでいた城だし、ロゼとリゼも想い出がある場所だと思ったのだが…。

「問題ありません。リリー様も旦那様の安全の為であれば、城を喜んで壊す事でしょう。

それに、私とロゼにとっては忌むべき場所ですので、無くなった方が良いのです…」

「そうか…」

リゼは一瞬だけ暗い表情をしたが、すぐに笑顔を俺に向けてくれた。

ロゼとリゼが能力を得るために、どんな事をされたのかはある程度聞いていた。

俺としても、ロゼとリゼにそんな事をした奴を殺したいと思うし、リリーが逃げ出す原因になった奴でもある。

「それと、能力者は屋内ではかなり脅威ですが、屋外ではそこまで脅威ではありません」

「そうなのか?」

「はい、能力の連続使用は出来ませんので、隠れる場所がない屋外では能力を使用後が無防備になります」

「なるほど、一度耐えられればこちらの優位となるな」

「はい、旦那様」

よし、城を壊す事にしようと思うが、無関係な者を巻き込みたくはない。


「リゼ、壊す前に警告して城内で働く者達を逃がしたいと思うがどうだろう?」

「よろしいかと思いますが、王が何処に逃げるか分かりま…あっ、もしかして、私達がリリー様を連れて逃げた隠し通路を使って逃げるかもしれません!」

「うん、隠し通路があるのであれば、普通はそこを使うと思う。リゼはその場所を覚えているか?」

「はい、私達は非常時にリリー様をお連れして逃げる様にと、隠し通路の場所を教えて貰っていました。

ただ…隠し通路は一本では無かったですので、私が知っている分しか分かりません」

「うん、ある程度の場所が分かれば、後はグールが見つけてくれるだろう」

「おうよ、俺様に掛れば逃げ出す者を見つける事なんざ簡単な事だぜ!」

「グール、その時は頼む」

仮に、リゼが使った隠し通路とは全く違う出口から逃げられたとしても、上空から探し回れば見つかるだろう。

あっさりと方針が決まってしまったが、休む時間が取れたと思い、リゼと縁側に座って庭の風景を見ながら楽しく会話して過ごした…。


一時間後、元の部屋に戻るとレオンがすぐに尋ねて来た。

「で、考えは纏まったか?」

「はい、城を破壊してしまおうと思います」

俺の答えに集まった者達は言葉を失っていて、レオンですら驚愕していたからな…。

しかし、レオンは俺の肩をバンバンと叩いきながら大笑いしていた。


「はっはっはっ!いいぞ!気に入った!エルレイ、遠慮なく破壊してやれ!」

「はい!ただし、無関係な人を巻き込みたくはないので、事前に警告しますがいいですか?」

「構わん!好きにやれ!」

「ありがとうございます」

レオンの許可も得られた事だし、城の破壊は三日後に決定した。


俺はその準備の為に、集落から少し離れた山の麓付近へとやって来た。

リゼは当然連れて来たが、見学したいと言うのでマティアスを含む五人の人達がついて来ていた。

俺は魔法で土を掘り起こし、それを集めて球体にしてギュッと圧縮しながら直径一メートル程の球を作り出した。

この球は、ゴーレムを倒した時に使ったのと同じで、上空から城に向けて落とす為の物だ。

リゼの話によると魔法が効かないと言う事は無さそうだが、この方法が簡単だからな…。

ルリアなら、魔法で派手に壊した方が楽しいとか言いそうだが、この球も魔法で作り出した物だから同じだと思いたい…。

「魔法でそんな事も出来のですね…」

マティアス達は感心しながら俺の魔法を見ていた。

球を作っているだけなので、見ていて楽しいものでは無いと思うのだがな…。

球をニ十個作り終え、収納魔法にしまい込んだ。

マティアス達は球が消えていくのに驚き、説明を求めて来たので、教えるついでに空間転移魔法も教える事にした。

レオンやマティアスとも、ある程度信頼出来るようになったし、俺が危険な空間転移魔法が使える事を後で知らせた場合問題になるからな。


「マティアス、今から面白い魔法を見せてあげるので、僕と手を繋いでくれないか?」

「手を繋げばいいのですか」

マティアスは疑う事無く俺と手を繋いでくれた。

俺はマティアスを連れて、集落へと転移した。


「えっ!?こ、ここは…」

「戻って来ただけだ。またさっきの場所に戻るからな」

「あっ!」

有無を言わせず、俺は元の場所に戻って行った。

マティアスはキョロキョロと周囲を見渡し、他の者達は消えて再び現れた俺とマティアスを驚愕の目で見ていた。


「この様に、僕は一度行った場所に一瞬で移動する事が出来ます」

「これは凄い!エルレイさん、凄いですよ!」

これまで礼儀正しく落ち着いた行動をしていたマティアスは、子供のように俺の魔法に感動しはしゃいでいた…。

この魔法の危険性を理解していないみたいだな…。

と言う事で、マティアスに危険性を説明したのだが…。


「問題ありません。エルレイさんは、親父殿を暗殺しようと考えるのですか?」

「いや、そんな事は考えないけど…」

「でしょう。だから問題ありません。それに、親父殿もそんな事を気にするような性格ではありません」

「なるほど…」

「ですが、周囲には気にする者もおりますので、全員が集まった場所でもう一度説明して貰ってもいいでしょうか?」

「分かった」

面倒だが、信頼を得るためには必要な事なので快諾した。


やはり、と言うべきか…レオンは空間転移魔法に興味を示し、戦争が終わったら何処かに連れて行ってくれと言って来た。

周囲は全力で止めようとしていたが、レオンはそれを跳ね除けていた…。

まぁ、戦争が終わってからの話だし、それまでに周囲が説得してくれるのを期待したいと思う…。

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