第二百四十九話 ルリアと…

俺とルリアは準備のために一度帰る事になり、ラノフェリア公爵と共に馬車に乗って移動していた。

キュロクバーラ王国には、明日また城に戻って来て、そこでキュロクバーラ王国の使者と合流してから向かう事となっている。

俺としては一人で飛んで行った方が早く、使者と共に馬車で移動する必要は無いと思ったのだがな…。


「キュロクバーラ王国はグリフォンと呼ばれる巨大な鳥を飼育していて、使者はそれに乗って来ておる」

「えっ?グリフォンって魔物では無いのですか?」

「うむ、魔物では無い。エルレイ君が持っているグールであれば知っておるのではないか?」

ラノフェリア公爵がグールに聞けと言うので、俺は仕方なく懐からグールを取り出して説明を求めた。


「ロイジェルク、久しぶりだなぁ!」

「う、うむ…」

ラノフェリア公爵は、グールからロイジェルクと名前を呼び捨てにされたが笑顔を浮かべていた。

いや、表情が引きつっているから無理をして笑っているのだろう…。

怒られないうちに、さっさと話を聞いてグールを黙らせないといけないな…。

「余計な事は言わずに、グリフォンの事だけ教えてくれ!」

「マスター了解したぜ。俺様の記憶によると、クロームウェルが実験として魔物の卵を持ち帰って孵化させたとあるぜ。

孵化した雛は、魔物の核となる魔石を持っていない事が判明した。

しかし、魔物が孵化させた雛は魔石を持っていた。

そして、魔石を持っていない雛を成長させ、卵を産ませて孵化させたとしても魔石を持つ事は無かったらしいぜ。

今いるグリフォンは、魔石を持っていない魔物を今まで飼育し続けて来たって事だろうぜ!」

「なるほど、よく理解できた。グールありがとう」

「いいって事よ!それより戦争なんだろ!俺様の出番は当然あるよな!」

「あーうん、頼りにさせてもらう」

「おう、暴れさせてもらうぜ!」

グールの出番が無い事が一番だが、そう言う訳にはいかないだろうな…。

俺はグールを懐に仕舞い、ラノフェリア公爵がいるうちにルリアと話をすることにした。


「ルリアに話がある」

「なによ?」

ルリアは正面にラノフェリア公爵がいるお陰か、俺に笑顔を向けて来てくれた。

その笑顔が変わらない事を願いながら、ルリアに話しかけた。

「キュロクバーラ王国に行く件だが、ルリアには留守番をして貰おうと思っている」

「どうしてよ!理由を教えなさい!」

ルリアから笑顔が消え、怒って俺を睨みつけて来た!

ラノフェリア公爵がいなかったら、間違いなく殴って来ていただろう…そのくらいの迫力がある。

しかし、ここで押し負けてはいけないので、しっかりとルリアの目を見て話をつづけた。


「理由は二つある。

一つ目は、キュロクバーラ王国において安全が確保できないからだ。

戦争に参加するだけでも危険なのに、更に信頼の置けない国に行く事になる。

そんな場所にルリアを連れて行くことは出来ない!」

俺の話に、ラノフェリア公爵も満足気な表情で頷いてくれている。

「それはエルレイも同じなのよ!」

「うん、分かっている。俺だけならグールもいるし、身を守ることが出来るはずだ」

「おう!俺様がマスターを守るから安心しな!」

「余計に不安よ!」

ルリアが不安に思う気持ちは分からないでもないが、戦いにおいてグールは非常に役に立つし信頼している。

口が悪い事を除けば、優秀なのは間違いないんだよな…。


「二つ目は、難民問題が解決していないからだ。

ルリアには、俺の代わりに皆をまとめて難民の保護を続けて貰えないだろうか?」

「…」

ルリアの表情からは怒りが消え…少し俯きながら考えている様子だ。

俺はルリアの考えがまとまるのを、ゆっくりと待つことにした…。


「仕方ないわね…エルレイの言う通りにするわ」

「ルリア、ありがとう」

俺はルリアの手を握り感謝を伝えた。

ラノフェリア公爵も、ルリアが戦争に行く事にならずに安心している。

これで、キュロクバーラ王国には俺一人で行くことが出来ると安心した…。

「ただし、ロゼかリゼは連れて行きなさい!」

「いや、危険だから俺一人で行こうと考えているのだが…」

「駄目よ!これだけは譲れないわ!」

「…分かったよ」

出来れば、ロゼとリゼも連れては行きたくはなかった。

何故なら、二人と因縁があるラウニスカ王国との戦争だからな…。

リリーは復讐など考えていないと言っていたが、二人はリリーとは違った感情があるに違いない。

俺が頑張って守るしか無いか…。


「エルレイ君とルリア、難民の件だが、ルノフェノの領地で難民の受け入れ準備がもうすぐ整う事になっている」

「それは本当ですか!」

「うむ、エルレイ君が開墾してくれた場所に急遽家を建てさせた。

来年、またエルレイ君には開墾して貰わなくてはならなくなったが、五千人ほどは受け入れ可能だ」

「非常に助かります。開墾は難民の為に畑を作らなくてはなりませんので、喜んで作業させてもらいます!」

「そうしてくれ。難民を運ぶ馬車もこちらで用意している。

数日中には、数十台の馬車を向かわせるからな」

「ありがとうございます!」

ラノフェリア公爵が難民の為に手を回してくれた事は非常に助かった。

これで、俺がいない間の作業が少なく済むな。

後は、ルリアが皆と協力して上手くやってくれるだろうから、心配する必要はないな。


ラノフェリア公爵を送り届け、俺とルリアはリアネ城へと帰って来た。

皆を集め、俺がキュロクバーラ王国へと行き、ラウニスカ王国との戦争に協力する事を話した。


「エルレイさん…無理はしないでください…」

リリーは瞳に涙を浮かべながら、俺を強く抱きしめて来た…。

俺の体を抱きしめる腕の強さから、行って欲しくないと言う気持ちが伝わってくる…。

リリーには、俺がリリーの事を想って無理をすることが分かっているのだろう。

俺も行くからには、ラウニスカ王国と決着を付けたいと思っている。

だけど、リリーに余計な心配をさせたくは無いので、出来るだけ優しい声でリリーの耳元でささやいた。

「リリー、僕は戦争の被害に遭い、この国に逃げ出して来ている人達をこれ以上増やさない為に行って来るつもりだ。

決して無理はしないし、必ずここに帰ってくると誓うよ」

「はい、必ず帰って来てください…」

リリーは離れたく無いと更に強く抱きしめてから、俺から離れて行った…。


「キュロクバーラ王国にはリゼを連れて行く。他の皆は難民の支援に当たってくれ」

ロゼとリゼ、どちらを連れて行くかは直ぐに決まった。

ロゼは空を飛ぶことが出来るので俺が自由に戦うことが出来るが、難民の為の土地や家作りに支障をきたす。

リゼを連れて行けば俺が抱きかかえて飛ぶこととなり、グールを使った戦闘が出来なくなる。

今は、難民問題の方を優先しなくてはならないので、ロゼを残す事にした。

ロゼは珍しく不満を表情に表していたが、理由を説明して納得してもらった。

一方リゼは非常に喜んでいる…。

危険な場所に連れて行くのに、喜ばれた俺の方が困惑してしまった。

リゼの笑顔を見れて嬉しいので、今は危険について話す必要も無いだろう。


その夜、明日からキュロクバーラ王国に行くので早めに寝ようとしていたのだが、アルティナ姉さんが話があるからと俺をバルコニーへと連れ出した。

外の空気は少し寒かったが、空は晴れていて星空がとても美しかった…。

「エルレイ、頑張ってね」

アルティナ姉さんは、それだけ言い残して部屋に戻って行った。

何を頑張ればいいのかは分からないが、バルコニーで待っていたルリアの前に立った。


薄暗いので、ルリアの顔色までは分からないが、恥ずかしそうにしているのは分かる。

俺も、ルリアと二人だけで見つめ合っているこの状況は非常に恥ずかしい…。

俺がバルコニーに出て行く際に他の皆も窓からバルコニーを見ていたから、この状況も見られている事だろう。

ルリアからは、部屋の状況がよく見えているはずだから猶更なおさらだな…。


「エルレイ…無事に戻って来なさいよね」

「うん…」

「行くからには必ず倒してきなさいよ!」

「分かっている…」

「それから……ちょっと目を瞑りなさい!」

「えっ?」

「いいから!早くしないと寒いのよ!」

「わ、分かった…」

ルリアに目を瞑れと言われて、仕方なく目を瞑った…。

この流れはもしかして、ルリアがキスをしてくれる!?

いやいやいや…あのルリアが自分からキスをしてくれるはずも無い!

「気合を入れてあげるわ!」とか言って殴って来そうだ…。

俺が身構えていると頬に手が添えられたので、殴られるのかと思いビクッとしてしまった…。

花のいい香りを感じると、唇に柔らかくて温かいものが触れてきた…。


「ふぅ~」

ルリアの吐息が聞こえると同時に、その感触も無くなってしまった…。

「エルレイ、目を開けてもいいけれど、私を見たら殴るわよ!」

「う、うん…」

俺がゆっくりを目を開くと、横を向いたルリアの顔が目の前にあった。

見たら殴ると言われたが、殴られてもルリアの恥じらう可愛らしい姿を見ない訳にはいかないだろう!

「私はもう行くわ!エルレイはここで待ってなさい!」

「あっ…」

ルリアは、俺が声を掛ける間もなく部屋に戻って行ってしまった…。

ルリアからキスされたんだよな…。

嬉しすぎて、ルリアを抱きしめながらキスの余韻を二人で感じていたかった!

冷たい風た当たる唇が寂しく感じてしまうが、心は凄く温かかく、やる気も漲って来た!

今度は俺からキスをしてあげないといけないな。

その為には、一刻でも早く戦争を終わらせて帰って来なくてはならない!

俺は美しい夜空を見上げながら、そう決心した!

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